実は彼に誘拐かと思われた
屋敷から出たムキムキたち+子ウサギの現場に行くまでの話です。
あ、ステンがいない!?
PV9000、ユニーク2700超えました。
有り難う御座います。
キャロラインがパーティを企画しそうです。
葉霧の森に入るのはガライにとって3回目である。
1回目は子供たちを助けに。
2回目は殴り倒した木を回収に。
そして今回。
何だかラジーのために入る事が多いなーっと、彼は肩車している子供を見上げた。
「ラジー、魔物いそう?」
鼻をふんふんさせていたラジーが下を向く。
「ここには、いない、よ」
「何だかピクニック気分だな、おい」
思わずバジークは突っ込んだ。
それも無理はない。
話の途中で厨房に引っ込んだチヤだったが、森に入るならお弁当がいるじゃないか、と思ったらしい。
出掛ける時に一応顔を出したら、熊肉の甘辛煮に千切りキャベッタが挟まったパンを渡された。しかも、ご丁寧に油紙に包んである。
ガライは、チヤってやっぱり母親であると同時に料理人だなぁ、と実感した。
そして、ラジーのマルゴール族特有の危機探知と鼻の良さを知っている幼馴染み2人は、ラジーが警戒していないのをいい事に、ある程度気を抜いている。
バジークが言うように、まるでお弁当付きの散歩のようだ。
念のため、もう一度述べておく。
普通は魔物が何時襲ってきたり発生してもおかしくない、大人でも1人では立ち入ってはいけないとされている、只でさえ迷いそうな森の中、子供を肩車して呑気に歩いているのである。
「最初から警戒してたら、もたないもん」
力抜くところは抜く派のガライが笑いながら言った。
「警戒は一応してる」
意外と真面目な答えを返すのはジャガルド。
「森、すき」
何の裏もない言葉を恥ずかしそうに呟いたラジー。
そんな子供が不意にウサミミを揺らす。
「でも、だれかいる」
「どっち?」
「あっち」
指差したその先は、木が重なって生えているところだった。
「おい、ステイク。いるなら報告」
バジークがその木の辺りに声をかけた。
大きな溜め息が聞こえ、ノロノロと1人の男が出てくる。
「何でこの人たちがいるんですかぁ……」
全体的に見ると中肉中背で何の特徴もない。深緑色の髪は首の後ろで縛られており、チョロリと垂れ下がっている。キツネ目の上の眉は嫌そうに顰められていた。
この男がバジークの相棒ステイクだ。
「久し振り、ステイク。俺たち、この町に引っ越してきたんだ」
ガライが何て事の無いように挨拶をする。だがそれは、聞きようによっては国家機密である。
バジークとは違い、ある程度ガライたちの身分を推測出来ているであろうステイクは顔を引き吊らせた。
ジャガルドが同情の眼差しをキツネ目の男に向ける。
「うわぁ、いきなりぶっ込んできたよ……、この人……」
この瞬間から、ステイクはガライたちが何故この町に引っ越してきたのかが聞けなくなってしまった。
前王弟であろうガライ=カールレーがこんな田舎町に引っ越してきている。
それだけで大事の予感なのに、王都では少し前からクーデター騒ぎに前王弟の追放など、いろいろ情報が流れている。
その当事者が今ここにいて、至って普通にその『引っ越しした』という事実を口にした。
理由を聞いたら確実に巻き込まれる。彼はそう判断してしまったからだ。
実際のところ、ガライは身分がバレているとは思っていないし、知り合いに引っ越し報告をしただけなのだが。
そして、聞けない事柄が他にもある。
「ラジー、このお兄ちゃんはステイクって言うんだぞー」
ガライに肩車されているウサミミフードの子供だ。
その子供はガライの言葉にコクコクと頷き、恐る恐る手を振ってくる。
え? 隠し子!?
どうやらバディは考えが似てくるようである。
その疑問は己の相棒によって強制的に後回しにさせられた。
「ステイク、ヤツらはいたか!?」
いや、それどころじゃ無いんっすけど!
思わずそう言い返しそうになったのを飲み込んだ。そっちも大事だ。
「……あー、ここからチョイ東北東ってところ。今は前回の……えーっと、エサのおかげで落ち着いてる」
ペリュトンの習性の中で、人間を食らうと影が濃くなるというものがある。そして影が濃い内は人を襲いにくくなるという。
ラジーをチラチラ窺いながら、ステイクは言葉を選んで言った。
「やっぱり森にいるんだな」
信じたくはなかったが信じざるをえない情報に、ガライは真剣な顔をする。
「この町に被害が出る前に、どうにか出来ればいいんだけど」
「とりあえず行けばいいんじゃね?」
バジークがそれが当然だというように先に進む事を提案した。
「そりゃそうだ。今襲わないからって、いつまでもこの状態って事はねぇからな」
ジャガルドも肩に担いだ槍をトントンと叩く。そして森の奥へと歩き出す。
「……そうだな。ラジーも魔物に会った時にやる事、ちゃんと出来るか?」
「できる」
ラジーもガライの赤い頭をポンポンと叩いた。進もう、との意思表示だ。
「ええっと、ガライさん。その子の事、聞いても良いっすか?」
歩きながらステイクは、ようやくその言葉だけ言えた。
「ああ、ステイクに紹介していなかったな!」
キツネ目の男の心の恐慌を知らないガライは、忘れていたとばかりに自分の肩に乗せている子供を見る。
「この子はラジー。うちの調教師見習いで、すごい魔法使い」
「ん、ラジー、がんばるから」
いや、違う、そうじゃない。
そうは言えない悲しき冒険者。そんな彼の心情に、前王弟は無意識に追い撃ちをかける。
「あ、そういえば、俺、冒険者になったんだ!」
なんでやねん。
南の大国風に思わずツッコミを入れた。
「ほぉ、同業者って事か。騎兵団はどうした?」
バジークが尋ねている。
「それがさぁ、実家の家業の経営が危なくなって、騎兵団辞めた」
実家の家業って国政の事ですよね?
しかも危なくなったのは一族の存続では!?
ステイクは最早、胸中ですら敬語になっている。
「この間、ようやく立ち直ってきたからさ、こうして自由時間もらったんだ。折角だから冒険者してみようかなって!」
「コイツ、ギルドカードの名前、『ガラム』にしているんだぜ」
ジャガルドがちらりとステイクを見ながら告げ口をする。
「何!?」
バジークがガライに振り返る。
「何かカッコいいな、それ!」
ステイクは今度は相棒に、なんでやねん、とツッこんだ。
ギルド登録で虚偽記載は出来ないと知っているだろうが!
「オレも出来っかなぁ」
「止めて、マジで」
とうとう口に出た。特大の溜め息が口から漏れる。
「何でそんなに疲れてんだ、お前」
ようやくステイクの状態に気付いた脳筋の相棒は、こんな時でも無慈悲だった。
「俺たちが家で話している間も魔物探ってたんだろ? 仕方無いんじゃないか」
もう1人のムキムキも気遣いは見せるものの、原因に気付いていない。
「これくらいで音を上げるなど、鍛え方が足りんな、ステイク」
一緒に筋トレするか?と言われる始末。どうしてくれよう、この相棒。
「鍛える筋肉が違うだろ。ちなみにバジークは登録名変えても『大根切り』だろうがな」
この話題を拡げた張本人がニヤニヤしながらバジークを揶揄った。案の定。
「オレは『芝刈り機』!」
いつもの反応をしている。
ジャガルドはさっきから、ステイクの表面には余り出さないはずの微妙な感情の変化を、揺さぶりをかけて楽しんでいるらしい。
嫌な男だ。
「ところで、『芝刈り機』って言っているけどさ、バジークは芝刈った事あるのか?」
話をぶった切るように、ガライが前から気になっていた事を聞く。
それに、うーんと記憶を辿る自称『芝刈り機』。
「……無いな!」
あっさりと未経験を暴露する、鈍色の髪の男。
「だったらさ、まず実践からじゃないか? それが知れ渡れば認められるかも」
「なるほどな! 帰ったらやってみよう!!」
勘弁してくれ。
やる気満々の相棒の笑い声に、ステイクはガックリ項垂れた。
ステイクは、バジークのせいでいろいろ割りを食っています。本当は探索系の冒険者です。
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