類は友も呼ぶし、筋肉も呼ぶ。
すみません、私もガライたちと同じく引っ越ししていたので、少し短いです。
ん? 最初の頃ってこのくらいの長さだった気がするなぁ。
今回は、森から出てきたものと執務室のキャロラインの様子です。
執事見習いの少年が不意に森の方へ視線を向けた。
「アニキ、森から誰か来る」
警告から数秒後、その原因が姿を現した。
それを見て、ガライが「あっ」と声を上げる。
「さすらいの大根切り!」
「誰が大根切りだ! 芝刈り機だっつーてんだろーが!!」
何故かお決まりの挨拶のように呼び掛けたその言葉に、定型文のように叫びを返すその男。
2つ名だとしても、どっちもおかしい。
自称『さすらいの芝刈り機』の男は、自分を『大根切り』と言った者に目を向ける。正確には肩口を。
「む、そのバルク! 上腕二頭筋!! ガライだな」
その言葉に笑い出しそうなガライ。
「本当に何処でも現れるなぁ、バジーク」
知己のような会話に、自称ただの執事が主を見る。
「お知り合いですか?」
『バジーク』と呼ばれた男は、鈍色の髪がツンツンと立っていて、よく切れる包丁のようである。『大根切り』も出来るかもしれないイメージ。
それから目につくのは左頬にある下から上に走る傷。それによって、男臭い顔がより近寄りがたい雰囲気になっている。
何よりガライに匹敵する肉体の所有者で、今もフロントリラックスポーズを取っている。
明らかに同類だ。
執事の師弟は瞬時に悟った。
「ああ。俺たちが騎兵団で遠征に行く度に結構な割合で遭遇していた、凄腕の冒険者バジークだ」
何故遭遇していたのかというと、そこに魔物が出現するからだ、としか言いようがない。
そう、『さすらいの大根切り』は冒険者の中でも魔物の討伐を主な活動としている有名な冒険者だ。
「後、本人曰く『マッスルセンサー』を搭載しているらしい」
そして、やっぱり脳まで筋肉が詰まっている人種であるようだった。
「筋肉を見れば、人となりが見えてくるだろ!」
そうフロントバイセップスにポーズを変えながら言ってくる。
いや、無理だから。
執事の師弟は間髪入れずに心中でそう否定した。
隣でガライが筋肉の挨拶のようにサイドチェストをしている。
そんな主と乱入者を見て、レイニオは呆れたような顔で警戒を緩めた。
「確かギルドで聞いた事がある気がするね、『さすらいのなんちゃら』。でもその本人だとすると活動地域が違うんじゃない?」
レイニオの聞いた話だと、王都から西の国境付近を行ったり来たりしているという話だったはずだ。方向が随分と違うではないか。
一応、その名前って有名なのか……と、レイニオの話を聞きながらビフレットは思った。
大根、切ってしまうんだろうか。
「また魔物追いかけて来たんじゃないのか?」
ガライがサイドチェストからサイドリラックスにポーズを変えながら、レイニオの話を補足するようにバジークに聞いた。
「半分は正解だ。残りはギルドからの依頼でな」
サイドトライセップスにポーズを変えた鈍色の髪の男が、ポーズと違い、聞き逃せない事を口にする。
魔物討伐専門の冒険者にギルドからの依頼。
それは間違いなく厄介な魔物が絡んでいるという事なのだから。
それよりも、
「いい加減、ポージングするの止めて。気になって、話が出来ないでしょ」
レイニオがとうとう2人に言った。
「いや、別に」
「俺はこれでも」
筋肉ダルマ2人は普通の顔で否定を返した。しかも打ち合わせしていないのに、2人ともマストモスキュラーで合わせて来ている。
レイニオがイラッとしても仕方無い。
「私は先に行って、場所を用意してきます。キャロライン嬢にも話を通しておきますので、後で来て下さい」
ビフレットはこの隙に離脱を図った。
戦略的撤退である。
その行動に弟子は何かを逃がすように、はぁぁ、と深い溜め息をついた。
「バジーク、その話、詳しく聞きたいんだけど、家に来ないか? ジャガルドとかにも話してほしい」
その間にポーズを止めたガライが、もう一人のムキムキに声をかける。
「ジャガルドもいるのか! 別に秘密じゃねーし、いいぞ。報告待ちだし」
快く応じるバジーク。
「報告待ちって……、そう言えば、相棒いないな」
ガライが相棒とやらを探す素振りを見せる。
「ターゲット探しに行って帰ってこねーの。目立つ所にいろってさ」
「じゃ、丁度いいと思うぞ。この家目立つし」
バジークの言葉に、この家、と言いつつ側にある大きな屋敷を指差す前王弟。
『家』と言うと違和感が残るが、乙女の涙からもよく見えるし、待ち合わせ場所にはなるだろう。
「そうかそうか。じゃあジャマすんぜ」
「話決まったら、さっさと中に入ろうよ。ビフレットさんが各所に声をかけてるでしょ」
マイペース筋肉ダルマ2人の相手に疲れたのか、ダルそうに促すレイニオ。
「少年!体力がないな!!」
またフロントバイセップスをし出す『大根切り』。
「アンタたちと比べないで。しかも、体力じゃないし」
気力ってやつがゴリゴリ削られている、と言いたいのだろう。
「適材適所ってやつだから。バジークの相方だってそうだろ?」
「アイツは……、よく判らん!」
ガライのとりなしに、ニカッと白い歯を見せて笑うムキムキ。
「何か、知らない間にどこか行って、知らない間に帰ってくるから、鍛え方が違うのかもな!」
そう言いながら、3人は屋敷へと入っていった。
執務室ではキャロラインが買ったばかりの机で書類を捌いていた。
時折、薄くピンク色がかった木の表面を撫で、嬉しそうに締り無く笑う。
納得行く買い物が出来てご満悦なのだろう。端から見れば、怪しい行動なのだが。
そこにノックと共に声をかけたのは、自称ただの執事。
つい反射で答えたキャロライン。
扉を開けた瞬間広がる、普段澄ましたような顔をしている事が多いメガネの似合う令嬢の相貌を崩したシーン。
それを思いがけず目撃してしまった美貌の執事。
双方、一瞬時が止まった。
そして、幾人もの令嬢を見てきた美中年は何も言わず目を背けた。見てはいけないものは見ないに限る。
その間に顔とメガネを元に戻す蒼髪の令嬢。書類を意味もなく整え、軽く咳払いをする。
そうして、ようやくビフレットはキャロラインに向き直った。
「キャロライン嬢、お客様が来ていますよ」
何事もなかったように用件を伝える。
「来客予定は無いはずですが」
こちらも先程の光景は幻だったのですわ、と言わんばかりの普通の反応を返した。
「それが先程、若様たちと畑にいたら、森からゴリラ……ではなく、若様と知り合いの冒険者の方が出てこられて。何やら魔物を追ってここまで来たようなのです」
「ガライの知り合いの冒険者とは珍しい。冒険者ギルドの依頼かしら? だとしたら、そんな依頼が出るような強い魔物が葉霧の森に移動しているという事になるのですが」
ゴリラ、は一先ず置いておいてキャロラインは話を促す。
「キャロライン嬢の考えた通り、ギルドの依頼でもあるそうですよ。ですから、詳しい話を聞くために屋敷にお呼びしています。同席するのでは、と報告しにきたのです」
その言葉に彼女は1つ頷いた。
「判りました。応接室ですか?」
「『マッスルセンサー』なるものをお持ちのようなので、恐らく食堂ではないかと。チヤさんにも声をかけています」
そうビフレットが伝えると、キャロラインは少し考えてから、訳知り顔でもう1つ頷いた。
「ムキムキには良質のたんぱく質……、判りましたわ」
何が判ったのか、よく判らないが、キャロラインは書類を脇に寄せ立ち上がった。
「ルドは今日、どこにいたかしら」
「確か街道まで見回りに行く、と言っていましたから、もうすぐ戻ってくると思いますよ」
「異変があれば引き返してくるでしょう。念のため、ステンさんも呼んでくれないかしら?」
「判りました。すぐにでも」
そう言って、自称執事の開けた扉から彼女は足早に執務室を後にした。
残された机の上には『暴走馬車の暴走履歴』と題された数枚の書類が置かれていた。
次回、話し合い……になったらいいね……。(遠い目)
マッスルの競演やー!とか、ビフレットの反応は正しい、と思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。




