国王陛下と騒々しい報告書
今回も主人公不在です。
王都に残された残りの幼馴染み+1の前王弟殿下活動報告書へのツッコミです。
ツッコミが多すぎて、文章が長くなりました。なんでやねん。
ユニークが2000超えました。皆様、読んで下さり、有り難うございます。
ジャガルドがシン(スプリングル)に乗せてくれそうです。
ライズ王国、王都オーモリュー。
ライズ1の大都市にして政治と経済の中心。
栄枯盛衰の縮図とも謳われる程、お金も動けば人も動く場所である。
ある者は一攫千金を夢見てこの都市に足を踏み入れ、ある者は夢破れてこの都市から去っていく。
それでも人波は途絶えることなく、日々変化をしていく。
都市の中央に聳えるのは、五芒星の形をした城壁を持つ白亜の王宮。その中でさえその風潮は適用されてきた。
今までは、だが。
その王宮の一角。
一層奥まった所にある部屋で今、その部屋の主が深く深ーく溜め息を付いた。
報告書を机の上に投げ出し、天井を仰いで目を閉じる。
記憶の中のアイツは、手を挙げて爽やかに笑っていた。
「あー、唐揚げ、食べたい……」
横にいた青年が投げ出された報告書を手に取り、パラ、パラ、と捲る。
「料理長に変更を言いましょうか?」
「今から言うと、作り直しになるだろう。それにチヤのが食べたいの」
「殿下に付いていっちゃいましたからね」
その言葉に今度は一転、机に突っ伏す。
「何だよ、その報告書。どこから突っ込めばいいの?」
「最初からでは?」
それは王都から逃亡を決め込んだ、彼の叔父に関しての報告書であった。
もう、手綱を離された犬のように手が付けられないような気がする。
「何で走って行くかなぁ……」
「あ、本当に最初から突っ込むんですね」
そう言った彼は、報告書を最初のページに戻す。付き合うようだ。
「2、3日は我慢していたみたいですから、もった方がじゃないですか」
表情を変えずに感想を言う。
「普通は走ったりしないの! ハッシュはアイツに甘いよ……」
「何を今更」
ハッシュと呼ばれた青年は、ふふんと鼻を鳴らした。
「私だってこんなチンケな仕事なんてしないで殿下に付いて行きたかったですよ。でも殿下に『留守中、ラーを頼む。お前にしか頼めないんだ』と言われてしまえば断れないに決まってますよね」
見事な声マネを披露しながらも、棘を含む台詞を吐く。
「チンケな仕事って言うな」
思わずツッコミを入れる、叔父からラーと呼ばれる青年。
その髪は叔父よりも明るい赤茶色。
瞳の色は同じ黄金色。
ライズ王国国王 ラーチュカ=ライズ・カールレーその人である。
ちなみにムキムキではない。
よく似た面差しの彼がハッシュ、本名ハーニッシュ=トーステッドを睨む。
「大体、アイツが大公になってたら、おんなじ様な事しているはずだ」
「大公位を蹴らざるをえなかったのですから、今論じても意味ないですよ。それに執務はキャロが嬉々として手を出すでしょうね」
「そのキャロライン嬢が道に迷って、一泊野宿とか……」
「あれは不治の病です。諦めましょう」
自称執事の美中年の次くらいに迷惑を被っていたハー二ッシュが、スッパリと言い切った。何せ知り合った頃から、ああだったのだ。今更治る気がしない。
それを治そうとしたアレコレを知っているラーチュカも「まあ、そうだよね……」と納得した。
「で、何で、柄の悪いアンゴラスウサギと遭遇したり、競争して友情築いたり、薬草の女王エメラブリを見つけたり、プテラスバードを討伐したりしているの? この数日で、どれだけ濃い日常送っているの!? あの領地って、そんなにいろいろある所だっけ!?」
「至って普通の田舎町です」
「知ってるよ!」
だって国王だもの。自国の国土の事はもちろん知っている。でも思わず頭を抱えずにはいられなかった。本当に何やってるの!?と。
そこに部屋の扉が力強くノックされる。
「失礼します。騎兵団団長ロガシーです」
「ああ、入って」
居住まいを正しながら、国王は入室の許可を出した。それを合図にハーニッシュが入り口の扉を開ける。
「失礼します」と入室直後に、もう一度敬礼と共に挨拶をしたのは、白いものが混じり始めた薄茶色の髪を刈り上げた、筋骨隆々の男だった。
隙のない身のこなしと取れなくなっている眉間のシワは、相手を威圧するには十分な存在感を持っている。
「何やらプテラスバードと聞こえましたが?」
そんな彼が敬礼を止めると同時に、聞き逃せない単語を聞き返す。声が大きくなりすぎていたようで、どうやら部屋の外まで聞こえていたらしい。
プテラスバード、それは不幸を呼ぶ青い鳥……のはずだった。
「これ、読んだらいいですよ。殿下の報告書です」
横からハッシュが、例の報告書をわざわざそのページを開いて差し出す。
「おお、倅その3は元気か?」
そう言いながら、サッと目を通し、ハッとニヒルに笑う。
「そこは鳥つくねだろうが、お子様め!」
「いや、そこじゃないでしょうよ、ヴォルさん」
「ハッシュ、ムダだと思う」
同僚のおじさんの反応に対して、思わず口出ししたハーニッシュにラーチュカが首を振る。
「ともかく、プテラスバードは退治されて、なおかつ食い供養もされているから心配ない」
食い供養とは言い様である。
報告書にはしっかり『幸せの青い鳥をお裾分け★パーティー』と記載されているが。
「まあ、あの方とジャガルドであれば1羽で飛んでいたら、いいカモだったでしょうっ」
「いや、カモじゃなくてプテラスバードだから」
「ハッシュ……」
ツッコミを入れ始めるとキリがない。そう思った国王は騎兵団団長に顔を向けた。
「ヴォルチャー、例の件、判明したか?」
その声に彼 ヴォルチャー=ロガシーは姿勢を正した。
「はい。ようやく裏が取れました。彼らの妨害をしたのは所謂『殿下大好き派』です」
何だかこれもツッコミを入れたくなる命名だが、以前ガライが「奴ら、殿下の事好きすぎねぇ?」と言った事から、彼らの中で正式に使われている。
だからハーニッシュも普通に、
「彼らは過激派ですからね、被害がなかっただけでもよかった、というところですか」
とメガネを上げながら意見を述べた。隠語としては完璧である。
「そうだね。『殿下大嫌い派』や『陛下頑張れ派』だと、その心配は無いんだけど」
いや、隠語としてもそれはどうなのだろう。
ちなみに『大好き派』は、ラーチュカを廃してガライを国王に推す派閥の事である。本人にやる気が無いのにも関わらず。
他の派閥に関しては察してほしい。
「でもまあ、首謀者が判ったのなら、キャロライン嬢も安心するだろう」
そう国王が締めくくり、調査結果の書類を彼女に送るよう言い付ける。
「それにしても、冒険者登録ねぇ……」
机に頬杖を付きながらラーチュカが呟いた。
報告書はガライが冒険者登録しようとしている、と書いたところで終わっている。
今頃、冒険者ギルドに突撃しているのではないだろうか。
「確かに王国法では『登録出来ない』とは書いていませんね」
ハーニッシュは頷きながら思う。
そもそもそんな記述ねぇよ、と。
「そこじゃなくてね。ほら、登録の時、血液の提供が必要とか聞いたんだけど」
何だかラーチュカが奇妙な顔をしている。奥歯に物が挟まった、というような。
「確か、ギルド証の刻印に2、3滴いるとか」
騎兵団団長が以前聞いた話を思い出す。
「それって、『ライズ王国建国記』の原書に書かれていたアレに引っ掛かるんじゃないかって思うんだけれども……」
国王が恐る恐るそれを口にすれば、ヴォルチャーが首を捻りながら確かめる。
「それは、確か殿下とキャロライン嬢とそこの坊主が書庫で見つけたっていう?」
「あー、それか。王族の守護神から『金の目を持つ者は私の子供。その血を使う事は一滴たりとも許さん』って言われたっていうアレですか」
「そう、それ」
ガライとジャガルドが同じような会話をしていたのも気付くはずもなく、ハーニッシュの言葉をラーチュカは肯定する。
「多分、今も有効なんだろうなって。あの方は特にガライを可愛がっているから」
王族の前だけに現れる守護神は、昔からガライを構い倒している。
その様子(世に知られれば威厳も何も吹っ飛ぶだろう)を知るのは、今や本人以外ではラーチュカだけのため、遠い目をする彼を見て2人は「へー、そうなんだー」くらいしか思わなかった。
だが、聞き逃せない単語を言ってしまった事に気が付いたハーニッシュが、サーッと顔色を変えた。
「陛下、今、言っちゃいましたね……」
「あっ」
そのやり取りを見て、事情を察したヴォルチャーがサッと扉の前から移動した。
「ちゃんと対応して下さいね」
「……判っている」
ややあって、廊下からバタバタという足音が聞こえ、段々近くなり、バターンと音を立てて扉が開かれた。
「今! ガライ様って言いました!?」
そこに現れたのは、ピンク色の少しウェーブがかった髪の少女だった。
いや、正確には少女ではなく国王たちより少し下だけのはずだが、背の低さと幼児体型、頭の軽さのせいで大分年下の気がするだけだ。
その彼女がズカズカと部屋の中に入ってくる。
「アル、淑女の礼儀はどうしたのです」
さすがに見咎めたハーニッシュが、彼女に声をかけた。礼儀どころか常識マナーまでぶっ飛んでいるのではないか、と心配になる。
そんな彼女は一応、公爵令嬢である。一応。
「そんな事、どうでもいいわっ」
「いや、よくないですから」
扉が勢いよく開く事を知っていて、横に避けていた騎兵団団長が、額に手を当て溜め息を付く。
警備をしているこちらからすると、厳罰ものなのだが。このシーンを何度か体験しているから判る。
暴走馬車は止まらないから暴走馬車なのだ。
「アルプリール=パイバーネス嬢」
顔を引き吊らせた国王陛下が、彼女をフルネームで呼んだ。
それにやっと気が付いたのか、彼女は走ってきて乱れた服装を正し、呼吸を調え、美しいカーテシーを行う。
「陛下、ごきげんよう。入室しますが宜しいかしら」
「もう入ってきているよ」
「やだ、わたくしったら」
知って入ってきているのに、何を言っている。室内の男性の心の内が一致した。
「それで、扉が痛むから止めてって何回も言っているのに聞かない貴女が何用かな?」
用件は判っているが、敢えて問い掛けるラーチュカ。
注意は毎回行っているが、聞き叶えられた事は1度もない。この件に関しては。
「そうですわ! さっき、ガライ様って言いませんでした!? 言いましたわよね? あの方の消息が判りまして? あの方が元気かどうか心配の余り、わたくし、夜も寝られず、心労が積み重なっていくようですわっ!」
……もうちょっと心労が重なった方がいいのではないだろうか。
その衰えの知らない物言いに、彼らの内心はまた一致した。
この物言いの通り、彼女には前王弟の行き先を伝えていない。理由はご覧の通り、隠せるものも隠せなくなるからだ。
それにしても黒髪の執事見習いでもあるまいし、どうやって『ガライ』という単語を聞き取っているのだろうか。彼女に風魔法は使えないはずなのだが。
ちなみに彼女は夜寝られなくても、昼間、中庭の庭園ベンチで寝ているので、睡眠時間に問題はない。何度もその姿を目撃しているので間違いない。
「残念ながら、消息に関しての報告はないよ」
それを知っているラーチュカが苦笑交じり言った。
嘘は言っていない。さっきのは活動報告書なのだから。
肝心の報告書は、叔父の名前が出た瞬間から彼女が扉を開けるまでに、ハーニッシュが回収済みだ。
「殿下が今頃どうしているか、という話をしていたのです」
そのハーニッシュが話題を振った。それで誤魔化せと言っているようだ。
「ガライの事だ。他の国で傭兵とかやっていてもおかしくないな。東の国とか興味ありそうだったし」
補佐官の言葉に従って『もしもガライが他の国に行ったならば』と考え、それを口に出す。
ここで『冒険者でもやっていそうだよね』というのはNGである。この女は真っ先に調べ始めるだろうから。
国王の言葉が望んだものではなかったのか、彼女は頬を膨らませる。
「ガライ様を王都から追放したくせに、心配すらしないんですか!」
その言葉に「だってなぁ」と幼馴染み2人は顔を見合わせた。
追放というのは建前だし、彼らの頭の中ではガライがバックバイセップスをしている。
うん、元気そうでなによりだ。
「する必要、無くない?」
思わず口に出したハーニッシュ。
それに「あっ」と思う間もなく、見た目少女の眉がキリキリ吊り上がる。
ラーチュカはガックリ肩を落とした。この先の展開が判っているからだ。
「なん、って事言うのですか!! 人でなしですわ! ガライ様がいないこの国など、ダシを取った鳥の骨並みに意味がスッカスカですわぁー!!」
巨鳥の件は話を聞いていないはずなのだが、彼女の例えは丁度唐揚げが食べたいと言ったラーチュカにまたそれを思い出させた。
ただの現実逃避だ。
「もう! 貴方たちが使い物にならないのなら」
しかし、本日は展開が少し違うようだった。
「わたくしが、直接、探しに、行きますわっ!!」
一言一言区切られたその言葉に「えっ?」となった男3人。
もう一度言う。彼女は一応公爵令嬢である。
そしてある役目も担っている。頭は軽いが。
言い放たれた言葉を反芻している間に、彼女アルプリールは先程の逆再生を見るかのように、扉をバーンと開け、バタバターっと去って行った。
外にいた近衛兵が同情するかのような表情で、開けっ放しの扉を静かに閉める。パタンという小さな音に、部屋の中にいた面々は、ハッとした。
「あれって神殿の姫巫女じゃなかったっけ?」
「確かそのように記憶しておりますが……」
「探しに行くって本気?」
「あれが冗談を言う奴に見えますか?」
「見えない。直球ストレートだね」
沈黙が流れる。
「ヴォルチャー、すぐに神殿の警備に連絡を!」
「はっ!」
「ハッシュ、通用門各所に通達! 姫巫女を通さないように!! あと、巡礼の予定がないか調べろ!」
「神殿の今後1週間のスケジュールです! 彼女が逃亡した段階で合図を送っています」
急に慌ただしくなる国王の執務室。小型犬が逃げたぞー状態である。
「何で必要ない仕事が増えるんだよ……」
「殿下がいないからですね」
出ていく騎兵団団長の背を見ながら、同時に溜め息をつく2人。
「とりあえず、ガライには報告しておいた方が良さそうだな」
そして大きく頷き合ったのであった。
ガライが大公閣下と呼ばれずに前王弟殿下と呼ばれるのには訳があるんだよーな話。
それがさらっと流されたのは、アルプリールのせいです。
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