輝いている自称執事に剣は必要ないらしい
今回はガライたちがターリックの町に行っている間の留守番組の話です。
よって、ガライ(主人公)が不在です。
そして、いつもより長め&ギャグ成分薄めです。
ヒント:タグ「周りが優秀」←えっ!?
「バッカじゃないの?」
相手を見下さんばかりに暴言を吐いたのは、仁王立ちした黒髪の少年。
そして、その足下には見目麗しい中年。
「申し開きもありません」
それはガライたちがまだ行きの馬車に揺られている頃。
仲間たちの中で最年長のビフレットが、主に伝えた通りに屋敷周辺の植生調査に出ようとしていた。
残っている子供2人は町の方へ出掛けると言っていたので、屋敷の戸締まりをして外に出る。
持ち物は筆記用具と料理人が作った昼食の5種類の具入りパン。そして、護身用の細剣を腰に差している。森の近くまで行く予定なので、念のため、である。
行く手に見える乙女の涙は日の光に深く澄んでおり、時折風で起きた波がキラリと光るのが見える。
雲の陰、霧のような葉を揺らすそよ風、数日前までいた王都より南にあるため暖かい日差し。
1日出歩いていたら肌がヒリヒリしそうだ、と彼は思いながらも、湖への道を歩いて行った。
その姿を屋敷の死角から見つめる2つの影がある。
「何か、すごく不安だ」
もちろん、留守番組のレイニオとラジーだ。
「何が、ふあん?」
ラジーはウサミミを揺らしながら義兄を見上げる。
「ビフレットさん、戦闘能力余りないから」
レイニオは自称執事の事を『さん』付けで呼ぶ。本当はオッサンと呼びたいらしいのだが、自称執事に教わっている体の見習い執事が、そんな呼び方をして許されるはずもない。
オッサン……、限りなく違和感しかないのだが、間違ってはいない。
「剣、もってる」
キラキラおじさんの腰にあるものを指差しながら、ラジーは首を傾げた。剣を扱えるのではないか、と。
それに黒髪の少年はふるふると頭を振った。
「あれ、ほとんど飾り。振るくらいは出来るだろうけど」
鋤と鍬は振るえても、剣は得意ではなさそうだ、とレイニオは体つきから判断している。
ジャガルドさんは行きすぎでも、そのような体つきになるはずだと判っているからだ。
「だからね、今日はビフレットさんをバレないように尾行しようと思うんだ」
呑気に湖への道を歩いているゆるふわ金髪を見ながら、レイニオは兄弟に告げた。
「びこう……、おいかける、の?」
ラジーもキラキラおじさんに目線を向ける。
「そう。見つからないようにしないとダメだからね」
レイニオが口に指を当て、静かにのジェスチャーをすると、ラジーも真似をする。
「わかった」
『乙女の涙』という湖はプレートの町の端っこから葉霧の森に入り込んで存在しており、屋敷の対岸はほぼ森と接している。脇にはぐるりと歩道が敷かれていて、一周約500ナベル(1キロメートル)。散歩に丁度いい距離で、朝はムキムキ2人のジョギングコースにもなっている。
しかし森が近いという事は、魔物の発生の可能性が高くなる。
そんな魔物が出てきて「こんにちは」しそうな場所には、森との境界に1本のロープが張られていた。
そのロープは魔力を宿した魔道具で、周辺の魔素を減らし魔物の発生を抑える他、魔物の生息地へと踏み入れないようにという警告の意味でも設置されている。
だから、これが設置されている場所には魔物が近付かないと言われて久しい。
筋肉ムキムキたちがプテラスバードを落としたのもそのロープが設置されている場所の一角であり、今も少し地面が陥没している。
ビフレットもそこまで森に踏み入れようという気はなく、湖の周囲を回れるようになっている道からそのロープまでの間を見て回っていた。
生えている草を見ていると、雑草の他にもいくらか薬効のあるものが見つかったり、まれにエメラブリが生えている場所もあった。
本数は少ないが、何故か固まって。
『やっぱり、風の抜け方、日の当たり方、水分量が重要なのかな』
そう思いながら、カリカリと記録用紙にペンを走らせる美中年。
他にも気になる植物の名前を書き、名前の判らないものはスケッチを記していく。
そのスケッチは誰も見ていない今はいいが、何というか特徴的であった。植物の特記すべきところはやたら大きく書き、その他はやたら小さい……、似顔絵なんかに用いられる強調の技法が使われている。
本人は無意識のようで、ふんふんと鼻歌交じりに描いている。かなりの美声で。
描かれた植物の元が微妙に判るかな、と思うくらいにやたら異物化しているのも気にせずに。
『あ、ここ、日だまりだ』
おおよそ半分ほど歩いたところ、空気が暖かい場所をみつけた。
少し窪んだ斜面には薄紫色の花が咲いていて、一面を覆っている。
その様子に立ち止まり、うーんと首を捻る。
『これって、もしかする?』
薄紫色の花はここまで来る間にも散見された。
儚げな色の花弁が湖畔に揺れる様はとても絵になる。エメラブリが宝石とするならば、この花は艶のあるシルクのような生地。
本当に乙女がいるかのようだ、とビフレットは思った。
他のメンバーでは絶対に出てこない感想である。
「帰ったら、レイニオに聞いてみよう……」
花言葉やら何やらはよく知っていても、実物はあまり見た事が無い彼は、とりあえずスケッチをするために用紙を捲る。
と、その時、風がビュッと吹いて紙が舞い上がりそうになる。
それを追うために手を伸ばし体を捻った。
その少しばかりずれた体があった空間を何かが通りすぎる。
気付かないまま紙をしっかりと掴み、胸を撫で下ろす。
そして、何気なく斜面を見る。
「あ、これって結晶化前のエメ」
「そこじゃなーい!!ラジー!」
「ん」
鋭い少年の声が聞こえたと思ったら、湖から水が迫り出し、斜面の上に飛んで行く。
すぐさま、ギャっという何かの悲鳴があがった。
それを何が起こっているのか判らない様子でポカンと見ている美中年。飛沫がかかって髪の毛がペシャっとなろうとも、口が半開きであろうとも様になっている。
そこに進行方向だった方の道から黒髪の少年が走り込んでくる。
その後ろからウサミミフードも、とっとこ付いてきた。
「オッサン、魔物!! 数3っ! さっさと得物抜くなり魔法使うなりしてよ!! もうっ」
その指示に『何でレイニオがここに?』という事と『魔物がいるの!?』という困惑で「えっ?えぇっ!?」という声しか出ない。
一応、腰の剣の柄には手をかけているが、この状態ではいざという時抜けないだろう。
「いいから足止めっ!」
「はいっ!!」
水弾がポコポコと湖から上がってくる合間を縫って近付こうとする魔物を牽制しているのだろう。風が時折ふわりと沸き立つ。
そのさらに隙間を縫ってレイニオからのリクエスト。
もう、剣の使用は諦められている。
魔物の姿が斜面の上から現れた。
亜人種であるゴブリンだ。
ぎゃ、ぎゃ、と騒ぐそれは緑色の肌に鼻と耳が長く尖っている。装備は粗末な腰蓑と木の枝以上棍棒未満の太い木切れ。身長もラジー以上レイニオ未満だ。
片手に石を持っているところをみると、先程の何かは投げられた石だったのかもしれない。
「ちっ、ロープの近くだから想定より威力が弱い!」
攻撃を当てたにも拘わらず裂傷くらいしか見当たらない魔物を一瞥し、舌打ちをするレイニオ。
その間にも手の武器を振り回しながら斜面を駆け下りてくるゴブリンたち。
これ以上の接近を避けるためにビフレットはその一歩先の草を絡め、二歩先を柔らかい土に変える。これくらいはいつも畑でやっているため、発動も速ければ精度も高い。
美中年だってやれば出来るのだ。
そこに草に足を捕られ、ズボッと足を勢いよく踏み入れたゴブリンたちは体勢を崩す。
その土をラジーが凍らせていく。
水がかかっていたその土は容易く固まっていき、ゴブリンたちの動きを止めた。
ラジーはそういう原因と結果の計算をまだよく判っていないが、何となくこうしたらいいんじゃないか、と思って実行しているらしい。
そうしている間にレイニオの普段より時間をかけて作り出した鋭い風が、地面と水平に走ってゴブリンの1体の胴を切断し、上半身を跳ね上げた。
ビフレットが思わずラジーを背後に庇ったのは、保護者としての意地なのか。
「そのまま隠してて」
そう言い捨てると、黒髪の少年は素早くゴブリンに接近。
まだしぶとく握っていた棍棒未満をゴブリンが振り上げるよりも先に、至近距離から風の魔法を編み上げ、放つ。
ぎゃ、という声と共にゴブリンの首が飛ぶ。
最後の1体も振り向き様に放たれた風の刃によってズタズタに切り裂かれる。
「時間をかけるか、手数で攻めるかってところかな……」
そして、倒れ込んだ体を足蹴にしてとどめを刺す。
はぁぁ、と深い溜め息を付いて、空を見上げてから、ビフレットの元に帰ってくる。
その顔には不満がありありと浮かんでいた。
そして無言のままラジーを取り返すと、自称執事に膝カックンをお見舞いする。
体勢を崩し膝を付いたビフレットが何を、と言うよりも先にレイニオが口を開いた。
「バッカじゃないの?」
相手を見下さんばかりに暴言を吐く。
「何、呑気に自然観察に勤しんでいるのさ!魔物が出る事くらい子供でも判るっていうのに、ロープがあるからって警戒もしないで!!」
「申し開きもありません」
年齢が半分にも満たない少年に全力で頭を下げた。これは流石に自分が悪いと判っていたからだ。
「大体、屋敷からずっと尾行ているのに全然気付かないとか、先回りしても全然来ないし、警告のために風吹かせたのに紙を追いかけるってどういう事!?」
「おもしろかった」
今まで見た事、やった事をぶちまけて来るレイニオと一言で感想を言うラジー。
意外と大物である。
「そもそもオッサンに戦闘能力が無いの明白なんだから僕たちにでも声をかけたらどうなの!? 大人だからって何とかなるって思ってるわけ?」
もはや、オッサンと呼んでいるのも気にしない程に捲し立てる黒髪の少年。
「そういう訳では……」
「じゃあ、何かあった時、前王弟殿下にどう言えばいいのさ!」
その言葉に年長者は言葉を詰まらせた。
前王弟 ガライ=カールレー。
彼の方には多大なる恩がある。まだ王子だった頃にあそこから救い出してもらった恩が。
『嫌なら、逃げ道を作ってやるよ』
あの日の言葉は今でも覚えている。
『利用したらいい、私を。それを私も利用するからさ』
強気に笑ってみせる、金色の目。
そこに希望を見た。
「そうですね、軽率でした。あの方は王族であるがゆえに、人前で泣けないのに悲しむ」
そう言って、再び頭を下げた。
執事見習いの少年はそれを見て、ふんっと顔を反らす。
「アンタのそういう所、だいっ嫌い」
そしてくるりと踵を返す。
「立ちなよ。まだ見て回るんでしょ。僕たちも一緒に行くから」
「おさんぽ。おべんと、もってる」
レイニオの後ろでラジーが自分のカバンをポンポンと叩く。
どうやら付いてきてくれるようだ、と昔の出来事の欠片が残る頭でビフレットは思った。
いつの間にか放り投げていた記録用紙を拾い上げ、立ち上がる。
「そうだ、レイニオ」
そして先を行く少年に声をかけた。
「何?」
さっきの事があったからか、不機嫌そうにレイニオは振り返る。
「これってベルアンナ?」
そう言って指差したのは斜面を覆う薄紫色。花弁に乗った雫が陽光に光っている。
レイニオは数秒その植物を観察した後、「そうだよ」と肯定を返した。
「これは……新発見かも? 専門家の意見が聞きたい……」
その呟きに横を歩いていたウサミミだけが反応して傾いた。
その夜、帰って来た彼らの主に「冒険者ギルドの講習で、薬草採取の講師(専門家)が来てくれる事になってるから」と言われた時、自称執事は感激のあまり、思わず主に抱き付いたのは秘密だ。
※ ガライたちがターリックの町を出発する前
おや、ランツ少年。どうされたか?
うん?拙者?
拙者は荷馬車搬入係でござるよ。
チヤ殿もキャロライン嬢も結構な買い物をしていたのでな、こうして見張りがてら荷物の積み方を指示しておった。
結構な量でござろう?
お陰で若様がまた走ると言い出しましてな。困った方でござる。
動いていないと落ち着かない方ですからなぁ。
オレも暇だ、でござるか?
では、拙者のフック号にでも乗りますかな。
若様と並走出来ますぞ。
そういえば、報告書は王都に着きましたかなぁ。
たまげておられないとよいのですが。
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