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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
身の上話:筋肉にはタンパク質が必要不可欠
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身の上話:家出令嬢と最後の晩餐メニュー(ブティフール)

ラジー誘拐事件。しかし、チヤ視点なので事後報告のみ。


5000文字を大分オーバーしてしまいました。





 流石にこんな心持ちで料理をすれば失敗や怪我をするだろう、とチヤは店の臨時休業を決めた。


しかし余りにも落ち着かなく手持ち無沙汰だったため、作りかけだったラジーのウサミミフードを作る事にした。

少し大きめにしたそれは、子供の成長の証のようだ。


思えばマルゴール族の里を出て半年ぐらい経つ。この年頃の子供の成長は考えられないくらい早い。

ここにアルフがいたら、何と言うだろうか、とらしくもない事を考える。

今はまだ、記憶の中に鮮やかにあいつはいるが、その内思い出せなくなる日も来るのだろうか、と。


1人だとどうしてもネガティブになってしまうな、と違う事でもしようと立ち上がった。


 その時、店の扉が開いた。


また常連さんの誰かが臨時休業に驚いて開けたのだろうかと、「今日は休み」と伝えようとしながらそちらを見ると、出て行った赤いムキムキとその腕に抱っこされた我が子。垂れた犬耳がこちらの様子をうかがうようにピクピクと動いている。


「ただいまー。連れて帰って来たぞー」

「ただーま」


え、何で連れて帰って来れるんだ?とチヤはそちらを思わず二度見した。


だってチヤの実家のチャトニール伯爵家は文字通り貴族であり、更には国の裏の仕事を一手に引き受ける家門なのだから。

思わず後ろも見て、「実家ぶっ壊されたんじゃないか」という疑惑が生じた。


ムキムキ3プラス司令塔にしか見えない。


「ど、どうやったんだい!? あ、おかえり」


思わず疑問を口にした後、先に言うはずだった「おかえり」を付け加えた。

我が子が戻って来たのは勿論純粋に嬉しいのだから。


「……あのさ、俺、嘘は付いていないけど、隠していた事があってぇ……」

「とりあえず中に入るぞ。さっきから『ハムサン』がこっち見てる」


恥ずかしそうにモジモジするムキムキは何処に需要があるのだろうか。


そのムキムキを『おつまみナッツ』が促す。『ハムサン』は近所にある薬屋の息子のあだ名だ。恐らく臨時休業にしたお店の様子を伺っていると思われる。


「あぁ、すまないね。ラジーは預かるよ」


『大盛りシチュー』から我が子を預かり、誰もいない店内に案内する。



 飲み物と用意していたラジーの朝食兼軽食を出して、チヤも大人しく席に座る。


「まず紹介か」


そう言いながら横に座る令嬢を見ると、彼女は頷いた。


「お久し振りです、と言うべきでしょうか。わたくしはポルタ侯爵家キャロラインと申しますわ」


「久し振りって……」


こんな令嬢に知り合いはいないはずだ。それにチヤが令嬢だった頃は今より十数年前で、これくらいの年頃の人物が社交に出ていたとは思えない。


……いや、1人いる。

年端もいかない(·)(·)(·)(·)(·)が完璧なマナーでお茶会に出席、大人を圧倒していたのを思い出す。


「私はヴォルチャー=ロガシーと言う。そこの茶色い方の父親で、騎兵団の団長をさせてもらっている」


チヤの困惑を他所(よそ)に、その横の魔除けの像の様な顔の男が令嬢に続いて名乗る。

「そこの茶色い方」で『おつまみナッツ』を顎で指し、成る程と納得する。

どう見ても親子だ。


「その息子のジャガルドだ。『ナッツ』は止めてくれ」

その息子は眉間に皺を寄せながら言う。


「なんだよー、いいじゃん。『おつまみナッツ』」

「まぁ、愉快な名前で呼ばれているのですね」


赤い方のムキムキと蒼髪の令嬢に直ぐ様イジられる。

しかし、ロガシーというのは伯爵家ではなかったか? 確か銀髪の美しい夫人(顔も可愛い系)がいたはずだ。


「で、俺……いや、私が」


不意に先程までの雰囲気を消し、『大盛りシチュー』が居住まいを正す。


「ライズ王国国王キカラが弟、ガライ=カールレーだ。目の色は魔道具で変えていた」


金色の目がジッとチヤを見据える。

金色の目は、この国の守護神の加護であると伝えられている。この色だけは他に出現せず、また偽る事すら許されない。


「ラジーは、ラジー。マルゴールじょ()く」


自己紹介をしていると思ったのか、チヤの横の専用の椅子でラジーが手を上げた。その手には千切られたパンが握られたままだ。


相手の視線から目を逸らし、子供の手を下ろさせ、本日は犬耳を晒すその頭を撫でる。


「あぁ、そうなのかい……。道理で所作が綺麗なはずだよ。それに王弟といえば、いろいろ悪い噂が流れているヤツだろ」


「あれは、全てデタラメです!」

「キャロ」


立ち上がりかけた令嬢を制止し、首を振る王弟。


「判ってるよ。今までここで見てきた『大盛りシチュー』があたしの真実さ」


そう言って、観念したようにチヤは席を立ち十数年振りのカーテシーを行った。


「先程までの失礼、申し訳ありませんでした。私はチヤ。以前はチャトニール伯爵家の長女でしたが、離籍致しましたが故、今はこの名前でお願いします」


「やはり、ビフレットの言う通りだったか」


一連の動作をキョトンとした表情で見ている子供を置いて、来店者たちは頷いた。


「流石、自称執事。情報収集力やべぇ」


「年齢と外見を話しただけで「チャトニール伯爵家のコナツ様ですね!」なんて言い当てたのでしょう?」


「何か以前、夜会でお世話になったお礼を言う為に、何処の誰かを調べていたらしい。調べが付いた時には、家を出ていたそうだが」


それって半分くらいストーカーに足を突っ込んでいないか?と、その見た事の無い自称執事とやらを思う。

と同時に『コナツ』に関心のあった人がいるという事に驚く。


 「とりあえず座ってくれ。本題に入ろう」


 そうガライはチヤに座る様に促した。

自己紹介だけで内容が濃すぎる。


ラジー奪還の経緯を早く知りたいので、そう思いながらも再び席に着く。


「私たちが今日いつもより早い時間に来た本当の目的は、ラジーの後見になれないかの打診の為だった」


「後見って」


チヤが怪訝な顔をしたのが判ったのだろう、令嬢が眼鏡ごしにこちらを見てきた。


「お子さんの魔法が規格外なのは、まあ大目に見れますが、3属性となると貴族でも下級ですと問答無用で然るべき施設に入れられてしまいます」


「あー、オレたちが3属性に気がついたのは、大分前だ」


彼女の言葉に補足を入れる『おつまみナッツ』……もといジャガルド。


「気付いてから兄上に打診していたんだが、軽々しく後見を名乗るなと難色を示していてな。

ようやく許可が下りたので、早速立ち会いとして文官として働いているキャロラインと騎兵団団長であるヴォルチャーに来てもらったのだが、それで朝の出来事だ」


それで開店前にも関わらず、この謎なメンバーでこんな場所に訪れたらしい。


その時は、まさかラジーが連れて行かれた等と考えていなかっただろう。

いや、その割に話が早かったし、帰って来るのも早かったので、ある程度は想定していた?


「私は団員が迷惑をかけているようなので、その詫びを入れに来たついでなのですが」


強面の団長がすまなそうに眉を僅かに下げる。が、よく見ないと判らない上、雰囲気だけしか変わっていない。


団員とは騎兵団団員が最近ここに通い始めた事だろうか。


ガライたちに「紹介していいか」と言われた次の日には、何人かが店に顔を出した。そして徐々に人数が増えていき、身分差の無い騎兵団の気軽さで常連さんと仲良くなり、最近は居着くツワモノまで現れる有様だ。


いつ訓練しているのか。(2回目)


「それについては、こっちも助かっているから礼には及ばないよ」


ヴォルチャーは騎兵団の上司として店主に言っているのだからと、チヤも普通に返した。今更改まった喋り方は自分でも気持ち悪く思っていたから、丁度いい。


「おきた、ち()うとこ()った」


ラジーが口の中にあるものと話している事を飲み込んだのか、声を出す。


「ラジー、かな()い。(·)(·)(·)、プンプン」


「どうやら、精霊が人を近付けなかったらしくてな、チャトニール侯爵家で交渉している時も爆発が起きていた」


「ついでに水で穴も開いていましたわ」


「石も壁に刺さってたぞ」


目撃者3人がそれぞれ目撃情報を出す。ガライが『精霊』という言葉を出したという事は、やはり彼はマルゴール族の事を知っているのだろう。


そして、現場は惨憺(さんたん)たる状況だったに違いない。


「元々、今日、チャトニール侯爵家の当主バルナーノに会う約束をしていたのだ。

チヤがチャトニールの令嬢だったという事は事前に知っていたので、この店から出てすぐに向かったが、すんなりと会う事が出来た」


そうガライが言うと、ヴォルチャーが苦笑いを浮かべた。


「先日起こった、騎兵団襲撃事件の捜査を陛下からの命で第三者に頼む為だったのですが、タイミングがよかったですな」


本当にそれだけだろうか。タイミングがよかっただけで、こうもあっさりと事が進むのだろうか。


「それはガライだからですわ」


普通はそんな事起こるはずもない事だと、令嬢は言葉少なに否定した。ついでにらしくもない溜め息。


「その会談中も、防音結界を通り越して爆音がするものでな、ロガシー親子を原因排除の目的で音源(ラジー)の確保に向かってもらった」


「その後に話を聞きましたが、どうやら血の繋がりがあるのだから、優秀な子供であるならば一門に引き入れて当然と思っていたようですわ」


チヤの兄バルナーノと対面していた2人がラジーを探す口実と攫われた理由を言う。


「ラジーはチャトニールどころかこの国と全く関係無いじゃないか! あの朴念仁め!」


それにチヤは兄の無表情に近い顔を思い出す。

優秀だが人の感情を理解しようとしないのだ。結婚してからは夫人のお陰でマシになったと、チャトニール侯爵家にも出入りするようになった商人シードルフが以前に言っていたのだが。

やはり人並みを期待するのが間違っていたようだ。


「かーしゃ」


そんなチヤにラジーが食べる手を止めて、呼び掛ける。


「ラジー、じゃま? いるの、()め?」


犬耳と尻尾がペタリと垂れているのに、アイツに何か言われたのだと察した。

だから、極力怒気を出さないように、しっかりと顔を合わせ、ゆっくりと言う。


「そんな事あるかい。ラジーはね、あたしとお父さんの大事な子供なんだよ。ラジーまでいなくなったら、お母さん、泣いちまうよ」


そして、向かいのムキムキに顔を向けると心得たとばかりに口を開く。


「母親がお前をいらないと思ったから、ここにいるのだ、と。邪魔だったから、おじさんにくれたんだ、とも言ったらしい」


「アイツ……!」


怒りに思わず言葉を失う。元兄だって、子供が2人いると聞いているのに、その言い草は!


「でも、(·)(·)(·)、みえにゃい。ほかの()と、と、ち()うって」


母親に言われても、まだ納得していないのか、ラジーの耳は伏せられたままだ。

恐らく、精霊が見える=魔力が高い、それに多属性を扱うのを見逃されなかったのだろう。

子供の気持ちをもてあそぶ悪い大人は何処にでもいるものだ。


そんなラジーの様子を見たガライが、「ラジー」と呼んだ。


「あのな、ラジーの魔法確かにスゴい。みんなを助けれる。でも、ラジーは幸せか?」


その言葉にラジーは首を傾げた。『幸せ』という状態がまだ判らないようだ。


「……難しいな。楽しいか? ニコニコできるか? 出来ないならラジーは幸せじゃないんだ」


キャロラインがそっと目線を外したのが、チヤには見えた。何かあったのだろう。


「ラジーの魔法はラジーも助けられないとダメだから。だから、あんなおじさんの所に行っちゃダメだ。

ラジーはチヤの子供で、食堂の子供だろう? 大人の事なんて気にすんな。ラジーが迷うなら、俺がラジーは正しいって言ってやる」


それを聞いたラジーはややあってコクリと頷いた。

恐らく意味は半分くらい判っていないだろうが、自分は母親の傍にいてもよく、自由にしてもいいんだという事は理解したらしい。


「そういう事で、私はラジーの後見に立候補したいんだが、いいだろうか?」


そして話がようやく本題に戻って来た。

そこまで言われてしまえば、反対する理由はない。


「こちらから特に要求する事はありません。3属性の人物を囲っているというだけでも価値はありますからね」


チヤが迷っていると思ったのか、眼鏡の令嬢がしれっと補足を入れる。


「判ってるよ。ラジーがそれでいいのなら、あたしからは何も言う事は無いさ。

でも、何も無しって訳にはいかないだろ? こっちが出せるものっていうと限られているからね。

ラジーが嫌がらない範囲での協力と、そっちの団長さんの言う『団員の迷惑料』で相殺してくれると助かる」


「それを言われると立つ瀬がありませんなぁ。適当にあしらって下さって構わんよ」


話の成り行きを見守っていた騎兵団団長が凶悪に微笑んだ。言っている事が同じでジャガルドとの血の繋がりを感じる。


「それではこちらにサインを頂けますか」


サッと書類を取り出したキャロライン。それには『後見証明書』なる文言が。


「こんなもん、いるのかい?」


後見って文書に残すようなものなのだろうか?と令嬢を見返すと、彼女は隣のガライに視線を向ける。


「兄上からな、「お前は予想外の事をしでかすから証拠を残せ」と遺憾ながら言われてしまったから、仕方無く」

「今回の為に新たに作成致しました」


その言葉に彼女は大いに納得した。



以前、レイニオがラジーに言っていたのは、この場面の後の事。(125話目「大体アニキのせいにしておけば丸く収まる」より)


うーん、もっとこう、雰囲気が出ないものか……。

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