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第19話 脈動

 図書室へ通う日がつづいている。


 鉱石の資料を読み進める。


 メモを取る。


 また読む。


 そんなある日だった。


「あの……」


 声がした。


 顔を上げると、知らない顔が立っていた。


 胸ポケットのスカーフが赤い。


 一期生だ。


 本を抱えて、困ったような顔をしている。


「探している本があるんですけど、どこにあるかわからなくて」


「なんという本ですか」


 タイトルを聞く。


 少し考える。


「四つ奥の棚の、左から二番目です。上から三段目」


「え、あ、ありがとうございます」


 一期生が小走りで向かった。


 エリオは視線をページへ戻した。




 翌日も同じだった。


 別の一期生が来た。


 別の本を探していた。


 場所を教えた。




 さらに翌日も、別の一期生が来た。


 エリオにとっては何も変わっていない。


 聞かれたから答えただけだった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 数日後。


 図書室でいつものように資料を広げていると、隣の椅子が引かれた。


「エリオ、ちょっと聞いていい」


 ミーナだった。


 手に小さな布袋をもっている。


「図書室の主って呼ばれてるの、知ってる?」


 エリオは顔を上げた。


「図書室の虫では?」


 同級生がそう呼んでいた。


 たぶん自分の事だと思っていた。


「そっちは知っとんねんな」


 ミーナが少し笑う。


「一期生のあいだで広まってるねん。本の場所がわからんくなったら、あの人に聞けって」


「……ボクのことですか」


「そうやよ」


 エリオは少し考えた。


 同じ図書室にいるだけなのに、呼ばれ方が違う。


 出所が違うからだろうか。


「頼られるのは悪くないとは思います」


「思います、って他人事みたいやな」


「でも」


 エリオは少し間を置いた。


「一期生は、ボクが女装していたことを知らないから、だとも思うので」


 ミーナが黙った。


 何か言おうとして、やめた。


 エリオはページへ視線を戻した。


 しばらく沈黙がつづく。




 やがてミーナが布袋を机のうえに置いた。


「商会から返事が来た」


 エリオは顔を上げた。


「振動石、あったよ」


 胸の奥で何かが動いた。


「本当ですか!」


「うん。父上に頼んで送ってもらってん」


 ミーナが布袋の口を開いた。


 中から転がり出たのは、灰色の小さな石だった。


 表面はつるりとしている。


 どこにでもありそうな見た目だった。


 石は机のうえで、静かに止まっていた。


 揺れていない。




 エリオはしばらく石を見た。


「手、近づけてみ」


 ミーナが笑っている。


 ゆっくりと手を近づける。


 触れていない。


 まだ触れていない。


 なのに。


 とくん。


 石が動いた。


「あ」


 声が出た。


 とくん、とくん。


 規則正しく、静かに、繰り返している。


 心音と同じだ。


 自分の鼓動と、同じリズムで。


「エリオ?」


 ミーナの声が遠くに聞こえた。


 目が離せなかった。


 石をひろう。


 手のひらのうえで、石がとくん、とくん、と揺れている。


 ロイドに見せてもらったときのことを思い出す。


 指先に伝わってきたあの感触。


 規則正しく、止まらずに、ずっとつづいていたあれが、いま、目の前にある。


「……すごい」


 思わず呟いた。


 それ以上の言葉が出てこない。


「よかった?」


 ミーナが恐る恐る聞いた。


「よかったです」


 エリオは顔を上げた。


「本当に、本当に、よかったです! ありがとうございます!」


「どういたしまして」


 ミーナがほっとした顔になった。


「使えそう?」


「はい。でも、これをどう組み込むかは、まだわかりません」


「また調べるん?」


「はい」


 ミーナが笑った。


「やっぱりエリオらしい」


 エリオはもう一度、手の上の石を見た。


 とくん、とくん、と揺れている。


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