第19話 脈動
図書室へ通う日がつづいている。
鉱石の資料を読み進める。
メモを取る。
また読む。
そんなある日だった。
「あの……」
声がした。
顔を上げると、知らない顔が立っていた。
胸ポケットのスカーフが赤い。
一期生だ。
本を抱えて、困ったような顔をしている。
「探している本があるんですけど、どこにあるかわからなくて」
「なんという本ですか」
タイトルを聞く。
少し考える。
「四つ奥の棚の、左から二番目です。上から三段目」
「え、あ、ありがとうございます」
一期生が小走りで向かった。
エリオは視線をページへ戻した。
翌日も同じだった。
別の一期生が来た。
別の本を探していた。
場所を教えた。
さらに翌日も、別の一期生が来た。
エリオにとっては何も変わっていない。
聞かれたから答えただけだった。
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数日後。
図書室でいつものように資料を広げていると、隣の椅子が引かれた。
「エリオ、ちょっと聞いていい」
ミーナだった。
手に小さな布袋をもっている。
「図書室の主って呼ばれてるの、知ってる?」
エリオは顔を上げた。
「図書室の虫では?」
同級生がそう呼んでいた。
たぶん自分の事だと思っていた。
「そっちは知っとんねんな」
ミーナが少し笑う。
「一期生のあいだで広まってるねん。本の場所がわからんくなったら、あの人に聞けって」
「……ボクのことですか」
「そうやよ」
エリオは少し考えた。
同じ図書室にいるだけなのに、呼ばれ方が違う。
出所が違うからだろうか。
「頼られるのは悪くないとは思います」
「思います、って他人事みたいやな」
「でも」
エリオは少し間を置いた。
「一期生は、ボクが女装していたことを知らないから、だとも思うので」
ミーナが黙った。
何か言おうとして、やめた。
エリオはページへ視線を戻した。
しばらく沈黙がつづく。
やがてミーナが布袋を机のうえに置いた。
「商会から返事が来た」
エリオは顔を上げた。
「振動石、あったよ」
胸の奥で何かが動いた。
「本当ですか!」
「うん。父上に頼んで送ってもらってん」
ミーナが布袋の口を開いた。
中から転がり出たのは、灰色の小さな石だった。
表面はつるりとしている。
どこにでもありそうな見た目だった。
石は机のうえで、静かに止まっていた。
揺れていない。
エリオはしばらく石を見た。
「手、近づけてみ」
ミーナが笑っている。
ゆっくりと手を近づける。
触れていない。
まだ触れていない。
なのに。
とくん。
石が動いた。
「あ」
声が出た。
とくん、とくん。
規則正しく、静かに、繰り返している。
心音と同じだ。
自分の鼓動と、同じリズムで。
「エリオ?」
ミーナの声が遠くに聞こえた。
目が離せなかった。
石をひろう。
手のひらのうえで、石がとくん、とくん、と揺れている。
ロイドに見せてもらったときのことを思い出す。
指先に伝わってきたあの感触。
規則正しく、止まらずに、ずっとつづいていたあれが、いま、目の前にある。
「……すごい」
思わず呟いた。
それ以上の言葉が出てこない。
「よかった?」
ミーナが恐る恐る聞いた。
「よかったです」
エリオは顔を上げた。
「本当に、本当に、よかったです! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
ミーナがほっとした顔になった。
「使えそう?」
「はい。でも、これをどう組み込むかは、まだわかりません」
「また調べるん?」
「はい」
ミーナが笑った。
「やっぱりエリオらしい」
エリオはもう一度、手の上の石を見た。
とくん、とくん、と揺れている。




