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第2話 まだ、みんな生きている

眩い光が、私の全身を優しく包み込んだ。

まるで温かい春の陽だまりの中にいるような、穏やかで心地よい光だった。痛みも、恐怖も、血の匂いも——先ほどまでの全てが嘘のように消え去っている。

「……ここ、どこ?」

ゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのある職員室だった。

木目の綺麗な長い机、壁に貼られた子どもたちの絵、新年度の名簿が置かれた棚。そして、窓から差し込む朝の柔らかな日差し。

私は呆然と立ち尽くした。

(……着任式の日?)

周りでは、新採用の先生たちが緊張した面持ちで並んでいる。校長先生がまだ挨拶を続けている最中だった。私はその場にいて、背筋を伸ばし、両手を前に揃えていた。あの頃の自分自身が、そこにいた。

時計を見ると、確かに3年前の春。四月。桜の花びらが校庭に舞っていた季節。

(タイムリープ……? 夢? それとも……)

頭の中で様々な考えが渦巻いたが、胸の奥から湧き上がる確信があった。これは夢なんかじゃない。現実だ。そして、神様か運命がくれた、二度目のチャンスだ。

私はあの日の恐怖を、子どもたちの泣き声を、床に倒れる自分の姿を鮮明に覚えていた。あの男の狂った笑みも、冷たいナイフの感触も。

(絶対に……もう二度と、あんな思いはさせない)

着任式が終わったその日の午後、私はすぐに行動を起こした。

学校帰りに最寄りの空手道場「黒崎道場」へ向かった。学生時代に少しだけ通っていた道場だ。道場主の黒崎先生は、私の顔を覚えていてくれた。

「佐倉か。急にどうした? 真剣な顔してるぞ」

「先生……本気で強くなりたいんです。命を守れるくらいに」

私の目を見た黒崎先生は、わずかに頷くと、ただ一言「わかった」とだけ言った。

それから私の地獄のような修行が始まった。

毎朝5時に起床し、ジョギングと基礎体力トレーニング。学校の仕事が終わった後は夜7時から10時まで道場で汗を流す。週末は朝から夕方までほぼ丸一日、道場にこもった。

最初は体が悲鳴を上げた。

「うっ……!」

ミット打ちで何度も拳を打ち込むたび、関節が痛み、筋肉が引きつる。蹴りの練習では太ももが痙攣し、足がもつれて転びそうになることもあった。汗が目に入り、息が上がって吐きそうになる。

それでも私は歯を食いしばった。

(あの時、守れなかった……だから今度は、絶対に)

基本の型を何百回も繰り返し、組手練習では先輩たちに何度も投げ飛ばされ、打ちのめされた。夜遅くに道場を出るときは、足がガクガクしてまっすぐ歩けない日もあった。

そんなある日、先輩教師の山田先生が職員室で声をかけてきた。

「佐倉先生、最近すごく生き生きしてるわね。なんかあったの? 彼氏でもできた?」

私は少し照れながら、笑って答えた。

「彼氏じゃないです。子どもたちを守れる先生になりたくて、空手を頑張ってるんです」

「へえ……すごいね。尊敬するわ」

周りの先生たちも最初は驚いていたが、次第に応援してくれるようになった。校長先生までもが「体、壊さないようにな」とおにぎりを差し入れてくれたり、理科の先生が「護身術の本」を貸してくれたりした。

子どもたちも私の変化に気づいていた。

「先生、なんか強くなった?」

「腕、筋肉ついてる!」

休み時間にそんなことを言われ、私は頭を撫でながら笑った。

「そうだね。先生、みんなを守れる強い先生になるよ」

内心では、常に思い続けていた。

(あの男がまた来る日を、私は知っている。あの日が来るまで、絶対に妥協しない)

練習はさらに過酷さを増した。

週に一度はフルコンタクトに近いスパーリングを行い、実際に打たれながらも冷静に反撃する練習をした。スピードを上げるための瞬発力トレーニング、パワーを出すためのウエイト、精神力を鍛えるための座禅まで。

筋肉が悲鳴を上げ、時には寝るのも辛いほどの疲労感に襲われた。それでも毎晩、布団の中で私は心に誓う。

(もう一度、あの教室で……子どもたちの笑顔を守るために)

3年目の私から、1年目の私へ。

時間は巻き戻ったけれど、私の覚悟だけは、確かに前よりも強くなっていた。

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