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第3話 運命の日、再び

そして、再びその日がやってきた。

朝から私は胸の奥がざわついていた。カレンダーを見なくてもわかった。あの日——3年前に命を落としたはずの、あの忌まわしい日。

職員室で出勤簿にサインをしながらも、手がわずかに震えていた。でも、顔には出さない。子どもたちの前に立つときは、いつも通り明るい先生でいなければいけない。

5時間目、2年1組の算数。

私は深呼吸をして教室に入った。子どもたちがいつものように明るい笑顔で迎えてくれる。

「先生、今日も7の段やるんでしょ?」

「うん! 今日は特にノリノリでいくよー! 先生も全力で楽しむから、みんなも一緒に声出してね!」

私はわざと大げさに腕を振り上げ、明るく言った。心臓の音が自分の耳にうるさいほどにドキドキしていたが、笑顔だけは完璧に保った。

授業が始まる。

「よーし、7の段いってみよう!」

黒板に大きな字で「7の段」と書きながら、私は元気いっぱいに声を張り上げた。子どもたちも一緒に乗り気になってくれる。

「7×1=7!」

「7!」

「7×2=14!」

「14!」

「7×5=35!」

「35!」

そして——。

「7×6は……45!」

瞬間、教室がざわついた。

「えー! 先生違うよー! 42だよ!」

「先生、木から落ちちゃったねー!」

「7×6は42だよ、先生バカー!」

子どもたちが一斉に大笑いする。教室中が笑いの渦に包まれた。

私はわざと頭をかいて「うわー、先生やっちゃった!」とオーバーに反応した。子どもたちの笑顔を見ながら、心の中で小さく微笑んだ。

(よし……始まる)

その瞬間——。

ガタンッ!!

後ろの扉が、以前と同じように乱暴に開け放たれた。

入ってきたのは、あの男。薄汚れたパーカー、同じ狂った目、そして右手の銀色のナイフ。

教室が一瞬で凍りついた。

「みんな!! 後ろの壁まで下がって! 絶対に動かないで!!」

私は叫びながら素早く黒板の前から前に出た。両手を広げ、子どもたちを背後に守る。

男はニヤニヤと笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。

私は低く、しかしはっきりとした声で言った。

「……あんただけは、許さない」

男が飛びかかってきた。以前と同じように、荒々しい動きでナイフを振り上げる。

しかし、今回は違った。

1年間、死に物狂いで積み重ねてきた修行の成果が、私の体と頭に染みついていた。相手の足の運び、肩の動き、目の方向——すべてが、ゆっくりと見えていた。

「はっ!」

鋭い前蹴りが炸裂した。

私の右足が、男の手首を正確に捉え、ナイフを宙に蹴り飛ばす。カラン、と金属音が教室の床に響いた。

「てりゃぁぁぁぁ!!」

私は一気に間合いを詰めた。

左の前手突きから右の中段突き、続けて流れるような回し蹴り。道場で何千回も繰り返した動きが、完璧に再現された。

男の顔に驚愕が浮かぶ。

「ぐあっ!」

腹部への膝蹴り、顎への上段蹴り。相手は必死に抵抗しようとするが、動きが遅すぎる。

最後に、私は全身の力を込めた正拳突きを放った。

ドゴォッ!

拳が男の顎に深くめり込む。

男は「ひぎゃぁぁぁぁぁ!!」と異様な叫び声を上げ、バタバタと激しく痙攣しながらその場に崩れ落ちた。口から泡を吹き、目が白く反転している。

「……参ったか」

私は荒い息を整えながら、ゆっくりと男に近づいた。倒れた男のマスクを乱暴に剥ぎ取る。

そこにあった顔を見て、私は息を飲んだ。

「……なんで……」

それは、小学校の同級生だった。昔、少しだけ好きだったイケメンの男子——名前は確か、拓也。

拓也は苦しげに笑いながら、震える声で言った。

「お前に……彼氏ができたから……ずっと、ずっと恨んでた……お前は俺のものなのに……」

その言葉に、私は胸が締め付けられるのを感じた。

確かに、昔は彼の優しい笑顔に少し惹かれていた時期があった。でも今は違う。私は教師として、この子どもたちと共に生きている。守るべきものが、はっきりとある。

私は静かに、しかし強い口調で言った。

「……許されることじゃないよ。人の命を、子どもたちの未来を脅かしたこと。しっかり罪を償いなさい」

ちょうどその時、警察のサイレンが近づいてきた。誰かが通報してくれていたらしい。

警察官たちが教室に駆け込み、泡を吹いて気絶した拓也を拘束していく。

「先生、大丈夫ですか!?」

「子どもたちは無事です!」

その日の夕方、学校は大騒ぎになった。

保護者たちが次々と学校に駆けつけ、子どもたちは興奮気味に私の周りに集まってきた。

「先生、めっちゃ強かった!」

「カッコよかったー! ヒーローみたい!」

「先生、空手やるの!? 教えて教えて!」

大輔くんが私の腕を掴んで目をキラキラさせながら言った。

他のクラスの先生たちも集まってきて、

「佐倉先生、本当にすごかったわ……私たちが怯えている間に……」

「あなたが守ってくれたおかげで、誰も怪我しなくて済んだ」

校長先生からも直接ねぎらいの言葉をもらった。

私は子どもたちに囲まれながら、温かい気持ちで胸がいっぱいになった。

その夜、1人で職員室に残り、窓の外の暗い校庭を見ながら、私は静かに心の中で誓った。

あのタイムリープは、私に新しい人生をくれた。

この学校と、子どもたちの笑顔を私はこれからも、絶対に守り続けたい。

ここまで「守りたい、この笑顔」を読んでくださり、本当にありがとうございます。

葵が弱い自分を変え、子どもたちの笑顔を守るために全力で立ち上がる姿を、できるだけ真っ直ぐに描きました。教師として、女性として、大切なものを守りたいという想いを込めた短編です。

もしこの物語を楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。

「スカッとした」「応援したくなった」「もっと読みたい」など、どんな感想でも構いません。ぜひ率直な評価や感想をお聞かせください。

あなたの声が、次の物語を書く大きな励みになります。

ありがとうございました。

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