51話 バスケットボール
バスケットボールを初めて手にしたのは、二歳の頃だった。
物心がつく前から、俺の人生にはバスケットボールがあった。
転んではボールを追いかけ、泣いてもまた拾い上げる。そんな毎日を積み重ねてきた。
そして今――。
俺はバスケットコートの上に立っている。
中学最後の大会。
中学校総合体育大会――中体連。
負ければ終わり。勝てば県大会へと進める、絶対に落とせない一戦だった。
「日和!こっちだ!俺がシュートを決めてやる!」
味方の声が体育館に響く。
「あぁ!任せたぞ!」
俺は迷いなくパスを送り出した。
ボールは美しい放物線を描き、リングへ吸い込まれる。
ネットが揺れた。
「よしっ!」
「もう一本決めるぞ!」
「いい感じだ……この調子なら」
スコアボードへ視線を向ける。
26対20。
上栖鳥中学校が六点リードしていた。
「勝てるぞ」
「まずはディフェンス!しっかり止めるぞ!」
「おー!」
全員の声が一つになる。
このチームならいける。
そう思えた。
◇
観客席では、試合を見守る人々が静かに言葉を交わしていた。
「元気なチームですね」
「ええ。特に5番の彼。ちゃんとチームを引っ張っているわ」
◇
「よし!」
相手のパスコースを読み切り、ボールを奪う。
「みんな!上がれ!」
俺の掛け声と同時に、味方が一斉に走り出した。
「させるかよ!」
相手ディフェンダーが素早く立ちはだかる。
「さすが守りのチーム……戻りが速い」
だが、それくらいで止まるわけにはいかない。
俺はリズムを変えながらドリブルを刻み、一瞬の隙を突いて相手を抜き去った。
「なっ!?」
「行くぞ!スパイラルだ!」
合図とともに、二人のセンターがゴール下へ走る。
さらにもう一人がスクリーンに入り、相手のマークを完璧に外した。
「頼む!」
フリーになったセンターへ、ノールックでパスを送る。
「敵がいない……今ならいける!」
ゴールへ一直線。
しかし最後の一人が立ちはだかった。
「させるか!」
それでも味方は慌てない。
体を反転させ、そのままバックレイアップ。
ボールはバックボードに当たり、リングへ吸い込まれた。
ピッ――。
得点が認められる。
「ナイス!」
思わず拳を握る。
この流れなら勝てる。
このまま県大会へ。
もっと先へ。
俺たちの未来は、希望で満ちている――そう信じていた。
だが、その瞬間だった。
「きゃああああああっ!!」
体育館の外からなのか、それとも遠くの観客席からなのか。
高い悲鳴が、かすかに耳へ届いた。
ほんの一瞬。
それでも、確かに聞こえた。
俺の足が止まる。
視線が揺れる。
胸の奥がざわついた。
(……何だ?)
嫌な予感だけが、心を締めつける。
「どうしたらいいんだ……」
誰にも届かないほど小さな声が、日和の唇からこぼれ落ちた。
遅くなってすみません。
バスケ回です。




