49話 遊戯会
お待たせしました。
上栖鳥保育園、お遊戯会が始まります。
「あれ、今日なしゅかは?」
朝のリビングで、俊音が辺りを見回しながら尋ねた。
「今日は、凛羽ちゃんのお遊戯会なんだって。」
悠尋が答える。
「凛羽ちゃん?」
琉妃が首を傾げると、弘明が苦笑した。
「ほら、あの子だよ。忘れたの?」
「あの、ヤクザの娘だよ。」
空介が簡潔に付け加える。
「あー……名前聞いたの初めてだよ。」
琉妃は納得したように頷いた。
「あー、あの子ね。元気なのかなぁ。」
俊音が窓の外を眺めながらつぶやく。
誰も知らない、幼い少女の一日が始まろうとしていた。
◇
――上栖鳥保育園。
「じゃあ、凛羽ちゃん。今日はお遊戯会だね。頑張ってね。」
珠架は優しく微笑みながら声をかける。
「うん。お姉ちゃんも見るよね?」
少し不安そうな瞳で凛羽が見上げた。
「もちろん見るよ。」
珠架はそっと凛羽の頭を撫でた。
その温かな手に、凛羽は小さく笑う。
「ありがとう。」
「あ、それと……私のお友達も連れてきていいかな?」
「あ、うん。」
「ありがとう!」
凛羽は小さく手を振ると、園舎の中へ歩いていった。
その後ろ姿を見送っていると、近くにいた先生が声をかける。
「凛羽ちゃんは相変わらずですね。」
「そうですか?」
「お友達は作らずに、基本ずっと一人なんです。家でも、あのような感じなんですか?」
珠架は少しだけ視線を落とした。
「そうですね……。まだ、心を開いてくれていないのかなって思います。」
「そうですかね……。」
先生もまた、どこか心配そうな表情を浮かべていた。
凛羽の小さな世界は、まだ誰にも開かれていない。
◇
宮地家の扉が開く。
「お邪魔します。」
珠架が廊下を歩いていく。
「あ、みんな起きてた。」
「あれ、なしゅか。今日はお遊戯会じゃなかった?」
悠尋が尋ねる。
「うん! そうなんだけどね。みんなも連れてきていいかなって凛羽ちゃんに聞いたら、いいよって言われてね。」
珠架は嬉しそうに笑った。
「みんなも行く?」
悠尋は周囲を見渡す。
「みんな今日予定ないよね?」
「ないよー。」
俊音が真っ先に手を挙げる。
他の面々も特に予定はなく、全員が頷いた。
「ありがとう!」
珠架の笑顔は、いつも以上に明るかった。
◇
保育園に到着すると、園内から子どもたちの元気な声が聞こえてきた。
「わぁ……。」
俊音が思わず声を漏らす。
全員が保育園を見上げた。
「なんか……すっごく懐かしい感じがする……。」
空介が静かに言う。
「俺らも保育園に通うような、そんな時期もあったからな。」
日和が頷いた。
「外にいても、園児の声が聞こえるね。」
琉妃が耳を澄ませる。
「どんだけ馬鹿でけー声してんだ。」
俊音が苦笑したその時――。
悠尋がぽん、と肩に手を置いた。
「俊音も同じような頃があっただろ。なんなら今も声でかいよ。」
「は!? マシだろ俺は!」
「同じだよ。」
琉妃が即答する。
「琉妃ぃ……。」
俊音が恨めしそうな視線を向けると、珠架が笑いながら手を叩いた。
「ほら入ろう。席がなくなっちゃうよ。」
7人は園内へと入っていく。
「お、あそこ空いてるぜ!」
俊音が後方の席を指差した。
「でも、あそこかなり後ろだから見えないよ。」
「じゃあ、あそこは?」
今度は琉妃が端の席を指差す。
「あそこは見にくいかなぁ。」
「じゃああそこは?」
日和が示したのは最前列だった。
「空いてるけど……。」
珠架が戸惑う。
すると悠尋が優しく言った。
「あそこに座りなよ。」
「え?」
「最前列の空席は一つ。そこに座るのはなしゅかだよ。」
「でも、みんなは……。」
珠架の言葉に、日和が静かに続ける。
「俺たちは見られればいいんだ。」
そして優しく微笑んだ。
「ずっと一緒にいたなしゅかが、あの子の活躍を目の前で見るべきだよ。」
珠架の瞳が少し潤む。
「みんな……ありがとう。」
彼女はゆっくりと最前列へ歩いていき、その席へ座った。
その背中を見送りながら、悠尋が言う。
「さて、俺たちも座ろうか。」
六人は空いている席へ腰を下ろす。
会場の照明が少し落ち、ざわめきが静まっていく。
そして、アナウンスが響いた。
『それでは、上栖鳥保育園お遊戯会を開演します。』
舞台の幕がゆっくりと開こうとしていた。
次回 『珠架と凛羽の遊戯会』




