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LEGEND SPIRIT 〜後に伝説と呼ばれる者たち〜  作者: ゆに


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48話 尋ね人

ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴る。


「俺出るよ。」


 俊音が立ち上がった。


 何気なく扉へ向かう。


 そして玄関を開けた瞬間――。


「あんた!」


 怒鳴り声が響いた。


「どこにいるのかと思ったら!」


 現れたのは、俊音の母だった。


 母は俊音の腕を強く掴む。


「ちょっ――!」


 俊音が顔をしかめる。


「え、なに?」


 弘明が驚きながら立ち上がった。


「やめてください!」


 空介が慌てて間に入る。


 だが母は止まらない。


「親が子供を連れて帰って何が悪いのよ!」


「俊音のお母さん……?」


 空介は戸惑った表情を浮かべた。


「まあまあ、落ち着いて。」


 悠尋も静かに声をかける。


 そんな中、日和は腕を組んだ。


「俊音がここに住むこと、家族に話してなかったのか?」


 俊音は目を逸らした。


「まあ。」


 小さな返事。


 その様子を見て琉妃が苦笑する。


「言えないんだよね。」


「琉妃……。」


「俺知ってるよ。」


 その一言に、俊音は何も返せなかった。


 悠尋が一歩前へ出る。


「どんな理由があろうと、決断するのは結局自分自身だ。」


 静かな声だった。


「親に従うのも自由。反発するのも自由。」


 俊音を見つめる。


「俺たちはまだ子供だ。家を出るには早い年齢でもある。」


 少し間を置く。


「だから家族の意思も選択肢に入れるべきだと思う。」


 俊音が悠尋を睨んだ。


「悠尋は敵なのか?」


「違う。」


 悠尋は即答する。


「味方だ。」


 そして優しく笑った。


「ただ、強制しないって意味さ。」


「そ。」


 俊音は顔を背けた。


「ずるい人間。」


「ずるくて結構。」


 悠尋は肩をすくめる。


「でも皆同じだ。」


 真っ直ぐな瞳。


「俺が信じてるのは、お前の答えだよ。」


「……そうか。」


 俊音は小さく呟いた。


     ◇


「早く帰るよ!」


 母が再び俊音の腕を掴む。


「あんたがいなくなってから家は荒れるし、ご飯もまともに食べられないし散々なの!」


 必死な声。


「正直、あんたが一番出来がいいの!」


 その言葉に。


 俊音の表情が止まった。


「出来……?」


 掴まれていた腕を振り払う。


「嫌だね。」


 きっぱりと言った。


「俺には今、新しい家族がいるからな。」


 そう言って仲間たちの肩に腕を回した。


 母の顔が歪む。


「馬鹿なこと言ってないで帰ってきなさい!」


「そりゃ離れたくもなるよな。」


 日和が呟く。


「子供の気持ちも考えずに物を言う親からは。」


「誰今言ったの?」


 母が振り返る。


 そして琉妃を見つけた。


「あんた?」


 母は琉妃へ詰め寄る。


「あんた俊音と小学校同じだったでしょ。」


 鋭い目。


「知ってるのよ。」


 琉妃は困ったように笑う。


「ええ、何で俺……?」


「あんたの親に言っておくから。」


「別にいいけど。」


 琉妃はさらりと言った。


「俺、許可もらってるし。」


「私は出してないの!」


 声が大きくなる。


「でも。」


 日和が淡々と言った。


「俊音はもう親を捨ててるんじゃないすか。」


「あなたいい加減にしなさい!」


 母の怒鳴り声が響く。


 そして――。


 パシンッ!


 俊音の頬が打たれた。


 家の中が静まり返る。


「……。」


 琉妃の目が細くなった。


 俊音はゆっくり顔を上げる。


 頬は赤くなっていた。


 だが目は揺れていなかった。


「もううんざりなんだよ。」


 低い声。


「本当にうんざりだ。」


 歯を食いしばる。


「もう俺の前から消えろよ。」


 母が言葉を失う。


「俺はよ……。」


 拳を握る。


「俺は!」


 叫んだ。


「何で剣を振り始めたと思う!?」


 母も負けじと叫び返す。


「そんなに嫌いなら私を殺すためでしょ!」


「違う!!」


 即座に否定した。


 まるで突き放すように。


「自然に死ぬ口実を作るためだよ……。」


 空気が凍りつく。


 俊音の声は少しずつ小さくなる。


「早く親から解放されたかった。」


 誰も言葉を挟めない。


「最初はさ。」


 俊音は続ける。


「強い人を見つけたんだ。」


 あの日の男を思い出す。


「憧れて、俺も強くなりたいって思った。」


 だが。


「それと同時に思ったんだ。」


 母を指差す。


「剣を振れば楽に死ねるのかなって。」


 震える声。


「あんたから解放されるのかなって!」


 しかし母の返事は変わらなかった。


「あんたは私のものよ。」


 俊音は目を閉じた。


 やっぱり届かない。


 それでも。


「そしたらいたんだよ。」


 ゆっくりと悠尋を見る。


「俺の気持ちを分かってくれた奴が。」


 悠尋は黙って聞いていた。


「強くて。」


「俺と似てて。」


「腐った国をぶっ壊そうとしてる奴が。」


 俊音は笑った。


「こいつも苦しかったんだなって。」


 少し寂しそうな笑顔だった。


「なのに俺は。」


 拳を握る。


「戦う勇気もなかった。」


「目の前の崖に踏み出せなかった。」


 悠尋の言葉を思い出す。


『お前は光だ』


 あの日の声。


「そんな俺に。」


 目を閉じる。


「光だって言ってくれた。」


 そして。


「人生の分岐点が見えたんだ。」


 母を見つめる。


「だから俺はここから離れない。」


     ◇


 俊音は母の前へ歩いた。


 そして深く頭を下げる。


「ごめん、ママ。」


 静かな声。


「でも。」


 顔を上げる。


「もう俺の前から消えてくれ。」


 扉を開ける。


 そして母を外へ出した。


 バタン。


 扉が閉まる。


「開けなさい!」


 ドンドンドン!


 激しい音が響く。


「いいのか?」


 日和が尋ねる。


「いいんだよ。」


 俊音は背を向けた。


「無視しとこ。」


 しばらくして。


 打撃音が止んだ。


 そして。


「だったら……依頼よ。」


 全員の表情が変わった。


 依頼。


 それは彼らにとって特別な言葉。


 民の願い。


 彼らの使命。


「俊音を返して。」


 重い沈黙が落ちる。


 悠尋が目を閉じた。


「依頼を受けるのが俺たちの役目だ。」


「俺は帰らない。」


 俊音は即答した。


「役目を捨てても帰らない。」


 悠尋は小さく笑った。


「お前がそう決めたなら。」


 頷く。


「それでいい。」


     ◇


 俊音は扉越しに話しかけた。


「ママ。」


 返事はない。


「ごめんよ。」


 静かに言う。


「俺は今、自分の道を歩いてるんだ。」


 少し間を置く。


「親なら応援してくれないか?」


 返ってきたのは冷たい声だった。


「許さない。」


 そして。


「絶対に許さない。」


 俊音は目を閉じる。


「そうか。」


 だが笑った。


「なら行動で見せるよ。」


 前を向く。


「応援してくれるように。」


 そして仲間たちの元へ戻った。


「とりあえず決意は高まった。」


 明るく言う。


     ◇


 その時。


 琉妃が立ち上がった。


「ん、ちょっと。」


 扉を開ける。


「どこ行くの?」


「少しね。」


 そう言って外へ出ていった。


 玄関横には、まだ俊音の母が座り込んでいた。


「何よ。」


 母は睨む。


 琉妃は少しだけ黙る。


 そして――。


「……あの。」


 静かに何かを伝えた。


 その内容を聞いた瞬間。


 母の顔から血の気が引いた。


 目を見開く。


 言葉を失う。


 やがて立ち上がり。


 何も言わず歩き去っていった。


     ◇


 数分後。


 琉妃が戻ってくる。


「あ、おかえり。」


 俊音が振り返る。


「どうしたん?」


「さっき。」


 琉妃は何気ない顔で言った。


「俊音のお母さん、帰っていくところ見たよ。」


「え?」


 俊音は目を丸くする。


「なんで?」


「俊音の言葉に心打たれたんじゃない?」


 にっこり笑う。


「そ、そうか……!?」


「うん。」


 俊音は少し照れ臭そうに笑った。


 琉妃も笑う。


 二人は顔を見合わせた。


 家の中に穏やかな空気が流れる。


 けれど。


「……。」


 空介だけは黙っていた。


 琉妃の横顔を見つめながら。


 何かを考えるように。


 静かに――。 


 こうして、俊音は過去と向き合った。


 苦しみも。


 痛みも。


 捨てたわけじゃない。


 それでも前へ進むことを選んだ。


 仲間と共に。


 自分の信じる道を歩くために。

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