47話 俺は光だ!
――悠尋との出会いから数日後。
俊音は街を歩いていた。
腰には、あの日拾った真剣。
今ではすっかり相棒のような存在になっていた。
その時だった。
「きゃあああっ!」
「助けてくれぇ!」
遠くから悲鳴が響く。
俊音の口元が自然と吊り上がった。
「きた。」
剣の柄を握る。
「やっと二回目だ。」
胸が高鳴る。
「こいつも試したかったしな!」
次の瞬間、俊音は地面を蹴った。
風を切る。
人混みを抜ける。
誰よりも速く。
◇
現場に到着すると、そこには大勢の武装した男たちがいた。
怯える市民たち。
そして、威張り散らす国の役人たち。
俊音はため息を吐いた。
「おいおい。」
肩をすくめる。
「またやってんのか?」
敵の一人が睨みつける。
「誰だあいつ。」
「お前、俺たちを誰だと思ってる?」
俊音は即答した。
「クソ無能のお偉い様だろ。」
一瞬で空気が凍り付く。
「あぁ?」
敵の額に青筋が浮かぶ。
だが俊音は止まらない。
「実際そうだろ。」
呆れたように続ける。
「やっとの思いで国のトップに上り詰めて、やることが市民いじめか?」
鼻で笑う。
「ほんっと役立たず。」
そして剣を向けた。
「お前ら全員クビになりゃいいのに。」
「殺すぞ。」
低い声が響いた。
「やれるもんならな。」
俊音は笑った。
◇
次の瞬間。
敵の集団が一斉に襲い掛かる。
だが俊音は怯まない。
「敵の数は前回と比べ物にならないほど多い。」
剣を構える。
「でも――やるんだ。」
地面を蹴る。
一瞬で敵の懐へ入り込んだ。
斬る。
避ける。
走る。
また斬る。
俊音の戦い方は単純だった。
だが圧倒的だった。
「おっ。」
剣を見て笑う。
「やっぱカッケーな。」
嬉しそうに呟く。
「こいつで戦うのは。」
次々と敵が倒れていく。
しかし――。
敵は減らなかった。
むしろ増えているように見えた。
「はぁ……はぁ……。」
俊音の呼吸が荒くなる。
「結構倒したけど……。」
周囲を見渡す。
「まだこんなにいるのかよ。」
苦笑した。
「国の無能も増えまくった証拠だな。」
空を見上げる。
「これ……体力やばくね?」
◇
敵たちはその様子を見逃さなかった。
「あいつバテてるぞ。」
「今だ。」
俊音はまだ気付いていなかった。
前回の勝利が、少しだけ油断を生んでいたことを。
真剣での戦い。
それは命懸けだ。
相手も必死なのだ。
集団が一気に押し寄せる。
「ぐっ!」
俊音は一人を斬り伏せる。
だがその隙だった。
二人の敵が背後から腕を掴む。
「うわっ!?」
動きを封じられた。
「調子に乗ったなぁ、ガキ。」
敵が近づいてくる。
頬を乱暴に掴み上げた。
「俺に逆らってごめんなさいは?」
俊音を見下ろす。
「俺の顔をよーく見ろ。」
不気味な笑み。
「その恐怖を地獄まで持ってけ。」
俊音は数秒黙った。
そして――。
ぺっ。
敵の顔に唾を吐いた。
「うわっ!?」
敵が悲鳴を上げる。
「きったねぇ!」
俊音はニヤニヤしていた。
「クッセェなおっさん。」
「何?」
「目の前でそんなクッセェ息吐くなよ。」
敵の顔が真っ赤になる。
俊音はさらに追い打ちをかけた。
「世の中にはよぉ。」
笑いながら言う。
「唾もまともに吐けない奴もいるらしいぜ。」
そして親指で自分を指した。
「俺は吐けるけどなぁ!」
「殺せぇぇぇ!!」
「はい殺します!!」
敵が剣を振り下ろした。
だが――。
金属音が響く。
ガキィン!
攻撃は届かなかった。
◇
「よお。」
聞き覚えのある声。
「速橋俊音。」
俊音が目を丸くする。
「あれ?」
目の前に立っていたのは、あの日の少年だった。
「お前、この前の。」
指を差す。
「俺を侮辱した奴。」
「いや、それ誤解。」
悠尋は即座に首を振った。
「俺はお前をスカウトしに来たんだ。」
「スカウト?」
「国のお偉い連中をぶっ倒さないかってな。」
悠尋は肩をすくめる。
「なのにお前、『頭悪いって馬鹿にされた!』って勝手に拗ねて逃げただろ。」
「うるっせ。」
俊音は顔を逸らした。
「タイミングが悪かったんだよ。」
悠尋は苦笑する。
「まあいい。」
剣を構えた。
「それで?」
俊音を見る。
「やるか? やらないか?」
俊音は笑った。
「ふっ。」
そして剣を握る。
「やるに決まってる。」
◇
二人は同時に飛び出した。
俊音が前を切り開く。
悠尋が確実に仕留める。
息が合っていた。
まるで昔から一緒に戦っていたかのように。
「俺は単純馬鹿だ。」
俊音が叫ぶ。
「先の未来なんて知ったこっちゃねぇ!」
敵を斬り伏せる。
「この決断が吉と出るか凶と出るかも知らねぇ!」
笑う。
「でも国を倒すってのは――」
剣を振るう。
「悪くねぇな!」
「だろ?」
悠尋も笑った。
「身近なことだけじゃ物足りないだろ。」
敵を弾き飛ばす。
「もっと大きく見ようぜ。」
空を指差した。
「この世界は、とんでもなく広いんだからさ。」
「だな!」
「とにかく片付けるぞ!」
「おう!」
二人は背中を預け合いながら戦った。
そして――。
最後の敵が倒れる。
静寂。
俊音は剣を肩に担いだ。
「一人じゃ出来ないこともある。」
空を見上げる。
「でも――」
悠尋を見る。
「二人なら!」
笑顔になる。
「できることがめちゃくちゃ増える!」
◇
「強いな、お前。」
悠尋が言った。
「当たり前だろ。」
俊音は胸を張る。
「めっちゃ鍛えたから。」
そして首を傾げた。
「でも何で俺なんだ?」
悠尋はポケットから一枚の紙を取り出した。
「師匠が残してたんだ。」
そこには五人の名前が書かれていた。
「この五人を集めれば、最強のチームになるって。」
「へぇ。」
俊音は紙を見る。
「最強か。」
口元が緩む。
「悪くない。」
だが、一つの名前を見て表情が曇った。
「……。」
「知ってる奴がいるのか?」
「まあな。」
俊音は視線を落とす。
「ちょっと関わるのを避けてた奴だ。」
悠尋はそれ以上聞かなかった。
代わりに別の名前を指差す。
「次はこいつ。」
『堅弘明』
「場所も分かってる。」
「そっか。」
俊音は笑った。
「頑張ろうな、お互い。」
手を差し出す。
「俊音でいい。」
悠尋も手を握った。
「よろしくな、悠尋。」
「よろしく。」
二人は固く握手を交わした。
◇
その時だった。
悠尋が真っ直ぐ俊音を見つめる。
「俊音。」
「ん?」
「お前は光だ。」
俊音はきょとんとした。
「何それ。」
「何者も明るく照らす光。」
悠尋は微笑む。
「だから曲がるなよ。」
俊音は苦笑した。
「俺、真っ暗な人生歩いてきたんだぜ?」
だが悠尋は首を振る。
「それでも。」
静かな声だった。
「その道を照らしながら歩いてきたんだろ。」
俊音の目が大きく見開かれる。
「……。」
初めてだった。
そんな風に言われたのは。
しばらく黙った後。
俊音は笑った。
心の底から。
「そっか。」
拳を握る。
「そうだよな。」
そして空に向かって叫んだ。
「俺は光だ!」
満面の笑み。
「誰の道も!」
悠尋を指差す。
「お前の道も!」
剣を掲げる。
「明るく照らしてやる!」
◇
――回想はそこで終わる。
「懐かしいことを思い出したな。」
次回 『尋ね人』




