42話 永遠勝負!
あ、今日は僕の誕生日です。
祝ってください。
我竜は腕を組みながら、延々と続くじゃんけんを眺めていた。
「俺もそう思う。」
琉妃の言葉に頷く。
そして二人のもとへ歩み寄った。
「もーいい。俺が決める。」
そう言って恋助を指差す。
「恋助、お前が後攻だ。」
「え?」
恋助がきょとんとする。
「なんで指差したの。指差すの先行の方でよくない?」
「いや、なんとなく。」
我竜は平然と言った。
「面白そうだなって。」
「理由が適当すぎるだろ!」
恋助が叫ぶ。
我竜は無視して蘭忌妃の肩を軽く叩いた。
「てことで、お前が先行だ。」
「あ、俺が先行か。」
蘭忌妃はあっさり納得した。
そして配られたトランプをじっと見つめる。
「なあ俺、あんまりルールわかんねーんだけどさ。」
「うん。」
「先行が先に引くのか? それとも引かせるのか?」
「あー。」
琉妃が頷く。
「確かに俺も考えたことある。」
「確かに!」
俊音も乗っかった。
「どっちなんだ我竜!」
「そりゃ先行が引くんだろ。」
我竜が答える。
「じゃあ俺が引くぜ?」
蘭忌妃がカードに手を伸ばした。
しかしその瞬間。
「お前ら。」
我竜が眉をひそめる。
「手札に同じ数字ないか?」
「あ。」
蘭忌妃が固まった。
「抜いてねーわ。」
「確かに!」
恋助も目を見開く。
「お前よく気づくな!」
「それがルールだからな。」
我竜は深いため息をついた。
この時点で不安しかなかった。
二人は慌てて手札を確認し始める。
恋助は一組のペアを見つけて捨てた。
「なあなあ。」
そしてジョーカーをつまみ上げる。
「このジョーカーってカードはさ、どれでもペアになるんだっけ?」
我竜は顔を覆った。
「……。」
ため息しか出ない。
「気持ちは分かるよー。」
琉妃が苦笑する。
「でも二人で勝負なんだし、どっちがジョーカー持ってても同じだって。」
「最後にジョーカー持ってたやつが負けなんだよ。」
我竜が説明した。
「あ!」
恋助が指を鳴らす。
「そっか! 忘れてたぜ!」
「馬鹿だなぁ。」
蘭忌妃が笑う。
すると恋助がなぜか嬉しそうにニヤついた。
「へへっ。」
「だからなんで喜ぶんだよ。」
俊音が呟いた。
ようやく試合が始まる。
蘭忌妃は片手でカードを持ち、真剣な顔になる。
「さ、やるぜ。」
恋助もカードを構えた。
「やるか。引けよ。」
蘭忌妃が右端のカードを引く。
手札を見る。
「あ、お。揃った。」
すぐにペアを捨てた。
「揃うんだな普通。」
我竜が苦笑する。
「じゃ! 次は俺が引くぜ。」
恋助は真ん中のカードを抜いた。
「あ、俺も揃ったぜ。」
ペアを捨てる。
「揃うんだよな普通。」
我竜は頷いた。
「やるなお前。」
蘭忌妃が笑う。
「お前こそな。」
恋助も笑い返した。
さっきまで喧嘩していたとは思えない。
その後も順調にゲームは進んだ。
カードはどんどん減っていく。
「まじか!」
蘭忌妃が驚く。
「お前だんだんカード少なくなってきてんじゃんか!」
「お前もなかなか強えじゃねーか!」
恋助も負けじと言い返す。
そして――。
ついに場に残ったカードは三枚。
恋助の手元にはジョーカーがあった。
「絶対に守るぜ。」
恋助がカードを抱え込むように持つ。
そして蘭忌妃を見上げた。
「絶対にジョーカーを守る。」
「……。」
我竜が無言になる。
「……。」
琉妃も無言になる。
一方の蘭忌妃は闘志満々だった。
「お前のジョーカーは絶対に俺が引いてやんよ。」
「……。」
「……。」
我竜と琉妃は顔を見合わせた。
俊音だけは目を輝かせている。
「なんかスッゲーわくわくすんな!」
拳を握る。
「恋助! 絶対にジョーカー守れ!」
「分かってるよ!」
恋助も真剣だ。
蘭忌妃は今度は琉妃を見た。
「俺にも応援してくれよ。」
「はい。」
琉妃が棒読みで答える。
「がんばって。」
「おうよ!」
蘭忌妃は満足そうだった。
そして恋助のカードへ手を伸ばす。
「ねえ我竜。」
琉妃が小声で言う。
「なんだ?」
「俺、この後の展開読めるんですけど。」
「あぁ。」
我竜も頷いた。
「俺もだよ。」
「ここだぁ!!」
蘭忌妃が勢いよくカードを引く。
「どうだ!」
「と、取られた……!」
恋助が絶望した。
「ついに決着か……!?」
俊音が立ち上がる。
「俺のジョーカー……!」
「多分終わらないよこれ。」
琉妃が呟く。
「そうだろうな。」
我竜も断言した。
そして予想通りだった。
ジョーカーは何度も何度も移動した。
一時間。
二時間。
三時間。
四時間。
まだ決着はつかなかった。
我竜は途中で飽きて帰り、俊音と琉妃は途中で寝落ちした。
それでも二人は続けていた。
時計が夜八時を指した頃。
「ただいまー。」
玄関から悠尋の声が聞こえた。
「なんかやけに騒がしいな。」
リビングへ入った悠尋は目を丸くする。
「お前いい加減負け認めろよ!」
「認めるわけねーだろ!」
蘭忌妃と恋助が向かい合っていた。
「勝てる勝負を放棄する馬鹿がいるか!」
「何で人の家でトランプ楽しんでるの?」
悠尋は至極真っ当な疑問を口にした。
「こいつには負けたくねーからよ。」
「理由になってないって……。」
悠尋はソファに腰掛ける。
周囲を見る。
俊音は寝ている。
琉妃も机に突っ伏している。
「お前らどのくらいトランプやってるんだ?」
「そんなもん知るか。」
蘭忌妃がカードを引く。
「知ったこっちゃねーよ。」
恋助も引く。
「あーもう!上がれねぇ!」
「悠尋……。」
眠そうな声がした。
琉妃だった。
机に突っ伏したまま、指を四本立てる。
「四十分?」
「いや。」
琉妃が首を振った。
「四時間。」
「はぁ!?」
悠尋が飛び上がる。
「四時間ずっとこのまま、お互いに何度もジョーカーを引き合ってる。」
「見てらんないな。」
悠尋は立ち上がった。
そして何の躊躇もなく二人の手札から一枚ずつカードを抜く。
「あ。」
「あ。」
二人が固まった。
悠尋は手元のカードを確認する。
「はい、俺の上がり。」
揃った七のペアを机に置いた。
「お前らの負けだ。」
にっこり笑う。
「早く帰れ。」
沈黙。
そして蘭忌妃が笑った。
「やるな悠尋。」
恋助も笑う。
「恋助もなかなか強えじゃねーか。」
「お前もだ、蘭忌妃。」
二人は固く握手を交わした。
「じゃーな!」
蘭忌妃が立ち上がる。
「俺は帰るぜ!」
そのまま玄関へ向かった。
「おう!」
恋助が大きく手を振る。
「また会おうぜ!」
しかし――。
「あれ?」
恋助の笑顔が固まった。
手元を見る。
そこには一枚だけカードが残っている。
ジョーカーだった。
「……。」
数秒の沈黙。
「俺あいつにも負けてね?」
恋助が呟く。
次の瞬間。
「このままじゃ終われねえ!」
勢いよく立ち上がった。
「待てぇぇぇ!! 馬鹿蘭忌妃ぃぃ!!」
玄関へ全力疾走。
ドタドタドタドタ――!!
扉が勢いよく閉まる。
静寂が戻った。
悠尋はその様子を見送りながら肩をすくめる。
「騒がしいやつだな。」
祝ってくれてありがとうございます。
次回 僕も一緒に連れてって




