34話 武田牧斗
昨日はダーツのリーグ戦があったので、今日投稿します。
是非、楽しんでいってください。
薄暗い鍛冶場に、火花が散る。
赤く熱された鉄を打つ音が、静かな夜に響いていた。
幼い少年は、その背中をじっと見つめている。
大きくて、たくましくて、誰よりも誇らしい背中だった。
「お前、最近よく見るな」
槌を振るう男が、ふっと笑う。
「僕も……お父さんみたいな、立派な刀を打てるようになれるかな……」
少年が不安そうに尋ねると、男は一度手を止めた。
そして、優しく笑う。
「あぁ。なれるさ」
火花が舞う。
その光が、少年の瞳に映った。
◇
「――っ」
少年は勢いよく目を覚ました。
窓から差し込む朝日が、ぼんやりと部屋を照らしている。
「……夢かぁ……」
死んだ父の夢だった。
あの日から、どれほど経っただろう。
鍛冶場の火は消え、あの音も、もう聞こえない。
「学校……行きたくないな……」
少年は重たい身体を起こし、小さく息を吐いた。
◇
登校中も、教室でも、視線が痛かった。
廊下を歩けば、ひそひそ声が聞こえる。
「まだ人殺しの剣なんか作りやがって!」
突然、男子生徒が少年の胸ぐらを掴んだ。
「これ以上、犯罪増やしたいのかよ!」
「僕は……もう刀は作ってない」
少年は俯いたまま答える。
「父のようにはできない。僕は……出来損ないだから」
「でもお前の父ちゃんが作った刀で、何人死んだんだろうなぁ?」
周囲から笑い声が漏れた。
少年は何も言い返せない。
――いじめは残酷だ。
こいつらは“犯罪”だの“悪”だの口にする。
それなのに、自分たちのしていることは悪じゃないのだろうか。
胸の奥が痛む。
けれど、その痛みを押し込めることには、もう慣れていた。
◇
下校中。
人気のない道で、少年はまた囲まれていた。
「お前のせいで……!」
腹を殴られる。
蹴られる。
それでも少年は耐えた。
誰も助けてくれない。
寄り添ってくれる人なんていない。
だから、ただ耐えるしかなかった。
「何してるんだ馬鹿たれ」
低い声が響く。
生徒たちが振り返った。
そこには、一人の少年が立っていた。
腰には刀。
鋭い目つき。
風のような雰囲気を纏った少年だった。
「なんだよお前! 邪魔すんな!」
「お前らが一人をいたぶってるからだろ」
「こいつ剣持ってるぞ! こいつと同じ人殺しだ!」
その言葉に、生徒たちは顔を青ざめさせる。
「行こうぜ!」
捨て台詞を吐きながら、彼らは逃げるように去っていった。
静寂が残る。
「お前、大丈夫か?」
少年が手を差し伸べる。
「……うん。大丈夫だよ」
いじめられていた少年は、ゆっくり立ち上がった。
「君も刀は持ち歩かない方がいいよ。僕みたいにいじめられるよ」
すると刀を持った少年は、呆れたように笑った。
「そんなんされたら、俺がぶっ倒すから何も怖くねーよ」
「……かっこいいね」
思わず漏れた言葉だった。
その姿が、彼の目には眩しく映った。
「お前は刀持ってるから、こんな目に遭ってんのか?」
「いや、違うよ」
彼は首を振る。
「僕の家、鍛冶屋なんだ。今はもうやってないけどね。父が刀を作る仕事だったから、人殺しだとか犯罪者だとか言われて……」
「なんだそりゃ」
少年は眉をひそめた。
「刀って、命を守れる優れもんなのによ」
その言葉に、彼は顔を上げる。
「……そうだよ!」
声が大きくなった。
「刀は守るためにあるんだ! 決して、人を殺すためだけのものじゃない!」
「だよな!」
二人は顔を見合わせる。
その瞬間、彼の胸の奥に、少しだけ温かいものが灯った。
彼はふと、相手の刀を見る。
「……だいぶボロボロだね」
「あーこれか?」
少年は刀を軽く叩いた。
「長年の付き合いでな。だいぶガタきちまった」
「じゃあ、僕の家においでよ」
「ん?」
「助けてもらったお礼、したいしさ」
「いいのか?」
「うん」
彼は小さく笑った。
◇
「す、すげぇ……」
家に入った瞬間、少年は目を輝かせた。
棚には様々な鉱石が並び、薄暗い室内で幻想的に光っている。
「別にそこまですごくないよ」
「いや、すげーって! なんかキラッキラした石いっぱいあるし!」
「父が刀を打つために集めた鉱石だよ」
「この石を武器にすんのか!?」
「まぁ、そうだね」
彼は棚から鉱石を選び始める。
「これと……これかな」
「何やってるんだ?」
「僕が君に刀を打つ」
「え?」
「その刀、かなり劣化してるし。何より、お礼」
少年は嬉しそうに笑った。
「助かるぜ!」
彼は少し照れながら、空色に輝く鉱石を手に取る。
「君は守るために剣を振るうんだよね」
「そうだな。人を、この国を守るために振るう」
「そっか……」
彼は鉱石を見つめた。
「なら、この鉱石を使おうかな。悪を払うみたいな、澄んだ空色の石」
「すげー綺麗だな」
「ちょっと待ってて」
◇
しばらく後。
「ごめん! お待たせ!」
「刀作るのって、こんな時間かかるんだなぁ」
「まぁね。はい、これ」
彼は完成した刀を差し出した。
淡い空色の刃が、美しく輝いている。
「これは、心を浄化する刀。名前をつけるなら――“シャプネスノットラスト”」
少年は静かに刀を受け取った。
「……なんだろ。持つと心が安らぐ気がする」
「“浄化”を意識して作ったからね」
「ありがとな!」
「その刀で、守りたいものを守ってね」
「おう」
少年は一歩、彼へ近づいた。
「じゃあ次は、俺がお前を守る」
「え……?」
「人の目を気にして刀を作る場所がないなら、俺はいい場所知ってる。居場所がないなら、俺らの学校に来い」
彼の目が揺れる。
「変わりたいって行動しなきゃ、ずっと同じだ」
その言葉は、まっすぐ胸に刺さった。
彼は静かに目を閉じる。
ずっと怖かった。
ずっと諦めていた。
けれど――。
「……変わりたい」
小さく、でも確かに言葉にする。
「今の境遇から抜け出したい」
「そうだ。変わるんだ」
少年は笑った。
「俺がお前を守るからよ」
彼の頬が、少しだけ緩む。
「ありがとう」
「俺は俊音だ。よろしくな」
彼はゆっくり顔を上げた。
「僕は武田牧斗。長らくお世話になるよ」
消えかけていた火が、再び灯り始めていた。
次回予告
「よおし着いた…。」
その少女は突然やってきた。
「あ、どうも。こんにちは。
琉妃はいらっしゃいますか?」
LEGEND SPIRIT初の本格長編
古友恋心編 開幕!
次回 『来訪』




