33話 なしゅかフレンズ
国から嫌われ、国民からも嫌われた。
気づけば、友達もいなくなっていた。
けれど――威武菜珠架は、不思議と寂しくなかった。
悠尋くんたちがいる。
それだけで、十分だったから。
◇
朝の教室。
窓から差し込む柔らかな日差しの中、教室の扉が開く。
「おはよう。悠尋くん。」
先に席についていた珠架が、ふわりと笑った。
「おはよう。なしゅか。今日も早いね。」
「普通だよ?」
「いや、早いと思うよ? 俺が来た時間が普通。琉妃は遅い。俊音は遅刻。これ常識ね。」
悠尋が真顔で言う。
珠架は思わず吹き出した。
「まあ、そこら辺は安定だよね。」
そんな穏やかな会話とは裏腹に、周囲からは小さなざわめきが聞こえてくる。
「何で威武菜さんが、悠尋と話してるの?」
「わかんない。俊音とか日和とも話してるの見たよ?」
「男ばっかじゃん!」
「休みの日も見たって。外でイケメンと歩いてた。」
「頭にバンダナ巻いてる人いたよね。」
「テンション高い馬鹿っぽいイケメンも。」
「あとクール系の人。」
「威武菜さんって、意外とそうなのかもね。」
「えー、男好き?」
「あり得る!」
ひそひそと飛び交う言葉。
珠架は困ったように苦笑した。
「あー……多分、我竜くんたちのことだ……。」
すると、再び教室の扉が開く。
「おはよう悠尋。」
入ってきたのは魔条琉妃だった。
「おう。おはよう。」
「一緒に住んでるなら起こしてよ。」
「いや悪い。俺らバラバラに登校するのが普通だろ?」
「まーそうだけどね。」
琉妃は肩をすくめると、珠架へ視線を向ける。
「あ、おはよう。なしゅかちゃんも。」
「お、おはよう。」
その瞬間、教室の空気がさらにざわついた。
「待って……琉妃くんとも仲良いの!?」
「性格も顔もいい、あの琉妃くんと!?」
「信じられない……。」
続いて、琉妃と入れ替わりで、弘明も教室へ入ってくる。
「おはよう。悠尋、なしゅか。」
「おはよう。」
「お、おはよう。」
「え! 弘明とも!?」
「成績優秀で高身長の弘明!?」
「なんで……?」
驚きの声が広がる中、さらに明るい声が響いた。
さらに、空介が教室に入ってきた。
「なーしゅかー。」
「あ、空介くん。」
「あー空介。」
「あー空介か。」
「あー空介ね。」
なぜか空介だけ反応が軽い。
空介は周囲を見回しながら首を傾げた。
「何でかな。なんか空気が重たい。」
「何言ってるの?」
「いや、何となく。挨拶だよ。おはよう。」
「おはよう。」
珠架が笑う。
だが、周囲の視線はまだ冷たかった。
「ありえない。」
「よねー。」
その言葉に、珠架は小さく俯く。
――その時だった。
「あの!」
教室に凛とした声が響く。
一人の少女が立ち上がっていた。
「いつまでネチネチしてるの? もうやめようよ。」
彼女の名前は、茅凪子。
クラスの総務を務める少女だった。
「茅凪子、何言ってるの?」
誰かが不満そうに言う。
だが茅凪子は一歩も引かなかった。
「私は、本人に聞こえる声で悪口を言ってるのが気に食わないだけ。みんなで仲良くできないの?」
「えー、何? ムキになっちゃって。」
「そうだよ!」
今度は別の席から、もう一人の少女が立ち上がる。
「そうだよ梓! 梓からも何か言ってやりなよ!」
梓は少し緊張したように息を吸った。
「そうだね。」
そして、真っ直ぐ珠架を見る。
「ごめん。珠架ちゃん。」
「梓ちゃん……。」
「茅凪子の言う通りだよ。私もずっと思ってた。珠架ちゃんと仲良くなりたいって。」
珠架の目が揺れる。
「あの時、味方になってあげられなくてごめん。今になって言うのもずるいと思う。」
梓は小さく笑った。
「でも今度は、お友達として珠架ちゃんを守らせてよ。」
「梓……?」
周囲が驚く中、茅凪子も静かに続ける。
「珠架。私もこのクラスのリーダーなのに、守ってあげられなくてごめん。これからは隣で守らせてくれる?」
「二人とも……。」
茅凪子と梓が、そっと手を差し出した。
珠架はその手を見つめる。
そして――ふわりと笑った。
「守ってくれなくて結構だよ。」
「え?」
「私には、とっても頼り甲斐のある人たちが守ってくれてるから。」
珠架はゆっくりと二人の手を握る。
「だからね……お友達にならないかな?」
「なる!」
「なる。」
二人が即答した。
珠架の顔に、ぱっと花が咲くような笑顔が広がる。
「わぁ……ありがとう!」
その笑顔を見ながら、悠尋は小さく呟いた。
「よかったな。なしゅか。」
すると――
「これが青春。」
隣から突然、低い声が聞こえた。
「うわっ!?」
悠尋が飛び上がる。
そこには腕を組み、得意げな顔をした俊音が立っていた。
「俊音が遅刻してない!?」
「驚くところそこ!?」
教室に笑い声が広がる。
その中心で、珠架は少しだけ目を細めた。
嫌われても。
失っても。
それでも、自分を見てくれる人たちはちゃんといる。
だからもう、怖くなかった。
今回は、なしゅかについて書いてみました。
よかったですね。なしゅか。
友達ができたみたいで。
次回 『武田牧斗』




