31話 伝説のフライングヒーラー(雪のキラワレモノ編)
「俺だって……伝説のヒーラー!医畑空介だ!」
その名乗りに、敵の一人が口元を歪めた。
「聞いたか?まさか都市伝説本人だったとは。でもあん中じゃ一番雑魚だろ。」
周囲にざわめきが広がる。嘲笑と興奮が入り混じった空気。
「俺はそんなんじゃ怯まない!」
その一言で、場がすっと静まり返る。
「言っておくけどな。こっちはガチで勝てると思ってんだよ。お前レベルなら。」
――少し離れた物陰から、様子を見ている影があった。
(心自体が弱いと思っていたんだがな。相手にはそれなりに強く出れる。弱いのは表向きじゃなくて、隠れている裏側というわけか。)
空介は剣を構え、踏み込んだ。
「そんなんじゃ、お前本当にただの雑魚だぜ?」
「こんな奴ら俺の仲間なら……みんななら。」
言いかけて、首を振る。
「いや違う!俺がやらなきゃ!俺が強くならなきゃ!」
「アホだな。」
「隠れて突っ立ってるだけじゃなくて、師匠も戦ってくださいよ!」
「俺はやらん。剣も持ってねーし。」
空介は敵を一人倒し、地面を指差す。
「そこら辺に落ちてるじゃないですか!」
「だとしても俺はやらんぞ。」
「何故です!街の危機かもしれないんですよ!俺は知っています!あなたは強いって!」
「だとしてもだ。ここはお前の舞台だ。お前が羽ばたく舞台。飛んでみろよ。あの大空まで。」
指差された先には、どこまでも広がる空。
「何を……!?」
戦いは続き、数の差がじわじわと体力を削っていく。
「はぁ……はぁ……。」
「トドメだ!」
振り下ろされた攻撃を、空介はぎりぎりで弾いた。
「まだ……立ち続けんのかよ。」
「立派じゃねーか。さすがと言わんばかりに。よく堪える。」
空介は俯いた。
「俺は最弱ですよ。ただ仲間の背を追っかけるだけの……足手まとい。ちゃんと仲間から強いって思われたい。頼られたい。俺自身、強くなりたいんです。」
静かに、言葉が落ちる。
「お前は何か勘違いをしていないか。」
「え?」
「仲間をただ、超えたい相手として見るんじゃなく、仲間を味方として見ることを忘れてんじゃねーか?」
空介の目が見開かれる。
「お前はよ、ただ仲間の実力を超えたいって思っているだろうがな。」
男はゆっくりと近づいた。
「仲間からしたら、お前は背中を預けられる立派な仲間だ。じゃなきゃ……“伝説”だなんて名乗れねーよ。」
「伝説……。」
拳が、ぎゅっと握られる。
「まあなんだ。お前は一人じゃないってことだ。」
「仲間を味方として……か。」
――その瞬間、記憶がよみがえる。
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泣き声が響いていた。
「うぇーーん!風船が……!」
見上げた先には、木の高い枝に引っかかった風船。
「あらら、結構高いところに引っかかってるね。」
その隣で、空介が軽く跳んだ。
「ほい……っと!」
手を伸ばし、風船を掴む。
「はい。どーぞ!」
泣いていた子供の顔が、一瞬で笑顔に変わる。
「わぁ…!ありがとうお兄ちゃん!」
「すごいジャンプ力。日和が嫉妬するよ。」
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「ジャンプ力……これを武器にすれば。」
(そうだ。昔からお前たちを見てて、何か物足りなさを感じていた。
一人一人、何か尖った一面を持ってる反面、何か物足りなさを。
……空介。お前のチームの創設者は誰だか知らねーが、そのチームはきっと……ダイナミックに、空間すべてを支配できるようにと思って作られたものだと思うぞ。)
空介は顔を上げた。
「俺は……伝説のヒーラー改め、“伝説のフライングヒーラー”だ!」
その宣言が、空気を震わせる。
「そのフライングヒーラーとやらの力ぁ!見せてもらおうか!」
次の瞬間――空介の姿が、ふっと消えた。
高く、空へ。
「空から見れば……敵の配置がよく見える!」
着地と同時に、一人を斬り伏せる。
「動きがまるで変わった……。」
「でしょ。」
さらに一歩、さらに一閃。
「地上だけが……俺の戦闘場所じゃない!」
上から、斬りかかる。
「俺らが勝利する確率、限りなくゼロに近い。戦闘モードを終了する。いや、もう間に合わない。」
最後の一人が倒れる。
「これで終わりっと。」
静寂。
「師匠!俺、勝ちました!」
「よかったな。とりあえずもう帰れ。」
「え、でも……。」
「仲間がお前の帰りを待ってるんだろう。早く帰ってやれよ。そしてその解き放たれた笑顔を見せてやれよ。」
空介は、ふっと笑った。
「師匠……。」
その笑顔は、さっきまでとはまるで違っていた。
「師匠!ちゃんと俺の顔を見てください!この笑顔は師匠が作ってくれた笑顔です!あなたが俺の師匠でよかった。」
「あぁ、いい顔するようになった。」
軽く頭を撫でられる。
「ありがとうございます!今日は、師匠の言うとおり、帰りますね。また来ます…!」
振り返り、走り出す背中。
「ふっ……。」
小さく笑いながら、その背を見つめる。
「ずっと近くで見てたからな。俺は勝てると信じていたぜ。」
やがて背を向ける。
「ありがとな。空介。」
次回 キラワレモノラシカラヌ




