30話 伝説のヒーラー(雪のキラワレモノ編)
空介は剣を握り、静かに素振りを始めた。
空気を裂く音が、一定のリズムで響く。
「どうでしょうか?」
その一振りを見て、男は思わず目を見開いた。
(想像のはるか上の強さ……。これで弱いのか?)
「肩の力を抜いてもう一回。」
「はい!」
再び剣を振るう。さっきよりも、わずかに力が抜けていた。
「ふぅ……。」
「相手は何人だと想定している?」
「あ、考えていませんでした。でも今の感じだと、一対一ですかね…。」
(確かこいつらって複数人を相手にしてたんだよな。)
「ん?どうかしたんですか?」
はっとしたように顔を上げる。
「あ、いや、何もない。だったら相手は15人だ。適当にトイレットペーパー置くからよ。これを敵の心臓だと思って斬ってみろ。」
空介はゆっくりと目を閉じた。
「15人……。」
呼吸が整っていく。
周囲の気配を研ぎ澄ますように、静寂が張り詰めた。
「そこだっ……!」
一閃。
トイレットペーパーが切り裂かれる。
(まあ、普通って感じだ。普通に弱くもなく、普通に強い。でも、命中が悪いな。当たる一瞬で勢いが落ちてる。)
「ど、どうですか?」
「弱いって思ってるから、教えを望んでるんだよな。」
「はい。」
「まあ、お前は強いよ。普通に。」
「普通にじゃダメなんです!どうしたらもっと……強くなれますか…?」
「俺は教えるだなんて言ってないぞ。てか剣術は知らん。ネットで見ただけだ。」
「そんな……こんなにトイレットペーパー無駄にして……。」
「うっ……。」
ーーーーーーーーーーー
数日後、広場。
いつものように、空介は稽古を求めていた。
「師匠。俺強くなりたいんですよ。だからどうか、俺に稽古をつけてください。」
「だから俺は知らないって。」
「そんなこと言わずに……。」
その時だった。
何かが砕けるような、重い音が響いた。
「ん、なんだ?」
周囲では人々が慌てて逃げている。
男は目を細め、遠くを見据えた。
「……なんかいるな。」
「あれは…。」
「空介。」
名前を呼ばれ、視線を向ける。
「あいつらを倒して来い。」
「え、俺が……?」
「お前以外に誰がいんだよ。見せてみろよ。」
風が吹き抜ける。
「伝説のヒーラー。」
その言葉に、空介は目を見開いた。
「え、知ってたんですか?」
「ま、まあな。この間、お前がトイレットペーパーを切ってた時に気づいた。」
「それは師匠が指示したんでしょ。」
「まあそうだけどよ。あいつら如き倒せねーとは言わねーよな。」
「や、やれます。見ててください。そして俺に、稽古をつけてください。」
「まずは目の前のことだ。」
「はい……。」
手が震えている。
それでも、足は止まらない。
一歩、また一歩と、敵へ向かって進んでいく。
「相手は俺だ!」
敵の一人が鼻で笑う。
「1人……。子供1人で何ができるよ。こちとら20人いんだぜ。都市伝説に憧れるのもやめちまえよ。」
「それがどうした!それが…俺の仲間だったら1人でやれるよ。」
言葉は次第に小さくなっていく。
「あ?聞こえねーな。」
空介は大きく息を吸った。
「俺が1人でやっつけるって言ってるんだよ!」
張り裂けるような声が響く。
「威勢だけはいいみたいだな。ならばやってみろよ。逃げも隠れもしねーからよお!」
空介は剣を構えた。
「俺だって……伝説のヒーラー!医畑空介だ!」
何となくTikTokデビューしてみました。
次回 伝説のフライングヒーラー




