24話 伝説のダイナミックタンカー(平柳家侵入編)
――屋敷内。
「私はもう、そこまで追い込まれていましたか。」
平柳家の当主は、静かにそう呟いた。
その前に立つ悠尋は、一歩も引かずに睨み据える。
「観念するんだな。」
「……そうか。ならば——」
次の瞬間。
奥から無理やり引きずられるようにして現れたのは、日菜乃だった。
「痛い……っ」
髪を掴まれ、顔を歪める。
「バカお前!やめろ!」
悠尋の声が鋭く響く。
「もう遅い。」
父は冷たく言い放った。
「早く仕留めなかったお前が悪い。
私の手によってこの子供は死ぬ。」
ゆっくりと、刃物が日菜乃へ向けられる。
「それを見た君の仲間は、どれほど傷つくか……!」
「やめろ……!」
「あぁ、ごめんよ……圭。」
その一言と共に——
「君の愛する人は、死ぬ。」
振り下ろされるはずだった刃。
しかしその瞬間——
轟音と共に、爆発が空間を裂いた。
「なに……!?」
煙の向こうから現れた影。
「もう終わりだ。バカ野郎。」
「爆竹……!」
「俺は負けた。」
肩で息をしながらも、爆竹はまっすぐ言い放つ。
「さっさとその子を解放しろ。」
「貴様……雇用者に向かってその口の利き方は——」
「いくら束になっても、こいつらには勝てねえよ。」
その言葉が落ちた瞬間——
背後から一閃。
弘明が一気に踏み込み、日菜乃を引き寄せた。
「……お兄ちゃん……!」
涙混じりの声。
「助けてくれて、ありがとう……」
「いや……」
言葉を濁したその背中に——
ドンッ、と鈍い衝撃。
「いった!」
日和の蹴りが炸裂する。
思わず振り返った弘明に、日和はニヤリと笑う。
それを見て、弘明も小さく笑った。
「……助けに来たよ。」
「うん……ありがとう。」
そこへ、琉妃、俊音、空介、そして珠架が駆けつける。
「お前ら……!」
父の顔が歪む。
「絶対にタダじゃ済まさん……!」
その時。
廊下に、大きな足音が響いた。
「お父さん!」
圭だった。
「やっぱり誘拐なんて間違ってたんです!」
「黙りなさい!」
父の怒声が飛ぶ。
「我々平柳家は、欲しいものがあれば何が何でも手に入れる!それが当然だ!」
「それでも……!」
圭は一歩も引かなかった。
「相手は人です。悲しむ人がいるんです。」
静かだが、確かな声。
「だからこんなに人が集まったんです。」
父の表情がわずかに揺らぐ。
「……圭め。」
「分かってください、お父さん。」
そして、日菜乃へと向き直る。
「……ごめんね。」
日菜乃は少し困ったように笑った。
「なんか複雑だけど……ちょっとだけ、気持ち分かったよ。」
「えへへ……」
力の抜けた笑み。
その空気を見て、爆竹が肩をすくめる。
「まあ、つまりそういうことだ。」
「なぜお前まで……!」
「負けたから返す。それがルールだろ。」
「そんなもの、許されるか!」
「まあさ。」
爆竹は一歩近づく。
「俺はこいつらの“意思”を知っちまったからな。」
低く、静かな声。
「知ってるか?昔、小学生のくせに国を壊そうとした6人の話。」
「……その都市伝説がどうした。」
「そいつらが——いる。」
父の視線が、ゆっくりと周囲を見渡す。
「まさか……」
「現実だよ。」
爆竹は笑った。
「国は半壊した。全部、こいつらがやったことだ。」
空気が凍りつく。
「そんな奴らに……私は敵わないというのか……」
「別に大したもんじゃないよ、俺たち。」
悠尋が口を開いた。
「ただ、イカれた国を壊そうとしただけだ。」
「観念するんだな。」
弘明が静かに告げる。
その言葉を最後に——
長かった戦いは、幕を閉じた。
――それから少し後。
「なあ、爆竹くん。」
悠尋が声をかける。
「んー?」
「俺たちのこと、黙っててくれない?」
「隠してんのか?」
「まあ、今はな。」
「……分かった。誰にも言わねえ。」
「助かる。」
そのやり取りの横で、俊音が腕を組む。
「つーか、お前らバラバラに動くなよな。」
「ごめんごめん。」
悠尋が苦笑する。
「まあ結果オーライだし。」
空介も軽く流す。
「ねえ日和。」
琉妃がふと思い出したように言う。
「茶外茶って知ってる?」
「お茶?」
「そう。めっちゃ美味かった。」
「お前ほんと何してたんだよ……」
「まあまあ。」
琉妃はくすっと笑い、弘明を指さす。
「よかったよね。」
「ああ。」
日和も頷く。
「今日は家に帰るよ。」
弘明の言葉に、日菜乃が笑顔で返す。
「うん。ご飯作って待ってる。」
「ありがとう。」
「いい感じにいい感じだな。」
日和がぼそっと言う。
「“いい感じにいい感じ”っていい感じってこと?」
琉妃が茶化して笑う。
その時——
「琉妃さん!」
振り返ると、圭が走ってきていた。
「あれ、さっきのお茶の子だ。」
「今、チャンスですか!?」
琉妃はちらっと日菜乃を見る。
「あー……行っちゃいなよ。」
「分かりました!」
勢いよく駆け出す圭。
「日菜乃さん!好きです!付き合ってください!」
「無理です。」
即答だった。
「じゃあ第二の手段!お兄さんに依頼です!」
「お兄さん!?」
弘明が素で驚く。
「僕、好きな人がいるんです……この悩み、解決してくれませんか?」
「はいはい!ここまで!」
日菜乃が弘明を引っ張る。
「あぁ……」
取り残される圭。
「ありゃりゃ、アドバイス下手だったな。」
琉妃が苦笑する。
「でもまあ——」
日和が視線を向ける。
笑い合う兄妹の姿。
「あの笑顔が見れただけ、よかったのかもな。」
――夕飯時。
「で!」
食卓を囲む三人。
日菜乃がじっと圭を睨む。
「なんであなたがいるの?」
「美味しいですね!手作りご飯!」
「聞いてる?」
「しょうがないじゃないですか!親もいない、家もボロボロ、僕一人じゃ——」
「他にも人いたでしょ。」
「いないもん……」
その時。
「お迎えに参りました。」
「げっ……チャイムなし……」
現れた使用人に、圭はしがみつく。
「嫌だ!」
引っ張られる服。
日菜乃はため息をついた。
「……まあいいです。ご飯くらいは。」
「え?」
「もう作ってるし。一人分くらい増えても変わらない。」
そして弘明をちらり。
「食べ終わったら、送ってあげて。」
「え、俺!?」
「子守じゃなくて送迎。」
「いや俺の気持ちは!?」
使用人は深く一礼した。
「では、よろしくお願いいたします。」
去っていく背中。
「ちょっと待ってよ!」
叫びながらも、弘明はご飯をかき込む。
「……うまいな、これ。」
「えへへ……」
日菜乃が嬉しそうに笑った。
――帰り道。
「それでですね!」
圭が元気よく話し出す。
「依頼があるんです。僕、好きな人がいて——」
「……はあ。」
弘明はため息をつく。
「依頼は受けるよ。」
圭の顔がぱっと明るくなる。
「でもな。」
弘明は真っ直ぐ前を見たまま言う。
「俺はあいつの兄だ。俺が認めないと、お前にはやれない。」
「ってことは……依頼、受けてくれるんですね!?」
「前向きだな……」
苦笑する。
「まあ、何年後になるかは分からないけどな。」
少しだけ柔らかい声になる。
「大切な妹なんだ。分かってくれ。」
夜道に、二人の足音が静かに響いていた。
次回
「杏奈……すまんかったな。
花……置いとくからな。」
風の支配者編 開幕
『手向けの花』




