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LEGEND SPIRIT 〜後に伝説と呼ばれる者たち〜  作者: ゆに


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25話 手向けの花(風の支配者編)

こんにちは。ゆにです。


さ、風の支配者編ですね。

開幕です。

月に一度。

 日和は必ずこの崖へ来る。


 岩肌がむき出しになった断崖絶壁。眼下には深い渓谷が広がり、風が絶えず吹き抜けている。

 ここは――妹が命を落とした場所だった。


 日和は無言で花を取り出し、崖の縁にそっと供える。


「……来たぞ」


 小さく呟く声は、風にさらわれて消えていく。


「そっちで元気にやってるか?」


 返事はない。わかっている。けれど、こうして言葉にしなければ、前に進めない気がした。


「花……置いとくからな」


 震える指先で、花に触れる。

 そのまま両手を重ね、目を閉じる。


「杏奈……すまんかった」


 胸の奥に沈んでいた言葉を、ようやく吐き出す。


 一呼吸。

 そして、ゆっくりと目を開けた。


「……よし。じゃあ、行くからな」


 立ち上がろうとした、その瞬間だった。


 ――背後。


 空気が変わった。

 肌にまとわりつくような、異様な圧。


「なんだ……!」


 振り返る。


 そこに立っていたのは、自分と同じくらいの年頃の少年だった。


 どこにでもいそうな、普通の顔。

 だが、その目だけが――異様に冷たい。


「そろそろさ、血まみれが見たいなあ」


 軽い口調。

 まるで天気の話でもするかのように。


「お前……は……!」


 喉が詰まる。

 見たことがある。その気配、その空気。

 忘れるはずがない。


「あー……でも男の人か」


 少年は興味なさそうに肩をすくめた。


「男の人はいいや。別に興味ないし」


 そう言って、背を向けて歩き出す。


 ――逃がすな。


 そう思ったはずなのに、足が動かない。

 日和は大きく息を吸い込んだ。


「……杏奈」


 震える声。


「俺は……あいつに敵討ちができると思うか?」


 その場に崩れ落ちる。

 腰が抜けていた。


 情けない。

 わかっているのに、体が言うことを聞かない。


「ん?あれ、どうしたの?」


 少年が振り返り、近づいてくる。

 そして、無邪気に手を差し出した。


「具合悪いの?」


 その仕草が、あまりにも普通で――


 だからこそ、吐き気がした。


(違うだろ……)


 心の奥で、何かが叫ぶ。


(やるんだろ……!)


 日和は歯を食いしばる。


(杏奈……お前の敵は――)


「お前が!」


 弾かれたように顔を上げた。


「お前が!俺の妹を殺したんだろ!」


 荒い呼吸。視界が揺れる。


「んー?」


 少年は首を傾げた。


「殺したのかもしれないねー」


 あまりにも軽い返答。


「なんで……そんなに上の空でいられるんだ……!」


「だって別に興味ないんだもん」


 即答だった。


「ただ、気持ちよさを求めるだけ。

過ぎたことはもう知らない」


 その言葉に、背筋が冷える。


「サイコパスやろうじゃねーか……」


「っていうか君、誰?」


 少年は無邪気に笑った。


「僕が知ってる人なら、妹ちゃん思い出せるかもよ?」


「覚えてねえとは言わせねえぞ」


「だから誰だって」


 日和は深く息を吸い込む。


 そして――叫んだ。


「日田日和!お前が殺した、日田杏奈の兄だ!」


 一瞬の静寂。


 そして、少年は――


 にこりと笑った。


「うん!知らない!」


「……っ!」


 怒りが、頭を真っ白にする。

 少年の視線が、足元へ落ちた。


「あのさ君。足、ガクガクだよ?」


 くすくすと笑う。


「さっき腰抜かしたのも、僕見てビビったのかな?」

「ビビってねえし……!」

「ビビるならさ、おとなしくしてなよ」

「ビビってねえって言ってんだよ!!」


 叫びが、渓谷に反響する。


 次の瞬間――剣を振るった。


 だが。


「わ、なにいきなり」


 軽く避けられる。

 まるで最初から見えていたかのように。


「敵討ちだ!俺の妹の!」

「あのね、僕男には興味ないのよ」

「知るか!」


 怒号が飛ぶ。


「お前はあの時、俺も殺そうとした!」

「だから知らないってば」


 飄々とした態度。


 日和は歯を食いしばる。


「……お前の名前はなんだ」


 少年は少しだけ考え込んだ。


「名前か……忘れちゃったんだよね」

「嘘つくな」

「本当だよ」


 そして、軽く笑う。


「だからさ、代わりにウィンディベルって呼んでよ」


 風が吹いた。

 その名を運ぶように。


「ウィンディベル……」


 日和は低く呟く。


「お前が俺の妹を殺した。それだけは忘れねえ」

「もう何人も殺してるしねー」


 あっけらかんとした声。


「誰が誰だか覚えてないよ」

「……何人……!」


 拳が震える。


「どれだけ人を傷つければ気が済むんだ!」

「知らないなあ」


 ウィンディベルは空を見上げた。


「僕は僕の好きに生きるだけ。殺したくなったら殺す。それだけ」


 視線が戻る。


「何にも縛られない」

「なんてやつだ……!」


 日和の剣が、わずかに下がる。


「君もやってみればいいよ」


 ウィンディベルが、楽しそうに言った。


「血を流してる姿を見るのってさ――すっごく興奮するんだ」


 ――ぞわり。


 全身の血が冷える。


「……バケモンかよ」

「しつこいとさ、男でも容赦しないよ?」


 声の温度が、一瞬だけ下がる。


「僕、戸惑いなく殺せるから」

「……ああそうかよ」


 日和は剣を握り直した。


「なら今は、俺だけ見ろ」

「足震えてるのに?」


 くすっと笑う。


「まあいいや。それじゃあ元気でね」


 背を向け、歩き出す。


 その腕を――掴んだ。


「行かせねえよ」

「……触るなよ。気持ち悪い」


 冷たい声。


「気持ち悪いのはお前だ、人殺し」


 日和は睨みつける。


「お前だけは、俺が仕留める」

「いい加減にしてよ!」


 腕を振り払われる。

 風が強く吹き荒れた。


「もう本当に死にたいの?」

「殺してみろよ」


 日和は笑った。


「妹みたいに崖から突き落としてさ」


 一歩、踏み出す。


「舐めんなよ。俺がお前を殺す」

「できないよ」


 即答。


「君は僕より弱い」

「……じゃあ戦えよ」


 踏み込み、斬る。


 だが――


 やはり当たらない。


「はぁ……」


 ウィンディベルが、ため息をついた。


 そして。


「仕方ないな」


 ゆっくりと振り返る。


 その目に、初めて“興味”が宿る。


「少しだけ、遊んであげるよ」


 風が唸る。


 崖の上で、二人の影が対峙した。

ユーフォの映画見たいです。


次回 『風の恐怖』

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