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言い争い、そして決裂。

「お帰りなさい、アーロン!」


 部屋に入ると、いきなりケイティが飛びついてきた。


「ケイティ……、ちよっと、離れてくれ」


 押しのけようとするが、胴に両腕を回してしっかり抱きついたまま離れない。


「いやよ。久しぶりの再会なのよ? 貴方が帰って来るのを今か今かとずっと待っていた私に酷すぎるわ」


 唇を尖らせむくれて見せるケイティに、アーロンは言葉を失う。


「ねえ、お義母様が亡くなったのだから、私はもう大丈夫なのよね?」


「……え」


「だーかーらー。私たち、元通りになれるんでしょう?」


「元通り……って?」


「ねえ、そろそろ狩猟のシーズンよね。今年はリントン侯爵のタウンハウスの狩猟大会へ行きましょうよ。新しい狩猟服を揃えましょう。ああ。その前にジェイクを牢から出してあげ──」


「ちょっと待ってくれケイティ!」


 大声で遮ると、ケイティは驚いて両手を離した。


「君はいったい何を言っているんだ。母上が亡くなったから、元通りになれる? 狩猟大会へ連れて行け? 正気か君は!」


 アーロンは混乱する。

 領地では誰もがグィネスの死を悼んでいた。

 それがどうだ。

 祝杯もあげかねないケイティの様子に、憤りを感じた。

 

「な、なによ。いったいどうしたのよ。正気かって、こっちが聞きたいわ。急にどうしたのよアーロン」


「急にとは、いったい何のことだ」


「だってあなた、散々家族の悪口を言っていたじゃない。母も姉もいつまでもああしろこうしろと口うるさくて、領主扱いしないって。鬱陶しいから早く消えて欲しいって言っていたくせに──」


「それはその場の勢いで言っただけで、本気なわけないだろう。どこの世界に本気で自分の母親の死を願う子がいると言う──」


「何よ。なんなのよ、あんた。急に分別臭い世間知らずの坊ちゃんみたいなこと言ってるんじゃないわよ」


 表情を変えたケイティはアーロンに詰め寄り、言葉遣いもがらりと変わっていく。


「ねえ、私は貴方といったい何年一緒にいたと思うの? ずっと、ずーっと貴方はブルーノとフィリスの悪口を言っていたじゃない。家を牛耳ってるクソババアなんか早く死んで欲しいって、三人の姉もフィリスも父にいっそのこと殺されてしまえば良かったんだって、邪魔なやつらがのさばってるせいで俺は貧乏くじばかりだって。あいつらのせいで好きに金が使えないっていっつも嘆いてたし、あのガキも生まれた時に床に叩きつければよかったとも言ったわよね? それが何? 母親の棺桶を拝んだくらいで、急に心を入れ替えましたって、何も悪いことをしていませんって、何をいまさら」


「そんなこと、言っていない! そんな残酷なことを」


 クソババアってそんな汚い言葉を自分が言うはずがない。

 あのガキとは、ハロルドなのか。

 ハロルドに贈る玩具を一緒に選んで笑っていた記憶が一瞬にして消えていく。

 三人で家族みたいに笑いあっていたあの頃は、いったい何だったんだ。

 顔色を変え、小刻みに頭を振るアーロンを、ケイティは鼻で笑った。


「言ったわよ。そりゃあ、多少酒が入っていたかもしれないけれど、こっちが聞き飽きて聞き流すくらい言っていたわよ。それなのにお望みどおりにお母上様が亡くなった途端、私は品行方正な伯爵さまでございますって、ずいぶん変わり身が早すぎない?」


「やめろ、やめてくれ……ケイティ」


「ふざけんじゃないわよ。あんたが私をこっちに引き込んだのよ。若くて綺麗で大切な時間を私はあんたに捧げたの! それなのに、汚いことや悪いことは全部私に押し付けて追い出して、何もなかったことにするつもり? そりゃ、囲われの身分で浮気して子どもを産んで、詐欺だか何だか罪を付けられて閉じ込められている準男爵令嬢だもの、伯爵さまが捨てようが何しようがたいして評判はおちないわよね」


「ケイティ、やめるんだ」


「でもね。今更どんなに清廉潔白ぶったって、皆の記憶に残ってんのよ、あんたの行状。みんな知っているわよ、あんたの父親を閉じ込めていた娼館に、あんた自身が自ら閉じこもって酒浸りで女を買っていい御身分三昧だったことをね! どんな賢夫人から生まれても、結局こうなるんだってみんな笑ってわよ!」


「黙れ!」


 アーロンはケイティを殴った。

 反動で床に崩れ落ちたケイティは頬を抑えて笑いだす。


「はは……。ははは。ばっかばかしい。私とジェイクを追い出したところで、何も変わんないわ。あんたはあんたよ、アーロン」


「アーロン様!大丈夫ですか?」


 二人の口論に我慢できなくなったのか、扉で待機していた執事たちが扉を開けた。


「……ケイティの手当てを。私は頭を冷やす」


 部屋から去ろうとするアーロンに、ケイティは叫んだ。


「お上品ぶってんじゃないわよ、種無し!」


 一瞬、全てが凍り付いた。


「──追って沙汰をする」


 そのまま振り返ることなくアーロンが歩き出すと、ケイティのけたたましい哄笑が背中に投げつけられた。




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