89話 わくわく上映会
というわけでメタい感じで終わった前回に続きまして。
予告通り上映会のために広場に来たわけだけれども……おーおー、居るわ居るわ、これからどうなるか知らずに集まった気の毒な若者共がわんさか集っていますね!
ざわざわとする若者たち! これからこいつらの前に立って挨拶などをしなきゃねえと思うとちょっと気が滅入るけれど、今後彼らが歩む険しすぎるほど険しい道を考えれば……まあ、些細なもんと思えるから不思議だ。
つーわけで、ティールさんの後について広場に置かれた演説台的な物にのしのしと登り、ずらりと集まったエルフ達の顔を見る。
おーおー、改めて集まっとる集まっとる。
相手がエルフなもんで、真に若いのかどうかはわからんが、若く見えるのが7割、ジッジバッバが3割ほど集まっておる。
俺も実家が田舎なもんだからわかるんだよな。これさ、別に金とるわけじゃないからね。無料でなんかおもしれえもんやるってなるとさ、興味がある奴無い奴問わず、兎に角集まるんだよな。
誰か良く知らんけど歌手なんでしょう? じゃあ見なきゃ! みたいなノリでさ。
ロックフェスを無料でやった時にゃあ、普段聴こうともしねえようなおばちゃんたちがわんさか来ててさ、それはそれは楽しんでてなんだかほっこりしたんだけどもそんな感じだよ。
んで、この国ってば、エルフ以外に見るのがウサ族っつう、なんとも凄まじい僻地なもんだから、俺やミー君、エミル辺りが珍しくて仕方がないらしいんだよな。
モモはまあ、このあたりの森にも妖精さんが居るみたいで、そこまで珍しくはないみたいだけど、ヒューム(っぽい見た目)ってだけで兎に角珍しく見えるらしい。
その上、エミルやミー君、そんで俺もなんかマナが特殊らしいんだよね。
エミルは大精霊だし、ミー君は女神さまだからわかるけど、俺ってそこまで変なのかね? まあ、異世界人だからそうなのかもしれんが、そんな理由で珍しい連中がなんかするらしいってんで、広場は満員御礼。
なんだか緊張しておなかが痛くなってきたけど、ここまで来たらやりきるしかねえな。
スゥっと深呼吸をして覚悟を決めると、それに気づいたのか、ティールさんがニっと笑って声を張り上げた。
「よーし! お前ら今日は良く集まってくれたなあ!」
ざわついていた広場がしんっと静まり返り、視線が一気に集中する。
が、静かだったのは一瞬の事で、間もなくわあっと大きな歓声が沸き上がった。
「お嬢様だ」「ばが! 姫様ってよべや!」「姫っつうと怒るんだよ、あの姫」
「じゃあティール様だ!」「ティール様!」「ティール様!」「ティール様!」
すげえすげえ。こんなゴリ……蛮……いやいや。ティールさんはやっぱり貴い血統の娘さんなんだなあと改めて思い知らされましたね。いやいやマジで。
けれど本人はそれを嫌がってる感じなのかな? 広場の声を拾った感じでは姫呼びやらお嬢呼びやらを辞め、皆一斉にティール様コールをしているようだ。
「あーあー! うるせえうるせえ! 今日の俺はおまけだ! 主役はこっちのパっとしねえ男だ! おい、ナツ! 挨拶しろ!」
急に振られた? 急や!
急だけれども、こうなるのだろうと先読みはしていたからな! 心の準備はバッチリだ。
深呼吸をまたひとつ。うん、落ち着いた。
おうおう、エルフ共め、俺がどういう存在なのか見極めようとしてやがるな?
セオリー通りなら、お偉いさんから紹介されたのだから、それなりに畏まった感じのご挨拶をするべきなのだが、今日の目的と、俺を紹介した相手がゴリラであることを考慮し――? ティールさんが俺の肩をガンガンと殴っている……まさか心を読まれたか?
――まあいい。とにかく、ティールさんのノリに合わせてブチかましてやるぜ!
「俺の名前はナツ。冒険者パーティ『掃除屋』の代表にして魔刀 紅雀の使い手だ」
背中に背負っている鞘からスラリと紅雀を抜き、天に向けて掲げると会場から感嘆の声があふれ出た。
知ってるんだぜ? エルフの若者共が読んでいる本、結構な確率でラノベめいた冒険譚があるって事をな。ちゃんとリサーチは済ませてんだ。
大分嘘が多い内容――と言うか、まんまラノベのファンタジー物みたいな内容なので、現実とは大いに異なるのだが……密かに憧れを持つ若者が居る事に調べていて気づいたのだ。
牧歌的な顔して読書してるからさあ……すっかり騙されかけていたけれど、根っこの部分じゃ蛮族が燻ってやがるんだよなあ、この世界のエルフ達。もうやんなっちゃう。
これならばより今回のミッションはやりやすかろう、そう考えた俺は好きな奴が好きそうな演出をかましたのだが、会場の様子を見るに大成功。目をキラキラさせて見つめる若者の多い事よ。
「おお……なんだがよくわがんねえけど凄そうだ……」
「随分となげえ剣だな?」「雀にしてはごっついな!」「スズメ? かわいらしい名前だなあ」「スズメって田んぼに居るちゅんちゅんなく奴だろ」「なんでスズメなんてつけちまったんだ! 俺なら赤キ閃光ノ剣とかつけちゃうのに……」
そこに食いつくなよ! スズメだけとんなよ! そこだけ取ったら確かにかわいいだろ! つーか邪気眼出すな! つーかなんで『アンタレス』ってルビつけやがったんだ! 翻訳先生よお!
あーーーもう、まあいい、続きだ続き!
「今日俺がここに呼ばれたのは他でもない。ナール王国はマティウス領、メルフの街でギルドマスターを任せられているティール様からの依頼により、エルフの諸君に冒険者という者が普段どの様な活動をしているのか知ってもらうためである!」
と、言われてもピンと来ねえよな。ほーら、案の定『知ってもらうつったって、どうすんだべ?』なんて声がチラホラと上がっているぞ。
疑問が疑問を呼び、それに好奇心も加わってざわめきが大きくなってきた。
いいぞ、いいぞ! いい具合に会場があったまってきたぜ。
俺が今立っている演台の裏には2階建ての立派な米問屋がある。そこのオヤジと事前に交渉し、少しの間建物を借りる約束になっているのだが、使うのはその中ではない。
現在、頼れる相棒ミー君は米問屋の屋根から俺の合図を待っている……うむ、今こそその時であろう。
『ミー君、次の説明でやってくれ。タイミングは俺が手を上げた瞬間だ』
『おっけー! まっかせておいてよ!』
背後の屋根の上なので姿は見えないが、どんと胸を叩いた様子が頭に浮かぶぜ。
「では! ご覧いた……「うおおおお! 何か幕が下りたぞ!」「白い布だ!」「なんだなんだ! なにが始まったぞ!」
ミー君!? 手を上げたタイミングでって言ったよね? なんでもう幕を下ろしちゃったの?
『ごめんナツ君……では! の声にびっくりして手を放しちゃったよ……』
『ミー君……君って奴ぁ……まあいいや、降りてきて手伝って』
『うん、ごめんねナツ君。今日一番の見せ場だったよね?』
『いや、いいんだ。見どころはこれからだしね』
なんともしまらない感じになってしまったが、咳ばらいをひとつ。
そして、改めて声を張り上げる。
「ご覧いただいているのは白い布だ! だが、これはただの白い布じゃあないぞ。今からダンジョンにて発掘された古の魔導具を使い、我々の冒険者活動を皆に見てもらう!」
一体何を言っているんだこいつはと言う困ったような視線と、古の魔導具だって! スゲエ! と言うきらきらした視線……様々な視線が白い布――スクリーンに吸い込まれていく。
会場の後方に控えていたエミルに手を振って合図を送ると、こくりと頷き――上映が始まった。
上映に使用しているのは勿論例のノートPCと……フワである。
言い間違えでも誤字でもない、フワである。お掃除ロボットのフワである……!
いやあ、古代文明意味わかんねえよ。
いつだったかな? モモの驚いた声に振り向いてみたら、フワが何かを空間に投影してたんだよな。
何じゃその機能は! と、驚きながら見てみると、どうやらフワのセッティングメニューのようで、そこから様々な設定をいじくれる様な感じでさ、うっわ未来かよ! いや過去か! ややこしいな! って一人頭を抱えたんだが、まあそれはどうでもいい。
問題はフワに搭載されていた謎の無駄機能。
なんとPCと無線接続することにより、空間投影プロジェクターとして機能するのだ。
なんでお掃除ロボットにそんなもんつけたんだ? 旧文明人ばっかじゃねえの? なんて思ったけど、地球にもタブレットが埋め込まれたような冷蔵庫やレンジがあったりしたし、マイナスイオン発生機がついたラジオとかあったしさ……この世界の家電業界も大変だったのねと納得したんだけど……ってそれもどうでもいいな。
んでまあ、その謎機能を使って休み中は映画やアニメやと皆で堪能していたわけなんだけれど、それが今回役に立っているわけですよ。
投影するのは謎の古代技術で空間上なのだけれども、やっぱスクリーンが無いと綺麗に見えませんのでね。見やすくするという役割のため、でかい布を米問屋さんの前にドーンとぶら下げているわけなんです。
さて、突如として始まった上映会。会場の様子は――と見てみれば、皆ぽかんと口を開けて驚いている。
そうだろう、そうだろう。びっくりするよな! テレビなんてねえもんな! この世界!
けれど、ファンタジー世界故の適応力。間もなく「すっげえ魔導具だな」と、それぞれが何かを納得し、改めて映像の内容に気分を切り替えているようだった。
まるで魔法の様だ! ではなくてマジで魔法だからな。
魔術という物が存在し、それを使った魔導具という物がある世界故に『そういう道具もあるのだろう』と納得しやすいのであろう。
間もなく驚きの矛先は内容に向かい、森の中でかっちょよく魔物を狩る我々の姿に感嘆の声が上がり始めた。
「あれって……うちの敷物にしてる虎じゃねえが? 生きでっと、あんなにおっがねえんだなあ……」
「それを殴り飛ばすティール様……やべえよやべえよ」
「やべえのはナツとかいう冒険者もだな……なんだよあの剣! 小鬼がはじけ飛んだぞ、おっかねえ!」
「本と違って……リアルは生々しいもんだなあ」
画面に映っていたのは、俺がうっかりゴブの奴を破裂させてしまったシーンだな。
言葉で表現するのも憚れるのだが、まるでアスファルトに叩きつけた水風船のようにスッパァン! と、派手に破裂したスプラッタシーンなのだが、エミル先生が上手く編集し、そこまでグロくないように、それでいて派手な感じにされている。
その後も氷の魔術でヒッグ・ホッグ(いのししくん)を凍結させるミー君や、ツルでラウベーラ(くまさん)を縛り上げるモモ、そして謎の光を放ちまくって軽やかにキランビ(はちさん)の群れを撃ち落とすエミルの姿が流された。
次々と派手な戦闘シーンが流されるものだから、娯楽に飢えてるエルフ共はもう、大熱狂! やれモモがかわいいだの、エミルがかわいいだの、ミー君がかわいいだの、ティール様こええだの……お前ら女の子だけじゃなくて俺にも反応せんかーい! って思ったけど、まあこれはこれでいいのだ。
今回の真の目的は……いや俺『真の目的』言い過ぎだな。
兎に角、今日の目的はこの動画を見て冒険者の戦闘シーンを見て知ってもらう所ではない。その先が控えているのだ。
動画が終わり、興奮冷めやらぬ様子であれやこれやと語る群衆。
ニヤリと笑みを浮かべ、確かな手ごたえを感じながら演台に上り、俺は再び大声を張り上げた。
「どうだったかな? 皆が俺達、冒険者の戦闘を見て何を感じたかはわからない。ある者は興奮し、またある者はその力に畏れ慄いたことだろう!」
そうだそうだと興奮するエルフ、何か感じ入るように頷くエルフ。
そして、あふれ出す感情を抑えきれないのか、エア武器を手に素振りをしているエルフもいた。
ククク……わかる、わかるぞ。かっちょよくて強い主人公が暴れる映画を見た後ってさあ……自分もその主人公になったかのような気分になって盛り上がっちまうんだ。
そう、みんな主人公になりたいのさ。
だからこのセリフはめっちゃ――効く!
「よく聞け! 今見た力、それは誰にでも可能性のある力だ!
俺達がこの国に来た理由、それはお前たちを英雄に育て上げるためだ!
嘘だと思うなら今すぐ新造された冒険者ギルドに行ってみろ!
そこでは生まれ変わったクソジジイ共が、今見た俺達同様の動きでやりあってる筈だ! 我こそはと言う者よ! 我々冒険者は共に戦う仲間をいつでも待っている!
我こそはと思う者よ! 思うだけではなく、立ち上がって剣を弓を杖を取れ!
若者たちよ! 諸君の未来が眩く輝く時が来たのだ!」
歓声に沸くエルフ達。
興奮冷めやらぬまま、濁流のようにギルドに雪崩れ込んだ若きエルフ達を見て、ジジイ共は舌なめずりをしていたらしいが……まあ、俺には関係のない事だろう。
若き英雄たちのご健勝をお祈りいたします。




