90話 素直な連中はまるでスポンジのように
『我こそはと言う者よ! 我々冒険者は共に戦う仲間をいつでも待っている!』
「おい! やめて差し上げろ! 今にも泣きそうな俺がいるんですよ!」
「ええー? いいじゃないか、ナツ君。この時のナツ君、凄くかっこよかったよ? ねえ、エミルちゃん」
「うむ。あの堂々とした演説、まるで戦場で軍を鼓舞する将軍のようであった。ナツ殿はやはり上に立つ人物であるなと打ち震えたわ」
つらい。ほんとうにつらい。
あの日、場に飲まれたのはエルフだけじゃなくて俺もなんだよなあ……。
なんつうか、サクッと簡単な言葉で丸め込んでギルド送りにするつもりが……自分で何を言ったのか覚えていないレベルの熱く痛々しい演説をしちゃって……。
それをミー君達が妙に気に入っちゃってさあ……あれから一ヶ月は経つっつうのに、毎日ちょいちょい再生してやがるんだよ。
フワから投影されてんだぞ? いやでも目に入るし音だってあるじゃん? めっちゃ聞こえんだよ! ただでさえ自分の声や映像を聞いたり見たりするのってキッツいのに、あの勘違いしたあんちゃん感溢れる映像を昼夜問わずゲリラ放映されるんだ。
俺のHPはとっくに0だし、何ならマイナス突き破って蘇生すらするレベルだぜ。
さて、俺の事は良いんだ。どうでもいい、もう忘れよう! はい! この話終わり!
ほんでひと月ばかり経過して驚いたのは新人たちの成長速度だ。
プレゼンが終わった後、冒険者に俺はなる! と、名乗りを上げた若者たちを集めて例の加護セットをかけてやったんだが……(これの時も特にどういう理屈で付与されるのか質問をされなかったので、これ幸いと流しておいた)
実際の所を言わせてもらえれば、俺たちは普通の冒険者がどれくらい強いのかわからんので、ティールさんが漏らしてた言葉を聞いて驚いた感じなのだけれども、曰く――
『やべえだろ。10日だぞ、10日。たった10日であのもやし共が使えるレベルに育ってるじゃねえか』
あ、もやしってこの世界にもあるんですねと、どうでもいい事に関心をしかけていたが、それはティールさんの勢いが許してくれなかった。
『ランクで言えばカッパー中堅。中にはシルバーにしても申し分ない奴もいる。普通な、ここまで来るのに早くても一ヶ月、平均値で言えば三ヶ月はかかる。
シルバーとなりゃあ早くても半年だ。それが10日だぞ? ジジイ共を見てまさかな、でもジジイ共だからなと思っていたが……素人にもこんだけ効くとはスゲエってもんじゃねえわ』
もう、大興奮です。
近頃魔物に対抗できる冒険者が減っていると嘆いていましたからな。
それに、どれだけ強い冒険者であっても対抗できない魔物がウジャウジャいるとも。
大抵、この手の世界を舞台とした物語に登場する上位冒険者っつうのはさ、どんな魔物であってもなんとかかんとか倒してしまえるものなんだけれども、この世界においてはそうじゃなかった。
強い魔物は手を出してはいけない魔物。
何をやっても人が敵う相手ではない存在。
過去に何度も挑んだ無謀な連中が居て、それらは総じて帰ることはなかった。
それが積み重なって現代の冒険者における安全第一思考が強まっていったと。
んで、その強い魔物っつうのがまた……魔王でも、魔王軍幹部でもなく。
ヤベエ魔物がひしめく何故か主人公が最初に降り立ちがちな『古の森』とか『魔の森』なんて呼ばれるような辺境に居るわけでもなく。
実はそこらじゅうのダンジョンや湖、森の深部などに普通に生息しているらしい。
レア種とか上位個体とか、変異種なんてもんじゃあなく、居る所に行けばもう種として普通にいて、普通に繁殖しているらしいのだ。
ヒューおっかないね!
で、当然このユグドラールにも普通にそんなのが居るエリアがあるらしいのだが……最近のジジイ共はその魔物を狩って帰ってくるらしい。
昔の冒険者は無謀なクソったれ共ばかりだ、そういったのはティールさんだったか。
トゥールさん(ジジイ)達はそんなクソったれ共なので、特に俺やティールさんに何か告げることなくフラりと腕試しに向かい、満面の笑顔でヤベエとされる魔物を背負って帰ってきたわけだ。
そん時のティールさん……いや、それよりもお母さん――ファラさんのキレっぷりといったら。たまたまお屋敷に顔を出しに行ってる時に凱旋しやがったもんだから、ガン切れシーンを目撃することになっちまいましてね。
それがもうこええのなんの。エミルなんて暫くの間震えが止まらなかったんだから。
何が一番怖かったって、まるでマミさんの様な笑みを浮かべたファラさんが俺のとこに来てさ、こういったんだよ。
「ナツ君? ジジイ達に与えて下さっだと言う力、私にもつげでけろ?」
ああ、これ鍛える気だなと。鍛えてジジイ共をぶん殴る気満々ですねと。
そう思ったけれど、流石に口には出せんわな。
そりゃもう、その場でミー君にお願いしてさ、加護を付与してもらったね。
ああ、ジジイ共のご健勝はお祈りしなかったとも。勝手にやられてろ! ばーか!
って、話がそれまくった。
つまり、元々強いジジイ共くらいになるとさ、ミー君の加護によって強力な魔物に対抗できるようになるわけなんだ。
つうか、これって考え方が逆だよな。
ミー君の先任女神が飛んだ事により、様々な世界のシステムが失われちまったわけで。
それで弱体化しちまった人類ではある一定のレベルより上の魔物に太刀打ちできなくなっちまったと。
それが今こうして、限定的ではあるけれどシステムのいくつかが復活し、人類が力を取り戻した結果、かつての戦闘レベルに近い状態まで戻った。
かつては駆け出しでもかれていた様な魔物、しかし現代ではベテランパーティが組まねば倒せないとされてしまうようになっていた魔物を元のように狩れるようになった。
世界が正しい形に、元あった形に向かって戻り始めた第一歩と言えるのではなかろうか。
なんだろうな、あんま深く考えないでさ、ミー君の加護を集める事だけ考えて行動していたけれど、結果オーライじゃねえか。
そんな事を知ってか知らずか、最近のミー君はニコニコとご機嫌だ。
戦闘指南としてジジイ共が張り切って若者を鍛えているため、元々その役目を担うはずだった俺が暇でね。
錬金・調合指南のエミル・モモ組と別れ、ミー君と俺は二人で採取指南にまわっているわけなんだ。
自分で言うのも恥ずかしいんだが……ミー君は俺と二人で――受講者の若者たちは居るけれど――仕事に出るのが嬉しくて嬉しくて仕方がないらしい。
そんな風に見えるとか、俺の勘違いであるってんならアレだけど、こういうのをハッキリ言っちゃうのがミー君だからな。
「えへへ、私ね。エミルちゃんやモモちゃんと一緒に依頼に行くのも好きだけどさ、こうしてナツ君と二人だけでお仕事するの凄く好きだよ。だって、なんだか独り占めしてるみたいなんだもん」
なんてポロっと言っちゃうんだ。
言った後、顔を赤くして呻くあたり、ミー君らしいなと微笑ましく思ったけれど、そんな事を面と向かって言われた俺はもっと顔が熱くなったわ。対抗スキルでも対抗しきれないレベルで顔が焼かれる、そんな勢いだったね。
だもんで、エルフの若造共から『爆発すればいいのに』なんて何か懐かしい煽りを受けちゃったりしてさ。ああ、俺もこっち側に来れたんだなあ……ククク、早く来いよ、こっち側に……俺はいつでもお前らが来るのを待ってるぜえ……?
なんてドヤったりしたけど、実際の所は小学校低学年の男女の様な清い以前のやりとりしかしてねえので、余り上から見られた事じゃあないんだよな。
って、そんな事はまあ、別にいいんだ。
エルフの連中がスゲエのか、加護の効果がヤベエのか、その両方なのかはわからんが、兎に角20日も経つとすっかり立派な冒険者達ができあがりましてな。
ひと月経つ現在では他の街の冒険者と肩を並べる――いや、それらが敵わぬ程の腕前を持つ冒険者たちが養殖されてしまったわけですわ……。
まるでこれまでギルドが築き上げた物がぶち壊されるような状況じゃん? 本部から出向してきているらしいアヤさんはどう思ってるのかなって怖かったんだけど、ギルドで顔を合わせた際にちらっと尋ねてみれば――
「ナツ君、今回の件は英断でした。一度に広めるのではなく、まずはユグドラールから。
その判断は非常に好ましく思います。今後この世界でどのようにこれを運用していくか、貴方もミューラ様もお考えがあるのでしょうが、ひとまずここは本部預かりにさせていただけませんか?」
――と。
本部預かり……、つまりは一度ギルドに話を持っていって相談するからそれまで要らん事しないでね? みたいな? つーか本部に話しちゃうけどいいよね? って暗に言ってるよねこれ。
そして――
「今回局所的に解放されたスキルシステムとレベルシステム、そしてステータスシステムはこの世界の人類達がその生活を一変させる大きな存在です。
しかし、これをただいたずらに広めてしまえば混乱が起きることは必至。
幸いな事にここはそう簡単に来れるような場所にはありませんし、エルフ達も今のところは外に出ようとはしないでしょう。
当分の間は、ロッパー商会が素材の運搬を請負い、責任をもって本部まで持ち込み売却しますので、依頼や討伐報酬は十分賄えると思います。
まずはここをテストケースとして本部にレポートを報告、世界に与える影響を考慮したのち、段階的に開放していく――私はその様に考えていますが、如何でしょうか、ナツ君、ミューラ様」
俺の意見を言わせてもらえば、ぶっちゃけこの案件は考えるのがメンドクセエ……と言うか、よくよく考えたら世界中大混乱するよね? どうすれば穏やかに事が進むんだろう? と、頭を痛めて居る案件だったので、そう言って貰えると――丸投げしていいぞって言って下さるのは非常に楽と言うかなんというか……。
俺としてはそんな感じなので、ミー君次第だけど、どうかしらん……なんてチラリと視線を送って反応を見てみると。
「そうだね。そのあたりの調整を詳しい人にやって貰えるんなら私も助かるよ。
世界をあるべき姿に戻す――そう考えれば正しい事をやっているように思えるけどさ、大きく変わるって大変な事だもん。良い事だけじゃなくて悪い事だって起きるよね?
私たちもね、そう思って少しずつ範囲を広げていこうと思ってたんだけど、2人だけじゃ難しいなって思ってたんだ。
だからさ、私はアヤさん達にお手伝いをして貰えるの、とっても嬉しいな」
にっこり笑ってアヤさんを見るミー君。
どうやら俺と同意見の様だね。なんだか話が大事になってきたけれど、我々の目的が大きく前進するいい切っ掛けになるよなあ。
「あ、そうだ。なんだかんだでさ、言えてなかったけれど、実は私達――」
ミー君がそう言えばと言った顔をして、ここがタイミング的にばっちりじゃんとばかりにもはや恒例のカミングアウトタイムに入ろうとするすると……
シーっと、人差し指を立て、にっこり笑って首をウンと一度振るアヤさん。
言わなくてもわかっていると、いう必要はないと。なんだかとっても思わせぶりな笑顔である。
アヤさん……あんた一体何者だ……って思ったけど、マミさんのお母さんってのを考慮すると何者でも驚かねえぞ……。




