88話 ジジイは喜び駆けずり回り、ナツは森で準備をする
さて、のんきな噺家ごっこはこの辺にしておいて……話は若者からジジイ共に戻る。
疲労困憊でぐったりとする俺とミー君を甲斐甲斐しく世話してくれているのはエミルだ。
この国に来てからという物、なーんか妙に借りてきた猫のようになっていて、存在感が希薄になっていたんだけれども、ここに来て大いに役立ってくれている。
「ほら……体力回復ポーションだぞ……うむ、ゆっくり飲むのだ、ミー殿」
「うう……すまないねえ、エミルちゃん……」
「いいのだ。我がエルフ共に気圧されておらねばこの様な事にはせんかったのだが……」
俺もぐったりしているが、ミー君の疲労が増してヤバイ。肉体的疲労と言うよりは、精神的にやられたようなものなのだが。
それもこれも、あのジジイ共が悪いのだ。
その場から動くなつってんのに、スキルやらステータスやらを付与するといった瞬間、わーーっとミー君に駆け寄りやがって。
やれ、俺が先だ! だの、抜け駆けすんな! だの。
『まとめて皆同時にやるから動くな!』
つっても聞かねえ。暴徒化した民衆ってやつ? なんかそんな感じでさあ……。
マジで蛮族じゃねえかよ、いや動物園か? 動物園のゴリラさんコーナーか?
いや待てそれじゃあまりにもゴリラさんに失礼だ。ゴリラさんって森の賢者なんだぞ? ジジイ共にはない知性ってものを持ってんだ。
あのジジイ共はゴリラ以下の蛮族だぜ……っ!
何とか俺が護りぬけたから妙な事にはならなかったものの、鼻息荒いおっさん共に群がられたミー君はすっかりおっさんオーラにあてられてしまったのだ。
「我はマナが見えるじゃろう? エルフ共のマナは妙に眩しくての。ただでさえ目に悪いというのに、興奮したクソジジイ共のマナと来たら目を開けてられんかったのだよ。
ナツ殿達を何とか助けようと思ったのだが……手近なモモを救うので精いっぱいだった。本当にすまぬ」
「いや、気にすんなエミル。ミー君は無事じゃあねえが、ギリセーフだったし……モモを護ってくれただけで充分だ。よくやったよ」
「ナツ殿……」
「うんうん! エミルえらい! モモつぶされそうになったからな! じいじたちは後でおしおきだ!」
でもミー君は凄かった。あんな状況だっつうのに、きちんと加護を与えてさあ……。
俺がミー君なら岩戸に隠れてこもっちゃうわ。ATフィールド全開案件だったもんあれ。
え? その問題のジジイ共はどうしたって? そりゃあれだよ、玩具貰った子供はどうする? そういうこったよ、ジッジ共、仲良く演習場に飛び出してったよ! ああ、もちろんティールさんもな!
ジッジとティールさん達は、そりゃもうニッコニコと上機嫌でさ、互いにステータスを見せ合いっこしてたと思ったら『よっしゃスキルあげんぞ!』『『『おおお!!!』』』なんて雄たけびを上げて演習場に向かったよ。
ミー君がスキルやステータスを付与できることについてどう説明しようか、その場の勢いでなんとかするか――と、少し悩みながら行き当たりばったりで行ってみたら、なーんも聞かれねえしよ。どんだけ、どんだけ嬉しかったんだよ。プレゼント開けた子供のリアクションかよ!
おらおら! 今から森でレベルあげっぞ! って言わなかっただけマシだと思いてえが……いやあ、やべーなこれ。あの蛮族共から訓練を受ける若い子達が不憫でならねえ。我々は恐ろしいものの封印を解いてしまったのかもしれないな。
そして五日後――
今日もジジイ共は朝から元気に鍛錬をしたらしく、ウッキウキの表情でやってきたメスゴリ……もとい、ティールさんからスキルがどうだの、かんだのと、嬉し気な報告を受けたのだが。
無邪気に語るティールさんは少しだけかわいらしく見えたのだけれども、内容がこう……
『いやあ、俺に【剣術】が生えるのは疑い様がなかったんだけどよ、まさか体術や隠形ってのまで生えてくれるとはよ! これで盗賊にバレずに近づいてキュッと音を立てずにやれるぜ』
なんて物騒な事をおっしゃるもんだから、やっぱねえなと妙なハーレムフラグはあっさりと立ち消えたのでありました。
「なんか不名誉な事を考えられてるような気がするが……まあ、今日は気分がいいから許してやる」
「ありがたき幸せ」
「うっせ。そんで今日は若いやつらになんか見せんだろ? ここんとこ近所の森に通ってなんかやってたらしいじゃねえか」
今日までの間、我々はただ遊んでいたわけではない。プレゼン用の資料を作るというくそめんどくさい作業を頑張っていたのである。
「まあそうっすね。あ、それで副産物はきちんとお金にもなるんですよね?」
「ああ、心配すんな。その辺はマミとアヤがしっかりとしてらあ。今頃査定係の奴は死んだ目で勉強してるだろうさ」
ニヒヒと笑うティールさんはなんだかとても可愛らし……くはねえよ。悪魔だよあんた。
一体何の話かと言えば、昨日、一昨日と我々は資料撮影のために森までひと狩りしにお出かけしてたんですけどね? まあ、そうすると副産物が出るわけで。捨てるのも勿体ないじゃん? じゃあどうするかって、まあ買い取ってくれるところに持ってくしかないでしょ?
手っ取り早く買い取ってくれる場所――冒険者ギルドは現在開店準備中なわけだけれども、そこはそれ、我々は身内なので便宜を図ってもらえるというか、寧ろ――
『あらあら! ちょっとマミ、凄いわねこの子達! こんなにも教材を取ってきてくれたわよ!』
と、マミさんのお母さん――アヤさんが大喜びで引き取ってくれたわけで。
うむ、もうお分かりだろうが、副産物と言うのは森に生息している魔物達だ。
我々は魔物を討伐する様子を撮影し、冒険者のタマゴ達に見せようと計画をし、その準備のために二日間朝から頑張って森でお仕事をしていたのである。
その際に狩った魔物をどうするか、当初は街のお店に買い取って貰おうと思ったのだけれども、耳長ゴリラに相談してみたところ、
『ああ、んならギルドに卸せよ。アヤの奴が喜ぶだろうし、お前らの貢献度として記録されっからな』
なんて言われてさ、なんでアヤさんが喜ぶんだろうと首を傾げたんだけど、納品してみたら全てわかったね。
査定係として雇われた連中の教材にするのだとアヤさんがにっこり微笑みながら教えてくれ、さらには――
『ねえ、明日も行くのかしら? だったら1頭だけでいいから何か丸ごと持ってきてほしいの。解体係の教材も欲しいのよ』
なんてさわやかな笑顔で言われましてね。
そういう事ならと、翌日はやたらとデカい熊さんがとれましたので、ミー君と二人えっちらおっちらと担いで帰り、納品してやりましたとも。
その時のアヤさんの顔は非常に眩しい程の笑顔で。半面、解体係と査定係の顔と言ったらもう、ダークマターよ。
ジジイ共ならさ、査定は兎も角、すげえ良い笑顔で解体すんだろうけどギルドに雇われてるのもまた若手だからね。
そりゃもう、未経験ってレベルじゃねえわけですよ。魔物なんて見た事無い奴だっているわけですよ。
『ええ……くまさんってこんなにおっがねえツラしてんのが?』
なんてプルプル震えながらいってんの。ああ、方言女子可愛いですねってそうじゃない。
まー、そんな具合で我々の副産物も無事にお金になりそうなので、無駄にならなくてよかったなあと思いました。
めでたしめでたし。
って、終わるところだった……本題はこれからだ。
んでもって、昨日1日頑張って作ったプレゼン用映像をですね、これから広場で流すんですよ。
ああ、びっくりしたね。エミルにまさかこんな才能があったなんて。
遺跡からパク……回収してきた我らのノートPCっぽい端末ちゃんなんだけれども、例の通信アップデートのどさくさに巻き込まれてたみたいで神界通信網に接続可能となってましてな。
ああ、これでスマホからデータ移せるなあって思ったんだけど、メールもクラウドサービスも使えませんやん。結局無理なんかーい! なんて思ってたんだけど、いつの間にか『神界の雲(GodCloud)』なるふざけたルビまでついた怪しげなサイトがブクマされてましてね……。
まあ、そうなんだろうなって思って開いたら、俺が良く知るG〇ogleさんちのCloudそっくりのサイトが出てきましてね。
何より『俺たちの行動が監視されているのでは』と寒気を感じたりしたんですが、あのお姉さんについて何か探るような行動をとれば逆に何かされそうで怖かったので、それは気にしない事にしたんですよ。深淵を覗くものは――ってそうじゃなくて。
ミー君の姉はまあ良くてですな。
そのGクラウド……略すと余計にアレだな――経由でPCにデータを送りましてね? インストールされてた動画編集アプリ――これまた不味い事にUIが知ってる感じだったんだ――でプレゼン用動画を作ろうとしたんだけど……まあ、俺にはそういう才能があんましねえのよ。
ただただ撮った動画を適当に切って繋げてってやってたらさ、後ろで見ていたエミルがもじもじとしているわけ。
トイレかな? って思ったんだけど、それを声に出さなかった俺に拍手を送りたいね。
暫くもじもじとしていたと思ったら、おずおずとした声で言うわけ。
『そのな? ナツ殿……我はその……その、ぱそこんをな? 良く触っておっただろう? だからその……操作に慣れているのでな? ナツ殿の手を煩わせるのではなく……あの、我が……手伝えると思うんだが……だめかの?』
なんて、俯いてスカートをくしゃっと両手で揉みながら、申し訳なさそうにモジモジと言うわけ。めっちゃかわいいですよね、このロリババア。うちの子なんすよ。
ああ、これ自分でやりたくなったんだなって思ったので、面倒だったのもあってさ。
『よし、じゃあこれはエミルの仕事だな! 助かるぜ、目と肩と腰が疲労で爆発四散する寸前だったからな!』
なんて言った時の嬉しそうな顔と言ったら。
まるで俺が爆散するのを喜ばれているようで少し悲しくなったけど、直ぐにそうじゃねえだろうと、作業の席を譲ったわけさ。
その後のエミルと言ったら。
PCの扱いがやたらめったらスゲー人をさ、ウィザードとかっていうじゃん。いやあ、錬金術師であり、魔術師であるエミルですよ。まさにウィザードの名にふさわしい活躍を見せてくれましたね。
なんだろうな、INTがやたら高い感じなのが関係してんのかね。地球でそれなりにPCを触っていた俺よりも巧みに操るんですわ。
さらにそれだけじゃあなくて、動画編集のセンスもすげえの。
動画サイトなんかでさ、妙にプロっぽい動画上げてる人いるじゃん、テレビでまんま流れてそうな奴。
まさにそれよ。
エミルが作り上げた動画はまさにそれ。すげえの。Vの者になれんじゃねえの? つうか顔出ししてそのままYの者としてめっちゃ稼げちゃうんじゃねえのかな。
余りにもすごいもんだからさあ
『どうしてエミルちゃんはそんなことが出来るのかな?』
なんてミー君化しながら質問をしてみたところ、照れているのか、はにかみ顔で
『ああ、我はその、論文を書くのが趣味だからの。これもまた同じ事、読み手にわかりやすい様に構築する如く、見せたい所は目立つように、見せたくはないが省けぬ部分は目立たぬように……何より読み手を飽きさせぬようにテンポ良くを心掛けて作ったのだよ』
と。論文は最後まで読ませることが出来なければ、いくら価値がある内容が書いてあったとしても相手に伝わらないのだと。
なので、多少の工夫を凝らして書かねばいけないのだと。動画も同じであろうと頑張ったのだと、なんでもない顔で言われたわけで。
理屈はわかるんだけど、それを形にできるってのはスゲーよね。
ミー君とモモと『すげえすげえ』『えらいえらい』と褒めちぎったら赤い顔で俯いてさ、プルプルしてんの。かわいいよね、うちのロリババア。見せねえぞ? うちの子だもん!
そんなわけで、ゴリ……あっ、すいません。睨むのやめてもらっていいですか? あ、はい……ティールさんが迎えに来たので、エミルの力作を携え広場に行こうかっていう所なのですが、まあ、なんつうか無駄に長くなったので以下次話ってことで!




