閑話 若者の様子
正しき形のエルフ……で思い出したけれども、この国の若いエルフ達の事を先に語っておくべきだろう。
なんやかんやバタバタとしている我々だけれども、それでも昨日ちょいと街に出る機会はありましてね。散歩がてらにフラーっと本通りを流してみたんですわ。そうすると若いエルフさん達の姿がまあまあ、ちらりほらりと目に入るわけでしてね。
若いつってもエルフは長命種。ティールさんが言う『若い世代』っつうのは、大体が140歳~240歳くらいの連中で、年齢だけ見ればめっちゃ年上の方々だ。
聞くところによれば、エルフは10歳までヒュームと同じように年を取るが、そこから100歳まで殆ど年を取らなくなって、以後平均10年ごとに人の1歳相当の成長をしていくそうな。
なんつうか、雑だよね。元の創造主さん――バックレ女神様の人柄が見えるというかなんというか。長命種の仕様を考えるのが面倒でそう言う適当なあんばいにしたんじゃねえの感が凄いですよね。
ティールさんは220歳くらいっつう事で、雑に換算すれば22歳。ヒュームであれば結構近い年齢てこってす。
そのティールさんの世代もまた、若い世代に入る訳なんですが、見てわかる通りティールさんは異質。何しろ獰猛なジジババ達と気が合うような性格だったものだから、若い連中と気が合わない。幼いうちは平気だったけれど、年頃になるに従ってジジババと野山を駆け巡るのになんだか嫌気がさしてしまって里を飛び出したって言う事らしい。
飛び出した後はあちこちフラフラとめぐり、はじめの内は下界の街を物珍しく見て歩き、それはそれは楽しい日々だったらしいのだけれども、あの人蛮族ですからね。やっぱり本能は抑えられないんだ。
とうとう我慢が出来なくなったティールさんは冒険者となり、結局また野山を駆け巡る生活に。
その際出会ったのがジール・グラムニア、後にカリムのギルドマスターになる例のオッサンですが、当時は竜人族にしては気が弱い小僧だったらしくてね。それがああなっちまうって言うのは……相当鍛えられたんでしょうな。可哀そうなジールさん……。
暫くの間は舎弟のジールさんとあちらこちらと暴れまわっていたらしいのだけれども、国のジジババから話を聞き、放蕩娘を探しにやってきたアヤさんも巻き込み……気づけばSランク冒険者として名を馳せちまって、それが祟ってギルドマスターになっていたと言う事らしいんですが……何歳の時に飛び出したのかまでは聞かなかったというか、年齢に関わる質問は怒られそうなので聞けなかったんですよねえ。
ギルドマスターになってから少しだけ丸くなったティールさんは、アヤさんから『娘の顔見せにユグドラールまで行くので護衛をしてほしい』という明らかに『お前ひとりで守れるだろ?』と言う個人的な依頼を苦笑いで引き受け……それがマミさんとの初対面であり、今日まで続く縁の始まりであり……ティールさんが最後に帰国した日である――と言う事なんですが、エルフの感覚は人よりだいぶのんびりしてるっつうのもあるんですが、偏屈な国に嫌気がさしてるものだからあまり近寄りたくなかった見たいですね。
さて、ティールさんの話はこの辺にしておいて。
本題である若い世代のエルフ達はと言えば。
どこぞの蛮族のように本を一冊書けるような冒険に出るようなことはなく……木陰で物静かに本を読んでいたり、広場で高らかに歌ったり、農作業をしていたり、何か細かい物を作っていたり……こう、牧歌的で物静かな感じなんですよ。
いやね、ふと広場の片隅を見たときにですよ。女の子達がお花畑に座り、お花の冠を作ってかぶせあいっこしてるのを見ちゃったんですよ。
それを見ちゃったらもうたまりません。『百合の花が咲きます。大切にしましょう』の立て札を立てようとしてエミルに止められちゃいましたわ。
――スローライフ。
それを掲げる異世界主人公共は星の数ほど居るが、それが出来ている連中はどれだけいるでしょうか?
スローライフと言いつつも『僕は目立ちたくないのにー』とか『身内以外には厳しい僕です!』とか言いながら強力な力で魔物を叩き伏せて問題解決をしちゃったり、惚れた女のためになし崩し的に仕事をする羽目になって流れに流されるままどっかの領土を貰ってしまったりしてちっともスローじゃ無い感じになってたりする事が多いじゃ無いですか。
その、チート連中がやろうとして出来なかったスローライフが、真のスローライフってやつがここにはあるんですよ。
魔物など間近で見た事が無い無垢な若者達が、日の出と共に起きてのんびりと畑を耕し、それが済んだら木陰でお昼寝をして起きたら歌を歌う。
夕方前にはまた一仕事をして、夕食を食べたら少しの間だけ読書をする。
間もなくやってくる睡魔に身を委ね……ゆっくりと一日を終える。
そんな穏やかな幸せをぶち壊していいのでしょうか?
力を与え、魔物を倒す戦力として鍛え上げてしまって本当に良いのでしょうか……。
そう、考えて少し悩んでしまったんですがね、かわいいゴリラこと、ティールさん曰く。
『あいつらだってよ、本質はエルフなんだよ。ちょっと切っ掛けを与えて揺さぶってやりゃあコロっといくさ。
いいたかねえが、俺だってジジイの狩りについて行ってなかったらアレらと同様、おしとやかに花でも摘んでキャッキャとやってただろうからな』
と、何か身震いをしながら言っていましたけれど、それはそれで見てみたかったというか、さぞかし愛らしかったのだろうなと思います。
そんな事を考えながら温かな目で見つめていたらぶん殴られてしまいましたが、痛く殴らない辺り優しみを感じました。ゴリラに見えてやはり中身は乙女なんでしょう。逆に言えば、乙女に見える子達も心の奥にはゴリラを飼っている……いやはや恐ろしい事に気づいてしまいました。
本質はエルフ……この世界のエルフとはゴリラの事を呼ぶのでしょう。
俺の気持ちとしては、このまま綺麗なエルフに生まれ変わって欲しいのですけれども、それじゃあ世界のためにはならないわけで。
自衛を出来ない種はやがて滅びを迎える事になっちまいますからね。
仕方ない、仕方ないと割り切ってやっていくしかねえなってところで、今回の閑話はおしまいです。
それでは次週『ジジイは喜び駆けずり回り――ナツは森で準備をする』でお会いしましょう。




