87話 恐ろしき説明会
さて、現在我々は例の部屋に通されている。
ああ、例の部屋だ。受付の脇を通って、階段をちょちょっと上り、廊下を少々歩いてまがった先にある例のお部屋。
外観は全くちげえのに、内装はほぼ同じってどういうこった。あまりにもお馴染み過ぎる部屋になんだか安心感すら感じている。
ただ、普段と大きく違う点がある。それは――
「なんだーえ、おめーがどうもきだのが?」
「お館様だげにおもっせえごどはさせねえよ」
「んだんだ。おらだづさもやらせでけろってば」
渋いエルフのオッサンどもがこれでもかとひしめいている……その数、総勢12人!
あまりにも暑苦しいものだからエミルの眉間の皺は深い谷のようになっていて、何が面白いのかモモはゲラゲラ笑いながらオッサンどもの頭上を飛び回っている。
「あはははは! むさくるしいな! おっさんがぎっしりだ! あはははは!」
「こら! モモちゃんだめでしょう! おじさんと呼ばなきゃ!」
そうじゃねえ、そうじゃねえよミー君……呼び方じゃねえよ。ブンブンとお行儀悪く飛び回ってるのをなんとかしてやりなさいな。
「にぎやがな妖精だなあ」
「ほれ、こっつぁ来で座れ。飴っこ食え食え」
「やったあ! おっさん、いいおっさんだな!」
「わははは、めんこい妖精だなあ」
「モモはモモって言うんだぞ! おっさんは何のおっさんなんだ?」
「そうかあ、モモかあ。おっさんはお館様と魔物狩りをするおっさんだぞお」
「おお! おっさんは強いおっさんなんだな!」
何のおっさんなんだ? がツボったのかエミルがプルプルと震えながら机に伏せてしまった。
魔物狩りをするおっさん、ここに居るメンバーとして相応しい人物であるっていうか、そういう者たちをわざわざ集めてくれたのだろうからな。
何故わざわざ戦えるおっさん共を集めたか、それは――
「よーし、おっさん共そろってるな。ではこれより第1回ギルド会議を始める!
今日の議題は今後の活動方針と新たな力についてだ。じゃあ、資料1枚目をめくってくれ――」
ここに集められた暑苦しいイケおじ共、それは今後このギルドにおいて指導者として若い冒険者たちを導いていく存在になる者たちだ。
何故かお館様――ティールのお父さんであるトゥールさんも混じっているが、突っ込むとめんどくさい事になりそうなのであえてスルーをかましている。
外界とほぼ隔絶されたこの国では冒険者ギルドという物が何なのか、そもそも冒険者という物が何なのかを知る者が居ない。
だからまず、後日広場に連行……集めた若者たちにちょっとした物を見てもらい、冒険者に対する憧れを刷り込んだのち、それが冷めぬうちに登録させる。
問題はその後。登録をした所でここの若者たちはまともに戦える状態ではない。
なので戦闘や野営、解体等の訓練をする事になるのだが、流石にそれらを全て我々『掃除屋』が請け負うというのは無理な話だ。
なので、この経験豊かなおっさん達を教官として雇い、若者たちの育成をしてもらう事になっている……らしい。
ただしこのおっさん達が教えられることと言えば採取と討伐任務だけ。護衛依頼やなんやらは、おっさん共には経験が無いため、ある程度他の訓練が進んだ連中に俺達が教える形になる。
それはしょうがない事だし、そういう形であればそこまで我々に掛かる負担は大きく無かろうと気楽に考えている。
そもそもこの国じゃあ本格的な護衛依頼なんて無いだろうからな。
せいぜい森まで野草を摘みに行くのの付き添い――とかそう言う簡単な内容になるんだろうし。
しかし、このおっさん共、目がギラギラとしているというか、妙にウキウキとしているというか……とにかく、全身から嬉しさを滲みださせている。
このおっさん達こそがティールさんが言っていた『頭のかてえジジイ共』なのだと思うけれど、それが何故こうしてギルド会議に超前向きな感じで参加をしているのか?
それは事前に配布したチラシのおかげであった。
『求む指導員! 新たに設立される冒険者ギルドユグドラール支部では、現地の住人を指導員として採用し、若者たちを魔物を狩る戦力として育て上げようと考えている』
まずこの文句。元々若手を育てたくて仕方がなかったおっさん共はこの時点で相当クラクラときたんだと思う。
育てようと思っても、これまでウンと言わなかった若者たちをどうにか引きずり出して、育成の場に立たせてくれるとあっちゃあ、おっさん共も大喜び! 若いもんたちはたまったもんじゃないですな!
ただ、それだけじゃ足りない。何人かのおっさんは張り切って出張ってきたかもしれないが、ここまでぎっしり来ることはなかったと思う。
もう一つの餌、それは――
「でよ、お嬢。チラシにあった新たな力っこっていうのが? それの説明もしでくれんだろうな?」
「あーあー、わかったから立つなっつうの暑苦しい! それはこれからナツが説明すっからさあ」
そう、それこそがこれから俺が説明する……説明? え? 俺がすんの? マジかよ聞いてないんですけど。
「言ってなかったからな。言えばぜってえ嫌がると思って言わなかったんだよ。ほれ、立て立て!」
やっべ、声に出てた。マジかよ俺が説明すんの? 俺だけ? 皆は? と、ミー君の顔を見てみれば『がんばれー』とニコニコしながら応援しているし、エミルは……微笑みながら親指を立てている。モモはおっさんDの膝に座って何かお菓子を齧っているし……まあ、モモにゃどうしようもできねえか。
こうしている間にもおっさん達の視線がビシバシと突き刺さる。早く説明をしないと捻り潰されてしまうなこりゃ。
「はいはい、しょうがないですね! えー、つうわけで、ユグドラールから始まる新たな力について説明させていただきます――」
……
…
俺の説明を聞いたおっさん共は静まり返っている。そりゃそうだ、この世界に革命を起こすような話をしたんだからな。
内容をざっくりまとめると――
①スキルシステムの限定解放
この国の冒険者限定でスキルシステムを解放する。
スキルはこれまでの経験、または今後の鍛錬により発現し、戦闘面だけではなく生産活動においても強力な味方となる。
②レベルシステムの限定解放
この国の冒険者限定でレベルシステムを解放する。
これは戦闘経験によって上昇し、レベルが上がる毎に身体能力の向上が約束される。
はじめは皆等しく1から始まる事となるが、これまでの経験は基礎ステータスとして生きてくるため、未経験者よりは早くレベルが上がる事だろう。
③ステータスシステムの限定解放
この国の冒険者限定でステータスシステムを解放する。
念じる事でステータスの閲覧が出来るようになり、現在のレベルや身体能力、覚えたスキルを確認可能となる。
これは任意で他者に閲覧許可を出すことが可能で、今後はギルドランクの審査等にも役立てられる事となる。
えっへっへ……とうとう実装しちゃった♡ ステータス!
つっても、思ってたのと違うっつうか、俺やミー君だけ別枠だったっつうかで素直に喜べねーんですけどね!
実装後、意気揚々と自分のステータスを見てみたんですよ。それがこれですよ。
名前:ナツヤ・マミヤ 年齢:23(ロック中)
二つ名:リトルオーガ
HP:☆☆☆☆ MP:☆☆☆
STR:☆☆☆☆ DEX:☆☆☆☆★
AGI:☆☆☆ INT:☆☆☆ LUK:☆☆
スキル:【言語翻訳】【鑑定】【修復】【状態異常無効※】【採取】【剣術】【調理】【細工】【目利き】【投擲】
※アルコール、及び乗物等による日常生活由来の体調不良には適応されない。
随分とスキルが増えたねーって、そこじゃねえ。そこじゃねえんすよ……。
ステータス欄がこう、これじゃねえって感じなんですわ。
参考までにミー君を見てみると
名前:ミューラニュール 年齢:■■
二つ名:石像の女の子
HP:☆☆ MP:☆☆☆☆★
STR:☆ DEX:☆
AGI:☆ INT:☆ LUK:☆☆☆☆★★★
スキル:【言語翻訳】【神聖術】【状態異常無効※】【採取】【投擲】【速読】【三半規管強化】
※ナツくんのと同様よ♥
これである。まあ、色々と突っ込みたいところがあるが……とりあえず見てほしいのはスキルだ。まあ、なんだか悲惨な感じになっているけれど、俺のステータスと比較するとわかることがある。
この星の数は、基礎値を☆1として、これまでリソースの余りで増やした分がそのまんま表示されているに過ぎない。
今までのように陽気なノリで口頭説明されるよりはずっとマシだけれども、これじゃあ大して役に立たないではないか! せいぜいスキルの確認用じゃん?
つーかレベル表示どこいったよ!? こりゃ失敗だったかなと思ったのだけれども、それならそれでスキルの確認でもしてやろうとエミルを鑑定してみると……。
名前:エミル・ネイツ 年齢:68
二つ名:変わり者の偏屈錬金術師 引きこもりの錬金術師 ほっとけば3日で死ぬ錬金術師 緋炎の魔術師
LV1 HP:2830 MP:4892
STR:28 DEX:42 AGI:31 INT:126 LUC:10
スキル:【魔術】【錬金術】【薬術】【薬学】【料理】【洗濯】【速読】【高速打鍵】【採取】【三半規管強化】
二つ名多っ! LV1……なのは実装直後だからだろうけど、1のステータスじゃねえだろ! つうか、ほっとけば3日で死ぬ錬金術師ってクソうける。『緋炎の魔術師』とかかっこよくてズルいから何かの時に弄ってやろう――ってそうじゃねえ!
何故数値化されているのか? どうして俺とミー君には生えなかったLVシステムが実装されているのか? エミルがなにか特別なのだろうか? なんて思ってモモやティールさん、メイドさんにそこらのオッサンなどをこっそりと鑑定してみたら……しっかりとLV1だったし、きちんと数値でステータスが表示されてやがった。
これは俺とミー君だけが別枠……なんつうの? RPGの世界にポイっと入れられた某ロボット大戦のユニットっつうの? なんか俺とミー君だけそんな感じになってて比較しようがねえんだよね。
少なくともエミルやモモ、それとティールさんなんかはそこらの一般人と比べて滅法強いというか、ステータスが高めであると言う事はわかったのだけれども……何つうか、この結果は個人的にはあまり面白くなかったな! ていうか悲しかったな!
ちなみに大層強そうなマミさん達のステータスも気になったんだけど……その……視ようとしたら凄い良い笑顔で睨まれたので……怖くて鑑定出来なかったよ……。
と言うわけで、遠慮なくこんなもんをブチかましてしまったわけなので、おっさん共がびっくりして静まり返ってしまうのも仕方がない事だろうと思う。
信じられない事だろうし、たとえ信じたとしても直ぐに受け入れられるようなものじゃあねえからな。
これは少し時間をおいて、改めて話をした方がよさそうだ――
「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
「きゅっ!?」
と、思ったらいきなりの大歓声。あまりのボリュームにミー君が変な声を上げて目を回してしまったじゃねえか。
「ナツ君! 今説明しだのは本当なのが? なあ? 本当が? なあ! なあ!」
「ちょ、近いから! トゥールさん! 本当ですから。ちょ、だから近いって! うおお! 他のおっさん共もちけえよ! やめろ! 掴むな放せって! おおい! 誰だケツ揉んでんの! おいクソやめろ!」
おっさんの群れにもみくちゃにされるわたくし。なんだこれ……俺何か前世で悪いことしたのか? せめてティールさん率いる美女軍団にもみくちゃにされたい人生だった……。
「おら! ジジイども辞めろ辞めろ! 落ち着けクソ共が! ナツが嫌がってんのがわかんねえのか? 離れろ離れろ!」
おっさん共の圧(物理)にどうすることも出来ず、ただただあちこち揉まれまくっていると、それを見かねたティールさんがおっさん共を蹴散らし救い出してくださった……やだ……イケメン……。
「お、おお……わりい。つい興奮しでよお……」
「大丈夫かナツ? どこかもげたりしてねえか? ジジイ共め加減ってもんを知らねえ……」
「もげたりって……嫌な事を言いますよね…… 幸いどこも痛くはないっすよ。ただただ精神的につらかっただけで……あー気持ち悪かった……」
「お、おう……そっか。さすがに頑丈だな、おめえはよ」
いやしかしおっさん共の食いつきやべえな。ティールさんが特殊だとばかり思ってたけど、あれか? この世界のエルフって奴は総じて蛮族なんだな? 薄々そう思っていたけれど、それを認めるときが来ちまったって事か。
つうかさ、最近エルフが軟弱になっているとか言ってたけど、寧ろまともに――正しき形のエルフになりつつあるんじゃなかろうか……。お約束の強制力とかそういうアレでさ、あまりにも正しきエルフ像からかけ離れ過ぎたこの蛮族共を世界が修正しようと働きかけているのでは……。
……もしかして手を貸さない方が世のためなのでは?




