84話 ルビが必要な会話はつらすぎる!
門を抜けると、3階建ての大きな屋敷……城? なんつうか、日本のお城が大好きな金持ちが建てた家のような、和風ホテルのような……なにかそういう大きな建造物が存在感たっぷりにそびえ立っていた……っつうかこんだけでけえわけなので、言うまでも無く門の外からも見えてましたわ。視界に入れないようにしてたけど無理でしたわ。
馬車から降り、地に足をつけて改めて見上げてみれば、余計に大きく感じるな。
「わあ、でっかいなあ、なつくん! 変な形のでっかいおうちだ!」
でっかい、でっかいと嬉しげに騒ぎながらモモがくるくると回って大喜びだ。
何が気に入ったのかわからんが、得てして子供というのはそういうもんだからな。
総じて精神年齢が幼い妖精にとっちゃ珍しいものが兎に角楽しくて嬉しくて仕方がないのだろう。ああ、無邪気で癒やされる。
「なんとも田舎らしい独特の建造物だの。アレン・アーサーの冒険譚にこの様なものが記述されておったが、あれは北の孤島だったか……僻地の文化というものは似通うのか?」
エミルはエミルでティールさんを煽っているのか純粋に考察してるのかもうわかんねえなこれ。
「ねえね、ナツくんナツくん」
「なんだい、ミー君」
「日本にもさ、こういうのあるよね? お城みたいだけどちょっと違う建物」
「ああ、そうだね。博物館だったり、ホテルだったり……まあ近年建造された和風建造物ってやつだな」
「そうなんだね。ねね、なんで日本だと大きな道路沿いにこういうお城建てるのかな?」
「うん?」
「たまにね、ストリートビューイングでお散歩してるんだけどさ、大きな道路沿いにかわいいお城とか建ってるじゃない? おもしろいなあ、行ってみたいなあって思ってさ」
「道路沿いの城……あっ! そ、そうだね」
「ピンク色のかわいい建物とかあるじゃ無い? ねえね、いつかさ、一緒に遊びに行ってみようよ! ね? いいでしょ、ナツくん!」
「あ、遊びにね……う、うんうん、そうだな。なんつうか、ミーくんはもうそのままでいてくれな!」
「?????」
いけない。ミー君、いけないよ。どうかその“お城”が何なのか検索しないでおくれよ?
君は女神様なんだ、純粋なままの君で居ておくれ……。
「おい、何ぼーっと突っ立ってんだ。ウチなんて今後飽きるほど見る羽目になんだからよ、ちゃっちゃか歩け歩け!」
飽きるほど見る羽目に……いやあんま来たくないんですけど……!
屋敷の人が裏手に馬車を運ぶのを横目で見送りつつティールさんに続く。
両開きの大きな扉を抜けると……中は一段高くなっていて、入って直ぐの両脇には何か棚のようなものが見えた。
「ああ、こっから先は靴を脱いで入ってくれな。田舎なもんでね、変な風習があるんだよ。
上がったらちょっとそこの部屋で待っててくれ。俺はうるせえ奴らに一声かけてくっからよ。
ほんで、その……マミは俺と一緒に……来てくれ……」
「はいはい。一人で会うのが嫌なんでしょう? しょうがない人ですね」
はい、来ました土禁文化! ここに来て洋風の仕様だったら逆にびっくりするよ。
つうかうるせえ奴らって……きっと偉い人たちの事いってんだぜ、あれ……。
なんてげんなりしていると玄関に立っていたお姉さんから強烈な言葉が掛けられた。
内容ではなくて、方言的な意味合いで。
「ようけんすた(ようこそ)。はぎもん(靴)はそごさぬいどげば(そこに脱いで置けば)おらがかだづけますっけえ(私が片付けますので)、こればはいでっとがんせ(これを履いて入つてくださいな)」
「ありがとうございます……っと」
「あ、これを履けばいいんだね」
ミーくんと二人、スリッパの様な物に履き替えているとエミルが苦笑いをして固まっている……そうだよなあ、言葉がわかねーんだもんなあ、しょうがねえよな。
「靴はそのままにしとけば片付けるってさ。ほら、エミルもこれ履いて上がってこいよ」
「お、おお……ありがとう、ナツ殿……」
方言って俺は嫌いじゃねえけど不便は不便だよなあ。軽い訛りなら兎も角、ガチ過ぎるのはマジで聞き取れねえからな。
俺もよく東京から来た親戚たちに爺さんたちの通訳させられたっけ……。
つうか、忘れてたけどミーくんも女神的なアレで言語翻訳されてんだったな。方言も等しく聞き取れるようになってるわけか……ってうん?
ミーくんの耳にはエルフの方言ってどう聞こえているんだろう。
神界にも田舎とかあって、そこの方言に聞こえてたりするんだろうか?
「なあ、ミー君。あの人の言葉、どんな風に聞こえた?」
「うん? 可愛らしい声だったけどそれが?」
「声質の話じゃねえよ! 可愛い声だったけどさ!
ちがくて、俺にはバアちゃんちの方言で喋ってるように聞こえるんだけど、ミーくんはどうだったのかなって」
「うーん……? 私には普通に聞こえるよ?」
「え、まじでか」
一体これはどうしたことだ。俺にはキッツい方言に聞こえてミーくんには普通に聞こえるという。
「ミーくんってさ【言語翻訳】とはまた違う力で言葉を理解してる感じだったりする?」
「ちがうよ? ナツくんにあげた【言語翻訳】は私からの加護だよ。私の力を分けてあげてるんだから同じ能力に決まってるじゃない」
えぇ……つまりあれか? 方言の先入観と言うか、概念というか、なんつうかええと……キッツイ方言とはこういうもんだと認知してしまってるから、エルフの訛りがあんな風に聞こえちまうのかな。
だったらその認知を変えればもっと話が聞きやすくなるのか……いや、待て待てこのままでは面倒だ。なんにせよエミルやモモ、場合によっちゃマミさんにも通訳する必要があるかも知れない。
『なあ、ミー君。どうにかエミル達にもエルフの言葉がわかるようにできないかな』
『急に念話で話しかけてくるからびっくりしたよ……ううん、ナツくんにあげた加護みたいな事は出来ないけど……そうだね、ナツ君が【言語翻訳】を指定した人に貸せる……というか、効果を分けてあげられる様な……そういう限定的な事なら出来るよ』
『まじかよ!』
『ナツくんに聞こえるのと同じ感じに回りに伝わる感じなんだけど、それでいい?』
『ああ、それで構わん。取り敢えずモモとエミルにやってあげてくれ』
わかったよーと、ミーくんはなにやらもじもじと身体を動かし、俺とエミル、モモをぽんぽんと触って行く。
特に変化が起きたような気はしないが……これで取り敢えずエミル達にも【言語翻訳】の恩恵が与えられたのか?
問題は今のままだとバアちゃんちの方言がエミル達の耳に飛び込んじまうことだ。
このままだと多分……今の状態と大して変わらん事になっちまうだろう。
ええと……認知を変える認知を変える……エルフは若い……実年齢は兎も角見た目は若い……若い……若いやつの方言は……頑張って標準語に近づけようとしている感じで……イントネーションはあれだけど、単語は結構頑張ってる感じ……。
「あら、どうがしましたね? 上履きがあわながったべが?」
「え……ああ、いえいえ。立派なお屋敷だなあと感動していたんですよ」
「おらーまあ、そうすかー。そう言われるとおらも嬉しぐ思いますねえ」
……よし! 完全ではないが、元の方言と比べたら聞き取りやすいぞ!
ルビがギリギリ要らない感じ……だよね?
「む……ミー殿……我になにか施したな?」
「うん。ナツくんがね、やってあげてって。どうかな?」
「おお、ナツ殿が。ありがとう、ナツ殿! エルフの言葉が我にもわかるようになったぞ」
「そいつぁ良かった。どうせ暫く居ることになりそうだろ? カリムみたいにエミルやモモが俺たちから離れて行動することもあるだろうしさ、ちょっと対策してもらったのさ」
「本当にありがたいよ。何しろ何かの詠唱を聞いているようであったからな……」
詠唱……ね。神奈川の叔父さんが『大叔母さんの言葉ってオランダ語みたいだよねえ』って苦笑いしながら行ってたのを思い出すな……。
大叔母の言葉は俺でも結構厳しかったからな。エミルからしたらユグドラール訛りはそれに近い感じに聞こえていたに違いない……。
メイドさんの案内で玄関ホール脇の小部屋に通され、出されたお茶を啜り、煎餅をかじり。
ミーくんやエミルと雑談をし、モモと戯れるメイドさんを尊がる事30分。
穏やかな時間が緩やかに流れるこの瞬間よ永遠にと油断し始めた所で悪魔の襲来だ。
「待たせたな。いやあ、ジジババの話がくどくてな……客を連れてくるつって取りあえず逃げてきたんだ」
「やっぱり会わないとだめですかね……?」
「連れてくるっていっちまったんだ、だめに決まってんだろ? おら、行くぞ行くぞ!」
話がくどくて頭のかったいかったいジジババ……お偉いさんであると言うのを抜いても会いたくねえよお……。




