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ナツくん、女神のミー君にさらわれて信仰心集めの旅へ  作者: 未白ひつじ
5章 フラグってのは簡単には折れねンだなこれが
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83話  おいでませユグドラール

 ここ、ユグドラールと呼ばれる住民総出で時代劇感溢れるファッションに身を包むクソ田舎は四方を険しい山や深い森に囲まれているため、月に数回気合いが入った武闘派商家の一族がやってくるくらいで、他に外部から人がやってくることはまず無いという。


 はいパワーワードいただきました。


『武闘派商家ってなんすか……』


 と、気になってティールさんに問うて見れば。


『代々ウチの国と交流が続いている商人の一族でな。国がまだちいせえ頃から下界との流通を担ってくれているありがてー商家なんだがよ、そいつらが使ってる道っつうのが、腕利きの冒険者ですら断るレベルのヤベエ道でなあ。

 そんなルートを自ら魔物を屠りながら鼻歌交じりに通うすげえ連中なのさ』

 

なんて軽い感じでおっしゃった。


 マイランダ――正確な名前は『マイランダ商人連邦』と言う国で、複数の商家が権力を持ち纏め上げている国なのだという。


 ユグドラールと取引がある武闘派商家は国の中核を担う大きな家で、国が国なら王家に連なる血筋って感じなんだろうか? そんな家ならきっと商才は半端ないはずだ。


 わざわざ商業ルートを確保してまで通い続けているくらいだ、おそらくユグドラールには彼らをうならせた何かがあるのだろう……。


 その一族は妙に戦闘力が高く、冒険者に例えればゴールド以上は確実と言える戦闘力を持っているという。

 

 俺じゃ無くてその人達にギルドをやらせたら良かったのでは? なんて思ったけど、商人は商人で商業ギルドってのがあるらしいからなあ。


 国を運営しているような商家なんだし、そこの当主はきっと商業ギルドでも立場が上の人なのではなかろうか。流石にそんな人に『冒険者ギルド作るから手伝え』なんて言ったら、色々と面倒で大変な目に遭いそうだからな……。


 ま、今回の場合は俺に声をかけたのは大正解だろうな。

 なんたって、これから世界を変える第一歩に国ぐるみで関われるのだから……クックック……。


「どうしたのナツくん。なんだか悪い顔をしちゃってさ」

「いや、なんでもないさ。クソ田舎とは言え街はそこそこ広いんだなって感心してただけさ」

「お前、田舎舐めんなよ? 土地だけは余ってんだからな!」

「余ってるって、大体畑や田んぼの事じゃ無いですか。俺が褒めてんのは壁の内側の事ですよ」


 ユグドラールがクソ田舎と呼ばれるのは外界と殆ど隔絶されている立地だけが理由では無い。


 国に存在する街が今居るここしか存在しない極小国家だというのもあるのだ。

 小さな村や集落は流石に存在しているらしいが、それらには名はなく『東の村』や『森の集落』等と呼ばれているらしい。


 故に国家唯一の街はそのままユグドラールと呼ばれている。

 

 壁の内側には国を治める一族の屋敷があり、それを取り囲むように店や住宅地、それとこまごまとした田畑が並んでいる。なんというか円形に発展した都市って感じですな。


 ……まあここを都市と呼べるかどうかは別として。


 壁の外側にあるのは広大な田畑で、それを耕す人々が住む家がぽつりぽつりと建ち並んでいる。


 壁の内外で身分差という物が有るのだろうかと思ったが、別にそんな事は無いようで、外に居る人達は田畑を広く持ちたいが為にわざわざ外の土地を開拓し、また作業の度に街から通うのも面倒だと自発的に家を建てて暮らしているだけで有るという事だ。


 そもそも街を取り囲んでいる壁は『壁があった方がかっこいいだろう? 本で見たんだよ』というしょうも無い理由で先代の領主がノリで作らせただけの物で有り、壁の外側が特別危険な場所で有るという事は無いとの事だ。


 ……よく考えりゃ子供達が普通に水路で遊んでたもんな。


 んで、この国の産業は農業、林業、それと薬品に装飾品や衣類であるという事で、壁の外の人々は農林業にいそしみ、内側の人らは製造業にいそしんでいるらしい。


 ユグドラール産の商品は品質も良く、なかなか良いお金になるようで……なるほど、武闘派商家がせっせと通うわけですな。


 そこまで素晴らしい商品を作ってる国なので有れば、それこそ道を整備するなり何なりしてもっと余所から人を呼び込めばもう少し発展するのでは無いかと思ったのだが。


「まあ、これからはそれも叶うかも知れねえけどな。最近までジジイやババア共が余所者を受け入れるのに首を縦に振らなかったんだよ」

「選民意識……ってのは特にないって話でしたが」

「ああ、もっとシンプルでくだらねえ理由だよ。ただ単に自分たちが知らねえ物が恐ろしくて見ないようにしたいだけさ。わがまま言って新しい物を受け入れるのを嫌がってるだけなんだ」


 ティールさんも何度か年配の方々を説得して街道整備をしようと考えた事があったらしいのだが……


『ワシらの国にも良いとこあるもん! 余所は余所、ウチはウチだもん! マイランダの小僧共と取引してたらそれでいいじゃろうが!』


 と、何を言っても聞く耳を持たず。


『じゃあマイランダの連中のために道を整備してやったらどうだ?』


 なんて、相手に合わせて上手い事街道整備をしてやろうとすれば……


『誰がやるんじゃ? ワシらはいやじゃぞ! 狩りで忙しいんじゃ! 若いもんにやらせりゃいいじゃろ? なに、奴らは動かない? だったらそう言う事じゃ! 誰も望まん事をする必要は無かろう? ああ、余所者にやらせるのは無しじゃからな。ワシらの土地を勝手に弄られてたまるか!』


 これである。


 そんなもんだから、ティールさんもすっかり頭にきて、以後この国のために何か提案する事を辞めてしまっていたのだという。


「だからまあ、ギルドを作ってくれって言われたときはびっくりしたぜ。ジジイババア共が頭を下げてきたんだからな」

「次の世代のためにこの街を変えようとしている……そう言う事なんですかね?」

「そんな立派な事じゃねえよ。死にかけてようやく不摂生に気づき、薬師に頼ろうとしている、そんな間抜けな事をしてるだけだな」


 ティールさんから街の事を色々と話して貰いながらガタリゴトリと馬車で進む。

 うむ、我々はまだ馬車から降りれていないのである。


 クソ田舎とは言え街である。規模は結構大きく、よくもまあノリだけで壁で囲めたもんだなと思ったのだけれども、壁が立っているのは東西南北の一部だけで、後はガラリとあいているのだと聞いてずっこけてしまった。


「先にギルド……にする物件に寄りてえところなんだが、先にうるせえ連中の所に顔を出す必要があるからな。悪いけど付き合ってくれや」

「それはまあ、構いませんけど……」


 一体何処へ……と、聞こうとしたが辞めた。

 だって、馬車は真っ直ぐ前に前にと走っているのだから。

 その真っ直ぐに伸びた道の先には立派なお屋敷があるのだから……。


 なるほどな、王様……かなにか、この国の代表の所に挨拶に行くというわけか。

 なんだかそう言う空気というか、フラグが立ってたもんなあ……


 ……!?


「え、あのティールさん?」

「ああ? なんだ?」

「あの、もしかして国の代表に顔を見せに行く感じなんです?」

「察しが良いな、その通りだ」

「それってティールさんだけですよね?」

「なに言ってやがる、お前らもだよ。ああ、そう嫌そうな顔をすんなって。単なるジジイにババアだからよ」

「ティールさんからすればそうなのかも知れませんけどねえ……」

「お前らはモールトン卿と縁を結んでそれはそれは親しくなったときいてるぞ? アレと比べたらウチのジジババなんてクッカのフンみてえなもんよ。まあ、気にすんなって」


 クッカのフンって……ひでえ言い草だ。


 俺の緊張を解そうとしてくれたのかも知れないけれど、国と代表と、その下につく貴族を並べたら……やっぱり代表のが強いと思うんだけどなあ。


 ミー君は……飽きて寝ちゃってるし、エミルはパソコンだし……モモはまあ、モモだろうし……マミさんは……涼しい顔をしているな。


 くっそ、今こうして胃を痛めてるのは俺だけって事かよ……。  


そして馬車は無情にもご立派なお屋敷の前に到着してしまったわけで。


 馬車ごと入れる大きな門前にはクッコロ感溢れる、とても綺麗なエルフの女騎士さんが立っていて、腰に提げた立派な剣をキラリとアピールしながら厳しい目をこちらに向け、誰何してきた……のだけれども。


「そごで止まってくだせんせ! おめさんがどう誰だや?」


 言語翻訳さんのいらぬ御仕事のせいで台無しだ。これで変な気遣いがなければさ、

『そこで止まって下さい! 貴方達はどなたですか?』 

なんて感じの、如何にも騎士様な台詞なんだぞ。それがこう……うちの婆ちゃんみたいな方言に変換されちまってるからちくしょう……!


 ……まあ、その前に和風の鎧に身を包んでいますからね。時代劇村でコスプレ撮影サービスに喜ぶ外国の方って感じもあって俺の中のエルフ像が完全に迷子なんですけれども!


「ああ、ご苦労さん。俺だよ、俺。ババア達に用事があってな。連れも乗ってるんだが、わりい奴らじゃねえから通してくれや」


 窓からひょいっとティールさんが顔を出し、親しげな感じで声をかけると、残念な事になっている女騎士さんの態度が途端に緩み、穏やかな表情に変わった。

 

「おらーまあ、ティール様だがすか(じやないですか)。おすぱらぐだごど(しばらくぶりですね)」

「ああ、アヤメもな。つーわけで通るからな」

「はあ、わがりました。みご様も旦那様もティール様のごど心配してたがす。もうすごす(少し)家さ顔を出すどがしでけんねえど(とかしてくれないと)わがんねがす(だめですよ)。みご様がどう(達)も娘が心配だあってうるせごぜんすよ(うるさいですよ)?」

「わかった、わかったって! ほれ、こうして顔を出しに来てんだろ?」

「そうでごぜんすな……ああ、しがす、随分と外の言葉に染まってけんすたな(きましたね)。国のこどばは忘れてしまっだふうで。ああ、そう言えばこないだ旦那様が……」

「いやほんとかんべんしてくれよ! 15年くらい前に顔出しただろ? そう簡単に忘れるかっつ生んだ……って! ああもう! 話の続きは後でゆっくり! な? 俺もしばらくいっからさ!」

「はあ、でば、まだ今度っつうこどで、さいならね、ティール様」

「ああ、また後でな!……ったくもう……」


 みんなは今の会話が殆ど理解出来ないんだろうけど、悲しいかな俺にはわかってしまうんだよな……。


 ティールさんは今のですっかり疲れた顔になっちまってるが、俺も何だか疲れたよ。


 つーか『ティール様』て。アヤメなるクッコロさんの話しぶりからしても、やっぱりティールさんって……そういう身分の人……なんだろうか。


 ……そうじゃなかったらいいなあ……どこかに伏線あったかなあ……あったかも知れねえなあ……うちのジジババってまんまそういう意味なんだろうなあ……ああ、気が重い、重い……!

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