81話 どんだけクソ田舎なんだよ!
そして馬車の旅28日目――
いやほんとどんだけクソ田舎なんだよ! 開幕からタイトル回収だよ畜生め!
スマホと言う暇つぶしがありますけどね、流石に森ばかり続くと飽きてきますよ!
はじめは森の景色にはしゃいで居たモモもすっかり飽きてしまい、今ではミー君の頭に乗って一緒にアニメを見る始末。森のプロである妖精さんですらこれなんだぜ?
エミルに至ってはノートPC的なアレで何やら熱心に書き物を始めてすっかり静かになってしまった。
ミー君もモモもエミルも静か。うるさいのはティールさんだけ。
そんな馬車旅がようやく終わりを告げようとしていた。
「ナツ君、喜んでください。もう直ぐお楽しみですよ」
明るい声でマミさんが告げてくれたが、行く先を見ても森は続いていて、どう考えても何か良いものがある様には思えなかった。
……が、マミさんは嘘をつく様な人じゃあない。言ったのがティールさんだったならば、鼻をほじりながら適当に「はいはいついたついた」と流したところなのだが、これは期待していいだろうな。
間もなくすると、ガタりと音を立てティールさんが座席から立ち上がった。
まったく子供じゃねーんだから……危ないでしょうと叱ろうとしたところ、それより先に御者台に向かって大声をあげられた。狭い車内で出す声量じゃええ! うるせえ!
「よーし、マミ。馬車止めろー! へへ、いいかお前ら見とけよ見とけよー!」
馬車からティールさんが飛び降り、つかつかと何処かに向かって歩いていく。
何やらお楽しみとやらが始まるようだな。折角なのでミー君達にも声をかけ、共に車窓からティールさんの様子を見ることにした。
【木々に隠された道標を我の前に現せ……我が氏族の……】
「道標を現せ……? なるほど魔術かなにかで隠蔽されているのか」
「む、ナツ殿……この詠唱が聞き取れるのか……流石だのう」
「普通にしゃべってるように聞こえたんだけど……違うんだね」
「ナツ君……ティールさんが詠唱しているのは古代エルフ言語ですよ……私には何を言ってるのかさっぱりわかりません」
「まじか」
いやあ、正体明かしておいてよかったですね。翻訳君が仕事をし過ぎてどんな言語も等しく普通に聴き取れちゃうんだもん。
いやあ、俺らしくもなくチート主人公の片鱗を見せてしま……ってねえよ! こんなのたいてい標準装備だよ畜生!
むしろ古代エルフ言語なる邪気眼が疼くかっこよさげな詠唱をそのまま聞き取れなくて残念だわ。きっとこう……
【Кольцо, спрятанное в деревьях Покажи это мне】
みたいな感じでさ、適当にロシア語かなんかに翻訳かけたのをそれっぽく書いて表現するようなさ……ぱっと見かっこよさげな言語の筈なんだよ……。
「どーだー? 見てたかーナツー!?」
「え? あ、あーすごいなー ……ってホントにすげえな!?」
「……開くとこ見逃しやがったな。まあいいや、お楽しみはこの後だからな。マミ、馬車を前に」
街道から外れた場所、元は木々がみっしりと茂っていたところがトンネルのようにぱっくりと開いている。
それは馬車が悠々と通れるほどに広く、木々が織り成す緑の道を潜り抜けた先は木漏れ日が射す広場になっていて、その中央にはなにやら大きな円盤状の石が置かれていた。
おっとお……これは映えますな! 何枚か撮っとこ!
まんまあれですもん。ゼ〇ダの伝説のなんちゃらソードが刺さってる森ってな感じですやん、撮らないわけにはいきませんよ。
「揺れますよー」
「ぬお!?」
窓から体を出して周囲の景色をパシャリパシャリしていると、突然馬車がごとりと音を立てて揺れたもんだから落っこちそうになってしまった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、平気です……あれ、上に乗ったんですね」
馬車が揺れたのは広場中央の円盤に乗る際に段差でゴトリとしたからだったようだ。
「はい。ふふ、ナツ君、ミューラさんにエミルさん、モモちゃんも。ここからはしっかりと見ておいた方が良いですよ」
雰囲気がありすぎるこの場所で、如何にもな円盤に乗っている。何かが起きないわけがないだろうと思ってはいたけれど、やっぱり何かが起こるのだな。
「ねね、ナツ君ナツ君! 何が始まるんだろうね? 馬車がフワーって浮くのかな?」
「ばしゃがとぶのかー!? すごいな、ももとどっちが早いかなー!?」
「まてまてモモ。飛ぶと決まったわけではないぞ。恐らくこれは魔術陣だ、つまり馬車になにか魔術的な……」
「はいはい、考察はそこまでだ。学者肌の連中は考えるより味わうのが速ぇって事を知らねえから困るぜ」
「な、なんだとー!」
ティールさんがマミさんの隣――御者台に座り、再び何か詠唱を始めている。
【森の輪は界を超え縁を結び界を繋げ森と森が繋がり輪は巡り風が木々が花々が……】
さっきの詠唱よりもこう、わかりにくいというか、よりそれっぽいというか……それでも日本語にしか聞こえないからかっこよさが半減してしまう……っといかんいかん。詠唱にひっぱられるなー、事象に注目しろー! さっきはそれで見逃してしまっただろー!
自分で自分に言い聞かせ、場に発生している事象に注目する。
詠唱が進むにつれ、何やら外が賑やかな……ああ、これ円盤が発光してるんだ。
……この光り方って……。
「なあ、ミー君。この光り方って……」
「うん……異世界物のアニメでよく見る召喚されるときのあれだよね……」
「俺はミー君が召喚したときに使った感じなのかなって聞きたかったんだけどな……そう来たか……」
「あっ……私の召喚術はこんなに派手じゃないからね。せいぜい陣の文字が光るだけだよ。ほら、そういう充電器あるでしょ? かっこいいかなって真似したの」
「似てるなーって思ったけど、陣の方が真似したのかよ……知りたくなかった……って、うおおお!? な、なんだこれえ!」
視界がゆらゆらと陽炎のように揺らいだかと思ったら、それはぐにゃりとゆがみ、くるくると巻かれていった。
「うおー? な、なつくうん! モモ、目が回っちゃうぞー!」
「な、ナツ君……私も……め、目が回って……」
「いかん! ナツ殿! ミー殿の目が渦のようになっているぞ!」
「また器用なことしよってからに! ミー君! エリアヒール的な奴をかけろ! 俺も三半規管が死にそうだ!」
「う、うううん、わかった! えーい!」
ミー君の回復術が車内に広まったのと同時にグネグネとした視界がゆっくりと戻っていき、ゆらゆらとした陽炎が晴れると……先ほどまでの森とは打って変わって辺りは真っ暗で――いや、遠くに何か光が見えていた。
「どうだ? 驚いたか? ん? ん?」
「ティールさんはウザいですけど、びっくりしたでしょう? 私もかなり久々なのでワクワクしましたよ」
「ちょ、マミ、扱いがひでえな!」
驚いたのなんの……こりゃあ、確かにびっくりだ。
「これって……転移術か何かですか……」
「ちぇっ、流石異世界人。そういう知識もあるのかよー」
「いえいえ、俺の世界ではこんなのお伽噺の存在ですからね? いやマジでびっくりしましたよ」
「お、そうか? じゃあいい!」
機嫌を直したティールさんが直々に馬車を操り、遠く先に見える光に向かって移動していく。
軽くミー君を光らせ、周囲の様子を探ってみると、床も壁も何やら硬質な人工物で出来ていて、どうやらここが巨大な建造物の中であろうことが分かった。
「むう……流石エルフ……この様な物を隠して居たとはな……」
少し悔し気に、しかし楽し気にブツブツとエミルが考察している。彼女にとってもこれは興味深いものだろうて。なんたって夢の転移術が込められた魔術設備だからな。錬金術師としても、魔術師としても大いに知識欲をくすぐるものだろうさ。
「すっげーのな! 何がおきたんだ? ぐにゃーっとしたら夜になったぞ!」
モモは……なんだ、いつも通りかわいいなあ。
「秘匿してるわけじゃねえって言いたいところだが、下手な奴に使われるとめんどくせーからな。ま、一応秘密にしといてくれや」
カラカラと笑うティールさん。何やらこれを知る物は一部の者だけであると言う事で……うわあ、扱いが面倒なネタを知ってしまったぞ……。
ミー君やモモがどこかでポロっと言わないか不安で仕方がない。
――それはそれとして。
遠く見えていた光が視界に広がっていき、ゴールがもう直ぐであると伝えている。
長かった。出発から今日までひたすらに長かった……!
「ああ、随分と掛かりましたが……ようやく、この光の向こう側に踏み出せばユグドラール……! いやあ、今日まで本当に長い旅だった……帰りの事は今は知らん!」
「はは、なかなか詩的な表現をしやがるな。確かに転移場から出ればユグドラールの領土だけどよ……こっからまたなげえぞ? なんたって街まで馬車で5日はかかるからな!」
「は?」
「俺の実家は山奥のクソ田舎だといっただろ? だからこそ早めに出てきたんじゃねえか。ま、あと5日の辛抱だ。堪えてくれや」
ど……どんだけクソ田舎なんだよーーーーー!!!
本日2回目のタイトル回収を終え、我々の旅路はまだちょっとだけ続くのでありました。




