79話 ナツ、ぶっちゃけていく。
ティールさんの話はなんだかこう、色々と突っ込みどころがあると言うか、詳しく聞きたいようなネタもゴロゴロとしていたのだけれども、それらは取り敢えず置いておいて、純粋に彼女の依頼に対して受けた印象は悪いものじゃあ無かった。
俺なら、俺たちならこの依頼を確実な物にすることが出来そう……いや、間違いなく成功以上の結果を出すことが出来ると確信した。
けれど、それを成すためには俺だけじゃあ勿論だめだ。
この依頼を成功させるためには、ティールさんの思いを成就させるためには俺の大切な相棒――ミー君の力が不可欠だ。
だからティールさんの依頼を受けるにしろ、断るにしろミー君と話し合う必要がある。 ティールさんはわざわざ家まで出張ってきたんだ、この場で俺らの返答を聞きたいはずさ。
だったらちいっとばかし相談タイムとさせてもらいますぜ。
「なるほど、そう言う経緯でこのお話を持ってきたんですね。ちょっとミー君と相談させてもらいますけど良いですよね?」
「ああ、構わないぜ。パーティーを組んでるんだ、独断で決断するのはおかしいからな」
じゃあってわけで、ミー君に声をかけて立ち上がらせる。
どうして立たせたの? と、不思議そうな顔をしてなにも察していない様子だったので『隣室で話し合いをするんだ』と念話で伝えてやると『なるほど!』と、ようやく流れを理解して貰えた。
「なんだ? ああ、ここで相談するんじゃねーのか。さては夫婦で秘密の話をする気だな?」
「ま、まあそんな所ですね」
「焼けるねえ。ま、のんびりしてるから、色々ごゆっくりどうぞ」
手をひらひらと振りながら、ニヤニヤと我々を見送るティールさん。別に変な事をしに行くわけじゃあ無いのに、要らん事をされたため妙に恥ずかしかった――つうか色々ってなんだよまったく!
リビングの隣室、客間として空けてある小部屋に移動し、そっとドアを閉める。
ティールさんが妙な態度を取るもんだから変に意識をしてしまって腹立たしい。
なんだか落ち着かない俺を見てミー君が怪訝な顔をしてみているが、気にしないで貰いたい。ああ、いいからいいから! メディカルチェックとかしなくて良いから! 額に手を当てるな! 妙に意識しちゃってんだからヤバい事になるぞ!
……取りあえずミー君の両肩を上から押して椅子に座らせる。
間もなく、結構大きな声で『で、なんのお話なの?』なんて話すもんだから、慌てて口を塞ぎ、人差し指を立てて『シー!』と、声を出さないように指示をした。
部屋を変えたとは言っても、声が漏れないとは限らない。デリケートなネタなので慎重に念話を使って打ち合わせをしたいからな。
『悪い。ティールさんは信用しているが、まだ判断に迷ってるんでね。念話で相談しようと思ったのさ』
それを聞いてようやく納得がいったのか、キリリとした表情で何度か頷くミー君。大丈夫かな……大丈夫なんだよね……? よし、大丈夫だな!
『それでミー君はあの話、ティールさんの依頼はどう思った?』
『いいと思う! 巡り巡って世界中の皆が困るのを防ぐ事になるんだよね? お手伝いしたいと思うよ。でもさ……ほんとにうまくいくのかな? って気持ちもあるんだよね』
『だよな。うまくだませたとしても、エルフたちが強い冒険者になれるかは別だよな。
俺たちの真似をしても強くなれるとは限らないって言うか、俺達だって普通ならここまで強くない筈だからね』
『ナツ君さ、何かいい案があるんだよね? こうしてわざわざ私と内緒話をしてるんだもん、流石の私だってわかるよ』
『ああ。それにはミー君、君の協力と許可が必要となる。ええとな……』
カクカクシカジカとミー君に妙案を伝える。これまでにアンロックしたあれやこれやと、ため込んだリソースでアレやコレやを取れば互いに利がある展開になるのでは。
その様に話すと、普段より2割増しで真剣な顔をしたミー君がうんうんと何度か頷いた。
『……なるほどね。思い切ったね、ナツ君。でもよい案だと思う。さっそくティールさんに話してみよっか。全部打ち明けないとこの作戦は実行できないもんね』
『ああ、ティールさんなら信頼できる。ミー君もそう思ったからこそ承諾したんだろ?』
『うん! あの人になら私達の事を話したって良いと思うし、心強い味方になってくれると思うよ』
だよな。ティールさんはゴリラめいた所はあるけれど、心だけは清らかで邪心を感じないと言うか、なんというか。心からこの世界のことを憂いている――そんな気がするんだよね。
……
…
「なんつうか……にわかには信じられねえが、お前らの活躍を考えりゃなるほどなと納得できる部分のが多い。しかし、世の学者達が聞いたら仰天するだろうな……古代に失われし力に管理者か……」
「仰天されちゃ困るから内緒にしといてくださいよ? まあ、いずれ世界中に知られることになるわけですけれども」
リビングに戻った我々は、ティールさんになんもかんもぶっちゃけた。そりゃもうエミルが飲んでた茶を噴き出すくらいに堂々と言い放ってやった。
ミー君がこの世界を管理する上位的存在、女神であること。俺はその女神から召喚され余所からやってきた異世界人であること、そしてまだ世界に秘匿しているスキルの存在を。
はじめは『何言ってんだこいつ』と言う顔をしていたティールさんだったけれど、少し何か考えた後『あー……そっちかあ』と声を上げて勝手に納得をしていた。
そっちってどっちだよ。むしろなんだと思っていたのか気になるわい。
「しかし、この世界を管理する上位存在、メガミか……本部のグランドマスターや国王陛下なんかよりずっと偉いさん……つうか、俺達皆の親みてえなもんなんだな? 俺はミューラを一体どう呼んだらいいんだ? かーちゃんって呼んだらいいのか?」
「私は別に今まで通りでいいよ? 威張りたいとか、敬ってほしいとかそういう気持ちで正体を明かしたんじゃないもん」
「そうかい。まあ話がデカ過ぎてピンと来ねえからよ、ありがてえ話だが……ここでそんなネタを明かしたって事は、今回の依頼に関係する何かがあるんだよな?」
ニヤリと笑みを浮かべるティールさん。まあ、ここまで話したんだ、依頼を受けてくれるのだろうと判断したのだろうな。
「ええ、それでですね……試したいことがありまして……」
ティールさんにこれからアンロックする予定の新機能と、それがもたらす恩恵……と言うか、世界に起こる変化についてさらりと伝える。
アレをアンロックする事により、世界の理は大きく変化してしまう……と言うか、旧時代の仕様にまたひとつ近づく事になる。そんな話を聞いたティールさんは当然驚き、凄い顔で俺を見る。
「はあ? マジかよ? そのスキルとか言うのだけでもアレなのにそんな事まで考えてんのか?」
「だめですか?」
「何言ってやがる! すげえってもんじゃねえぞ? それが上手くいきゃあ、ウチのクソ田舎だけじゃねえ、この弱りきった世の中全てが良い具合になるじゃねえか!」
「それじゃあ……?」
「ああ、いいぜ……もちろん、テストとやらは俺にもやってくれるんだろうな!?」
「マミさんが許可してくれるなら……今日の騒動を聞いたらウンと言うかはわかりませんけどねえ」
「ちくしょうが!」
俺たちはティールさんの依頼を受け、エルフの国ユグドラールまで同行することを決めた。
この世界の未来のため、今回の件は良い実験になりますからねえ……ククク……エルフ達を使ってたっぷりテストさせてもらいますよ……クーックックック……ごほっごほ……。
……
…
話し合いが終わり、夕食の買い出しついでに途中までティールさんを送ることになった。
送るといっても、相手はエミルとやりあってピンピンしてるギルマスだ、ほっといても悪漢の方から逃げていくんだから護衛と言う感じじゃあなく、ちょっとそこまで友達を送る、そんなノリで一緒に歩いているのだ。
「で、ミューラが世界を管理する力を戻すためにこの世界にシンコウシンとやらを甦らそうとしてんだっけ?」
「そうなんですよ。今のところぼちぼちとではありますが、順調ですね」
「それであんなおもしれえ事やってたのか……俺はまた随分とおもてえ愛だなと思ってたんだがなあ」
「あ、その話はミー君には内緒ですよ? いつかバレることがあっても、それはもっと後の方がいいんです。もっとこう、あちこちに作られて、文句が言えなくなってから……その方が面白いじゃないですか」
「くくく……まったく。まあ、それが巡り巡って俺たちが強くなって世界が平和に向かうってなら協力するぜ? 事が終わったらウチの国にもアレを幾つか置かせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。やっぱりお前達に声をかけて良かったぜ。まさかここまで強力な助っ人だったとはな」
「いやあ、それほどでも……あるのかな? ミー君は一応神様だし」
「言ってみりゃ世界最強なんだぞ? それほどでもあらあな。お前だって十分つえーしな! うっし、俺はあっちいくからここでお別れだな。じゃあ、田舎の件よろしくな」
「はい! ではまた、後日!」
市場通り付近でティールさんと別れ、手を振って見送った。後ろ向きに手を振りながら歩いていくティールさんの足取りはやたらと軽く、なかなかにご機嫌であることが伺える。
しかしいい機会だからとティールさんに打ち明けちまって、また一人俺たちの事を知る人が増えてしまったな。
でも、ぶっちゃけ別に正体を隠す必要はあんまり無いんだよな。
例え何処かで我々の正体が外部にバレてしまったからと言って、そもそも神の概念が無いわけだからどうと言うことはない。
神が居ないわけだから教会なんて物は勿論存在しないわけで、テンプレ的に教会から絡まれてメンドクサイ事になるーって事はありえないし。
今となっちゃ内緒にしてる理由つっても、あくまでも可愛そうな人だと思われないように、変な目で見られた区が無いがために要らん事を言わないようにしているっつーだけの事だからな!
あんまりホイホイと人に言えるようなことじゃあないけれど、ミー君が神だと認知されると言う事は強烈なリソース源となる。だから話を信用してくれそうな人にはなるべく打ち明けていけたら良いなと思う。
最終的には世界中の人達にミーくんを認知させる事が目標となるけれど、まずは信頼できる人からコツコツと……だ。




