76話 ご機嫌な我々
ギルドから戻り、リビングでくつろぐ我々は非常にご機嫌である。
大金貨? ゴールドへの昇級? もちろんそれもあるが、それだけが理由ではない。
今の我々に一番大切な物、それは何か。
休暇だ。
カリムでの暮らしも悪くはなかったけれど、ありゃあ休暇とは言えなかったからな。
寝て起きて、適当に飯を食ってダラダラして飯を食って風呂入って寝る! そんな自堕落な日々が今の我々には必要なのだ。
本日は12月20日。
この世界はどういうわけか地球と暦が同じなので年明けまで残り11日。
カリムから戻り、10日ほどダラダラと潰してしまったけれど、それでもまだちょっとだけゆっくりとすることが出来る。
当初の予定よりも休暇が短いなと思う所はあったが、それでも年内いっぱいのおさぼりが許されるのはありがたい。
今日から年末までどう過ごそうかなーなんて、みんなで話しながらの帰り道、背後から凄まじく大きな気配を感じて振り返ってみれば全力疾走で我々を追いかけてきたらしいマミさんの姿があった。
ギルドで別れたはずのマミさんが後ろから追いかけてきたんだぞ? うっわあ、これはまた厄介事かと構えちまったけれど、彼女が持ってきた話はとても良いものだったのだ。
「ナツ君達に伝え忘れたといいますか、おそらく気づいていないと思いましたので説明に来ました」
全力疾走してきたであろう彼女は息を切らせることもなく、にこにこと良い笑顔で。
思わずそのまま家までご一緒してもらい、リビングでお茶を飲み飲み説明を聞いたのだけれども……。
我々に当初提示された条件は『年内に限ってノルマを免除する』というものであったのだが、それはあくまでも『シルバーランク』の冒険者に対する報酬で、今回我々がゴールドに昇進した事で事情が変わってしまったらしい。
普通に考えれば受託した時点でのランクに合わせた報酬で契約しているのだから、後から変わるという事は無いのだけれども、そこはそれ、冒険者ランクの仕様のおかげで変えざる得なかったようだ。
ああ、そうなんだ、そうなんだよ!
なんと! 当初の3ヶ月から半年間に期限が伸びたのである。
冒険者ギルドの規約をおさらいすると、シルバーが3ヶ月に5件の依頼の達成(内2件はシルバー依頼であること)これがこれまで我々に課せられていたノルマであった。
しかし、ゴールドになればそれは緩和され、半年にゴールド1件、又はシルバー3件となるわけで、嬉しいことにこれらが元々提示されていたご褒美にそのまま適応されるらしく、ゴールドになったので10月から半年間、4月いっぱいまで依頼を受けなくても良い事になったのである。
冬休みってレベルじゃねえぞ。冬から春までぶっ通しでお休みじゃい!
前回みたいにうっかりしたことにはならない。なんせギルドのお墨付きだからね!
しかも金ならたんまりある。贅沢らしい贅沢を知らない我々だぞ? 大金貨3枚もあるんだ、依頼なんて受けなくてもお金に困るこたあない!
布教活動が止まってしまうため、ミー君には悪いけど……って思ったが、ミー君も『よかったね! 寒い中の依頼は大変だもんねえ』と喜んでいるし、まあ、いい事にしようじゃないか。
いやあ、まじめに仕事をしてきてよかったなあ、やっぱ神様はちゃんと見てるんだよ……ミー君はどっか変なとこ見てるけど。
◇◆マミ◆◇
ナツ君達が無邪気な顔で喜んでいる。
掃除屋のノルマは4月いっぱい分まで達成済みであるということで、たっぷりと休暇を取れるのだから、のんびりしたがる彼らが喜ぶのはわかる。
けれど『昇級すればするほど楽になるっていいよねえ』と言うミューラさんの発言はどうだろう。
一見するとゴールドランクの維持条件が緩いように感じるが、それは誤りである。
例えばシルバーランクの場合。
シルバー依頼は討伐依頼にしろ、護衛依頼にしろ長期に渡る物が多く、それぞれ達成まで最低でも10日以上は軽くかかってしまう。無計画に依頼を選んでしまえば移動に時間を取られてギリギリになることも少なくはない。
故に、シルバーランクの冒険者はただ依頼を受けるのではなく、併せて達成できるようなカッパー依頼も受けておき、帰還に合わせてそれをこなし、合わせて報告をするようにしているのだ。
そしてゴールドランクの場合、ゴールド依頼1件かシルバー依頼3件の達成で維持をする事が可能だ。
シルバー依頼3件を半年。
その数だけ見れば多くは見えない……が、それぞれの内容を吟味せず適当に選んでしまえば半年は軽く消費してしまう事もある。
ありがちなのはそれぞれの依頼の達成条件となる物の距離が離れていて、移動に時間を取られてしまったり、討伐対象を見つけるのに時間が掛かってしまったり……そんなところだろうか。
ゴールドはゴールドで単体でそれに近い期間を消耗する事が多く、並の冒険者であればようやく依頼を終えて戻ってこれても、帰宅早々次のノルマが差し迫り、わずかな休暇を準備期間に割かれ、大して休息を取れぬまま次の依頼に旅立つ羽目になる。
シルバーにしろゴールドにしろ上手くやらないとろくに休暇を取る事が叶わない。
ノルマが少々厳しいのではないか? そんな声が上がることも少なくはない。
しかし、そうではないのだ。ギルドに出される依頼に対するランク評価はきちんと精査され定められている。
それもある程度の余裕をもてるようにだ。
1週間ほどで達成できそうな依頼は達成目安を12日としてシルバー依頼に。
2ヶ月かかりそうなものは目安を3ヶ月としてゴールド依頼に……。
これでもギリギリになってしまう冒険者はギルドとしては少々問題があるとされる。
戦闘技能だけではなく、冒険の計画をきちんと立てられてこそ胸を張って冒険者と名乗れるのだ、冒険者ギルドが掲げる冒険者像がこれだ。
故に、ギルドの目が厳しくなるシルバーやゴールドを維持するためには腕っぷしだけではなく、計画性や行動力も必要とされる。
故にゴールドランクへの昇級はギルドマスターの厳しい審査を潜り抜けた者でなければ許されることはない。
……まあ、中にはまぐれで昇級してしまった者や、仲間の功績を上手く利用してのし上がっていくずる賢い奴も中には居るが、その手の連中は何かの切っ掛けで破綻し、冒険者から足を洗う事も少なくは無い。
というわけで、ゴールドランクに昇級できたとしてもそれを維持するという事は結構大変なのだが、ナツ君とミューラさんはそれには気づかない。
いや、気づかないのではなくて、気にするほどの事では無いのだろう。
彼らは既にゴールド依頼相当の討伐をサクリと熟している。それを鑑みればゴールドランクのノルマなど取るに足らない、楽なノルマであると感じてしまうのかも知れない。
彼らの能力を考えればオリハルコンこそ相応しいと私も思うけれど、さすがにそこまで至るにはまだまだ功績が足りない。
だからまずはミスリルクラスに押し上げる。
貴族2名とギルドマスターからの推薦が無ければ本部の審査すら受けられない上級クラスだ。
審査はとても厳しい目で見られるらしいけれど、これまでの功績を鑑みても彼らならきっと突破できるはず。
問題は審査前の推薦だけれども、3人のうち2人は既に決まっていると考えて良いだろう。
問題はあと一人の推薦枠だけれども……それを考えての行動なんでしょうね。
だからギルマスは、ティールさんは……色々と嫌なことを飲み込んであの依頼をナツ君達に出そうとしているのかもしれないな。
◇◆ナツ◆◇
マミさんを見送る我々、掃除屋の表情はとても晴れやかで穏やかであった。
それはもう、マミさんが苦笑いをするレベルで。
「いやあ、暫くギルドに顔を見せることはないかと思いますが、お近くまで来たら是非寄ってくださいね。おいしいお菓子とお茶くらいは出しますので!」
「あはは……たまには暇つぶしで依頼を受けても良いんですよ? 休暇中に依頼を受けてはいけないというルールはありませんので」
「いえ、ほかの冒険者たちに申し訳ないですからね! 我々が休んでいる間、たくさん稼いでもらいますよ」
「その考え方は立派だと思いますが……いえ、わかりました。では、また暖かくなる頃にご挨拶に来ますね」
「ははは、もう面倒ごとはごめんですからね?」
「善処します……じゃ、ナツ君、ミューラさんにエミルさん、あとモモちゃんも。良き年末をお過ごしくださいねー」
こうして我々掃除屋の長い長い休暇の日々が幕を開けた。
これから何をして過ごそうか? 休みはたっぷりあるぞ! まずは年末だ! こちらの世界に来て初めての年末だぞー? 餅つきが出来ねえのは残念だが、今の俺達にはスマホがあるからな!
ダラダラとみんなでアニメやら映画やらを見て過ごすーなんて年末らしいダラダラ感を愉しむことだってできる!
それが終わったらお正月だろ? 餅はねえけど、おせちの様なものなら作れるはずさ。
この鍛え上げた料理スキルを使ってご馳走をたくさん作ってさ、それを食べながらのんびりと過ごして……あとは春まで好きなように、好きなように暮らして……。
ああ、最高だぜ異世界生活!
こんな日がもうずっと続けばいいのに――!
誤字脱字報告ありがとうございます。
めっちゃ助かってます!




