閑話 ギルマス何かを企む
◇◆ティール◆◇
「やれやれ……何とか満足してもらえたようだな」
「あれで満足しないわけがありませんよ」
並の冒険者ならそうなんだろうな。ただ、相手はナツ達だ、奴らからしたら今回の報酬金額でも足りねえくらいなんだよ。
俺がナツなら倍は貰わねえと納得しねえもん。
大金貨2枚だと言った瞬間の空気、マミだって気づいたはずだ。
シンと静まり返ったあの場から一刻も早く逃げ出したかったくらいだからな。
慌てて言い訳のようなことを言っちまったが、まあ、それで納得してもらえたようだからよかったよ。
なんたってナツ達にはこれから大きな仕事をして貰う予定があるんだからな。
ここで機嫌を損ねられたらたまったもんじゃねえ。
それに、ちらりと耳に挟んだが、あいつらはどうも旅に出るような話じゃねえか。
なんでもあちらこちらを見て回りてえって事らしいが、そんならそれで好都合だ。
メルフから居なくなる前に話を通し、目的に便乗する形で依頼を受けてもらいてえ。
まあ、それにはメンドクセエ決まり事と言う枷が邪魔をしやがってたんだが、それもこれも今回の昇級でなんとかなった。
カリムに行かせたらきっと何かをやらかして昇級のきっかけを作ると思ってたが、まさか一発で上がれる程の功績を作って戻ってくるとはな。たまげた奴らだよ、まったく。
「ナツ君達をゴールドに上げたということは……あの計画を始める、そういう事なんですよね?」
「ああ、そうだな。ナツ達がどう反応するかはわからねえが、あいつらならきっと協力してくれるだろうさ」
「まったく。彼らの善意につけ込むような真似をして……」
「言うなよ。俺だって悪いと思ってんだ……まあ、それも暖かくなってからの話だな。それまでナツ達にはゆっくりとしてもらおうじゃねえか」
「ほんとにもう、ティールさんは……」
今回ナツ達が成し遂げたこと、あれは本当に大きな功績だ。
潰れかけていたカリムを健全な状態にまで立て直してくれたんだからな。
だが、あれと似たような事は今後あちらこちらで起こるはず。
あいつらの協力があれば、きっとそれを止めるきっかけを作れるはずだ。
ナツ達にはそれだけの事が出来る知恵と力が備わっていると思っている。
「ナツ達は只者じゃねえ。単独パーティで強敵の撃破、未知のダンジョンを初見で踏破、さらには魔導炉の再稼働と施設の復元……」
「それと、失われた筈の……回復術もですね」
「ああ、それに蘇生したエミル、規格外の力を持った妖精も忘れちゃいけねえ」
突如としてこの町に現れた謎の夫婦、ナツとミューラ。彼らが善人であり、我らにとって益となることは既に疑いようのないほどだ。
一体彼らは何者なのだろうか?
彼らがカリムに行っている間、俺とマミは方々から情報を集め、その正体について探った。
これは純粋に好奇心からであり、決して彼らの身辺に疑いをもったからじゃあない。
冒険者としての悪い癖が出たってのもある。
しかし、彼らが何処から来たのか、それについては何もわからなかった。
腕利きの諜報部隊を使っても小さな情報ひとつ見つけることが出来なかったのだ。
しかし、それはマティウス領以外での話だ。
彼らの痕跡は西の森、二人がゴブリンに捕らわれていたあの日から始まっていた。
それを考えると、やはり彼らという特異な存在の活動は、このメルフから始まったとしか思えない。
彼らは本当に何者なのだろうか?
突如として森に現れたとしか考えられん。
一体どこからどうやって現れたというのだろうか?
それについて俺が出した結論は『旧文明人』なのではということだ。
一般的には単なるおとぎ話として広まっている話でしかねえが、この世界の何処かで永き眠りについているとされる伝説の民についての伝承がある。
彼らは旧文明時代に我らの祖先と別れ、自由な行動を代償としていつか来たるべき日のために旧文明の知識を維持するべく、地底深くに潜り眠っていると伝えられている。
もしもナツたちが伝承の存在であると仮定すれば、あの卓越した力や魔導炉を再稼働させることが出来る知識にも納得が……行かないが、今の所考えられるのはソレくらいだ。
そんな彼らが現れた、つまりは『来るべき日』が近いのではなかろうか。
世界を取り巻く状況が日々悪化しているこの現状、それは来るべき日と言えるのではなかろうか。
であれば……今回の依頼をナツ達に頼むのは決して悪い事ではないはずだ。
むしろ、ナツ達にこそ頼むべき大いなる依頼である、俺はそう思う。
「……そうやって話を壮大に話を盛って自分を正当化しようとしてもだめですよ?」
「む、心を読むな! 違うんだ、本当にあいつらはスゲーんだって!」
「それは私も存じておりますよ。でも、勝手にナツ君達のハードルを上げるのはいけません。彼らはちょっと強いだけの冒険者、それでいいじゃないですか……」
「ちょっと強いだけ……いや、ちょっとじゃねえだろ、ちょっとじゃ!」
「はいはい。ナツ君達のご機嫌は私が上手ーく取っておきますから。ティールさんは彼らが納得するような依頼の出し方でも考えておいてくださいね」
「お、おい! マミ! 一緒に考えてくれ……おい、マミ!」
くっ! 行っちまった。
マミめ、事の重要さを理解してねえな? まあ、あの様子じゃマサやアヤからまだ話を聞いてねえんだろうし、しょうがねえか……。
まあいいさ。マミもそろそろ頃合いだ、ガッツリ話に巻き込んでやろうじゃないの。
問題はナツ達だが……連中を依頼先に派遣するのはクルラの花が咲く頃……まだ先の話。それまでじっくり考えて……思いつかなかったら家に乗り込んで土下座でもすりゃあいいか。
うちの田舎っつえば花見と酒くらいしか楽しみがねえクソみてえな所だが、外から来た連中なら悪い反応はしない筈さ。
気の良い連中だ、花見に誘うついでにこう……誠心誠意お願いすればきっと……承諾してくれるような気がするな。
いや待て、クルラと言えばとっておきのヤベエ木がありやがったなあ……。
本来であれば他人に見せられるような代物じゃあねえんだが、ナツ達ならばその資格がある、ジジイ共もきっとそう考えるはずだ。
アレは花見には何よりのモンだし、アレをナツ達に見せるっつうのは、俺ら一族として良い事に繋がるんじゃねえか、そんな気がすんだよな。
さて、と。そうと決まれば、だ。
毎回毎回呼び出すのも申し訳ねえし、今回は俺のわがままで出す依頼だ。
どれ、たまにはこちらからお邪魔してみようかね。




