75話 そういえば報告
「ほーん。なるほどな。それで今日までツラ出しに来なかったつーわけか」
「何と言いますか、まあはい。我々もその、色々と忙しかったわけで……」
「ったく、マミの奴が買収されて戻ってきてびっくりしたぜ? 随分とやるようになったじゃねえか」
「ギ、ギルマス! 私は別に買収されたわけじゃ……」
「俺の言伝すっかり忘れて手ぶらで戻った奴が何言ってんだかね」
「うっ……」
というわけでして、俺とミー君、エミルにモモは例の部屋で不機嫌そうなギルマス様からお説教をされています。
ボスキャラを追い返して安心していたら、ラスボスが本気で怒っちゃったとかそういう感じで……。
翌日早朝からドアを猛烈な勢いでノックされまして、開けてみたら青い顔をしたマミさんが。
……いやあ、マミさんでもビビる時、あるんですね。
「まあいいさ。とりあえず今回はしょうがねえ、許してやるっつーか、貸し1だ」
「ははあ、仰せのままにー……ほら、ミー君達も頭下げて」
「ははあ……本当にごめんなさいー」
「ははー」
「……」
俺に倣って頭を下げるミー君とモモ。エミルは不機嫌そうな顔でプイっと壁を見つめたままにしているが、それはまあ何時もの事ですな。
「良いつってんだろ? 頭上げろよ。土産もこんだけもらったし、もう文句はねえよ」
ティールさんが嬉し気に片手でもてあそんでいるのは勿論、例の小瓶『温泉のもと』だ。
ただ、彼女の場合はマミさんとは違い、美容に効くという点はどうでも良くって、古傷すら癒すという薬効的な部分に喜んでいるようだ。
「温泉のもとに、カリムの薬、ついでに香り高いカリムエール! 冒険者として何よりの土産だよ。ありがとうな!」
「ははあ、仰せのままにー」
「ままにー」
「だからもういいっつーの」
しかしまいったな。こんな筈じゃなかったんだ。本当はさ、到着早々ギルドに殴り込み、今回の依頼について詰問する気満々だったんだよ。
『我々はもっと楽な条件を提示されていたはずだー! それがなんだ! 聞いていた話と違うじゃないかー! これはギルドの説明不足なのではなかろうかー!』
とかなんとかワアワアギャアギャアとノリと勢いで責め立ててやろうと企んでいたというのに。
それがこんな……貸しまで作ってしまって……悔しいびくんびくん。
「まあ、なんだ。俺も騙して送り出したようなもんだからよ。あっちで予想以上に働いてくれたみたいだからさ、ほら、もういいから頭上げろよな」
おや? また顔に出ていたのかな? 騙しやがってー! ってキレかけてた思いがしっかり伝わっちまってるわ、っていうか自覚あったのかよ……。
まだちょっと思う所はあるが、そこまで言うなら……もう笑って水に流してやろうかな。何時までもうだうだぐずぐず引きずっても面倒くさいだけだしな。うん、許そう! 許して貰ったし、こちらも許そう!
「そうだよ! ほんと大変だったんだから! 一つ依頼を達成したらーなんて言ってたけどさ、蓋を開けてみたら一つどころじゃなかったよ! 私もナツ君も、エミルちゃんにモモちゃんだって毎日朝から駆けずり回ってたんだから! ほら、ナツ君からも言ってよ!」
「ミー君、君って奴ぁ……」
「わははははは! ナツ、お前もミューラを見習えよな! 不満があれば相手が誰であろうとぶちまける! 冒険者っつーのはこうじゃなくっちゃ」
ゲラゲラと笑うティールさんに首をかしげるミー君。複雑な顔をするマミさんに、頭を抱える俺。
言いたいこと全部言ってくれたというか、言われてしまったというか……つうかミー君も秘かに腹に据えてたんだな。
いつもニコニコと満足げな顔で働いていたから、奉仕こそ我が身の喜びー! みたいな女神性があるのだとばかり思ってたけど……まあ、さすがのミー君でも辛かったんだな……。
「まあ、そう怒るなミューラよ。お前たちにはちゃんとした報酬を用意してるんだからよ」
報酬……そういえばそんなものありましたね!
向こうのギルドから都度細々とした報酬を貰ってたからすっかり忘れちまってたわ。
そうだよな、なんでギルドに来よう来ようって思ってたって、文句を言って報酬の交渉で上位に立とうとかそういう思惑があったんだよ……くっ! となればこの状況は非常に不利だ。
こちらが優位に、それが無理でも対等な立場で吹っ掛けてやろうと思ってたのに、これまでのやり取りでぶち壊しだわ。
まあいいさ。いざとなったら強気になっているミー君を唆してうまいことやってやろうじゃないか。そん時は頼むぜ、ミー君。
「今回の依頼は基本報酬が金貨1枚。これは事前に説明したとおりだな。
それにカリムでの貢献度を加算し、さらに例のやらかしを考慮した結果、今回の報酬総額は大金貨2枚となった」
「大金貨……2枚……」
大つったぞ? 大だ。金貨じゃなくって大金貨……!
大金貨っていうと、金貨20枚分、日本円にして2千万円……! 結構大変な依頼だったけれど、それに見合った分は出してもらえたわけかあ。
ミー君も、それにエミルまで報酬額を聞いて黙り込んでいる。そりゃそうだよな、俺たちは根っこが庶民だ。最盛期のエミルの事は知らねえけど、きっと短期間でここまで稼いだことなんて無かった筈さ。
今回のもきっとダンジョンが絡んでいるからこその報酬額だと思うけど……前にダンジョンを売り払ったとき以上に稼げてしまっているわけだから、驚きだ。
きっと帰るころにはミー君の顔がまた(¥ν¥)になって戻らなくなるはずだぜ。
こっちからあれこれ吹っ掛ける必要なんてなかったな。まったく素敵なギルマス様だぜ!
あまりの事に我々が喜びすぎて固まっていると、さらに追撃がなされた。
「あー……まあ、なんだ。“やらかし”の報酬としては少々少ないが、ギルドとして出せるのは査定基準的にこれが限界だ。どうか今回はそれで我慢してくれ。
お前たちはカリムを……いや、モールトン辺境伯領を救った救世主と言える功績を成し遂げちまったが、ギルドの硬ェ頭じゃそれは評価点として見てもらえねえ。
ギルドの視点で報酬金額の査定をした場合、お前たちがやった事――指名依頼以外での功績は『攻略され打ち捨てられていた遺跡を再調査し、新たな情報をもたらした』その点のみが今回の評価点となっちまうわけだ」
「なるほど……」
まあ、そうだろうな。冒険者ギルドとしては何処かの街が経済的に救われたなんて事は畑違いのお話だ。これでスタンピードから救ったとなれば、管轄内だろうから評価点になったんだろうけど、今回は俺たちが管轄外の仕事を勝手にやったようなもんだからな。
……いや、そもそも実質なんもやってねーようなもんだよなあ。
俺のうっかりとミー君の先走りが結果としてアレを招いたっつうだけで、アレを商売に使えるまで整えたのは我々の功績じゃねえし。
だから温泉について評価がどうのこうの申し訳なさげに言われると困るというか、むしろこれでいいんだ。
我々がやったのは言ってる通りの事だけ、ノリで再稼働させて『温泉いいよね……』『いい……』とか言ったくらいのもんだし。
これで『温泉を作ったのはナツ達だ!』とか冒険者ギルドが張り切って大ごとにしてたらもう大変だ。
ギルドにガッツリ調べられて実は我々が大した仕事をしてないってのがバレちゃったりして、ギルド嬢達から冷たいまなざしで石を投げられたりするんだ!
……あれ、少しだけ悪くないかも……いやいやいや!
「まあ、そう苦い顔をするなよ。金銭的な報酬はまあ、その程度だけどな? 別に面白いものを用意しているんだ。マミ」
「はい、ようやくお渡し出来ますね」
ティールさんに指示をされ、妙にうれし気な顔でトレイを持ってきたマミさん。
トレイには赤い布がかけられていて、中身は見えないようになっているが、ああやって勿体ぶっているんだ、きっと良いものが入っているんだろう。
トレイのサイズを考えればあまり大きなものではない。もしかしてあれだろうか? どこかの屋敷の鍵とか? それとも何かの権利証?
なんにせよ、何かくれるというならありがたく貰っておこうじゃないか。
相手はティールさん、言っちゃ悪いけど彼女は単なるギルドマスターだ。どこぞの貴族様と違って、面倒な爵位やら領地やらをくれるほどの力はないはずだからな。逆に安心して受け取れるってもんよ。
「これまでの戦歴と、前回、そして今回におけるダンジョンに関する功績。それらを単独パーティで成し遂げたという事実。これには誰も文句を言うことは出来なかった。いや、俺が言わせなかったんだけどな」
カラカラと笑うティールさん。
……誰も文句を言えなかった……? 一体何の話だろう? あれ、なんだかちょっと嫌な予感がしてきたぞ。
「今回の報酬は俺が考えているお前たちの立場に向かう通過点でしかない。今後これを使って相応しい位置まで押し上げてやるから覚悟しておけよ」
にやりと笑いながら外された布には金色に輝く3枚の板が……。
「うお……これってまさか」
「すごいねナツ君! とうとう私たちもここまで来たんだよ!」
「……これが通過点……なるほどのう……たまには良い事をするではないか」
「いいな、いいな! なつくん! 後でモモにも作っておくれ!」
ティールさんからそれぞれに手渡されたのは金色の板……ゴールドランクカードであった。
ミー君は『とうとう』なんて言ってたけど、めちゃ早い昇級だと思うんだけど……。
あーそうかあ……こんなんでもギルドマスターだもんなあ、権限有るんだよなあ。
俺達みたいなしょっぱい冒険者もどきにこんなもん渡して何をさせる気なんだ?
そりゃあ、絡まれた時にこれを見せたらさぞスッキリするだろうなあ! なんて考えると嬉しく無いわけはないけれど……カードが呼び込む今後の面倒事を考えると少し震えがくるぜ。
絶対にめんどくせえ仕事を押し付ける下準備としての昇級だろうからな!
「くくく……どうだ? 驚いたか。 お前らの力を考えりゃこれでもまだ足りんが、漸く相応に近い身分にしてやれたと思っているのだがな。いや、元に戻ったと言える者もいるのか?」
「……」
エミルがジロリとティールさんを睨んでいる……あれ、まって……エミルってまさか元ゴールドランクだったりすんの……? やべえ、気になる……けどあの顔を見たら聞けねえ!
「それと……無邪気な妖精のお喋りだとはわかっているが、あまりカードの偽造をどうの言うのは感心しねえぞ」
「ああ、すいません! ほんとうちの子がすいませんね!」
ヒェエ……そこは冗談で流して欲しかったんだけどな。しっかりと釘を刺されてしまったぞい。ティールさん、そういうのは緩いと思ってたんだけど、これでもギルマスだもんなあ……って、なんだかニヤニヤしているな。
「おい、モモ。お前もエミルについて結構な働きをしたと聞いているぞ」
「そうだぞ! モモもおしごとがんばったんだからな!」
「くくく、そうか、そうか。これまで妖精が冒険者として登録したという記録は無くてな。前例が無い以上、さすがにそれを動かすことは出来なかったが……マミ」
「はい。まったく、勿体ぶるんですから」
「やかましい。そこでこれだ。受け取ってくれ、モモ」
「おお……なつくんたちとおなじやつだ!」
モモに渡されたのは妖精サイズに縮められた金色のギルドカード……のような何か。小さいけれど、俺たちが持っている物とよく似たカードで、受け取ったモモは両手で掲げ、嬉しそうにくるくると宙で回っている。
「それはギルドカードじゃねえが、お前が掃除屋の庇護下にあるという証明書だ。
モモにわかる様に言えば、ナツ達とモモが仲間であるという目印だな。
ちいせえが、きちんとギルドの印章が押されているからな。判別機にも反応すっから何かの時はそれを見せるんだぞ」
話を聞いているのかいないのか。しかし、モモは本当に嬉しそうにお日様のような笑顔を浮かべて大喜びだ。
「やったぞ! なつくん! みんなとおそろいだ!」
「よかったな、モモ! いやあ、ほんとありがとうございます。こいつ、ちょいちょいカードを羨ましがってたもんで、助かりましたわ」
「気にすんな。俺からすりゃあ、モモだって立派な掃除屋のパーティメンバーだからな。本当は正式なギルドカードを発行してやりたかったんだ。それで喜んでくれたならなによりだよ」
「腹立たしい奴だが、たまには良いことをするもんだな」
「ククク……たまにはも2回あったらいつもになるんじゃねえか? なあ、小娘よお」
「くっ……」
メルフについたらなんて言ってやろうかと憤ったり、結果としてこちらが恐縮して向かう羽目になったりと、まあまあ、色々とあった報告だったけれども。
蓋を開けてみればメンバー誰しもが満足いく報酬を貰っちまって大満足としか言えませんわ。
出来る雇用主と言うのはこんな具合に飴の使い方が上手い奴の事を言うんだろうなあ……見てるかー? 弊社の社長さんよー。爪の垢もらって帰るから地球に戻ったら覚悟しておけよな。




