表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナツくん、女神のミー君にさらわれて信仰心集めの旅へ  作者: 未白ひつじ
5章 フラグってのは簡単には折れねンだなこれが
78/188

74話 ただいまメルフ

 ガタゴトガタゴト馬車に揺られ、ようやく帰ってまいりましたよ我らのメルフ。


 馬車が丘を登りきり、見慣れた防壁が視界に飛び込んだ瞬間『ああ、帰ってきたなあ』なんて思っちまってさ、この世界でもすっかり実家のような安心感を感じる場所が出来たんだなあってしみじみ思ったよ。


「なんだか凄く久しぶりに帰ってきたような感じがするよね、ナツくん」

「感じがする――じゃなくて、久々に帰って来たんだよ、ミーくん」


 移動時間いれたらほぼ3ヶ月だぞ? 1年の4分の1って考えたらかなりのもんですよ。

 

 そんだけアチラにいたわけだからさ、なんだかんだいってカリムにも愛着わいちゃってんだけど、それはそれ。やっぱメルフは良いなあって思っちゃう。


 なんだろうね、吊り橋効果なんかね? それとも刷り込みってやつかね? あの日、危機的状況から救われ、目を覚ましたのがメルフだったわけで。


 こちらの世界で初めてのフカフカベッド――文化的な生活に保護されたわけですよ。


 そっからなし崩し的にずっと暮らしてるもんだから、愛着が湧かないわけがないんですわ。


「チーおじともここでお別れか……まあ、直ぐにどっかでフラっと会いそうだから特別な言葉とか特にいらねーよな。あーはいはいご苦労さん。また今度とくらあ」

「ナツ……おめえひでえ奴だよな……」


 馬車からちゃっちゃか荷物を下ろし、手をひらひらと動かし、チーおじにおざなりな別れを告げてさっさと背を向けるとチーおじの悲しげな声が聞こえてきた。


 が、いちいち構う必要は無いのだ。

 

 だってさ、どうせそのうちまた『ナツ、今度はどこそこに行け!』なんてティールさんから言われるんだよ。

 んでもって、例によって馬車が手配されててさ、待ち合わせ場所にいってみりゃあ、遅れてのんびりとやってくるチーおじの姿が! みたいなね。


なんかもうそういうパターンになってんじゃね? って思ったら、扱いが適当になっちまうのは仕方がないことじゃないか。


 今生の別れっつうわけでもねえし、そもそもチーおじはメルフに店を持ってる商人だぜ? 何故か自らあちこちに行商にあるいてっけど、確かどっかの通りに立派な店舗を構えてんだよ。その気になれば何時だって会えるっつうか、たまにチョロチョロしてるのを見かけたりすっからな。


 そんなわけで、なんだか寂し気に小さくなっていくチーおじの背中(馬車)を見送った我々は意気揚々とギルドへ……向かわずに、真っ先に自宅へ向かう。


 物語の主人公共はさ、長旅から戻った後に『ただいま帰りましたー!』なんつって、意気揚々となじみのギルドに向かうじゃん? 


 長旅ってことはさ、出先でいろいろ買い物してるわけじゃん? あいつらはさ、ずるいことにストレージやらアイテムボックスやら……どいつもこいつも身軽になれるスキルや道具をもってやがるので、そんな真似ができるんですよ。


 俺たちを見てみろよ。


 ミー君カートに満載にされた良くわからん土産の数々。

 それはカートには収まりきらず、我々の背中や両手に重くのしかかっている。


 あんだけ可愛がってるルンボットのふわちゃんなんて見てみろ。

 カートの底で荷物に潰されてピピピと悲し気な電子音を発しているんだぞ。


 こんな状態でギルドに行けるか? 無理だろ……。

 

 いくら馴染みのメルフつったって、日本ほど治安がいいわけじゃないんだ。良い物かどうかは別として、何やら物品が満載されたカートを表にほっぽいておいたらどうなるかわかんねーじゃん?


 だから面倒でも一度自宅に荷物を置きに帰らなきゃねーんですわ。

 帰宅早々ギルドに寄るのがめんどくさかったわけじゃないんですわ。

 決して決してそんな事はないんですよ。

 仕方が無い事だったんですよ。

 マジでマジで。


「だから、そんな顔でじっと見つめるのをやめて下さいませんかね……マミさん……」

「あら? 私はナツ君たちが無事に戻った嬉しさに微笑んでいるだけなのですが?」


 現在我々の前には例の笑顔をたたえたマミさんが座っている。


 あの日、荷物を置きに戻った我々はとりあえずざっくりと荷を下ろし、誰が言うでもなくリビングのソファでダラダラとくつろぎ始めた。


 だってしょうがないじゃん、馬車旅つっても疲れるんだからさ、少し休んでからギルドに行こうか? ってなるのは自然な事だろ?


 そのうちにさ、ウトウトとし始めるのはしょうがない事だし、気づいたらいい時間になってるのは当たり前だし『今日はこのまま休んで明日ギルドに行こう』ってなるのは当然のこと。


 で、翌朝起きたらエミルが荷をほどいているじゃん。


 そうだ、俺もやらなきゃ、あ! ナツ君私もやるー! モモもモモもー! ってなるじゃん?


 あほ程買ってしまった物品は混沌を極めていて、その仕分けだけで丸1日過ぎてしまうのは当然の事だし、そんな事をしてしまえば翌朝ぐったりとしてしまうのは当たり前のこと。


 そうこうしているうちに、今度はミー君が『しゅごいにょおおおおおおお!』なんて身をよじって、うっわまじかよR18行きか? なんて思ったら例の作戦が成功してリソースがあふれちゃうううううう!ってな具合になったじゃん?


 それをどう使おうかーって会議はグダグダのまま有耶無耶になり……まあいろいろ落ち着いてからねってなったらさあ……いろいろと忘れちゃう事ってあるじゃん? 


 人間だもの。


「確かに帰還からしばらく顔を出さなかったのは悪かったと思ってますけどね、うちらにも事情があったんですよ」


「……はい、まあ……ナツ君達らしいなあと思いますけれど、しかしですね……義務という物はきちんと果たすべきであり……」


 あ、やべえ。これ本気で切れてるやつだ。


 何かないか、何か何か……あ、そうだお土産……!


「そ、そうだ。マミさん、お土産があるんですよ。はいこれ、カリムの湯で作られた化粧水で……」

「ありがとうございます。激務だったんですものね、お疲れだったのでしょう。今回遅れたことについては私の権限で業務上仕方なかった物として処理しておきますので」


 くるりと返った掌が見えた……ッ!


「喜んでもらえて良かったです。なあ、ミー君」

「うん! これね、私がマミさんにって選んだんだよ。ほんとは一緒に温泉に入れたら楽しいなって思ったけど、カリム遠いもんね。 だからさ、せめてお肌にいい化粧水をって買ったんだ」


「ミューラさん……! なんていい子なんでしょう!」

「わわ、マミさん、ちょ、ちょっと力強いよ……ナツ君たすけて!」


 尊きかな尊きかな。


 何か感極まったマミさんがミー君を抱きしめ、がっちりとホールドしている。

 

 潤んだ瞳でミー君を愛おしそうに撫でている姿は塔を建てたくなる程に素晴らしき光景であると思うのだけれども、ミー君の顔色がヤバくなってきたしそろそろ解放してもらうか……。

 

「そうそう、こういうのもあるんで良かったら……うおお!?」


 テーブルに小瓶を置こうとコトリと音を立てた瞬間、それを離す間もなくぎゅっと腕をつかまれた。

 その速度、このナツの目をしても捉えることは叶わず、ギリギリと万力のように締め上げられて今にも腕がもげそうである……ってイデエ!? なんだこの力! マジで痛えって!


「ちょ、あの、ちょっとマミさん? あげますから、これマミさんのだから……ほ、ほら、離し……たから……ステイ! ステイステイ! 野生収めて! いてえって!」


「す、すいません、私とした事が……うふふ」


 ウフフじゃなしに。危うく右腕持ってかれるとこだったぞ? 

 地味に強まってるらしい俺にダメージを与えるとは……恐ろしい人だな!


「ラベルを見ていただければわかる通り、それはカリムの湯から抽出された『温泉のもと』です。キャップ1杯分を湯に入れれば温泉と似たような効果が得られるとか得られないとか……っていう奴ですわ」


「ありがとうございます! ナツ君! 本当にありがとうございます!」


「ははは……喜んでもらえて良かったです」

「いえ、本当にありがとうございます。ナツ君達なら、ギルドの情報伝達速度はご存じでしょう?」

「速度……ああ、魔導具でやりとりしてるっていうアレですな」

「はい。ナツ君達が温泉を作り出したという情報と、その効能は大陸中のギルドを駆け巡り、職員たちに衝撃を与えました」

「そんなに」

「はい! ギルドの仕事は過酷なんです。繁忙期はろくに寝れず、食事もおろそかになり……わかりますか? わからないでしょうね、お肌がどんどんと痛んでいく悲しみは……」


 やばいぞ。何かのスイッチが入ってしまった! 助けてミーく……ミー君、ミー君? だめだ! さっきので落ちている!


 ならばエミル……くそ! あいつら、エミルとモモは出かけていねーんだった! 


「温泉についてのレポートが届いた時の衝撃、わかりますか? 浴場が増えたくらいどうという話ではないだろうなんてティールさんは言っていましたが、その効能を見てひっくり返っていましたよ。まあ、あの人の場合は傷が治るという部分に対しての反応でしたが、お肌の潤いが蘇る、ハリが、シミが、くすみが!」


「そうですね、温泉ですね」


「そうなんです! ぷりぷりのお肌になるんです! 私はギルドを辞めて直ぐにでもカリムに向かう決心を固めたのですが……さすがにそれは止められてしまって……ひどいんですよ、ティールさん。全力で拘束してくるんですから」


「いやそれはまあ……」


「だからですね、仕方なく今回の所は諦めまして、春の休暇の楽しみにする予定だったんですけどね……それも潰れそうで……つい、その矛先を貴方達に向けかけてたんですが……」


「え、ちょ」


「未遂ですので。ミューラさんとナツ君が下さった化粧水と温泉のもとですか? これがあれば私はまだ戦えます! 知ってますか? これらの商品、もはやプレミア価格になってるんですよ」


「え、まじで?」


「マジです。考えてもみてください。カリムに行けない人達が何を求めるか。自宅に居ながらその恩恵に預かれる商品ですよ。プレミアがつかないわけがありません。

 既に現地では商人達が争うように仕入れをしているみたいですよ」


「うはあ……すげえ事になってんだな……」

「それだけの物を見つけたんですよ、貴方達は。いやでも本当にありがとうございます! これは私だけで大切に使わせていただきますね!」

「ああ、それはもう。マミさんにって買ったものなので。ああ、なんならもう一つどう……」

「ナツ様!」

「ヒィッ!」


 追加でもう一つ瓶を出した瞬間、マミさんからあふれ出した謎のオーラといったら……なんだあれおっかねえ……。思わず二瓶渡してしまったじゃないか。


 まあ、そのおかげで未だギルドに顔を出していない件についてはうやむやになったので……良かったのか?


 なんだか凄まじく上機嫌で帰っていったし……危機は去った、そういう事にしておこうじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ