表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナツくん、女神のミー君にさらわれて信仰心集めの旅へ  作者: 未白ひつじ
4章 ちょっとヘルプに行ってきます。
71/188

68話 温泉まだかな?

『まだかな? 温泉、今日こそ入れるよね?』


 このセリフをミー君が言ったのは今日で10回目である。

 1日1回、朝食を食べながら必ず言っていたセリフだ。


 そう質問をされる度『そう遅くはならないらしいから大人しく待っていたまえ』と答え続けてはや10日。


 最近は依頼も落ち着き、ギルドにもだいぶ余裕ができたし、何より寒さも厳しくなってきたので我々は家で大人しくしている事が増えていた。


 かと言って何かやることがあるわけでもなく。


 俺とミー君はダラダラとスマホを弄り、エミルは読書に勤しみ、モモはそんな我々を適当に構いながらルンボット(フワちやん)と楽しげに戯れる、そんなスローライフを満喫していた。


 今日もまた平穏な1日が始まるのだ、何も疑うこと無く朝食を食べていると、ドンドンドンとノックの音が鳴り響いた。


「温泉!」

「まだそうと決まったわけじゃないでしょ? 宅配便かもしれないじゃん」

「あ、そっかあ」


 そっかあじゃねえよ。宅配便なんてこの世界に存在しねえよ! ボケ殺しめ! ……俺が知らないだけであったりしないよね?


「ナツさーん! 居ませんかー?」


 おっと、そうだお客さんが来ていたんだった……って、この家にああやってくるのは一人しかいねえわけだけれども。


「はいはい、すいませんね、いつもいつもお待たせしちゃって」


 ガチャリと扉を開けると、予想通りニーファさんが待ち構えていました。

 こころなしか笑顔が少し怖い気がするな……。


「おはようございます! 例の件でお伝えすることが有りまして、伺わせていただきました!」


「お待ちしていました。お茶を出しますので、中にどうぞ」

「はい、失礼します……って、あらごめんなさい。朝ごはんの最中だったんですね」

「なんのなんの。気にしないで下さい。直ぐ食っちまいますんで」

「いえいえ、お構いなく。ごゆっくり召し上がってくださいな」


 ニーファさんをリビングに通し、食堂に戻って皆にニーファさんが来たことを告げ、残っていたスープを飲み干してお茶とともに一足先にニーファさんの元へ向かった。


「あら、ほんと急がなくて良かったんですよ?」

「なーに、もう食べ終わってましたからね。直に他の連中も来ますんで、どうぞゆっくりと休んでてくださいな。その顔を見るに、ここの所忙しかったんでしょう?」


 お茶とクッキーを差し出しながら一応は気遣いの言葉をかけてみると、ますます笑顔が怖くなった。


「そうなんです。ここの所大忙しです! そのセリフをナツさんに言われると少々思うところはありますが……例のお風呂で相殺です!」


「いやあ、なんかほんとすいませんね」

「いえいえ、良いんですよ。ほんと!」



 力なく笑う彼女は本当に疲れ切った様な表情をしていて、ここ数日間の仕事量を察し、とてもとても申し訳がない気分でいっぱいだ。


 我々が依頼を片付け初めた時も、徐々に疲労が蓄積しているような変化が見られたが、それはまあ、今まで暇だったのだから丁度よいくらいだろうと思ってたんだよな。


 ただ、今回のアレは余計だった。巡り巡れば街のためになるとは言え、ギルドの職員をはじめとして関係者各位には多大な迷惑をかけてしまったと軽く反省している。


 ここは少し位ゴマをすっておいたほうが良いかな? といっても、ミー君を使って軽く癒やしてあげることくらいしかできないけれども。


「おまたせー! さあさ、温泉の話をしましょう!」

「あーミー君。まずはニーファさんに回復術をかけてやってくれんか」

「うん? いいよー。ほーいよっと」


 俺の言葉を聞いてニーファさんが何か言おうとしているようだったが、それより早くミー君の術が発動した。


「か、回復術……? それは一体……きゃっ!? な、なにこれ……私が光って……? え? え? 身体が軽い!? あれっ? ええ?」


 腕を動かし、首を回し、軽くなった身体に驚くニーファさん。効くよねえ、ミー君の術。 俺も疲れたなあって時にかけてもらうけど、ホント一瞬でスッキリするから何か依存性とかそういうデメリットも有る悪い術なのではなかろうかと少し疑ったりもしたわ。  


 そんな話をミー君にしたら「失礼な! 純粋な神の奇跡だよ!」と、怒られちゃったので、まあそういう物なのだろうと割り切り、今では便利に使わせてもらってます。


「どうです? 効くでしょう、ミー君の回復は。疲れた身体にもバッチコイで、ポーションみたいにお腹がポチャポチャにならず、健康的なのが嬉しいですよね」


「え、ええ……確かに身体が軽くなりましたが……そ、その回復術とは一体……?」


 あっ やっべえ。やらかした! そう言えばこの世界からは所謂ヒーラーが絶滅していたんだっけ……。


 詳しいことはしらんけど、神という存在を知らない人間には『神の奇跡』という概念が無い。それ故に回復術の存在を知ることは無いし、覚えることだってできない。


 そんな回復術をその場のノリでわっと使わせてしまったわけですが、やべえな、適当に誤魔化すか。


「なんつうか、その、ミー君の特技みたいなもんなんスよ。なあ、ミー君?」

「え? うん、そうだね。私くらいしか使えないから特技と言っても良いかも」


「ミューラさんしか使えない魔術ですか……それは興味深い……っと、そうじゃないですよね。いえ、そのお話も気になりますが、今日は例の件について連絡に来たんでした」


 どうやらうまく誤魔化せた……のかはわからんが、取り敢えず話が変わったので良しとしよう。


「ということは、今日は例のお部屋に行かなくてもいいんです?」


「ええ、今日は会議室までご足労いただくことはありません。例の施設の開場式が明日執り行われると言うことについての案内だけですので」


 お茶を飲みのみ、クッキーをかじりかじり。ニーファさんはゆっくり羽根を伸ばすようにしながら明日についての説明をたっぷりと30分かけてしてくれた。


 明日の朝10時より会場式典が執り行われる。それにはこの領の領主、モールトン辺境伯が参加し、カリムに新たな産業が生まれたことを大いに祝うらしい。


 そして我々にとって重要なのは、それに参加するかどうかだった。


 式典に参加した場合、大勢の観客の前でご領主様からお褒めいただく感じになるということで、ミー君はまんざらでもなさ気な感じだったけど、俺としてはまっぴらごめんなので、それはお断りすることにした。


 だってさあ……恥ずかしいだろ!


 そりゃあ、ミー君の名を売るためには凄く良い機会だと思うけど、そこに俺は要らないの。ミー君だけ有名になればそれでいいの!


 俺までセットで大衆の前に晒されるのはちょっとごめんなのだ。


「冒険者として名を売るには良い機会だと思いますが、なるほどナツさんは既に『リトルオーガ』の二つ名を持つ身。これ以上、有名になる必要はない……そういう事ですね?」


「えっ……いや、まあ、その……はい」


 恥ずかしいからです! なんて言えたらどんなに良かったことか。いや、言っても良かったのかも知れないけれど、そう言える空気じゃなかったと言うかなんというか……。


「ナツくんは良いよね、かっこいい二つ名があるもん。私はなんにもないからさ、今回の式典に出て目立ちたかったなあ……」


「かっこいい……のかどうかは置いておくとして、まあ焦るなミー君。君の名は後でじっくりと広まって行く事になるだろうからさ」


「ふうん? それなら別にいいけどさ、一体何をするのかな?」


「それは後のお楽しみ……かな」


 まだそれを出来るかどうかもわからないけど、今回もきっと……いや、前回以上に効果が出るはずさ。


「ちなみにですが、式典に参加しないことで領主様から罰せられるなど、ナツさん達に何らかの不利益が生じることはありませんので、そこは安心していてくださいね」


「は、はい!」


 そ、そっかあ……。現代日本と違うんだもんな。領主様つったら、偉いんだもんなあ。

 日本じゃ市長から「式典にでろ!」って言われて「やだ!」って断った所で「そっかー」で済むけど、何故か異世界によくいる貴族様達が相手だとそうは行かないからな。


 国王程じゃないにしろ、強力な権力を持っているし、うっかり小馬鹿にしたものなら「不敬!」とかいってお仕置きされてしまうんだろう?


 いやあ、ここの領主様が優しい人で助かった……。

 そりゃさ、出なきゃ罰だぜー!なんて言われたら出るけどさ、ああいう目立つ場にはなるべく立ちたくねえからな!


 俺はヒーロー的な性格じゃない、どちらかと言えば陰の者ですからな……!


「さてと。名残惜しいですが私からの伝言は以上です。式典に参加されないという事ですが、勿論一般客観覧することは出来ますので、良かったら来てくださいね。

 なんたって、今回の功労者さんなんですから!」


「あはは……そうですね。一般人として陰から見させてもらいますよ。なあ、ミー君……」


「あの! おふっ! お風呂は!? お風呂は入れるの!?」

「わっ! 近いですよミューラさん! お風呂……ですね? え、ええ。勿論……施設開場は式典が終わった後、午後1時からになりますけれど……」

「入ります! 1時だね! ナツくん、忘れないでよ! 明日1時! 私達は温泉に入る! いいね?」


「わかった、わかったから少し落ち着いて……すいませんね、ミー君の奴、アレを見つけた時からずっと楽しみにしてて……」


「いえ、わかります、わかりますとも! 女性にとってあの施設から放出されるお湯は救世主のような存在です。私も一個人として早く入りたくて入りたくて……」


「だよね! ほら! ナツくん。ニーファさんだって楽しみにしてるんだよ? 明日は絶対入るんだからね!」


「ああ、ああ! わかったってば。今からそれじゃ明日疲れて風呂なんて入れないぞ」


「うっ……今日のところは大人しくしておくよ……」


「あはは……ではナツさん、ミューラさん。それとエミルちゃんにモモちゃんも明日を楽しみにしていてくださいね」


 ミー君の回復術としばしの休憩タイムで大分身体と心が落ち着いたのか、ニーファさんの怖い笑顔は大分和らぎ、実に晴れやかな表情でギルドへと戻っていった。


 しかし、明日を楽しみにって……そりゃ楽しみにしてるけどさ、一体どんだけ立派なセレモニーをやるんだろうな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ