67話 報告と提案とふわふわと
「わりいわりい。ちょっと出かけていてな」
大して申し訳なさそうな顔をせず、元気いっぱいにジールさんが入室してきた。
ジールさんとトーマ氏は顔見知りのようだったので、特に自己紹介タイムという物も無く、サクサクと報告会が始まった。
「えー、というわけでして……あのお湯は地中から汲み上げられているようなのですが、どうも魔力が含まれていましてね。
ええと……錬金術で作られたポーションは魔力が込められていまして……ああっと、そもそもですね、魔力と言う物は、ポーションの成分と結合して身体の治癒力を上げる効果があります。錬金術師が魔力を込めるのはそのためですね。
それでですね、遺跡のお湯には元々治癒力を上げる成分が含まれているようで、高濃度の魔力との結合もあって、軽い傷なら即時、深めの傷でも継続して入浴する事により、かなりの治癒効果が見込めるという事が判明しました」
彼が知らないだけなのか、この世界で知られていないのかはわからないけれど、龍脈という言葉が出る事は無く、何故魔力を帯びているのかは不明だという事であった。
ここで『あ、それ龍脈のお陰ですよ』なんて言ったら妙な事になるだろうという事は流石に俺もわかっているので、ただただ驚いたような顔をして話を聞いていた。
「しかし、驚きましたが本当に綺麗になっていましたねえ。生きている遺跡が何らかの仕組みで綺麗なまま維持されているのは見た事がありますけれど、死んでいた遺跡が蘇って速やかに清掃されたという話は聞いた事がありませんのでね、びっくりしましたよ」
ジールさんが何か言いたげな顔でこちらを見ているが……知らん! 知らんぞ! み、ミー君! そんなわかりやすい顔をして目をそらすのは辞めなさい! 見たまえよ、ジールさんが凄い顔で見てるじゃ無いか!
「正直に申しますとねえ、アレはもうそのまま入浴施設として使えると思いますよ。」
そうでしょうね。そのためにミー君が綺麗にしちゃいましたからね。
あっ ミー君がお風呂セットに手を伸ばしている! こら、ミー君! 今入れるって誰も言ってないだろ!
「……若干1名、既に入る気満々の奴が居るようだが……まだどうするかは決めてねえからな」
「えっ……あ、はい……そうだね……まだだめですもんね……うう……」
「はあ……まあ、そういう感じらしいんだがよ。ナツは何かあるか?」
「何かっていうと?」
「いやな、どうやらダンジョンの湯は特別製らしい。害も無いようだからそのまま入浴施設に使うのもやぶさかでは無いのだが、その事についてナツから何か意見は無いか?」
「そうですね、やはり折角だから施設はそのまま使っちまいましょう。
傷を負った冒険者達の療養上としては勿論の事、アレはきっとお肌が気になるお姉さん方にも効果は抜群です。癒やしの場として活用すればめっちゃ需要があるのでは?」
「ちょ、お肌に効くって本当ですか!?」
「わっ!? に、ニーファさん!?」
「あれが! お肌に! 効くって! 言いましたよね!?」
「あ、はい! じ、実はうちのエミルにも調査して貰ってたんですがね、肌の調子が良くなる効果もあるとの事で……」
「やりましょう、ギルマス! アレは絶対に公開しましょう! ね! ね!?」
「わ、わかった、わかった……それはいいけどよ、もう一声何か欲しいところだ。ダンジョンの采配権は俺にあるが、それを街の施設にしようとすれば領主との交渉も要るわけだ。
なあ、ナツ。なんか良い物無いか?」
なんか無いか、なんかいいもん無いかって俺はお母さんじゃないんですよ! まあ、有るんですけどね!
「今のニーファさんを見て分かったでしょう? アレは女性にとって救世主のような物です。噂を聞きつけた女性冒険者達がわっと集まってくるはずですよ」
おお! と、身体を乗り出すジールさん。
「来るのは勿論、女性冒険者だけでは無いでしょう。身体を痛めた冒険者が治療のためにやってきたりするでしょうし、妻や恋人に強請られた者が同行する事だってあるでしょう。
中にはあの施設が気に入って街に逗留する冒険者も現れるでしょうし、施設にハマって拠点を移す人も居るかも知れません」
「言われてみれば確かにそうだ。冒険者だけじゃねえよな。人が増えれば商人も来るだろうし、生産職の連中だって来てくれるかも知れねえ」
「ええ。ですからそれを目指して施設を運営するという方向でお話をすれば、きっと領主様だって首を縦に振るはずですよ」
「そうだな! いや、これは必ず話が通るはずだ。うし! 善は急げって言うしな! 俺はまた領主んとこ行ってくるからよ、お前らは勝手に帰っててくれ!」
「ちょ、そんな勝手な……ああ、いっちまった……」
トーマ氏も、ニーファさんも呆れた顔で開かれたドアを見つめていた。
まったく、どんだけせっかちなんだよ。
「すいません、皆さん……ギルマスには後で良く言っておきますので……」
困った顔で謝るニーファさんと、まだ少し唖然とした顔をしていたトーマ氏に別れを告げ、我々はダラダラとギルドを後にした。
「このお風呂セットをどうすればいいのさ!」
「帰って風呂場に片付けたら良いんじゃ無いかな……」
「もー! ナツくんばか! そう言う事言ってるんじゃ無いんだよー!」
「ははは、ミー殿そう荒れるでない。あの様子であれば時期に入れるようになるだろうて」
「ブー! そうは言うけどさ、今日まで結構待ったんだよ? 今度はどれだけ待たされるか」
「奴はまた領主の所に行くと言っておった。恐らくは既に例の施設について話は通してあるのじゃろうし、もしかすると既に入浴施設として使用する方向で話が進んで居るのかも知れぬ」
「え、じゃ、じゃあ……」
「うむ。我らの派遣期間が終わるまでにはきっと入れるだろうよ」
「やったー!」
両手を挙げ喜ぶミー君。良かったな、温泉間に合うってよ! 知らんけど。
我々の任期は残り20日ほど。
施設はそっくり綺麗になっているし、設備も恐らくはそのまま使えるはずだ。となれば、後は椅子やら机やら石けんやらなんやらの備品を運び込めば施設として使えるはず。
地球の常識で考えると、発注だなんだで間に合わなそうな気もしちゃうけど、そこはそれ異世界だ。何かこう、ファンタジー的なアレでちゃちゃっと出来てしまったりして、意外と間に合ってしまうのでは無いかなと思う。
多分!




