第48話 報酬は素晴らしく素晴らしくて素晴らしいな
ダンジョンアタックから数日後、俺とミー君は報酬を貰いにギルドに向かい、しっかりと受け取ってウッキウキで帰宅したのだが……早々にエミルから怪訝な顔を向けられた。
「なあ、ナツ殿。何かあったのか? 二人がギルドから戻ってからミー殿の目がどうも妙に見えるのだが。朝に見た時は普通だったが……まさかティールが何かしたのか?」
「ああ……アレね。別にティールさんのせいじゃねえよ……」
「違うのか……ではあの顔は?」
「器用な真似しやがるとちょっと感動すら覚えるよなー」
「いや、普通に不気味なのだが」
「直ぐに飽きてやめるから我慢してなって」
エミルが珍しく狼狽している。その原因は今話していたとおりミー君だ。
今、ミー君の目は¥マークになっている。
器用なことにこんな顔で…… (¥ν¥)
フラフラと妙な踊りを踊っているのだから、エミルが恐れ慄くのは仕方がない。
何故こんな事になったのか、それはギルドから得られた報酬のせいである。
回収した遺物はミー君がごね、その全てが売られること無く我が家の資産になっちまったので、それ自体は報酬金額に上乗せされなかったのだが、赤い熊さんの討伐報酬に、その素材、そしてダンジョンの発見報酬と踏破報酬、そして移譲代金の合計金額を見てミー君がぶっ壊れてしまったのだ。
内訳としては……
ヘヴィルヴィベア 討伐 大銀貨3枚
ヘヴィルヴィベア 買取 金貨1枚 大銀貨2枚
ダンジョン発見報酬 大銀貨5枚
ダンジョン踏破報酬 金貨1枚
ダンジョン移譲代金 大金貨1枚金貨2枚
合計 大金貨1枚 金貨5枚(日本円換算1500万円)
こんなにたくさん貰ってしまったものだから、ミー君の目が¥になるのは無理もない。
額が額なので、安全のために報酬はギルドの口座に入れておくということで、実際に金貨を目にすることはなかったのだが……明細を見た瞬間、実は俺の顔もミー君と似たような事になっていたんだよな……。
まあ、俺の場合直ぐに浮かれ気分から覚めるような出来事があってさ、エミルから不気味がられるようなことにはならなかったんだけど。
その出来事とは、明細を懐に入れ、意気揚々とギルド1階に降り立った俺の耳に飛び込んだ不名誉な二つ名の件だ。
「おい、来たぞリトルオーガだ……」
「マジであの大太刀背負ってやがる……」
「なあ、みたか? あの日あいつが引きずってきた魔物……」
「ああ、ヘヴィルヴィベアだろ? ゴールドでもやべえ魔物をよくもまあ……」
「しかも素材として最高ランクだったとか。ほぼ無傷の状態だったらしいぞ」
「まじかよ……きっとあの大太刀で一撃だったんだろうなあ……」
「しかし流石リトルオーガだよな! 俺には台車があっても一人じゃ運べねえよ」
「だよな! リトルオーガはすげえや!」
盛り上がった冒険者共が……いつの間に考えたのか知らんが、リトルオーガ、リトルオーガと口々に叫び、一応は俺を讃えているのだろうが……こう、バカにされているような気がして辛い……。
ミー君は目を¥マークにしたまま心ここにあらずでフォローを入れてくれる余裕もなく。
ついには職員まで一緒になってリトルオーガコールをし始めたのだからたまらない。
仕方なく、ほんと仕方なく……場の空気に飲まれるままに右腕をぐっと上に上げると……。
「「「「「うおおおおおおお!!!リトルオーガァ!」」」」」
と、大盛りあがりである。
あーあ……やっちまった。これで今日から俺の二つ名はリトルオーガだ……くそっ なんでそんな二つ名がついちまったんだ……?
周囲の話からすればどうやらこの大太刀のせいみたいだが……くっ!
響きだけはこう、悪くはなさ気なのに……何故だろう? 俺の耳には『小さなゴリラ』と呼ばれているように聞こえるんだ……!
そんなわけで、俺は速やかに金貨の酔から覚め、こうしてエミルに事情を説明できるまでになったのだが……。
「しかしな、ナツ殿。ミー殿に悪い癖がついてしまっては困る。どうか直ぐに戻してくれないか」
どうしても不気味に見えるのか、エミルはミー君が我を取り戻すよう、必死にお願いをしてくる。
悪い癖っても、金に酔う癖なんてつくようなもんじゃないだろ……?
おもしれえから俺は暫くこのままでも良いかなって思ったんだけど……珍しくエミルが弱ってるからな。しゃあない、戻るか確証はねえが、一つ試してみよう。
ミー君が我を取り戻す為には、お金を貰った以上の感動を与えれば良い。
感動と言っても、お涙物のアレではなく、今回の場合は物欲からくるもの。何かすごく良いものを手に入れたときに胸が震える感動を与えてやるのだ。
先程ギルドから受け取ったのは金貨だけではない。カートに山盛りになった沢山の遺物達もまた、我々の手に戻ってきたのだ。
この中には俺が入れておいたノートパソコンと……良し、ちゃんと入ってたな。ルンボットの姿が。
まずは充電用のお家をチェックしてみる。
鑑定っと。
『おっす! とうとうこいつを鑑定したな? これはお掃除ゴーレムのおうちだ。何? みたまんまじゃねえかって? 当時そういう商品名で売られてたんだ、俺は悪くない。
さて、こいつの使い方だが……こいつには魔力を補充できるカラの魔石が入っている。そいつにチャージしておけば、後は勝手にゴーレムが食いたいときに魔力を食ってくれるって寸法だ。多少壊れているが、今のアンタなら……直せるだろ?』
ああ、うざい。頼りになるけどホントうぜえなこいつ。つうか俺のギフトまで把握してんじゃん。ほんとなんなのこいつ……。
鑑定さんに言われるままに【修復】を使い、おうちを直し……そっと手を触れて魔力を込めて……多分普通の魔導具を使う感覚でやれば……うおおお? すっごい吸われた!?
なんだろう? 身体の中からカロリー的なものをキュッと吸われた感覚がした。
倒れるほどじゃあないけれど、ほんのり腹が減ったような気がする……。
「む? ナツ殿!? 今何をやったのだ?」
「えっ? ああ、この魔導具に魔力を補充したんだが……よくわかったな」
「涼しい顔をして……今、凄まじい量の魔力が動く感覚がしたのだが……身体に不調はないのだな?」
「ああ、少しだけ空腹を感じた程度だ」
「まったく……ナツ殿は何処までも……いや、無事なら良いのだ。しかし、ナツ殿気をつけてくれよ。同様の事例で魔力枯渇に陥り、それがきっかけで死に至ったものも少なくはないのだからな」
「なにそれ怖い……ありがとうなエミル……次からは気をつけるよ」
いやマジで怖い!
今俺めっちゃ不用意なことしちゃったんじゃん?
おうちが魔力をそこまで吸うような道具じゃなくてほんと助かったわ……。
怖いから今度からチャージの仕事はミー君に任せよ……。
さて、気を取り直しお掃除ゴーレムのリペアに入ろうか。
こいつに感しては一度遺跡で鑑定済みなのでその必要は無いのだが……なんだか【鑑定】が『俺を使えー』と言っている気がする……いいや、だが断る! あのテンションは何度も聞いていると精神が削られるんだ。そう何度も聞いてられるか!
見た目的には壊れている様子がないが、振るとカラカラ音がする。ミー君が抱いたままブンブンと振り回してたし、きっと内部で何らかの部品が外れちゃって、好き勝手動き待っているのではなかろうか。
普通であれば分解し、その部品さんのお家を探して上手いこと元通りハメるという、くっそ面倒くさい儀式が必要となるのだが……【修復】さまさまだね。
えーいと念じるだけでピッカリ光ってあっさりと直ってしまうから楽ちんだ。
こうして直ったゴーレムくんだったが、思ったとおり動く様子はない。
そりゃそうだ。いくら修復できたとは言え、バッテリー切れじゃあな。
「さあ、数千年ぶりにご飯をお食べ」
そっと優しく抱き上げ、お家に押し込んでやると、パっとゴーレムに2つの明かりが灯った。
それはまるで目のように並んでいて……「ー ー」この様な灯り方をしていたのだが、少しするとパチパチとまばたきをするように動き、現在は「´ `」この様な感じで穏やかな表情? を浮かべ、まったりと充電……もとい、魔力チャージをしている。
犬のおもちゃに似たようなのがあったなと、懐かしみながらゴーレムを眺めていると、いつの間にか現れたモモが興味深そうにゴーレムを眺めていた。
「なあなあなつくん。これなんだ?」
「遺跡で拾ってきたお掃除ゴーレムだよ。これからはこいつが家の掃除するんだぞ」
「へえ、すごいな! モモが散らかしても綺麗にしてくれるんだな!」
「モモは散らかさない努力をしような」
「うー努力する努力をするぞ!」
やがて……ゴーレムの目が「`・ ・´」この様に変わり、何やらやる気に満ち溢れ始めた様な気配を発していた。チャージめっちゃ速いのな。
さて、こいつをどう使うのかなと思ったが……。
「おーしゴーレム! おめざめだな? お部屋のお掃除だー!」
と、モモが号令をかけた瞬間、おうちから飛び出してスイスイと掃除を始めたではないか。マジかよ音声認識タイプ? すっげえ! 最新型じゃん! 知らんけど!
「おー! 凄いぞー! あははは! うごけうごけー!」
上にモモを乗せたゴーレムは、どういう原理なのかわからないが、僅かに浮上しながら本体下部のホコリを吸いながら床を滑るように移動している。
地球と似たようなものがあるなと思っていたけれど、中々どうして百歩くらい先をいかれていたようだ。
……ふとしたネタとして『旧文明人は宇宙に逃げたのかもね』なんてエミルに話したけれど、これを見ちゃうともしかして本当に……と思っちまうね。
いやほんと舐めてましたわ異世界旧文明。
想像以上のオーバーテクノロジーを見せつけられて驚いたが、俺の中の男の子は大興奮だ。いやあ、どういう仕組みで浮いてるんだろう? ホバー? それともまさかの反重力?
わからんが、ルンボットのくせにかっこいいのだけは確かだな。
お掃除ゴーレムに乗りキャッキャと移動するモモをキャッキャと追い回していると、どうやらミー君の再起動が終わったようで、はっとした顔をしてこちらを見つめている……のだが。
「ふぇ……あれれ? ルンボットが動いてるよ!? あれ? モモちゃんが乗ってる? え? え? なに? モモちゃんが操縦してるの(?o?)」
と、今度は目を?マークにして動揺しているではないか。
「ナツ殿……見よあれを。ミー殿に悪い癖がついてしまったではないか……」
「ああ……悪い癖ってそういう意味か……すげえなミー君、昭和の漫画かよ……」
こうして初めての遺跡探索は無事終わり、我々は予想外の大金を手に入れてしまった。
あれだけあれば、きっと暫くは遊んで暮らせるのだろうけれども……きっとあの人が許してはくれないのだろうなと、ぼんやりと考える俺なのでありました……。




