第47話 閑話 エミルとティール
◆◇ティール◇◆
「しかし、予想以上の成果だったな」
「ええ……まあ、彼らならそうなるだろうと予想はしていましたが……」
「ああ、だがな。俺にも予想が出来なかったモノまで持ってきやがったぞあいつは」
「え……?」
最初は気にもしていなかったが……アレがソレだと気づいた瞬間、驚いて腰が抜けるかと思った。
まさか、そんなと。ありえないと。
「マミは……マナの流れが見えるんだったよな」
「ええ、両親いわく、我が一族が持つ特殊能力だと」
「だろうな。本来そんな真似が出来るのは俺たちエルフと妖精や精霊くらいのもんだ」
「それが一体なにか……?」
「いやな。ナツたちにくっついてきた少女がいただろう?」
「ええ、またナツくんが可愛らしい子を捕まえてと思ってみていましたが……」
「可愛らしい……か。確かに若い頃のアイツは見た目だけは可愛らしいと言えなくはなかったのだが……」
「あの、一体……?若い……頃? あの少女、まさかエルフなのですか?」
「いや、違う。だがな、全く知らねえ奴って訳じゃあねえんだよな……」
「ええと……?」
何処かで見たような顔だと思っていた。
記憶の片隅に引っかかる何かを刺激されたような、そんな気持ちになった。
しかし、ふと視えたマナの揺らぎで本人であると証明されてしまった。
「身体から揺らいで見えるマナってのは人それぞれ色や形が違う、それはわかるよな」
「はい。ナツ君達とミューラさんは金色の、エミルさんは銀色の大きなマナですよね」
「ああ、そのエミルがな……俺が知っているマナを出していたんだ」
「ええと、それは……?」
「リヒト・ノートルマンとシュリ・ベラザイア……精霊術師と剣士の夫婦、こいつらの事は有名だよな」
「ええ。シュリさんはすっかり丸くなってしまったとお聞きしていますが、かつては旦那さんとゴールドランクパーティとして活躍していたとか」
「ああそうだ。あいつらは幼馴染がそのままパーティを組んだパターンでな。引退するまで結構な貢献をしてもらったんだが……実はもうひとりパーティメンバーが居たんだよ」
「それは……知りませんでした」
「まあ、しょうがねえさ。そいつが引退したのは結構早かったからな。錬金術師であり、魔術師でもあったそいつはシュリに誘われるまま渋々とパーティに参加していたんだ」
「渋々と……」
「ああ、シュリには頭が上がらなかったらしくてなあ。元来出不精な性格なのに、渋々と依頼に出ていたもんさ」
「何故、その方は引退してしまったのでしょうか? シュリさんが辞めるなと言えば続けていたのでは?」
「だよな。そう思うよな。けどな、そうは行かなかった。シュリはリヒトと結婚した、それがあいつの心をへし折ってしまったのさ。仲良し3人組はメンバー二人の結婚で脆くも崩れ去ってしまった、まあ良くある話しだ」
「それはそれは……ああ、ということは抜けた方はシュリさんのことが……?」
「どうなんだろうな。まあ、恋愛感情というものはなかったと思う。親友を奪われたという感情だったのか、それを超えた家族のような存在を奪われたという感情なのか……」
「本当に恋愛感情がなかったと言い切れるのでしょうか?」
「んー、まあ世の中にはそういう人もいるからな。無いとは言い切れんが……ああ、わりい。肝心な事を言ってなかったな。その抜けた仲間っつーのは女だ」
「えっ?」
「変わり者の偏屈錬金術師。引きこもりの錬金術師、ほっとけば3日で死ぬ錬金術師……まあ、色々と不名誉な二つ名で呼ばれていたが、アレでも一応は女だ」
「……まさか……その抜けた方というのは」
「ああ、エミル・ネイツ。天才錬金術師であり、かつてはゴールドランクの冒険者であり……不慮の事故で亡くなった……筈のエミルで間違いない」
「亡くなったはず……と言うことは、ナツくんと同行しているあのエミルという少女は……」
「ああ、マナの揺らぎを見るに間違いなく本人だ……と思う。見知った揺らぎではあるのだが、若干変質して強化されていてな……マナの色も元々は銀ではなく、空色だった。
だから直ぐにそうだと気づかなかったが、あいつ、俺のことじっと睨みつけていただろう?」
「そういえば。ティールさんが知らずに何か失礼をしたのだとばかり思っていました。胸に手を入れた辺りから余計に睨んで居ましたので、私同様にティールさんの素行に顔をしかめているのかなと」
「お前……ほんと失礼なやつだよな……。まあ、なんつうか、リヒト等には結構頼っちまってな、結構無茶な依頼を出しちまったから……いっつもあんな顔で睨まれてたんだよ。当時そのまんまの顔で睨むもんだから驚いちまったよ」
「なるほど……しかし、何故亡くなったはずのエミルさんが若返ってナツくんたちと同行してるのでしょう?」
「わからん! 俺にはなーんもわからん! だが、ナツが買った家はエミルの家だ。そこには勿論何か関係があるのだろうな」
「まったく、息をするようになにかやらかしますよね、ナツくんは」
「ははは、本当にな! まあ、エミルもナツ達とつるんでるうちは悪いようにはならんだろ」
「……だといいんですけどね」
◆◇エミル◇◆
逃げ遅れた結果、ナツ殿と共にギルドの上に通されたが……あの部屋にはいい思い出がないのだ。
若き頃、シュリやリヒトと共に冒険者稼業を嫌々やっていた頃には良くここに通されたもんだ。
笑顔が怖いウサギ族の職員……アヤとか言ったか? 底の知れない黒い笑顔に晒されながら依頼報告をしている時は何だか背筋がザワザワとしてたまらなかったものだ。
……今日居た娘もまた珍しいウサギ族の獣人であったな……まさかアヤの娘……その可能性は高いな。あの娘からもまだ甘いが、中々に恐ろしげな雰囲気が漂っていたからな……。
まあいい。職員のことはいいのだ。
問題はティール、あのガサツが具現化したようなエルフがまだギルマスをしているなんて思わなかったぞ。
我が冒険者として活動していたのは22かそこらの時まで。
今から凡そ45年くらい前だろうか。当時の我々はまだギリギリ幼馴染3人組としての均衡を保ち、なんとかパーティとして活動できていたのだが……。
あのティールには当時かなり面倒な依頼を押し付けられていたからな。
今日ああして再び顔を見た瞬間、昨日の事のように若りし頃の記憶が蘇ってついつい睨みつけてしまったわ。
……まあ、当時と変わらぬ姿で平然と座っていたのを見て腹が立ったというのもあるがの。
あいつの、エルフの存在が我に不老の研究をさせたと言っても過言ではないからな。ティールこそが我が一度死ぬこととなった原因、仇であると言ってしまっても良かろう。
……奴とは依頼以外にも少し、ほんの少しだけ付き合いがあったからな。
その縁があって我が家をギルドで引き取り、管理してくれていたのだろうと思えば……少しは感謝の気持ちはあるのだが、それでも我の蒐集品を持ち去って売り払ってしまったらしいことだけは許されぬ。
ナツ殿とミューラ殿に出会うきっかけを作ったという事を考慮して最大限に加減はしてやるが……。
奴め、我を見て驚いた顔をしていたからな……きっと我をエミル・ネイツであると見抜いていることだろう。
となれば、そう遠くはない日に二人で語らう時が来るのだろう。
ククク……楽しみにしていろ、ティールよ。
その時は特別に調合した酷く不味い茶を謀って飲ませてやるからな……。
舌を洗って待っているが良いぞ。




