第46話 ガラゴロゴトンと報告に
ガラガラゴロゴロゴトンガタンと、我ながらやかましいパーティですいませんねと心のなかで謝りながら街を歩く。
この世界にも手押し車は存在してるわけだから、カートと台車を押す我々の姿はそこまで珍しい光景ではないと思うのだが……やたらと周囲の注目を浴びている。
何故か?
「な、なつくうん……流石に今日は私も疲れたよ……ねね、先におうちに荷物置いちゃおうよ」
「だめだ。遺物は一度ギルドに提出する義務があるんだ。家に持って帰ったらすんげえ怒られちゃうんだぞ」
「ふええ……でもさ、こんなに沢山あるんだから……許してほしいよう……」
「そんなに沢山アホほど積み込んだのは何処の駄女神様なんだ?」
「うわーん! ナツくんが厳しいよー!」
ミー君がアホだからである。
自重しなさいと言ったのに、よくわからん服やらアクセやら時計やらカバンやら……おいおい爆買ですか? ってレベルで山のように積み上げているわけで。
遺物をアホほど積み上げて移動したら嫌でも目を引くだろう?
そんなわけで、我々はミー君のせいでやたらめったらと街の皆様の視線を独り占めにしているってわけなのだ。
まったく困った女神様だぜ……!
「ふわあ……よく寝た。難しい話される眠くなっちゃうよ……でね、モモびっくりしたけどさ、ゆうくんが押してるやつ凄いな! 見てよみんなびっくりしてみているよ!」
……あっ。
すっかり体の一部と化していて忘れていたけれど、俺は今ヘヴィルヴィベアとやらが乗った台車を押しているのだった……。
そうかあ……俺も視線の原因になってたかー……まいったな……本当にまいったな……。
通りで街の門番してるおっさんがキョドってたわけだよ。いつもフレンドリーなのに、変だなあとは思ったんだ。
さて、こいつをどうやってギルドに入れようか……そう考えながら歩いていると、聞きたかったような、聞きたくなかったような声が聞こえてきた。
「ギルドでお待ちしていましたが……そんな状況ではなさそうでしたのでこちらからやってきました」
「ゲ、ゲエ! マミさん!」
「あ、ただいまー! マミさん」
「……まったく。まさかこんなお土産を持ってくるとは思わない……いえ、なにかするとは思っていましたが予想以上でしたよ」
「ははは……ご期待に添えたようで何よりです」
「とりあえず、先にこのベア種……ヘヴィルヴィベア……ですか……よくもまあ……いえ、これを解体に回してしまいましょうか」
呆れ顔で話すマミさんだったが、話す声は何故か嬉しそうに聞こえた。
こいつの素材が何か有益に使えるとかそういう感じなのかな?
しかし、解体に出すにしろ、ギルドに入らないのでは――と思ったが、どうやら直接解体場?に入れる裏口があるそうで。
「こっちの入り口から入る冒険者は滅多に居ないんですよ?」
「ははは……すいませんね、そのまま持ってきちゃって。いやあ解体するのが面倒だったのでつい……」
「……そういう意味では無いのですが……」
中に入ると威勢がよい解体長のおっさんが居て――と言うこともなく。
白衣を着たこぎれいなお兄さんと何か非常に事務的なやり取りをした後はカートごと解体部の人達に預けることとなってしまった。
くっ……ここはさあ……
『おいおい、なんだ騒々しい! 忙しい中わざわざ俺を呼び出しやがって……こっちの入り口を使って下らねえ獲物だったら覚悟しろ……って、何だおめえ! ヘヴィルヴィベアじゃねえか……おい! お前らこっち手伝え! 今夜は徹夜だぞ!』
『『『うおおおお!!!!』』』
とかそういう感じで男臭く盛り上がるシーンじゃねえのかよ……。
「どしたのナツくん? 悔しそうな顔をしてるけどおやつでも落としちゃった?」
「いや……なんでも無いんだ……ただちょっとテンプレというものが羨ましくなってな」
「……?」
まあ、マミさんもそこまで驚かず『ベア種ですか』なんて言ってたし、直ぐに『ヘヴィルヴィベアかあ』なんて名前まで言い当てていたからな。きっとデカいだけデカくて珍しいもんじゃあないんだろう。
「ああ、ミューラさんの台車はこちらにお預けくださいね」
「え……あ、うん。そう……でした。一度預けるんでした……」
「ふふ。大丈夫ですよ。今回持ち込まれた遺物の権利は全てあなた方にありますから。一度鑑定や調査をさせていただきますが、きちんとお返ししますよ」
「そ、そう? ありがとね、マミさん」
「いえ、お気になさらず」
ミー君のカートは複雑な表情を浮かべた職員によってガラガラと何処か別の部屋に押されていった。
あの表情……山盛りのカートに引いたのか、妙な台車に驚いたのか……前者だろうな。
「ふー! これで私達は身軽になったね! よしナツくん! 帰ってお風呂入ってぐいっと……」
「いえ、皆さんにはいつものお部屋でお話をさせていただきますよ……そちらの方もご一緒に」
「む……我はモモと先に帰ろうと思っていたのだが……」
「いえ、そうおっしゃらずに……ギルドマスターが是非貴方にも同席をと、言っていましたので」
「ぐぬぬ……仕方がない……ナツ殿の顔を立てて同席しよう」
「モモもついていくから元気だせー! エミルー!」
「うむ、ありがとうなモモよ」
エミルの嫌そうな顔と言ったら。
それもそうだろうな、ギルドには家を接収されているのだから恨みが無いわけがない。 いわば宿敵の牙城に来ているわけで、その親玉に呼ばれているとなれば嫌な顔の一つや二つ出てもおかしくはない。
心底うんざりとした表情を浮かべるエミルと、やたらとニコニコしているミー君。対極的な二人と共にいつもの部屋に向かった。
「待っていたぞ、ふたりとも。聞くまでもない、まずは踏破おめでとうと言わせてくれ」
扉を開くと、嬉しそうな表情を浮かべながら待ち構えているギルマスの姿が! ほんと口を開かなければ綺麗なおねーちゃんなんだけどな……つか、ギルマスが待ち構えてるとか心臓に悪いんですけど!
「わ、ギルマス……今日はいきなりの登場ですか」
「ははは、そう嫌そうな顔をするな。あんな物を持ち込んだんだ、俺が顔をださないわけがないだろう?」
あんな物……ああ、カート満載の遺物な。確かにあんなに持ち込んだって聞いたら、俺だって話を聞きにわっと出てきちゃうわ。
椅子に座るように促され、間もなく出された茶を啜りながらざっくりとした報告をしていく。
報告を聞くティールは唸ったり笑ったり顔を顰めたりと忙しかったが、熊さんを討伐した話をした時はこれまで一番の大笑いをしていた。
「くくく……なんだ? ナツが太刀を振るう必要もなく勝手に自爆しやがったっていうのか?」
「ええ……結果的に言えばそうですね。俺が飛びかかろうとしたら……勝手に頭割ってお亡くなりになっていたんですから……はあ……」
「わっはっはっははは! そう嘆くなナツ。結果がどう有れ、ミューラが床を凍らせ、エミルが目を眩ませという作戦はナツが考えたものなのだろう?」
「まあ、それはそうなんですけどねえ……」
「お前が居なけりゃこの結果は出せなかった。だから胸張って誇れ! つーわけで、お前とミューラはシルバーランク合格だ!」
「わあ! やったねナツくん!」
「……何だか複雑だが……うむ! やったぞミー君」
「なんだー! わかんないけどやったな! わーい! わーい!」
ミー君と、ついでにモモと喜んでいると、ギルマス……ティールさんがスッと何か書類を差し出してきた。
「こいつは……まあ、一応形式上ではあるが、ダンジョンの権利移譲同意書だ」
「権利……ですか?」
「ああ、発見されたダンジョンは国の所有物になり、ギルドに維持管理が委託されるためいくら第一発見者と言えども自分の物にすることは原則出来ない。が、発見者に利がないというわけでもないんだ」
書類を見ると……ダンジョンの権利を国に明け渡すことと、査定をした上、適切な金額が発見者に支払われる……と書かれていた。
ダンジョンが国の所有物になるっていうのは、発見者から購入した上でその権利を得るという事なのか……問答無用でそうなるもんだとばかり思ってたが、こいつぁ嬉しい誤算だな。お小遣いゲットじゃん!
「遺物が報酬みたいなもんだと思ってましたが……ダンジョンって売れるんですか……」
「ああ、国は喜んで買い取るぞ。場合によっちゃあ一生遊んで暮らせるほどの金額でな」
「ヒエエ」
「はは、まあそうなるわな。だが、それは稀だ。よく見つかる小さい遺跡は金貨数枚が関の山ってとこだが……まあ、それでも結構な稼ぎになるからな。だからダンジョンハンターを名乗り、各地のダンジョンを探すのを生業としてる連中なんてのもいるんだぞ」
その話を聞いたミー君の目がギラリと光った気がするが……君、自分の役目を忘れてないよな? これでも俺、自ら外界に降りた君のこと少し尊敬してるんだからな? 失望させないでおくれよ?
「まあ、ダンジョンの査定は暫く掛かるし、遺物やベアの査定と調査も数日かかると思う。つーわけで、今日はもう帰ってこいつを肴にのんびり過ごすと良い」
ティールさんが胸元に手を突っ込み引き抜くと、ジャラリと音を立てて銀色のカードが現れた。瞬間、マミさんから大きなため息が聞こえてきた気がするが……手渡されたカードのぬくもりに神経を集中させるため気にしないことにした。
……しょうがねえだろ? 黙ってれば美人なんだからさ……おっきいんだからさ……。
「ほら! ナツくん! 何カードを握ったままぼうっとしてるの!? ほらほらナツくん! 銀色だよ! 銀メダルだよ! うわー! 本当に銀だ! シルバーランクだー!」
「ああ、銀だな……いいよね銀……」
「いい……」
「よくわかんないけどギンはいいな!」
「ああ、じわじわとシルバーランクに上がった嬉しさがこみ上げてきたぞ! やったなミー君!」
「うんうん! この間までウッドランクだったのが嘘みたいだよ!」
「……」
「……」
妙なテンションで盛り上がる我々を見て呆れたのか、エミルとティールは何故か無言でじっと顔を見合わせていた。
その顔は二人とも苦虫を潰したかのようで……これはきっとはしゃぎすぎた俺達に少々引いてる感じの顔なんだろうなあ……。
やっちまったわ。




