第45話 閑話 教えてエミル博士 旧文明の滅びの巻
ガラガラガラガラとカートを押す音とガタゴトガタゴトと台車を転がす音が鳴り響く帰り道。
荷物のせいで遅い足並みにすっかり退屈になった俺は、ふとした疑問をエミル博士に問うてみた。
「なあエミル。不思議に思ったんだが、旧文明はどうして滅んだ……いや、なぜあの文明を……施設を使った生活を現代まで維持出来なかったんだろう? 何かわかっていることはあるのかい」
「滅びの理由に関しては諸説あり、どれも今ひとつ決定打に欠けているため、あくまでも我の私見になるが……急にどうした? なにか気になることでもあったのか?」
「ああ。あの遺跡は魔導炉が現役で稼働していて施設自体が生きていただろう? 言い換えれば旧時代の人々は生活の役に立つ施設を使って生き延び、文化を維持できたはずなのに何故それが出来なかったんだろうなって」
「なるほどな。あそこ以外にも稼働中の遺跡は複数現存している。故にその点を疑問に思い、調査をする学者共は数多く居るな。しかし……その件についても未だハッキリとした結論は出ていないようだな」
「数千年ってレベルで旧文明から時が経っているらしいからな。そんな前の建物が風化せず現存しているのもすげーと思うが、当時の情報なんてろくに残っていないのだろうなあ」
「いや、一応遺跡から旧文明の文字が記された紙が発掘されることは良くあるのでな、情報自体は残っていると言えよう。だが……それもまた、解読中でな……」
「ああ……そういや俺は普通に読めちゃうけど、普通はよめねーんだったな」
「うむ……そう言う部分でもナツ殿は規格外なのだが……」
「あの施設もさ、すげえ違和感を覚えるんだよね」
「違和感?」
「ああ、まずひとつめ。滅びた文明の遺跡だというのに、亡骸がひとっつも無かったことだ。何か災厄が起きて滅びたというのであれば、犠牲者の亡骸がありそうなもんだろ」
「なるほどな。それについても以前ネタに上がったことがあったと思う」
「と言うことは、他の遺跡もそうなのかい?」
「ああ、不思議とどの遺跡にも旧人類の遺体は無い。風化して消え去ったのではと言う者も居るが、私はそうは思わない。恐らく、どこか別の場所に住む場所を移したのでは無いか、そう思うのだ」
「別の場所に……なるほど、すると違和感二つ目は自動的に消えるな」
「ふむ?」
「想定外の大災害に見舞われた時、人間てのは大なり小なり本性が出る物さ。もう組織という物が役に立たず、自らの力で生き抜かなければいけなくなった場合、追い詰められた人間はどういう行動に出ると思う?」
「……略奪だな」
「ああ。全てがそうだとは思わんが、素行が悪い者が店の商品を略奪し出せば、周りもそれに便乗するのは目に見えている。しかし、あの遺跡は綺麗なもんだった」
「そうだな。他の遺跡もそうだぞ。魔物や盗掘者によって荒らされることはあっても、元から荒らされていたような遺跡というのは今までにも存在していない」
「追い詰められる様な状況が訪れる前に、人類は何処かへ移動したと言うのであれば、遺跡がそっくり綺麗なまま残っているのも頷ける」
「もしかすると、何時かまた戻ってこれると信じてそうしたのかも知れぬな」
「ううん、SFめいたきたぞ!」
「えすえふ?」
「少し不思議の略だよ!」
「ふむ?」
「まあいいだろ! で、最後の違和感なんだが、これはあの遺跡の名前だ」
「ほう、確かファッションシェルターシュカーラ、そう言う名前だったな」
「うん。その『シェルター』というのは『避難所』という意味合いを持つんだ。なので通常店舗名に使われるような事は無いと思うんだけど……」
「避難所……ううむ、もしかすると地上に住めないほどの何かが起こり、地下に街を作って避難をしていたのではなかろうか」
「ああ、俺もそう思う。シェルターって付けてるのは皮肉か、それともそう言うルールでもあったのかも知れないな。食材関係なら『フードシェルター』とか付けるような感じでさ」
「地上から地下へ、そしてそこでも生きられない何かが起きた……ともすれば人類は、祖先達は一体何処へ移動したのだろうな?」
「不思議だよな。残されたのは水中と空中……あるいは宇宙……?」
「うちゅう?」
「ああ、この星の外……っていうか、惑星上に住んでいるという概念はあるのか?」
「わくせいじょう……? すまぬ、わからん」
「俺が知る世界とは違うから、俺の常識通りとは限らんが、それに当てはめて説明すると、俺達が立っているのは途方もないほど巨大な球状の物体だ。空に見える星々はさらにとてつもなく遠くに存在する同様の物だと思ってくれ……厳密にはもっと細かい説明が要るのだが、長くなるから、俺達は星の上に立っていると考えてくれて良い」
「むむむ……色々と質問をしたいが……なんとなく理解できてきたぞ。つまりは、球状であるこの地……星より外へ、空の向こう側へと避難したのでは無いか、そう言う事かな?」
「あくまでも俺の想像だし、技術力が高まった人類であればそう言う事も可能だという話しだけどね。俺が生まれた世界は旧文明に近い世界だと思うけど、流石にそこまでは未だ達しては居ない。だから相当に文明が進まないと不可能な話しさ」
「ふうむ……ふふ……ふふふははははは!」
「急に笑うなよ! びっくりするだろ!」
「いやなに、本当にナツ殿達と居ると退屈せぬなと思ったのだよ。その様なとてつもない話、我には、いやこの世界の学者には想像すらつかぬ事だからな」
「そうかい」
「うむ。どうだろうか、ナツ殿。今後ミー殿と共に信仰力回復のため、各地を旅するのだろう? その際、余力があればダンジョンに寄り、調査をしてみるというのは」
「調査……滅びの原因を探るって言うのかい?」
「ああ! 我の好奇心の為というのも本音だが、管理者様たるミー殿の為にもなるのではないかなとね」
「確かにな。滅びの原因は加護が失われたことが関わっているとは言え、必ずしもそれだけでは無いかも知れない。他に何か原因があるとすれば、将来訪れるかもしれない災厄を知る切っ掛けとなると考えればミー君のためにも、この世界の人達の為にもなるな」
「ナツ殿はきちんと我らの事も考えてくださっているのだな……」
「そりゃそうさ。エミルやモモ、それに親しい人達が住む世界なんだ。この世界の管理者たるミー君の従者として共に護ろうと思うのは当たり前じゃん」
「ありがとう、ありがとうな! ナツ殿! ミー殿は慧眼だ! ナツ殿のような素晴らしい者を従者として選んだのだからな!」
「あ、あんま言うなよエミル……恥ずかしくなってくるだろ……」
ガラガラゴロゴロ、ゴトゴトガララン。
照れ顔の俺とそれには気づかぬミー君。退屈で眠ってしまったモモに、キラキラとした顔で微笑むエミル。
何時か何かが起こり、こんなにも穏やかな日常が壊されてしまうのは絶対に嫌だ。
だからさ、ミー君。俺は精一杯信仰してやるからな。
これからもよろしく頼むぜ、我らのかわいい女神様!




