第44話 脱出
「しっかし、この熊さんどうすんべな」
ビッタァアアアンと、床に寝そべっている赤い熊さんは体長5mは有ろうかという結構なサイズで。
持てるか試してみたら、意外と軽いみたいでなんと持ち上げることが出来ちゃったんだけれども、力は合っても背丈は足りず。
「やっぱこのまま歩いたら不味いよなあ」
「う、うむ。それを持ち上げているナツ殿は凄いが、引きずったらば折角の素材はボロボロになってしまうだろうな」
「じゃあさ、俺頭持つから脚をエミルが持ったらどうだろう?」
「な? 無理だ! 何を言うのだナツ殿は! 無理にきまっとろう!」
えー? 見た目より結構軽いんだけどな……。
ミー君はカートから手を離さないだろうし、モモは流石に無理があるからエミルに頼んだのに……ああそうか。エミルめ、以外とこういうのが苦手なタイプか?
もふもふでも顔が獰猛な生き物は触るのも怖い! みたいなさ。かわいいとこ有るじゃ無いか。
となれば……やはり俺が一人で持っていくしか無いのだろうけれど、どうしたもんか。
「ねえね、ナツくん! 向こうに大きな台車? があるよ!」
「むっ!? おお、マジだ。でかした! 今日はなんだかでかしまくりだなミー君!」
「えっへっへー」
アレはなんて言うんだ? カゴ台車っていうんだっけ。業者が運搬に使うような縦に長いカゴがついた台車。
それのやたらとデカい奴が、奥の部屋……おそらくは倉庫かな? そこに何台か転がっていた。
何を運んでいたのかは知らないけれど、結構大きく頑丈そうで【修復】をかけて熊を乗せてみたら、このまま運んでも問題なさそうであった。
本来は車的な乗り物で引くような奴なんだろうけど、案外人が引いても行けちゃうもんなんだな。
ミー君が『お祭りの山車みたいだね』って言ってるけど、確かにだ。飾り付けをしたらそんな感じに見えるかも知れないな。
「いやほんとめっけもんだわこれ……しかし、こっから出口までこれを持ってくの大変だぞ。最初の入り口にゃあスロープが無かっただろ? 階段どうすんべな……」
「大変だねーナツくん。頑張って台車ごと持ち上げたらどうかな?」
「涼しい顔で言ってますけどね、ミー君。君もカートを担いで階段を上らないとならねーんだぞ」
「あっ……」
他人事のように言っていたミー君が途端に顔を青くする。
ミー君も結構力がついたとは思うけれど、それでもカートを持って階段を上るのは嫌なのだろう、何か方法が無いか必死に考え始めてしまった。
「うーんうーんうーん!」
「トイレは向こうのフロアだよ、ミー君」
「ちがうよ! ナツくんのバカ! それにさっき行ったから知ってるよ! エレベーターの脇にあったもん!」
「行ったって言う報告はしなくてよろしい……っていうか、ここのトイレ普通に使ったのか……」
「うう……思わず言っちゃった……でもね、大丈夫だったよ? ちゃんとお水流れたし、手を乾かす奴も動いたし……って……あーーー!! そうだ!」
「わ、びっくりした! いきなりでけえ声出すな!」
「ごめん……あのさ、ナツくん。良い方法を考えたよ」
「む? 今日のミー君は冴えてるからな、意外と当てに出来そうだ。よし、言ってみなさい」
「えへへ、あのね、そこにおっきなエレベーター有るじゃん。それで上まで上がったら良いよ。おトイレが使えたんだよ? きっとエレベーターも使えるはずさ」
エレベーター……。
そう言われてみれば、確かに搬入用か何か知らんが、一般的な物よりもデカいエレベーターらしい装置が奥に見える。
ここは施設的に言えば1Fに当たる場所だと思うのだが、案内パネルを見るに、どうやらここからさらに上階に出口があるようだった。
そう言えば、遺跡の入り口から駐車場まではなだらかな下り坂になっていた。
そこそこの距離を歩かされた覚えがあるから、エレベーターにしてワンフロア分くらい上れば丁度地上に出る……というわけか。
しかしなミー君、いくら施設が生きてるとは言え……エレベーターが壊れていないとは限らないんだぞ……。
「やだなあ、ナツくん。もし壊れてたら【修復】を使ったら良いじゃない」
「なるほど! マジで今日は冴えてるー!」
「えっへっへー!」
エレベーターらしき物を調べてみると、予想通りボタンを押してもウンともスンとも言わず、どうやら故障してしまっているようだった。
エレベーターともなれば、かなりの広範囲に渡る巨大な物体……物体? とにかくでけえだろうから、正直直せるかはわからん。
なので、ダメ元で……めっちゃ気合いを入れて【修復】を使った。
すると……。
「あっ! みてみてナツくん! ボタンがぴっかり光ったよ!」
「おお! やるじゃん俺!」
気合いを入れただけはあったようだ。エレベーターに関わる部分全てがバッチリと修復されたようで、ボタンに明かりが点り、どうやら使用できそうな状態になった……と思う。
「ナツ殿、先ほどからミー殿と何かやっていたが……これはいったい?」
「ああ、エレベーターだな。ざっくり言えば、魔力を動力とした上下方向にに移動可能な小部屋で、人や物資を各階に運ぶのに使われる移動装置だよ」
「おお……そんな物が……というか、ナツ殿はほんと遺物に詳しいのだなあ」
「いや詳しいっていうわけでも無いんだが……」
「ちなみにそのエレベーターという物は他にはどのような施設で使われ――」
興奮したエミルがどんどんと早口になっていく。このままではいけない、このままだと質疑応答が始まって話が一個も進まなくなる!
そう危惧した我々は素早くエレベーターの扉を開くと、台車毎グイグイとエミルを押し込み、有無を言わさず上昇ボタンを押した。
ふう……これで取りあえず上まで出ることが出来るぞ。
「ねえね、ナツくんナツくん」
「なんだい、ミー君」
「勢いのまま乗っちゃったけどさー? これ、一体何処に繋がってるのかな?」
「あっ」
我々が目指しているのはダンジョン最上階にある駐車場である。
そこまでたどり着ければ後は平坦な道だ。カートなり台車なりをゴロゴロと押していけば無事に脱出できる。
しかし、先ほど我々がいたのは位置的にそれとは反対側、つまりはそんな場所から上を目指して移動した場合、到着するのは未知の場所……。
そして、向かう先は駐車場よりもさらに上層であろう、地上部分。
エレベーターがこうして動いている以上、この先が土に埋まってしまっていて、我々の物語が終わってしまう……なんて悲しい事は無いと思いたいが……。
……一体我々は何処へ運ばれているのだろうか。
予想通り1Fから地上まではさほど距離は無かったようで、直ぐに到着を知らせる『ポーン』という気の抜けた音が聞こえ、ゆっくりと扉が開いた。
ゴクリと喉を鳴らしながらゆっくりとエレベーターから降りる。
開いた先は入ってきたときと同じような大部屋のようだったが、規模は小さめで生きている照明が少なく、そのためか薄暗い。
僅かな光源を頼りに周囲を見てみれば、あちらこちらに台車や運搬用の乗り物らしき物が転がっていた。
かつてはここにトラック的な物が乗り入れ、商品等の荷下ろしをしていたのだろうなあ。
「ねね、ナツくんナツくん」
「なんだい、ミー君」
「あそこにある重機を修復したらさ、帰り乗って帰れるんじゃ無い?」
「そうかも知れないけど……どう考えても3人乗れるようなもんじゃねえし、何より悪目立ちするだろ……駄目だ駄目!」
「ちぇー」
確かに面白い案だと思うし、かなり惹かれるけどさあ、今の俺達があんなもんに乗って帰ったら、あっさりお国に徴収されちゃいそうな気がするんだよね。
折角直してそれは悔しいだろう? 惹かれるけど今は我慢だ。もう少しこう、異世界チート主人公みたいにさ、領主などにため口聞けるくらいの強さと影響力を持ってからじゃ無いとそんな目立つ真似はとても出来ないよ。
だから今は我慢だ! 我慢!
……我慢だぞ、俺!
人知れず血涙を流し、愛機となり得た重機に後ろ髪を引かれながら探索を続けていると、モモが弾けるように嬉しげな声を上げた。
「あ! 向こうから風が吹いてくるぞ! 森の匂いがする!」
ふよふよとモモが飛ぶ方向について行くと、やがて遠くにうっすらと光が見えた。
向かった先には通路がある。向こうに光が見えるからにはきちんと外に繋がっているのだろう。
入口側の通路とは違い、草が生えていたり、土でボコボコしたりはしているが、魔物の姿は無いようで、ガラガラゴロゴロと賑やかな音を立てているのに平和そのものである。
なので長い通路もあっという間に通り抜け、我々は出口に到着した。
なにやら草に覆われてしまってはいるが、その隙間から光が差し込み、草をかき分けてみれば懐かしき森の緑が目に入る。
カートや台車が通れるようにざっくりとナイフで草を切り分け通り道を確保し、ゴロゴロと外に出てみれば……
「あれえ? ここってモモ達のおうちだよ? なんでなんでー?」
「ええ……マジだわ。例の広場じゃん」
我々が出た場所は妖精達の住処だった広場だった。
少し離れて後ろを見て、なるほどなと思った。
今出てきた場所はなだらかな丘のようになっていて、それを視線で辿ると我々が突入したポイントであろう場所が木には隠れていたが、なんとか確認できる。
「ああ、合点がいったぞ」
「知っているのかエミル」
「知っているというか、納得がいっただけなのだが……いやな、妖精達が好むのは魔力が多く集まる場所というのは知ってるな」
「え? あ、うん。そうだね。シュリさんちの池みたいな」
やべえ、知ってて当然だよなって顔で言われてびびって適当なこと言ってしまった。
……が、エミルが満足げに頷いているからそれで正解なのだろうな。
「うむうむ。そしてここもまた、妖精が好む魔力――マナが多く集まる場所なのだが、その出所は恐らくあの魔導炉なのだろう」
「なるほどな。魔導炉からあふれ出した魔力に釣られて妖精達がここに集落を作ったのか」
「であろうな。そしてマナは魔物も好み集うわけで……大規模なダンジョンには強い魔物が生息していると聞くが……恐らくは魔導炉の魔力を狙って集まり、それを吸収して力をつけているのだろう」
なんだか恐ろしい話しを聞いちゃったな……ていうか、あの魔導炉そのままにしちゃまずかったのでは。魔物ホイホイになっちゃわない?
なんて思ってたら、思いっきり顔に出ていたのか、直ぐにエミルが否定をした。
「いや、あの魔導炉はそのままにして置いた方が良かろうな。あのように状態が良い遺跡は稀だ。恐らくは国家としてもギルドとしても詳しく調べたがるだろうよ」
「服やカバンを調べても面白くねえと思うんだが……」
「いや……そうではなく、魔導炉やそれに繋がる施設維持の魔導具の方だ。ナツ殿もミー殿の様なことを言うのだなあ……」
「くっ……ここ最近で一番効いたわその台詞」
「なんだか良くわからないけどわたしも傷ついたよ!」
「ははは、すまんすまん。ナツ殿、ミー殿」
嬉々として解説を続けるエミル先生によれば、遺跡探索に置いて魔導炉の発見と確保こそが踏破の証という事らしい……うん、今俺の中で『魔導炉=ダンジョンコア』であると自動翻訳されたぞ。
踏破されたダンジョンはその報告後直ぐにギルドから職員が派遣されて遺跡の維持管理が始まるのだという。
そうなれば新たに魔物が侵入することは無く、また何処かに隠れていた魔物も討伐され、それが終われば以後は普通の遺跡として調査されるとのことだ。
ただし、大規模なダンジョンの場合は踏破するのは容易ではなく、今でも世界各地には踏破されないまま魔物の巣となっているダンジョンが数多く存在しているとのことだった。
そのようなダンジョンの場合、冒険者達を呼び寄せるため、遺物の取得制限が緩く、魔物の素材や遺物を求めて、またある物は踏破の栄光を求めて腕自慢の冒険者達が数多く潜っているらしい。
何にせよ、まずは帰って報告だなあ。
にしても……
ゴロゴロゴロゴロ……
ガラガラガラガラ……
あーーーー台車押しながら帰るのめんどくせーーーー! ミー君のカートすげーうるせーーー!
もー! はよストレージ機能アンロックきてーーー!!!




