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第43話 ガラガラとモサモサとわたし

 関係者向けというだけあって、より殺風景な階段をえっちらおっちらと上っていく。

 

 肌を刺すピリピリとした感覚がどんどん強くなり、この先に強者が待ち受けているのは間違いないと嫌でも感じさせられる。


 ……つうか、もしかして【気配察知】を知らずに覚えてたりしませんかね? 何時か取ろうと思いつつ、ずっと放置してたけれど取らないで正解だったかも知れないな……。


気配からすれば、今の我々でも無事に済むか分からぬほど高位の存在と思われる。

 ミー君の話を信じれば、どんなに致命的な目に遭っても俺は死なずに済むらしいが、腕の一本は持って行かれるかも知れないし、何よりモモやエミルは我々と違ってこの世界の原住民だ。


 やられちまったらそこで終わり――何があっても護ってやらねえとな。

 

 高まる緊迫感。


 しかし、ガラガラという音が我々からシリアスな空気を奪い去っていく。


「ま、待ってよー! 登りだとこれ結構つらいんだよ? 置いてかないでー」


 ガラガラの主、それはミー君だ。


 ルンボットをはじめ、生き残っていた衣類やら、カバンやらアクセサリーやら良くわからん雑貨やらを山の様に持って帰ると言って聞かなかったミー君。


 ストレージも無いのに、どうやって持って帰るんだと説得しても聞かず『もう! ママ知らない! ここに置いていくわよ!』と、ミー君を叱っているときに見つけてしまったんだ。


 そう、ショッピングカートだ。


 俺が知る物よりも大きめのそれは破損していてそのままでは使えそうになかったが、パーツは揃っていたため、【修復】の実験に丁度良いと思ってしまったんだ。

 

 実のところ、俺は少々ミー君に甘いところがある。


 なんというか、愛玩動物のような目で見ているせいだろうか? 彼女が困っているとしょうがねえなあと、なんとかしてやりたくなったり、喜ぶ顔を見ればなんともまんざらでは無い気分になるのだ。


 だからなんだろうな『実験である』と、自分に言い訳をしながらショッピングカートに【修復】を使い、直してしまったんだ。


 ああ、見事に成功したよ。パアっと光ったと思ったら、一瞬でピッカピカのショッピングカートに再生されちまったのさ。


『ミー君、これに荷物を入れて押すと良いさ。これなら持って帰れるだろう?』

『あ……ありがとう、ナツくん! やっぱりナツくんは優しいね!』


 満面の笑顔でそう言われちゃ敵わない。


 また喜ばせてしまったなと、若干満足げに思っていたが、それは間違いだった。

 ガラガラガラガラうるせーんだ。


 しかもこの、余り広くは無い関係者用通路のスロープ部分をえっちらおっちらと押している物だから音が響く響く。


 きっとこの先に居るで有ろうボスキャラもこちらに気づいてしまっているんだろうなあ……。


 ガラガラと緊張感の無い音と共に我々は通路を上りきり、本来であれば堅く閉ざす役目をしていたであろう、ひしゃげて転がる分厚い金属の扉……だった物の脇を通って奥へ進む。


 ……と、何かやたらと大きな物体が、怪しげな紫色の光を発している。

 魔物では無い。何か巨大な人工物だ。

 

「なんだこれは……良くわからんが……ヤバそうな物だって事だけは分かる」

「これは……もしや魔導炉か? おお、ナツ殿素晴らしいぞ! まさか初日にここまで到達出来るとはな」

「む、魔導炉?」

「うむ。一定以上の規模を持つ遺跡に存在する大規模な魔導具でな、魔導ランプが現役だったか事から魔導炉の健在を確信していたが……ううむ、やはり実物は良いな。

 そもそも魔導炉というものはだな、それ自体が動力源となり様々な物を動作させるのに使用されるのだが、遺跡から持ち出された魔導炉をうまく利用したケースとしてはロクベスタ魔導国が所有する飛空挺の動力源が……」


 と、エミル先生の解説が勢いを増し始めた時であった。

 モモがふわふわと俺の肩に着陸し、震える声で喋りながら指を指した。


「な、なつくん……居たよ、モサモサ……居たよお。あのピカピカの裏でじっとこっちを見ているよ……に、逃げようよ、なつくん……」


 天真爛漫な普段の様子とは打って変わり、酷くおびえた表情を浮かべるモモ。

 こいつはここまでの戦闘ではこんな表情を見せること無く、楽しげに俺達を応援してくれていたというのに……。


 やはり正しく“ヤバい敵”の気配を感じられているようだな。

 ここは一度引いてギルドに応援を頼むべきか……?


「な、ナツくうん。どうやらもう逃げられる様な空気では無いよ……どうしよう!? ねえ、どうしよう!」


 あっちへガラガラこっちへガラガラとカートを押しながら慌てるミー君。

 カートから手を離してくれませんかね? 今シリアスさんが降臨してるとこでしょ!


 ザワリ……。


 背中にぶわわっと鳥肌が立つ。


 グルルル……と、肉食獣のうなり声が鳴り響き、何かを踏みしめたのか、パキリ、ペキリと乾いた音が聞こえてくる。


 魔導炉の光に照らされ、壁に投影された影はやたら大きく、のそりのそりとこちらへ向かって近づいている。


 円筒状の魔導炉の裏側に居たそれは、ゆっくりと歩みを進め、とうとうその姿を我々の前に現した。


「あれは……気をつけろナツ殿。ヘビィルビィベアだ……。何故こんな所に居るのかはわからないが、奴はゴールドが3パーティ組んでやっと倒せる強大な魔物だ……ナツ殿でも無事では済まないかも知れぬ」


 ヘヴィルビィベアだあ? ナマズ君は『ター』がクドい奴だったが、今度は『ヴィ』がクドい奴かよ……。


 つうか、そんな冗談を言ってられるような相手じゃねえな。ええい、鑑定!


『おいおいおい。死んだわナツくん。こいつはヘヴィルヴィベア。名前の通り赤くて重たい熊さんだ。特徴的な赤色の毛並みは、獲物の返り血で染まった色だともっぱらの評判さ。こいつの攻撃はテレフォンパンチなんかじゃねえぞお……! 次回『真のベアクロー』お楽しみに』


 うっぜえ! つうか、ナツくんって言った! 鑑定さんが俺の名前を呼びやがった! マジ何なんだこいつ!?


 ほんっと殆ど役に立たねえ情報だな! やたらとヤベえ相手だってのしか分からなかったじゃんか! つっか、次回予告ってなんだよ!


 だが、間違いねえ……こいつはナマズ君なんかとは違う真の強者だ。

 奴のようなラッキーパンチ(丸太)で倒せるような相手じゃねえ。ラノベの異世界主人公のごとく、頭を使わねえと生きて帰れない、そんな相手だ。


 こちらを試しているのだろうか? 頭を低く下げ、今直ぐにでも飛びかかれる構えをとっては居るが……そのまま動かず、こちらが動くのをじっと待っているように見える。


 格下だとなめて油断しているのか? 舐めプしようとしてんのか? ならば好都合! この時間を利用させて貰おうじゃねえか。


「ミー君、エミル! こいつは一筋縄じゃいかねえ! 力を合わせて行くぞ!」

「うん!」

「ああ、任せてくれたまえ!」

 

「ようし! ミーくんはあの辺の床を凍結させてくれ。エミルはクマが凍った床を踏んだタイミングで光魔術で目潰しを! 俺はその後のタイミングで出る!」


「おっけー!」

「了解だ」


 ミー君が杖を、エミルが手を構え魔術の発動に備える。クマさんはこちらが何かをしようとしているのに気づいたようだが、警戒しているのか馬鹿にしてるのか……変わらずその場から動こうとしねえ。


参ったな、この作戦を成功させるにはクマさんにこちらまで来て頂く必要があるのだが……。

 

 どうする? 俺が囮になって呼び寄せる……か? 攻撃のタイミングを掴むのが難しくなるが……それしかねえ――


「おーい! モサモサー! モモ達のおうちを良くもめちゃくちゃにしてくれたなー! バーカバーカ!」


「モモ!?」

「なつくん! モモだってこいつにはむかついてるんだ! お手伝いするんだぞ!」


 いつの間にか飛び立っていたらしいモモが宙を舞いながら熊をやたらめったらと煽っている。あいつ……なんて危ない真似を!


 熊までかなり近い位置でヒラリヒラリと舞ながら、執拗に熊を煽り立てている。

 凄い度胸だ……いや、よく聞けばモモの声は震えていて、怖いのを我慢しているようだ。


 モモ……!


「Grrrrrraaaaa……Grrrr……」


 必死の煽りが効いたのか、足を何度か踏みならし、鼻息荒く低い唸り声を上げて……クマがモモを獲物と判断し、ギロリと睨みつけ狙いを定めた。


「Goaaaaaaaaaaaaa!」

「モモ! 危ない!」


 クマが地を蹴り、モモに向かって跳躍する。

 凄惨な光景が一瞬頭をよぎったが、幸いそうはならず。

 モモはひらりとそれを躱し、クマより身を離して声を上げた。


「ひゃー! あぶないあぶない! く、熊さんこちらーだ!」

 

 モモは震える声でなおもクマを煽り、フラフラとこちらに向かって飛んでくる。

 よほど頭にきたのだろう。クマの奴はモモを逃がさぬと、その後を追って駆けだした。


 モモめ、なんて危ないことをするんだよ!

本来ならその危険な役目は俺がすべきなんだぞ? 全く勝手なことをして……けど、モモ! 良くやってくれた!

 

「今だミー君!」

「うん! モモちゃんになにするのー!」


 ぷんすこと怒りの声を上げたミー君が魔術を放ちクマの前方10mのところを凍結させる。クマは魔術に気づき怯むが、それも一瞬の事。直ぐに獰猛な表情を取り戻し、凍結した床など飛び越えてやれと言わんばかりにより勢いを増してこちらに向かって距離を縮める。


 5m、3m……ポイントまでの距離がどんどん近づいてくる。

 2m……1m……!


「エミル!」

「ああ! まかせろ! 【ディレイシャインライト】!」


 エミルの遅延詠唱魔術……とやらが発動する瞬間、打ち合わせ通り堅く目を閉じ顔を両手で覆う。

 今この手の向こう側では光の奔流が熊の視界を覆い尽くし、部屋を白く染めていることだろう。


「Gaaaaaaaoooo!」

「うわーーー! 目があああああああああ! 目があああああ!!! なつくううううん!」


「……説明聞いてたのになんで君は巻き添え食らっちゃうかなー!?」

「だってえええ! うわあん! 眩しくて何も見えないよお!」

「……目にヒールでもしとけ」


 仰向けに転がり、両手で目を押さえてバタバタと身をよじるみーくんを無視して熊を見る。


思惑通り、光に視界を奪われた熊は勢いそのままに凍結した床に突入し、何が起きたか分からぬままスッテンコロリンと転んだようで床にベタリとひっくり返っていた。


 転んだ衝撃か、光によるショックかは分からないが、ピクリピクリとしている熊はまともに動ける様子ではなさそうだ。


 好機――

 

「よし! ゆくぞ! 今こそここで俺が愛刀紅雀でで格上殺しを成し遂げ……む? どうした? エミル? 何故止める」

「……ナツ殿……ヘビィルビィベアはもう……生きてはおらぬ……」

「え……えぇ……?」


「……ほんとだ。ナツくん、この熊さん……もう死んじゃってるよ……死亡確認!」

「ミーターレンとでも呼んで欲しいのか君は」

「えへへ……つい」

 

 ミー君とモモがツンツンとつついている熊さんに近寄り、調べてみると……ああ、これは確かにお亡くなりになられているようだ……息してねえわ。


 考えたくは無いが……凄まじい速度でステンと転び、その勢いのまま打ち付けた場所が良くなかったのだろう……。


 目の前の現実は非情だ。熊さんの後頭部から出たらしい体液がじわりじわりと床に広がっていき、クリティカルに頭部が割れてしまったことを物語っていた。


 ああ……なんてこった……!


「当たりどころが悪かったって奴か……くっ! 何なんだこの消化不良感は!」

「結果良ければ全て良しと言う。ナツ殿は良くやったよ」

「……釈然としねえ! 振り上げたこの紅雀をどうすれば!」

「鞘に収めれば良いと思うよ、ナツくん!」

「くっ! 正論過ぎる!」


 初めてのダンジョンアタックはダンジョンマスターたるヘヴィルヴィベアの討伐をもって無事達成することが出来た。


 誰一人犠牲を出さず、遺物の回収もした上でボスの討伐も叶った。

 これだけ見れば誰しもが我々の出した結果を賞賛することだろう。


 しかし、この消化不良感よ……。

 

 もっとこう、主人公っぽくかっこよく決めたかったよ……。

 シリアスさんのバカ……っ!

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