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第42話 続ダンジョンアタック

 人の気配が無く、風化して崩れ落ちた遺物や、魔物に破壊されたであろう物が転がっていて、俺がよく知るそれと比べて随分と殺伐として寂しい雰囲気ではあるけれど……。


 これは間違いない……。


「ああ、これ……ショッピングモールだわ……間違いねえ」

「あー! そうだね、きっと古代のショッピングモールだよこれ」

「しょっぴんぐもーるとはなんだ? ナツ殿、ミー殿」


 我々の正面には大きなパネルがあり、そこには古代語と思われる文字で『B1F案内図』とあり、このフロアにある店舗の名前と説明が書かれていた。


「ショッピングモールというのは、大きな建造物の中に複数の店舗が存在していて……あー、めんどくせえから雑に言うけど、要するに様々な市場がひしめき合う大きな建物のことだよ」


「つまり、ここは旧文明人が作った商品が集まっていると言うことだな?」

「まあそう言う事になるね」

 

 そういう場所ならば面白い遺物がたくさんあるはずだと、エミルは興奮しているけれど……俺は見ちゃったんだよなあ。パネルに書かれている我々的には残念な文字列を。

 

「よりによってファッション館とはな……」


 そう、パネルに可愛らしく書かれていたのは「ファッションシェルター シュカーラ 春の大セール」の文字だったのだ。

 

「ふぁっしょんかん……? というかだな、ナツ殿。古代語が読める……のだな?」

「ああ、ミー君から貰ったギフトでね。そうかあ、こういう所でも役立つんだなあ」

「我は……今ほどナツ殿をうらやましいと思ったことは無いぞ……」


 なんだかエミルの視線が少し怖かったのでこの建物について説明して誤魔化すことにした。 


「なるほど……つまりここで売られている商品は衣類やカバン、装飾品である……というわけか」


「それでもまあ、遺物には変わりは無いから価値はあるんだろうけど……それでもきちんと残っていたらの話しだろうからな……冒険者的にはやっぱここはハズレだな」

 

それでも失われし古代の超文明なら――と淡く期待しながらさらっと周囲を探索してみたが……旧文明で着られていた衣類も俺が知る物とそう変わらぬ素材で作られていたようで。


 衣類を構成する生地は数千年に及ぶ時の流れにはあらがえず、残念ながら風化してぼろぼろになってしまっていた。

 

 それでも、何か特別な包装をされたらしい衣類のいくつかは残っていたのだが、その多くはここを根城にしていたゴブリンに荒らされたのか、ボロボロに引き裂かれていて酷い有様であった。


 とりあえずB1FからB3Fまで適当にぶらつき、住み着いているゴブやウサやネズ等を適当に狩りつつ、遺物を調べて回ったが、多く回収できそうな物は細かいアクセサリーくらいの物で、それらも魔導具ではなく、純粋なアクセサリーでしか無いようだった。


 まあ、それでもエミルやミー君、モモは喜んで回収していたけれども。


「見たまえよミー殿。この複雑なカット……当時の職人とはどれだけ凄かったのか……」

「こっちもすごいよ! 光を当てると中に星空が浮かび上がって綺麗!」

「モモはこっちの赤いキラキラが好きだぞー!」


 三者三様にきゃっきゃと語りながら嬉しそうに宝石を漁っている。


 なんつうかあれですね。


 よくあるダンジョンで宝箱から出た宝石を大喜びで回収する図、だったら何も思わないんだけどさ、ここって半分廃墟のようになっているとは言え、まだまだ綺麗なままで照明までついているショッピングモールですよ。


 そんなモールのアクセ屋さんでさ、ショーケースからウッキウキでアクセサリーを回収している姿は怪盗団のようで……見ているとこう、罪悪感が半端ない。


「ああ、すまんなナツ殿。退屈そうな顔をさせてしまっているな。ふふ、こういう物は男のナツ殿にはつまらぬだろうからな」

「うふふ、ナツくん。女の子はね、こういうお店に来ると変身するんだよ」

「なるほどミー殿うまいことを言う。いやな? はじめは研究に少々と思ったのだが、我の中にも女子は生き残っていたようでな? 申し訳ないがナツ殿。もう少しだけ物色させてくれ」


 女の子の買い物を待つのが辛いとかそういう顔じゃねえよ! そうやって遠慮無く盗賊の如く物色してるのを見て勝手に胸を痛めてるだけなんだよ!


 俺ってトレジャーハンター向いてねえのかも知れねえなあ……。


 とは言え、暇なのは確かなので別の視点から遺物を漁ることにした。

 

 本来であれば『ここがモールである』という先入観がないエミルが真っ先に気づくべきことなのだが、それに辿り着く前にアクセの罠にハマってしまったからな……ったく、遺物も貴重だろうが、もっと旧文明に深く触れられるお宝は別の所にあるって気付よな。


「これだけ発達した文明なら……似たようなものはあるだろ……」


 普通に客として訪れた際には、まず立ち入ることがない場所……いや、悪いことをしない限り立ち入ることが出来ない場所。


 そう、バックヤードだ。


 服屋のバックヤードをちょいっと覗いてみれば、机が一つと開け放たれたロッカーが有り、中には半分朽ちた上着がかけられていた。


 持ち主が女性だったら何だか申し訳ないなと、心のなかで謝りながら室内を調べる。

 少しだけ覚悟していたが、どうやら亡骸のような物は無いらしい……というか、この遺跡、ざっとあちこち見て歩いた限りではそのような物は確認できなかった。


 前文明の滅びというのは、大きな力で脅かされて一気に……と言う物では無かったのかも知れないな。

 

 机の上には触るとぼろぼろになる程に風化しかけている紙があり、それには綺麗な文字で沢山の文字や数字が刻まれていた。


「ボロボロで読みにくいが……これは明らかに帳簿を印刷したものだな」


 紙の他にも筆記用具やカップ、それと何か二つ折りの板のようなものが開かれたまま放置されていた。


 亡骸の類いが一切見当たらないし、何かが原因となって突然ここから避難する事になったのだろうな。風化さえしていなければ、つい昨日までここに誰かが居た、そんな状態に部屋が保たれているんだ。


 遺物を漁るのに妙な抵抗を感じるのはそのせいなんだろうな……っと、これは多分俺が探している物で間違いなさそうだぞ。

 

「これはもしかしなくてもアレだよな……」


 俺も会社でよく使っているアイツ……これはきっと異世界版のノートPCなんじゃなかろうか。


 見るからに二つ折りであろう端末は、やはりパカリと拓けるようになっていて液晶パネルのようなものがある面と、キーボードの様なものがついている面が確認できた。

 

 同時にスイッチらしきものも見つけたが、押したところで当然電源は入らない。


 手に持って軽く振ってみたが、中身が風化して崩れているという感じではないな。であれば、もしかするといけるかも知れない。


 忘れかけていたが、俺は先日【修復】スキルを覚えたのだ。

 折角だからこいつは回収して帰ってそれを試してみようと思う。


 しかし……俺としてはこう、何がやたらとでかい宝石が挟まった物々しい杖とかさ、失われし大魔術が記述された本とかさ……そういうのが眠る場所こそダンジョンだと思うんだよな。


 エミルからすれば、この作業も『ダンジョンに潜り過去の遺物を回収する』トレジャーハントなんだろうけども、俺からすると『災害に見舞われた施設に侵入して火事場泥棒をしている』ってな感じがしてやっぱり複雑な気持ちになる……。


 せめて旧文明がもっとこう、地球とかけ放たれた文明だったら良かったのだが。


 妙にぐったりとしたので、バックヤードの探索をやめ外に出てみると、何か大きなものを抱きしめたミー君が嬉しそうな顔をしてこちらに駆け寄ってきた。  

 

「ナツくん! ナツくん! 私これ欲しかったんだよ! 持って帰っていい!?」


 ミーくんが抱きしめているのは、硬質な素材で作られている円形の何か……いやいや……まってくれ。そんなものまであったのか?

 

まだだ。まだ慌てる時間じゃない。似ているだけで別物という可能性もある。

 ……念の為に鑑定をしてみようじゃないか……む、見えたぞ。

 

「やっぱりお掃除ロボットのルンボットじゃねえか! こっちの世界にもあったのかよ……」


鑑定さんによればこうだ。


『おっと随分と懐かしい物を出してきやがったな? こいつは清掃用魔導具、サラスくんだ! こいつが居ればお部屋のホコリとさよならバイバイ! とっても賢いメカニカルペットだぜ。 おっと食事の用意は忘れないであげてくれよ? なあにそう手間はとらせねえ。魔石をちょいと、お家に置いとくだけだからよ』


 ……電気を使うか使わないかだけでまんまルンボットじゃねえか……。


「ミー君……それがなにかわかるのかい?」

「うん! お姉ちゃんがナツくんの世界から買ってきたルンボットとそっくりだもん! 多分これもお掃除ロボットだよね? ねーー! 持って帰っていいでしょう? ナツくん修復覚えたんだからさ、直せるよね? ねー!」

  

 くっ! いつになくミー君がわがままにおねだりをしてくる……! 

 まるで欲しい物を買ってくれるまで動かない子供のようだ……ハッ!?

 そ、そうか。ここはショッピングモール。子供がダダを捏ねる魔空間だ。

 ミー君め、場の空気に飲まれてお子様化してしまったな。


 しかし、ミー君にしては賢いことを言ってるな。よくまあ【修復】が出てきたもんだ。 

 掃除はミー君の浄化があるから要らないとおもうんだが……ただ、その……俺もルンボットにはちょっと……ちょっとだけ憧れがあったからな……。


 全く同じものとは限らんが、修復できるんだし……持って帰っても……いいかな?

   

「しょうがねえ、いいぞ」

「やったあ! ありがとう、ナツくん!」

「おー? その変なの持って帰るのかー?」

「変なのじゃないよ、お掃除ロボだよー」

「おそうじー?」


 おいおい、ミー君よ。まだ直してないのだからそんなにブンブンと振り回すな。

 修復スキルが何処までやってくれるかはわからんが、中の部品がこぼれ落ちたら治らないかも知れないんだぞ……。


能天気に喜ぶミー君に生暖かい視線を送っていると……、何処かで調査をしていたらしいエミルが難しい顔をして戻ってきた。

 

「ナツ殿、ミー殿。上階に繋がる階段を見つけたのだが……奥から何やら強い魔物の気配を感じるのだ」


上階……我々はこのモールになだらかに地下に向かう道を経由して、妙に広く何も無い大部屋を通って潜り込んだわけだが、今思えばあれは地下駐車場とそれに繋がる通路だったのだろうと思う。


 そこを通った時には妙な気配は感じなかったし、もしも強い魔物が居たのだとすれば、ゴブ達がのんきにフラフラしているようなことはないはずだ。


 そしてミー君なら兎も角、エミルがわざわざ『見つけた』と報告をしてきたという事は、それとはまた別の場所に繋がる上り階段。


 案内パネルを見た限りでは出入り口以外、上階に繋がる階段の存在は見当たらなかった。であれば、そこにはこのモールを管理する何かがある関係者用のスペースがあるのではなかろうか。


 こういうパターンのテンプレとして、ボスキャラが配置するのに相応しい場所過ぎて疑う余地もねえぜ。


「よし、エミル! 直ぐに案内してくれ」

「うむ、任されよ」

 

 そしてエミルの案内で向かった先には、入ってきた時と別の出入り口があり、そこにはやはり『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。


 金属のように見える素材で固く閉ざされていただろう、大きな扉は乱暴に破壊され、その片側がひしゃげて中に入れるようになっていた。


 ……これは噂のモサモサのねぐらで間違いなさそうだな



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