第41話 ダンジョンアタック
眠い! なんせ今日は朝4時にゃあ森に向かって走ってましたからね。眠くないわけがない! 1日で森と街を2往復だぞ! 我ながらバッカじゃねえの!?
けどな……ダンジョンですよ、ダンジョン。エミルが言うには旧文明の遺跡だって事だけれども、どちらにせよ男の子の大好物じゃないですか。
ダンジョンにも行きたい、妖精達もさっさとお池に連れてきたい! どっちも今日のうちにやりたい! それは俺だけでは無く、ミー君もエミルも同じ考えだったので、昨夜の打ち合わせの中でまとめて今日のうちに済ませてしまうことに決めてしまったわけで。
「ほらほら、元気出してーあるこー!」
「お前はなんで一緒についてきてるんだよ、妖精A!」
「なつくんにくっついてったらまた美味しいもの食べれるだろー」
「お前なあ……」
「あはは、すっかり懐かれちゃったね」
「ふふ、こうなったら名前でも付けてやったらどうだ?」
えっ……名前……?
「そうだねー、いつまでも妖精Aじゃ可哀想だよね」
「うむうむ。ナツ殿、どうかつけてやってほしい。一緒に暮らす以上こやつを呼ぶのに妖精ではなと思っていたところなのだ」
おいおいおい、なんだい? この流れはなんだい?
ミー君もエミルも俺がこの妖精をうちで引き取る流れにしているぞ……。
「そうだぞー! 私はなつくん達と一緒に暮らすんだぞー! 名前をつけておくれよー」
……えぇ……マジかよ……異世界人に女神に大精霊が暮らす家ってだけでお腹いっぱいなのに、さらに妖精まで増えちゃうの? ちょっとそれは……なあ……。
「い、いやしかしな……シュリさんの所で仲間と一緒に暮らした方が楽しいだろ?」
「うーん? そうでも無いぞー。私はなつくん達と一緒のがたのしーぞー!」
腕を広げ、くるくると回りながら俺の周りを動き回り、ピタッと後頭部にしがみつく。
……くっ! や、やめろ! 愛らしい動きで俺を誘惑するな!
「……うちに住むならお前にも何か仕事をして貰う事になるんだぞ? いいのか? 自由気ままな妖精のままじゃいられなくなるんだぞー?」
「しごとー?まかせろー! あの貧相なお庭を綺麗にしてやるぞー!」
くっ……ミー君……やめろ、そんなキラキラとした目で俺を見るな……!
エミル……も、なんだその期待に満ちた顔は。
「ナツ殿……妖精はな、植物の育成が上手いんだ……あの荒れ果てた庭に貴重な錬金素材を植えて増やして貰えば……我も嬉しいが、家計の助けにもなると思うぞ」
「かわいいし、お野菜育てられるしメリットしか無いよ? ねえねナツくん! 私からもお願いだよ。あの子をお家に置いてあげて?」
「あーあーあー! わかったわかった! 外堀を埋めやがって! それじゃあお前は今日からモモだ。桃色頭だからな、モモって呼んでやるよ!」
「わあい! モモはモモになったぞー! やったー名前だー!」
「ナツくん、まんまでシンプルだけどモモちゃんにぴったりで良いお名前だと思うよ!」
「ああ、何より呼びやすくて良いでは無いか。凝った名前を付けると呼ぶのが面倒だからな」
「それにしても、見たまま付けたにしても随分と直ぐに名付けられたよね? もしかしてナツくん、名前考えたりしてたの?」
「なっ……そんなわけないだろ? 面倒で見たまま頭に浮かんだのをぱっと付けたから早かっただけだよ」
「ふうん?」
……ほんとだぞ?
意図せず……本当に意図せずに妖精A……もとい、モモを家に迎え入れることとなってしまったが、予定は特に滞りなく進んでいく。
ギャアギャアとキャアキャアとわめきながらも、我々はきちんとダンジョンに向けて走り続けていて……11時を少し過ぎる頃には無事に入り口に到着することが出来た。
ギルドから許可を得た今、我々を止めるものは誰も居ない。
3人と1体、仲良く並んでダンジョンへと足を踏み入れる。
ダンジョン周辺は土の地面……初見ではそう思ったけれど、実はその下に人工的な床が存在している。エミルの指摘がなけれ気づけなかったことだが、どうやら長き年月を経て土に埋まりかけているためそうなっているようだった。
そして、ダンジョン内部の通路もまた入り口に近い部分は一見すると土の地面のようであり、足で軽く掘ってみると直ぐに硬質な人工物、床が姿を現した。
壁もまた、土埃で汚れては居るが、手でそれを払い落としてみればつるつるとした石のような素材で作られていて、これもまた明らかに人工物だ。
疑ってはいなかったが、やはりエミルが言うとおり旧文明の遺跡で間違いないようだ。
「ふむ、確かにここは全くの手つかずのダンジョンのようだな。みてくれナツ殿。壁に照明の魔導具がついているだろう?」
外から見たとき、中がぼんやりと明るいなとは思っていたが、それはどこからか日が差しているわけでは無く、魔導ライトから発せられた光だったようだ。
魔導ライトは壁や天井に等間隔に設置されていて、それがまた、ファンタジーなデザインの照明ではなく、俺にとって馴染み深い現代風の照明に近い形をしている。
「心無い冒険者は少なからずいる物だ。連中の目に止まればこのような魔導具、真っ先に剥ぎ取られて裏ルートで売られてしまう。未登録なのにここまで綺麗に残っているという事は、ここに来たのは我々が初めてである、真に未探索ダンジョンだと考えて良さそうだな」
ギルドに登録されたダンジョンには監視の人員なり、魔導具なりが配置され、許可なく立ち入りが出来なくなるため、壁に設置された魔導具は荒らされること無くそのまま利用されるらしいのだが、監視が入る前に手癖が悪いやつに見つかると、そういった維持管理用の魔導具まで根こそぎやられてしまうとかで、新たにダンジョンを見つけたーと思ったら、すでにボロボロであった……なんて悲しい話もあるそうだ。
「ミー君、結界はちゃんと解除しているね?」
「うん。ダンジョンに入る前に解除したよ」
「うむ、ならばよしだ」
今回ギルドから受けている依頼はあくまでもダンジョンの調査だ。
それだけを考えれば、ミー君の結界を張ったまま安全に見て回れば楽に終わるのだが、調査依頼というのは我々からすれば建前である。
真の目的はこのダンジョンを根城にしている魔物の討伐。
この森にあった妖精の集落は暫くの間使い物にならないとは言え、いずれは土地も回復し、避難している妖精達が戻る場所となったり、また新たな妖精達が住み着く場所となるわけだ。
しかし、近くに森を荒らす厄介者が住み続けてしまえば、折角土地が回復しても直ぐにまた荒らされてしまうこととなるため、しっかりとシメて置く必要がある。
結界を張ったまま移動してしまうと、それを嫌った魔物たちが隙間から逃げ出して外に飛び出してしまうことだろう。
なので敢えて結界は貼らず、向こうからホイホイとやってきてもらって1体1体、確実に仕留めて行くという、魔物スレイヤー大作戦なのである。
「うし、早速来たぞミー君! 足止め頼む!」
「うん! えーい! こおっちゃえー!」
ダンジョン第一魔物はゴブ2匹でありました。
ゴブの相手はもう慣れた物で、ミー君の凍結魔術で足止めをし、俺が紅雀で力任せにぶった切るというパワープレイだ。
我々の戦闘シーンを初めて見たエミルは驚いた顔をしていたが、何か納得をしたようにうんうんと頷いている。
「ミー殿の無詠唱魔術も凄まじいが……ナツ殿の剣術の腕前もたいした物だ。流石は上位者たる管理者殿と、選ばれし者と言うべきだな」
「いやいや……違うぞエミル。ミー君の魔術が凄いって言うのは、この世界の理からすればそうなのかも知れないけれど、俺は武器の力に頼ってるだけだからな?」
「そうなのだろうか? まあ、ナツ殿がそう言うのであればそうなのかも知れぬが」
そうなんです! 俺に特別な力なんてなんもねーんです! そりゃ最初から比べたら色々とギフトも増えたけど、戦闘向けのギフトなんて貰っちゃいねーからね?
俺が知る異世界主人公達なんてもっと理不尽な強さだからな? 俺なんて所詮武器の力を借りて泥臭い戦いをする程度の能力しかねえんだぞ!
とは言え、このダンジョンに現れる魔物は今のところ雑魚ばかり。
サクサクと狩ってしまっているので、元引きこもりのエミルからすれば凄まじい戦いに見えるのかも知れないな。
「しかし……先ほどから随分と魔物が現れるな。もしやナツ殿かミー殿の体から何か魔物寄せか何かが出ているのではないか?」
「妙な事言うなよ! そんなわけ……ないだろ?」
「ううむ……しかしだな、先程からやたらと魔物が寄ってくるではないか。いくらダンジョンとは言え、ここまでは……そうだ! どうだね? 今度少しナツ殿かミー殿からサンプルを採取させては貰えないだろうか……」
「怖いことを言うなよ……ってミー君、右からゴブが3体だ!」
「うん! えーい凍結しろー!」
「ええい、多すぎる! エミル! 暇なら適当に援護してくれ!」
「承った! 我が眷属たる光の精霊よエミルの名において光を紡ぎ視界を奪え【シャインライト】」
ホイホイやってきてもらってーなんて言ったのが悪かったのか、ほんとアホほど魔物が出るな……いや、どうも普段からこうなんだよなあ。
結界を解いた瞬間、わわっと我々の所に魔物が寄ってくるんだ。
エミルの推測に同意はしたくはねえけれど、マジで妙なスキルでも芽生えてるんじゃないかと本気で疑っている……が、今は好都合。
昇格試験で調査に来たって言う建前があるけれど、当初の目的は妖精のたま場を荒らしていた魔物共の掃討だからな。まとまってきてくれた方が潰し漏らしが無くてありがたい。
わらわらと来るとは言え、予想よりはマシかな。
これまでに遭遇した魔物はゴブが少々にホーンラットがぼちぼち。時折ヒッグホッグがちょろちょろと現れるくらいと、想像していたよりはエンカウント率は少なめだ。
「なんつうか、確かに魔物は出るからダンジョンアタック感はあるけど、宝箱とかそういうサプライズが無いのはこう……寂しいな」
「ナツ殿が知るダンジョンのように宝が入った箱というものはわざわざ用意されてはいないが、ここには遺物という何よりの宝があるではないか」
「そうは言うけどさ、未だにそれらしいのって照明くらいしかないしなあ」
確かにダンジョンを探索してる感はあるんだよ。でもさあ、やっぱり宝箱……そこまでいかなくとも、なにかドロップアイテムとかさ、それこそ遺物とかあったら嬉しいじゃん?
なのに、このダンジョンときたら、いつまで歩いても一本道の通路でさあ……俺いい加減飽きてきちゃったよ……。
なだらかに下っているらしいのが、まあダンジョンっぽいと言えばそうなんだけど……一本道ダンジョンはSNSや掲示板でめっちゃ叩かれるんだぞー? いいのかー?
と、心の中でブチブチと愚痴っていたら何やら広い空間に出た……が、ここもまた、石のような素材で出来た太い柱があるくらいで他に面白そうなものは無く。
変化が欲しいと入ったけど、ここもただの大広間じゃねえか! 開発リソースケチってんじゃねーぞ!
等とのんきに昼寝していたゴブゴブたちに思わず八つ当たりをしたところでミー君がやってくれた。
「ナツくん! なんかね、透明な扉があるよ!」
「むっ! でかしたミー君!」
ミー君のもとに向かうと、薄汚れているが透明と言えば透明な扉があったのだが、結構大きな扉だったのであろうそれは半分以上が叩き割られ、そこから中に入れるようになっていた。
人間が立ち入った様子はないとエミルが言っていたから……これをやったのは魔物かな?
触った感じ、ガラスのような素材みたいだから、そこまで力がなくとも壊せそうだが……何だかとっても嫌な予感がするぜ……。
「おーいなつくん、みーくん、エミルー早く来いよー面白いぞー」
静かだと思ったら、モモの奴いつの間にか勝手に先行していたらしい。
「早く早くー! すっごいぞ! うちの近所にこんなのあったんだなー」
扉の向こうから我々を賑やかに呼ぶ。まったく、ダンジョンで大声を出すなんて、褒められたもんじゃねえぞ。
まあ、冒険者として教育されているわけじゃあないし、自由な妖精さんだからな……今日のところは許すが……。
「はーい! モモちゃーん! 今行くよー!」
ミー君……お前は後でお説教だ!
さっさと行かなければ、ミー君がどんどんやらかしてろくなことにならなそうだ。
勝手に先行したモモが平気な顔をしているあたり、この先はきっとっっl;:」安全なのだろうが……。
ということで、我々も遠慮なく隙間から中に入ってみれば、何やら地下に続くやや長めの階段が視界に入った。
勝手にどんどん奥に向かうモモを追うように我々も階段を降りていく。
1階層から2階層に向かってる感じなのかな? なんだかようやくダンジョンらしくなってきたじゃ無いか。
階段の先は妙に明るく、上からでも眩しい光が見えていたのだが……降りきった先の2階層入り口もまた透明な扉で中の様子が透けて見える。
内側の様子を見て驚いてしまった。
……そこは煌々と輝く明るい光に満ちた大きく開けた場所で、先ほどまでの広いだけ広くて殺風景な風景とは打って変わって、視界に様々な情報を飛び込ませてくる。
「どうだナツ殿! 宝物庫に到達したぞ! おお、ここまで綺麗に生きている遺跡もあるものだな!」
吹き抜けになっているその大部屋は地下に向かって3階層ほどの深さが有り、なんだかとっても見慣れた作りに思えた。




