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第40話 お引っ越し

ギルドから許可を貰い、帰宅するとまだ二人は帰ってきていなかったので、なんだか手持ち無沙汰だったのもあって夕食の支度をする事にした。


 手っ取り早く下ごしらえを終え、後は二人が帰ってきてから調理するだけ……と、ここで妖精達の顔が頭に浮かぶ。


 首尾良くあちらの話しがついていれば、明日は妖精達のお引っ越しになるはずだ。

 我々が迎えに行ったとき、妖精共がどんな行動を取るか手に取るように分かるぞ。


 きっと……


「きたな人間!」

「お腹すいたぞー!」

「甘い物くれー!」


 なんて言って群がってくるんじゃ無かろうか。

 うるせー! 引っ越し先まで待ちやがれーと言いたいところだけれども、引っ越し先で直ぐご飯を貰えるとは限らない。


 なんだか、あいつらに群がられると腹を空かせた子供達に見えてきて……何か食わしてやりたくなるんだよなあ。


 しょうが無いので、簡単なおやつでもと、サンドイッチを作る際に切り離して取って置いたパンの耳を揚げ、粉砂糖を振ってラスクっぽいおやつを作った。


 あいつらは見た目に反して大食いと言うことは無いので、これだけあれば三日は食いつなぐことが出来るだろうて。


 もう少し用意することは出来るけれど、無理して多めに作ったところで今度は偽ラスクが持たないからな。こいつは精々三日が限度だ。


 消費期限的にはもう少し寿命がありそうだけど、大体二日三日もすれば味が落ちていくからなあ。


 と、油を切って冷ました偽ラスクを紙袋に入れていると、ガヤガヤとミー君達が帰宅した。


「たっだいまー わー! 甘い匂いがするよ! ナツくんなになにー?」

「ほんとだ! 甘い匂いがする! なつくんなになにー?」

「ほう、確かに甘い香りがするな。ナツ殿、何をこしらえたのだ?」


 ……? 声がひとつ多いな!?


「って、妖精Aじゃねーか! お前ついて来ちゃったのか?」

「妖精Aー? どの妖精だー?」

「お前だよ、桃色頭のお前。いいのか? 仲間から離れて来ちゃってよ-」

「良いんだよ。だいひょーで下見に来たんだもんね。えらいんだぞー」


 くっ……ちっこいのがミー君の頭に乗ってドヤァと胸を張っている……!

 同じ事をミー君がやったところで軽く苛つく程度なのだが……妖精がやると妙にかわいいな。


「まあいいや。甘い匂いは妖精達のおやつだよ。君たちのご飯はまた別のもんだ」

「わーい! 妖精だから甘いの食べられるんだねー いただきまーす」

「今日食わせる奴じゃねえよ。明日みんなで食うんだぞ」

「えー?」


 まったくもう。


 なんだかいきなり1体増えちまったが、あのちんちくりんなら少量で済むからまあ、大丈夫。


 今日のご飯はハンバーグだ。明日のお弁当用にミニハンバーグの種もいくつか作って置いたから、妖精Aにゃあそれを半分にしたくらいのを焼いて出してやったら良いだろう。


「わあ、わあああ! 凄い嗅いだこと無いにおいがする! いいにおい! なつくん何やってんだー!?」


「あーあー! 危ねえから俺の周りをブンブン飛ぶな! 油がはねるぞ!」

「はねるー?」


「ミー君、笑ってねえでこの妖精Aをなんとかしてくれよ……」

「いいじゃん、ナツくん。オプションみたいでかっこいいよー?」

「オプションって……じゃあ妖精Aにビーム撃たせるぞ? 無論、ミー君にだ」

「あええ……ほ、ほら妖精さん? 危ないからこっちおいで?」

「えーー? なんでだー」


 そんなこんなで普段より手こずりつつも、なんとか夕食が完成した。


 情報共有をしながら食事を摂ったが……ここでもまた妖精Aがうるせーのなんの。

 いやまあ、ハンバーグが美味くて感動してるのはかわいいんだけどな……話しを引っかき回すから会話に時間がかかるのなんの。


 デザートのプリンを食わしたところでようやく静かになり、そこからはまともに打ち合わせをすることが出来た……。


「ええ? シュリさんってエミルの幼なじみだったの!?」

「うむ。今はこんななりだがな、順当に生き残ってれば我も相応に老婆になって居たはずだ」

「ううむ……婆さんになったエミル……想像ができねえ」


 というか、頭の片隅に引っかかっていた妖精の引っ越し先って前にミー君と掃除した池だったんだなあ。

 そういやシュリさんが旦那さんと作った思い入れがある妖精の休憩所だと言ってたっけ。


「ナツ殿達が綺麗に浄化してくれたおかげでな、濃密なマナが溶ける清浄な水が満ちておったよ。あの様子であれば、妖精達が住み着いてひと月もすれば花が咲き、木が生えて蜂も集まることだろうさ」


「それでもそんだけかかっちまうんだな。一応三日分くらいは妖精メシを用意したが、全然たらねーじゃん」

「妖精達の食事に関しては大丈夫だ。環境が整うまではシュリが菓子を焼いて出してくれるそうだからな」

「なんだか、何もかもシュリさんに任せて申し訳ねえな……」

「うむー。我もそう言ったのだが、元々あの池に集まる妖精達に菓子をやるため身銭を切っていたらしくてな。リヒト亡き後も趣味として続けていたらしいので、妖精を紹介してくれて有り難うと、むしろ感謝されてしまったよ」

  

 なんて聖母のような人なんだ……ミー君、何度も言うがそう言う行動こそ女神に求められるんだぞ。信仰心とはそういう所からコツコツと積み重ねていくものなんだぞ……!


「うん? どうしたのナツくん。あ、ダメだよ! このプリンはあげないよ!」

「取らねえよ……」


 ほんとそう言うとこだぞ、ミー君……。


 ……

 …


 そして翌日――


「わあ! 凄い凄い! ヒュームにワン族にチュン族まで! 人がたくさんだ!」

「森から出たのはじめてー!」

「いろんな匂いがして賑やかな気分になるぞー」

「ねえね、あっちから甘い匂いがするぞ-」

「ほんとだ! あっち行ってみよう!」


「こらー! 迷子になるからちゃんと俺についてきなさい!」


「「「「きゃー!」」」」


 早朝……日が出る前から眠い目をこすりつつ森までお迎えに行ってそのまま20数体の妖精共を引き連れて街を歩いている俺ですけれども……これはあれだな! 罰ゲームだな!


 この世界における妖精は、日本における野生のリスくらいのレア度であり、居るところに行けばアホほど居るが、都市部では余り見かけられず、チョロチョロとしていれば物珍しさからキャアキャアと人が集まる程度の存在だ。


 そんな妖精さん達をずらずらと引き連れた俺が周りからどう見られているか?


「おい……あれ……あの大太刀、掃除屋のナツじゃねえか?」

「うわ、マジだ! なんだよ薬草屋の次は妖精屋か?」

「あれだけの妖精……どこからさらってきたんだ?」

「いや待て! あの妖精達ナツに懐いてるぞ?」

「ナツだけにってか?」

「「「「ガハハハハ」」」」」


 やかましいわ! ほっとけ! 冒険者共が好き勝手言っているのが耳に届いて非常に腹立たしい。


 ったくもう……どうせこいつらは今日からあの池に住み着くんだぞ。これからは嫌でも姿を見ることになるんだ。直ぐに珍しいものじゃあ無くなるっつーのに……。


「あはは! みんなナツくんを見て指さしてるよ。人気者だねえ」

「うるせーぞミー君。そんなに言うならミー君に纏わせるぞ、妖精共を」

「え? 良いの!」

「……いや、お願いします! 妖精共を連れてってください!」


 ミー君は妖精を纏って歩く俺を密かにうらやましく思っていたらしい……。

 妖精共にミー君に群がるように頼んだが、反抗的な態度を示しやがったので、ミー君の手に偽ラスクを何本か握らせて強制的に妖精達を移動させることに成功した。


「こっちの人間から甘い匂いがするぞー!」

「おそえー!」

「甘い物くれー!」

「わーーー!」


「あはははは! ありがとうナツくん、こっちに妖精さん達きたよー……きゃ! ちょ、ちょっとやめておくれよ! そ、そんな所に潜り込まないで……きゃー!」


 ……まあ、妖精達が楽しそうだし、俺の視界がスッキリしたので良いことにしよう……。


 こうして前よりも少しだけ時間がかかったが、無事にシュリさんの家に到着した。


「おお、シュリ。わざわざ外で待っていてくれたのか!」

「ふふ、こんにちはエミル、ナツくんにミューラさんも。妖精達が来ると思ったら居ても経っても居られなかったのよ」


「わあ! 見てみて! 良い感じの池があるよ!」

「ふふーん! 私は昨日のうちにもう見たもんね!」

「あ! ずっこいぞ! お前あの人間達についてったんだなー!?」

「すごいねー! 前のお池よりマナがタップリだよ」

「これなら直ぐにお花が咲くねー」


「どうやら妖精達は気にいったようですね」

「そうねえ、ほんと良かったわ。ありがとうね、ナツくん。妖精達が遊びに来るのはまだ大分先だと思ったのだけれども……こんなに早く来てくれて本当に嬉しいわ」


「いやあ、こちらこそですよ。住処に困ってるーって妖精達に言われても、俺にはどうしようも出来ませんでしたからね」


 妖精達を見れば、嬉しそうに池の周りを飛び回っている。

 なんだか、池やその周りがキラキラと輝いているように見えるが……もしかすればアレが妖精の力、草木を生やす能力なのかもしれないなあ。

 

 きゃっきゃと飛び回る妖精達を眺めつつ、シュリさんからお茶をご馳走になったり、妖精達におやつの偽ラスクを振る舞ったりしているとあっという間に時間が経ってしまった。


「っと、そろそろ時間だな」

「まだ9時になったところだよ、ナツくん」

「そうは言うけどな、今日はダンジョンアタックもするんだぞ。何のために早起きして妖精達を迎えに行ったと思ってるんだい?」

「あっ! そうだった!」


「あらあら、今からまた森に行くの? どうか気をつけて無理をしないでね?」

「ありがとうございます、シュリさん」

「ふふ、シュリよ大丈夫だ。ナツ達は強いからな。それに我もついて行くのだ、何も心配は無いぞ」


「ナツくん……どうかエミルをよろしくお願いしますね……この子はちょっとアレだから……」

「まてまてシュリ! アレってどういうことだ! おい、シュリー!」


 こうして我々は無事に妖精達をシュリさんに託し、本日のメインイベントであるダンジョンアタックへと向かうのでありました。


 ……欲張って1日でやらないでダンジョンは明日にしても良かったな……ねみい……

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