第49話 少しくらいサボっても……いいよね?
日本円にして凡そ1500万円……大金貨1枚と金貨5枚という報酬を得た我々は無敵である。
1日の支出は大銅貨7枚。エミルとモモが増え、なんだかんだと美味いものを作らされたり、作らせたりしているうちに当初より増えてしまった。
ざっくり合計すると月に大銀貨2枚強、日本円にして20万ちょいだ。
20万円を超える食費。普通に考えれば頭を抱えたくなるレベルなのだが……ここは異世界、日本の物価とは違う事を理解して頂きたい。
……いやその……うまい飯を作ろうとすると……どうしても食材にかかるお金が嵩んで……食文化のレベルが高えなあとは思っていたけれど、自宅であれこれ作って食おうとするとさ、食材の値段が響いてくるって言うか、外食の水準に近づけようとするとお高い食材を買う必要があるって言うか……しょうがねえじゃん! 男の料理は無駄に金がかかるんだよ!
今の我々は1500まんえんももっているんだぞ! 20まんえんなんてささいなしゅっぴじゃんか! こまけえこたぁいいんだよ!
おっと、お金にやられて言語が少々乱れてしまった。
つまりさ、我々は結構稼いだわけですよ。思えば薬草採取から始まり、ゴブゴブ退治まで他の冒険者達よりもかなりのペースで仕事をしてですね、お金を稼ぎ続けてきたんですよ。
ここらでキチンと休んでも良くね? 長期休暇と洒落込んでもいいんじゃないっすかね!?
そもそもさ、今8月なんですよ。こちらに来た時はまだ6月だったかな? 流石に日本のように梅雨に入るということはなかったけれど、日本より大分涼しかったので季節に関して気にしてなかったんですよ。
ところがどうだ。8月になった途端この暑さ!
確かに7月も少し暑いなとは思ってたんだ。でもさ、7月の前半は湖でチャポチャポしながら涼しくお仕事をしていたし、後半は涼しい森でゴブを狩ったり、ダンジョン探索をしたりしてたわけで……そこまで気にはならなかったんだよな。
でも8月はだめだった……。
律儀に日本の四季に合わせなくてもいいのに、8月はしっかりと暑い。
高温多湿のジメッとした暑さではないだけマシなんだけど、それでも暑いもんは暑い。
お家の中はエアコン(空調魔導具)が効いているので快適だけれども、お外はもう暑くって、お仕事なんてやってらんねーんすわ!
というわけで、金銭的にかなりの余裕がある我々は家族会議において『しばらくダラダラするぞ』と満場一致で決定し、それぞれがそれぞれの休暇を取ることとなったのでした。
……
…
夏期休暇突入から早くもから一月が経ち、9月も中頃が過ぎました。
いやあ、あっという間だったな……。
この一ヶ月間何をしていたかと言われても、ダラダラと遊んで過ごしたとしか言えないんだけど、少々具体的に言えば……ええと、この辺に共同日記帳が……あったあった。
……
…
■8月3日 ナツ
今日は涼しいおうちでパソコンの修理をした。
といっても【修復】を使えば一瞬で済むことなので、その作業自体は直ぐに終了。
これもまた、こちらの世界産の例に漏れず魔石の魔力で動作する道具のようだ。
というわけで、かき氷を食べ頭を抱えていたミー君を連れてきて魔力を注いでもらい、充電完了。
電源を入れてみると、それらしい起動画面が表示された後、デスクトップ画面が現れた。なんだろうな、使いやすいインターフェースってのを考えるとやっぱ似通ってくるんかね?
キーボードは流石に配列が全然違うけど、キーを押して文字を打つのは一緒だったので、問題なく使えそうだった。
適当にファイルを漁ってみたところ、服屋さんの帳簿だったり、発注用のデータだったりがあったけれど、それ以外には特に情報は得られなかった。
正直な話、PCってネットが使えねーと魅力半減するんだよな。PCが使えればあんなことやこんなことも! って思ったけど、冷静になってちょっとがっくりしたよ。
けど、オフィスアプリやらお絵かきアプリやらが使えるようになったのはありがたいな。
今後はこのPCを使って色々と記録していこうと思う。
皆も適当に触っていいからさ、使い方を覚えてくれたら嬉しいな。
■8月8日 ミューラ
今日はナツくんとエミルちゃんとモモちゃんと皆でシュリさんのおうちに行ってきたよ。
妖精さん達、元気かなーって様子を見に行ったんだけど、びっくり。
あのお池の周りは綺麗なお花畑になっていて、前はなかった大きな木がいくつも生えていたんだ。
池の中には綺麗な水草が生えていて、お魚さん達も沢山泳いでいたよ。美味しそうだねってナツくんに言ったら怒られちゃった。
エミルちゃんはシュリさんと楽しそうにお話をしてた。うんうん、お友達って良いものだよね! 神界のクーちゃん元気かなあ? せめてメールが送れればいいんだけどなー。 うーん! そのためにももっともっとリソースを稼がなくっちゃね!
あれ……こうやってお休みしてていいのかな……ナツくんが休もうって言ったんだからいいんだよね? ね?
■∞月lφ日 モモ
きょうはもりにいったぞ。 なつくんはイヤだっていったけど、いましかたべられないクリリのみがあるんだっていったら、しぶしぶつれていってくれたぞ。
クリリのみはいずみにしずめてひやしてたべるとおいしいんだ。
なつくんも おいしいおいしいってたべてた。
みーくんはたべすぎてうごけなくなってたな。おもしろかった。
えみるはへんなきのこをたくさんあつめていた。なににつかうつもりなんだろう?
ごはんにださないようにみはっておこう。
■9月12日 エミル
ようやく秋の先触れが訪れたようで、今日は朝から過ごしやすい気温だった。
そのおかげだろうか、最近では珍しくナツ殿が外に出る気を起こしたようで、彼に誘われるまま朝食後に皆で市場へ行った。
メルフは我が人として生きていた頃よりも大分発展したが、市場の空気だけは昔と変わらない。
何処からやってきたのか、素性の知れない怪しげな商人が見たこともない妙な物品を惜しげもなく広げ、惹かれたのならば買えと無言で魅了してくるのである。
我は昔からこの雰囲気が好きで、滅多にしない外出をした際には必ず市場に寄ったものだ。
今日もまた、市場で商品を広げる者どもまた怪しげな連中ばかりで、なんとも我の好奇心をくすぐった。
売っている商品は一見すると、ガラクタばかりであったが、一つだけ目を引く魔導具があった。
それは何やら細い金属の棒を数本使用して作られた球根の様な形をした先端部に持ち手がついた不思議な形をしていて、店主に聞けば『調理師が使う液体を攪拌する道具である』という。
本来、それは人の力で使用する物で有り、かなりの労力を必要とするとのことだったが……これは魔導具だ。その先端部が魔力により回転し、液体に差し込むだけで攪拌するのだという。
試しに魔力を込めてみると、軽快な音と共に高速で回転していた。
それを見てしまった我の頭の中に『それを使って調合作業が捗っている』光景が浮かんでしまって、非常に購入意欲が高まったのだ。
しかし、価格は大銀貨1枚と銀貨2枚。魔道具としては一般的な価格ではあるが、なかなかに良いお値段がした。
我はナツ殿から少なくは無い小遣いを貰ってはいるが、頂いた小遣いを無駄に使うはいかがなものか。
なんとも後ろ髪を引かれる思いだったが、小遣いはもう少し皆の役に立つ物の購入に使うべきだろうと購入は見送り、振り返らないようにして店を後にした……
……のだが、家に帰るとナツ殿からその魔導具を『プレゼントだ』と渡された。
驚いたが、すごく嬉しかったぞ、ナツ殿。
受け取った際に何度も礼を述べたが、改めてここに感謝の気持ちを記させて頂く。
ありがとう、ナツ殿! 大切に使わせて頂くからな!
……
…
ざっくりと拾い上げるとこんな具合か。
まあ、他のページは『ダラダラと過ごした』と言うのが嘘ではないと証明できるほどに適当な内容だったため、特に拾い上げる様な感じでもなかったのだが……。
この家族間交換日記は試しにやってみたら面白かったし、普段一緒に過ごしているだけではわからない事が伝わってくるので、中々良い思いつきだったと思う。
そんなこんなで9月も半ばを過ぎ、大分過ごしやすくなってきたけれど……お金はまだまだ余裕がある。
むしろ過ごしやすくなってきた今こそ、休暇の本番なのではなかろうか!
リソースを増やす旅……というお仕事もあるのだけれども……ミー君もダラダラしているし、まあ、もう少しだけ休んでも良いのではなかろうか……。
もう少し涼しくなったら本気出すからさ……ね?
と、今日も元気にだらけていると、玄関をドンドンとノックする音が聞こえた。
誰か通販で何か買ったのかな? なんて冗談を言いながら玄関に行き、扉を開けてみれば、そこには14歳位の少年が立っていた。
はて? 誰だろう? こんな若々しいお友達を作った覚えは無いのだが?
まさか、エミルが何処かで迂闊なことをして惚れられちゃったりしたのではあるまいな?
別に良いけど、少年に実年齢知られたらどうなるかわかったもんじゃねえぞ?
とか考えていたけれど、別にそんなことは無かったようで。
「うっす! こちらリトルオーガさんのお宅で間違いないっすね!」
「……その二つ名はアレだが……ああ、俺がナツで間違いないよ」
「ああ! やっぱり! 良かった!」
おやおや、エミルでは無くて俺目当て? ふふっなんだろうな、俺のファンか何かかな? リトルオーガと呼ばれるのは本気で嫌なんだけど、ファンみたいな存在が現れるのは満更でもないぞ。
にこやかに愛想笑いを浮かべながら次の言葉を待っていると、少年は懐から封書と巻物を取り出し、俺に手渡した。
「冒険者ギルドからの配達依頼です。えっと、俺はカッパークラスのリックといいます。こちらにサインをお願いするっす」
ファンの子じゃなくて配達員だった! うっかり『サインでもするかい?』なんて言わなくてよかった! いや、この場合うまくごまかせたか……。
サラサラと依頼書にサインをし、少年に渡すと彼は嬉しそうにそれを懐にしまい……。
「あの、よろしければ握手をしてもらえませんか?」
「うん?」
「リトルオーガさんは……駆け足でシルバーまで上がっただけではなく、誰も持てなかった大太刀を担いでダンジョンを単独パーティで攻略したルーキー達のヒーローなんです!」
「お、おお」
「良かったら、記念に握手してもらえたらうれしいっす!」
「そういう事なら……うん、いつか何かで一緒になったらよろしくな!」
「……! あ、ありがとうございますっす! 共に剣を振れるよう、鍛錬するっす!」
嬉しそうにはにかんだリック少年は何度も何度も頭を下げ、駆け足で去っていった。
なんだよほんとにファンの子だったよ! これはこれで……じわじわと恥ずかしいな……!
「あれ? お客さん来てたの?」
アイスクリームを食べていたのか、スプーンを口にくわえたミー君が現れた。
「ああ、ギルドから手紙が来てな……一体何の用なのか……嫌な予感しかしねえが……」
封筒を開け、目を通してみたが……ちょっとショックでクラクラとしてしまった。
「ナ、ナツくん? どうしたの? 手紙に呪いでもかかってた? 浄化する?」
「いや、いい……大丈夫だ……けど、大丈夫じゃない……」
「?????」
手紙にはこう書かれていた。
『シルバーランク冒険者 ナツ殿、ミューラ殿。
冒険者ギルドの規定により、シルバーランクの維持には2ヶ月に5件の依頼を達成することが義務付けられています。
ナツ殿、及びミューラ殿におきましては、7月・8月分は達成済みではありますが、9月10月分となる達成実績が今だ0件と、間もなく期限が残り1ヶ月となる今現在も活動される様子がないため、ギルドとしましては、確認の意味を込めてご連絡をさせていただいた次第です。
また、ランク維持のためには5件のうち、2件はシルバーランク以上推奨依頼を受ける必要がありますが、現在そのクラスの依頼は出した側から受託される状況で、ナツ殿やミューラ殿が来所する時間帯には残っていないかと思われます。
しかし、ご安心ください。今回の件につきまして、ナツ殿・ミューラ殿と我々冒険者ギルド双方に利があるお話をする用意が出来ています。
なるべく早く来所していただけるよう、職員一同お待ちしています。
冒険者ギルド メルフ支部』
……どうしよお……ノルマのこと忘れてた……っていうか、手紙書いたのマミさんだろお? 紙から黒い笑顔が浮かび上がって見えるよお……。




