第38話 ナツくんはギルドへ
何時ものようにギルドに入り、キョロキョロとマミさんを探す。
普段であれば彼女に捕獲され『上』に連行されるのは恐ろしくて仕方が無いのだが、今日ばかりはその『上のお部屋』でお話をしたいのだ。
普段なら向こうから話しかけて来るのになあ――なんて思った瞬間、背後から声をかけられた。
「あ、ナツ様。上の部屋にどうぞ」
「っはあ……びっくりしたあ……つうか、俺が来るたび何かあると思うのやめてもらえませんかね」
「ふふ。ですが、お休みだと言っていた日に、しかもこんな時間にわざわざ来たのですから、何か込み入った事情がおありかなと」
「そうなんだけど……見透かされてるようで悔しいなあ」
……
…
「荒らされた妖精の集落に……未登録のダンジョン……ですか」
「はい。ああ、俺とミー君はダンジョンについては詳しくは無いんですが、連れに詳しいのが居ましてね? 彼女が未登録ダンジョンでは無いかと言ってたんですよ」
「ふむー。ダンジョンとなると確認が必要ですね……少々お待ちください」
マミさんが部屋を出た……と思ったら、直ぐに誰かを連れて戻ってきた。この間10秒にも満たない。本当に少々だな!
マミさんの後ろについて部屋に入ってきたのは会ったことが無い女性だった。
20代前半くらい……なんだろうか。いや、異世界なので見た目じゃ判断できねえか。
しかしまた……美人さんだな。色素が薄いって言うの? 陶器のように白い肌に銀色の髪。
ミー君とはまた別の枠に入る美女だなこりゃ。
「君が噂のナツだな? ああ顔を合わせるのは初めてだな。俺はティール・イラトフ・ミューゼ・トゥール、このギルドのマスターをさせられている」
お、俺女……ここにきてギャップで攻めてくる……だと……?
清楚な印象が強い見た目で……男口調! 異世界にありがちな『凄まじい美人……だが男だ!』ではないのは、はち切れんばかりのお胸さんを見れば分かる。
ああ……いくらスカートでは無いからと言って、そんなに股を開いてどっかりと座ったらはしたないですわよ! 見てるこっちがドギマギしちゃうでしょう!?
「ふふ、ほらティールさん。やっぱりその口調は見た目に合わないんですよ」
「うるせえなあ……仕方ねえだろ。俺だって好きでこんななりしてんじゃねえんだよ……まあ、なんだ。ナツ、もっと楽にしろや」
「は、はあ……」
荒っぽい喋りをするティールさんはイラトフの森はミューゼ族出身で、森での暮らしに飽きて飛び出してきたヤンチャなエルフだと言うことであった。
……エルフ! 俺は今、生でエルフさんを見ている……っ!
なあ、見てるかKAZUよ。お前とあの日ネトゲ板で語り合ったお胸が豊かなエルフさん……俺は今、リアルで邂逅しちゃってるぞ! 帰ったら散々自慢してやるからな!
「……まあ俺の話はその辺でいいだろ。それよりナツ、ダンジョンを見つけたと言うのは本当か?」
「ああ……そう、そうでした。ダンジョンですよ、ダンジョン」
「どのあたりにあったんだ? おい、マミ」
「はい」
バサリとテーブルに広げられる大きな地図。
異世界の定番だと地図は結構ざっくり雑な作りをしているって感じだけど、ここの地図は結構丁寧に作られているなあ。
っと、場所か……エミルにマッピングして貰ってて良かったわ。
懐から手帳を取り出し、それを頼りに地図上を指さしてみせると、ほうと声が上がる。
「こいつはまた……結構深いところまで潜ってるんだな、お前たちは」
「深いんですかね? 街から走って2時間もかからない場所ですけども……」
「……はし、走って……ああ、そうかい、そうだったな。まあそれはいい。場所が合ってるとすれば、確かに未登録ダンジョンで間違いない。ダンジョンの詳細を分かる限り話してくれ」
「そう言われてもなあ。ギルドの許可を取らずに入ると怒られるって連れが言ってましたので、外見くらいしか」
「感心だな。確かにダンジョンはギルドの許可なく入れば罰せられるからな。外見だけでいい、話してくれないか」
「そうですね、外見と言いますか、周囲の特徴から説明しますと……」
……大きな丘の斜面に地面が裂けたように現れた入り口の幅は凡そ6m。
周辺の床は明らかに人工物と思われる床面で、中はぼんやりと明るく、入り口から覗いた感じでは長い通路が続いているように見えた。
出入り口前の地面は踏み固められていて、明らかに多くの魔物達が出入りしている様子がうかがえた……。
以上の事を報告するとティールさんは少しの間何かを考えるようなしぐさをし、マミさんに耳打ちをする。
マミさんもまた、少し何かを考えたような表情を浮かべた後、なにやらとても良い笑顔でこくりと一度頷いた。
あっ……あの笑顔……嫌な予感がする……。
「よしわかった。この件はお前たち掃除屋に委ねよう」
「は?」
「ここのところ、お前たちの活躍は眼を見張る勢いだ。ナツが大太刀でゴブリンを葬りまくっているのは俺の耳にも届いている。あれだけ狩ったんだ、間違いなくシルバーへの昇格条件を満たしているだろうな」
「えっ? えっ? しょ、昇格?」
「そこでだ。このダンジョンの調査を昇格試験としようじゃないか。どの道第一発見者には初回探索権が与えられるんだ。
お前達はダンジョンに潜り、内部の詳細を報告書にまとめて提出する。証拠として遺物をいくつか持ち帰って貰えればそれで合格としよう」
「えっ? ダンジョンの探索が試験? え? そんなんでいいんですか?」
「そんなんで……ああ、まあお前ならそうなのか……。いや、いいのさ。シルバーに求められるのは戦闘力の他に適切なレポートを提出出来る能力。ダンジョンの調査はその2つを見極めるのに丁度いい」
「なるほど……」
「依頼達成後、ダンジョンは事実上国の所有物となり、ギルドの管理下に置かれ探索権をどうするかは俺に委ねられる事となるが……調査中に発見した遺物に関しては無条件でお前たちに所有権がある。一度ギルドに提出する義務はあるが、よほどの事が無い限りは返却されるので何か良いものが有れば拾ってくると良いぞ」
「おほー! それは嬉しいな! 潜る許可を頂けただけでありがたいのに、昇格や遺物の権利までありがとうございます!」
「ふふ、だが気を抜くなよ? ダンジョンは何が起こるか分からないのだからな。
では期限は一週間だ。良い報告を待っているぞ」
「はい!」
◇◆ティール◇◆
「ははははは! やはりおもしれえ奴だなあ、ナツは」
「でしょう。未知のダンジョンとなれば、多少は恐れを持つのが普通なのに、ナツくんと来たら……」
「いやまあ……本来冒険者ってのはあんくらいでいいんだよ。あんくらいでな」
かつて冒険者ってのはどうしようもなく馬鹿な奴らの集まりだった。
身の丈に合わねえ依頼を受けてくたばっちまったり、自ら死地に顔を突っ込んじまったりするようなくそったれ共ばかりだ。
だからそれを憂いたグランドマスターは、今のめんどくせえ仕組みを作って冒険者達の生存率を上げた……それは俺も評価しているし、まあ、悪い仕組みじゃねえと思っている。
だがよ、昔見てえに骨がある奴ががっつり減っちまったのは頂けねえ。
前に北の平原にダンジョンが見つかったことがあったが……第一発見者は金だけ貰って辞退しやがるし、探索者を募っても反応が悪くてなあ。
新発見のダンジョンとなりゃあお宝の山だ。冒険者なら遺物で一山当ててやろうと盛り上がるところじゃねえか。
それが……うちのギルドの連中と来たら。
『え? 新発見っすか……? 安全が確認されてないのはちょっと』
『罠とかあったら嫌だし……』
『古龍の巣だったらどうするんですか! 嫌ですよ!』
なんて、臆病風を吹かせやがる奴らばっかりでよ……。
仕方ねえから、中央からイキが良い連中を派遣して貰って、俺も自ら共に潜る羽目になったんだが……。
ナツもまた、薬草ばかり採ってると聞いたときは今風のメルフ冒険者なんだなあと思ってたんだが……薬草を集めながら良くわからねえ討伐報告を上げて来やがるしよ、何よりさっきの反応だ。
ダンジョンを金脈としか見ていねえ、どうしようもない大馬鹿者の顔。
ギルマスとしては窘めるのが正しいんだろうが、俺としては褒めてやりたくてしかたがなかった。
ここの所、退屈で死にそうになってたが……ナツが現れてから大分面白くなって来やがったぜ。
だからよ、ナツ。死ぬんじゃねえぞ。
クソッタレはクソッタレなりにしぶとく生き残って俺をもっともっと楽しませてくれよな。




