第37話 東の洞穴に行ってみれば……
「こっちだよー! こっちこっち」
妖精A……と仮に名付けた桃色頭の個体に案内されて歩くこと5分。
その洞窟とやらが姿を現した。
いやあびっくりしましたね。
わざわざ『東の洞窟』とか言うからさあ、そこそこ離れてるのかなって思ったら近所じゃん。うちから最寄りバス停に移動するより近いじゃん。
そりゃさ、今日はピクニックに来てるわけだからさ、私服に丸腰という異世界の森なめてんのか? って感じの街歩き装備だし、ザックもお弁当特化にしてきたから野営とか無理だからさあ……ありがたいっちゃありがたいけど、ガクッと拍子抜けしたね。
というわけで、その洞窟なのだが、大きな丘の途中に大きな亀裂が入っていて、そこが洞窟の出入り口になっているようだった。
外からそっと覗いてみると……どこからか光が入っているのか、中はほんのりと薄明るい。
そして、洞窟付近の地面は踏み固められているようで、草はまばらであちらこちらで地面が露出していた事から、ゴブやモサモサなる魔物がここを根城にして出入りしているのは間違いなさそうだ。
さてどうしたものか。
流石に今の装備で中に入るのは嫌すぎる。
ミー君の結界を張ったまま中をウロチョロすれば、住み着いてる魔物を追い払うことが出来るかも知れないけれど、討伐しないことには解決にならないからなあ。
と、エミルからアドバイスでもと顔を見てみれば、何やら興奮した顔でうんうんと頷いている。
「エミルちゃんや、どうしたのかね。随分と嬉しそうな顔をしているじゃ無いか」
「む、いやなナツ殿。この洞窟……これはダンジョンだと思うぞ」
「だんじょん」
「うむ、我としては旧文明の遺跡と呼びたいのだが、一般的にはそう呼ばれている」
「何かダンジョンと決定づける物でもみつけたのかい?」
「ああ、入り口周辺の地面を見てくれ。土に隠れてわかりにくいが……よく見ると明らかに人工物と思われる床面がうかがえるだろう?」
「ねーー! もうさ、ダンジョンでも洞窟でも変わりは無いよ! ねねね、ナツくん! ちゃちゃっと中に入って魔物をやっつけようよ!」
まてまてまて。ダンジョンだぞ? 今からダンジョンアタックしろっていってんの?
無理無理! 流石に今日は無理だって!
「まてまて、ほんとマジで待ってミー君。今日の我々はピクニックに来たんだよ? 丸腰だよ、丸腰! ダンジョンアタックするような装備じゃ無いでしょ」
「あっ……そ、そうかあ……で、でも妖精さん達が!」
「待つのだミー殿。これは恐らく未発見のダンジョンだ。腹立たしいことに、新たなダンジョンを発見した場合、冒険者ギルドへ報告する義務があってな……」
ダンジョン、旧文明の遺跡には様々な形で過去の叡智が眠っている。
学術的に貴重な遺物が見つかることがあることから、第一発見者といえどもギルドに報告をした上で、その指示に従って探索をする必要があるらしい。
なんか、過去に冒険者同士のいざこざが多発したり、雑な冒険者達が遺跡の建造物を破壊しまくったりしてギルドが学者さん達からめっちゃキレられたりして今の取り決めが作られたんだと……冒険者らしいと言うかなんというか……ゴリラ過ぎる……。
だもんで、自由に探索できたのは昔の話。
現在では原則として遺跡の探索権は国家よりダンジョンが発見された土地のギルドマスターに委託されていて、国やギルドの意向で自由解放されているダンジョンもあれば、許可制の所や立ち入り禁止の所まであるそうだ。
等々の事情があるため、とりあえず今回発見したダンジョンは一度ギルドに報告し、その指示に従う必要があるらしい。
第一発見者はギルドから信頼が得られている場合初回探索権を得られるとのことで、それは多分大丈夫と思いたいのだが……ギルドに発見報告をする前に探索してしまったのがバレた場合、ギルドからめっちゃ怒られる――罰金を取られたり、降格処分……酷い場合は除名処分を受けることさえ有るそうだ。
「それに……だ。例え討伐が叶ったとしても暫くの間は妖精達が暮らすには辛い環境のままになるだろう……なので気が進まんが、その辺りの事を古い知人に相談してみようと思うのだよ」
「そう言われるとそうなんだよ! あそこが元通りになるまでどうすればいいのー? 土地をととのえるのにすっごいすっごい時間がかかるんだったよー! うわーん!」
両手をぶんぶんと振りながら妖精Aがあの地の窮状を訴える。
マナの泉こそ残っているけれど、魔物に荒らされた土地を修復するにのにはひと月程度の時間がかかると。
そこから花を咲かせたり、蜂を集めたり……蜜を作らせたり……木の実が実るのを待ったりとしなければならないことを考えると、環境が整うまで妖精達が耐えきれなく生ってしまう……と。
「しゃあねえな、乗りかかった船だ。全部まとめてどうにかしてやるかー」
「えらい! ナツくんえらいよ! こういう所からコツコツ救っていかないとね!」
「一緒に飯を食った連中が消滅しちまったら寝覚めが悪いからな。仕方なくだよ仕方なく!」
「ふふ、それでもいいんだよ。がんばろうね、ナツくん」
「お、おう!」
そして一度広場に戻った我々は、妖精達にざっくりと事情を説明した。
ここを荒らした魔物の討伐には後日改めて向かう。
暫くの間、住みにくくなってしまうこの場所の代わりとなる場所に心当たりがある。
そこに妖精達が一時的に避難できるよう、そこの持ち主と交渉をする……と。
ざっくりとした説明が終わると、妖精達がわっと嬉しそうな声を上げ、我々を取り囲むようにくるくると飛びながら口々に好き勝手喋る喋る。
「ありがとうありがとう!」
「まってるからね、がんばって」
「お引っ越しできたら良いなー」
「ここのお花はまだまだ咲けないものね」
「今日貰ったご飯でしばらくは大丈夫だよ-」
「でもなるべく早くたすけてね」
「おねがい、おねがいねー」
「わかった、わかったから! まとわりつくなって!」
「あはは、ナツくんが妖精さんまみれになってるよ」
「ふふ、なんだか古い知り合いを見ているようだぞ、ナツ殿」
そしてひとまず妖精達に別れを告げ、我々はメルフに戻った。
ここから先は二手に分かれての行動だ。
俺は単身ギルドに。ダンジョンの報告と、探索許可を得るための交渉だ。
ミー君達はエミルの旧友とやらの家に。
なんでも妖精に詳しい人が居るらしく、その人の家には妖精達が住み着けるような場所があるようで、そこを借りられないかの交渉をするそうだ。
……妖精が住み着ける場所がある家……なんだか俺にも覚えがあるような?




