第36話 hrpk妖精s
ざっくり20体程の妖精さん達が我々ピクニックチームを取り囲んでいる。
シュリさんちに妖精の休憩所があるくらいだし、人に害なす類いの存在では無いと思うのだが、何も言わずにじっとこちらを見つめているのだからちょっと怖い。
妖精のことは何もわからんのだが、この世界の妖精さん達はお喋りできない生き物なのだろうか……。
さて、どうしようか、ダメ元で話しかけてみるか? でもな、ほんとに喋れない存在だったとすれば、俺は猫に話しかける疲れたおじさんと等しい存在になってしまう……ああ、だれか、だれかこの状況をなんとかしてくれ!
しかしこんな時、役に立つのがミー君だ。奴は【空気詠み人知らず】というユニークスキルを持っている。場の雰囲気を一切読まず、己の好奇心だけで空気をぶった切ってくれるのだ。
そして期待しながら様子をうかがっていると……案の定、場を動かす行動を勝手に取ってくれたのであった。
「ねえねえ、妖精さん達。どうしたのかな? 私たちになにかご用かな?」
いいですよね、ミー君。物怖じせずにズバッと聞いちゃうんだ。遠慮って物が無いからね、話を進めるのに便利な存在ですわ。
ミー君に声をかけられ、ビクっとした妖精さん達であったが、我々を至近距離で取り囲む程度の度胸があるだけあって、それで逃げることは無く、ミー君の質問に答えてくれた。
そう、この子達喋れる……っていうか口を開いたらめっちゃうるさいのであった。
「このヒューム?はいじめなさそうだぞ!」
「言ってみる? 聞いて見ちゃう?」
「言っちゃえ言っちゃえ! へるもんじゃねー!」
「あのねあのね? おなかすいてるの。たべものをわけてほしいな?」
「最近ご飯をたくさん集められないの」
「もう3日もお水と葉っぱだけで生きてるんだよ」
「美味しそうな匂いぷんぷんさせてひどいよ! お願い、たべものをわけて!」
「「「「「はらぺこなんだよー!」」」」」
何やら切実な様子の妖精達。それをじっと見つめていたエミルだったが、難しい顔をして状況の説明をしてくれた。
曰く……。
妖精は雑食で毒が無ければ何でも食うが、基本的に狩りをするような種族ではない。
なので、蜂から蜜を分けてもらったり、木の実を食べたりして生きている。
妖精は集落を作り、食うに困らぬよう蜂を囲ったり、実がなる植物を育てたりしているはずなのだが、それがここまで飢えてるとなればなにか事情があるのではと。
「サンドイッチは……もうあらかたくってしまったのう……おかずも残り僅かか」
「ナツくん、可愛そうだよ。どうにかできない?」
どうにか出来ないって、俺は未来から歴史改変にやって来た便利な猫型ロボットじゃねーんだぞ。
……いやまあ、奥の手があるけどね。
「おやつにと作ったパンケーキもアホほど作っちまったからな。こいつらに分けても余るほど有るぞ!」
「わあ! さっすがナツくん!」
フィギュアサイズの妖精さんだ、パンケーキ1枚で2~3体はお腹いっぱいになれるだろう?
妖精達は引くほど居るが、パンケーキはほんと冗談じゃ無くアホほど有るからな、たんと食べて貰っても十分余る。
「ようし、妖精さんたち! 好きなだけ食べろ! 召し上がれ!」
「この丸くてぺたんとしたのはなあに?」
「なんだか甘い匂いがするよ」
「ねえねえ、触ってみて? すごくふかふかしてるよ」
「ほんとだ。ふかふかだ。ねえね、これ食べて平気?」
「甘い匂いでフカフカだー! きっと毒じゃ無いよね?」
「見たこと無いね? 美味しそう! でも毒だったら怖いなー」
「あーあー、毒じゃないから食べてみろ。甘くて美味いぞ。ほら! 俺も食べた! 安心して食べな」
一口食べて毒味アピールした瞬間、わっとパンケーキに群がる妖精達。
勢い余ってパンケーキを宙に巻き上げてしまったり、その下敷きになったりと大騒ぎだ。
「わあ! なにこれ美味しい!」
「ふかふかでアマアマで美味しい!」
「とろっとしてるの蜂蜜だ!」
「ほんとだ! 蜂蜜食べたのひさしぶりー!」
「ごはん食べたのひさしぶりー!」
「マナを吸うだけじゃお腹膨れないもんねー!」
「マナ?」
「ああ、マナというのは自然界に漂う魔力のことだな。妖精達は魔力溜まりのことを『マナの池』と呼ぶのだが、魔力が多い場所に池を作り、その水を飲んで生命維持をするのだよ」
妖精はいざとなればマナが溶け込んだ水を飲むだけでも一応は生命維持をすることが出来るらしい。
しかし、それは味覚を持つ妖精には精神的に健全なことでは無く、いくらマナ水で生命維持が出来るとは言え、やがて精神的に参ってしまって、徐々に弱って命を失うことも少なくは無いのだという。
「マナ水も妖精には不可欠な物なのだが、それだけではな。例えるならポーションを食事代わりに生活するようなものだ。我も昔は良くやったものだが……今思えばポーションは食事の代わりに飲むものでは無かったなあ……」
遠い目をしてエミルが何か言っているが……何やってんだこいつは。
エミルから妖精についてあれやこれや聞いているうちに、どうやら食事が終わったようで、おなかをぽんぽこりんに膨らました妖精達がコロコロと転がりながらキャッキャと楽しそうに騒いでいる。
「ごちそうさまー!」
「おいしかったー!」
「ナツくん、今度は生クリームつけてね」
「初めての食感、美味だった」
「ありがとう、ヒュームのお兄さん」
「また持ってきてねー」
妖精達が口々にお礼を言っている……つうかミー君もちゃっかりと一緒に食ってたのな。
「さて、妖精達がここまで飢えた理由をきかねばならぬな、ナツ殿」
「さっきも言ってたけど、農業的な事するから普通はここまで飢えないんだっけ」
「うむ。奴が……古い知り合いの妖精マニアが言っていたが、妖精達は土地の魔力とうまく付き合い、蜜を出す花を咲かせて蜂を呼び集めたり、実がなる植物を生やしたり……食うに困らぬ集落を作るのが上手いのだよ」
そして今我々がいるのがその集落であろうと。
しかし、見た限りではただ広いだけの空間で、確かにマナスポットであろう池はあるのだが、木の実は勿論のこと、花の蜜を運ぶ蜂の姿も見当たらない……というか、よく見りゃ花畑が踏み荒らされて無残な有様になっているな。
「それがね、悪い魔物が出るようになってね」
「花を食い散らかしたり、蜂を追い払ったり」
「でも最近ゴブゴブは見ないね」
「ゴブゴブいっぱい居たのにね」
ゴブゴブ……いっぱい……それはもしかして我々がお耳をいただきまくったからかな……。
であれば、ゴブゴブに関しては解決済みだと思うのだけれども『ゴブゴブは』と言っているのが気になる。
つまりは他にも脅威となる魔物が居るのではなかろうか。
詳しく話を聞いてみれば、その悪い魔物はゴブリンよりも大きな魔物で、時折東の洞穴からやって来ては森を荒らしていくのだという。
「木の実はゴブゴブがぜーんぶ食べちゃったし」
「でかいモジャモジャは蜂の巣を取っちゃったんだ!」
「おかげで私たちはらぺこなんだよー!」
「もうマナだけで生きるのは嫌だよー!」
「おねがいおねがい、なんとかして?」
お願い、お願いと妖精さん達に群がられる我々。
ミー君はもうすっかりなんとかする気でいるようで、一緒になって『ナツくん、お願い』と袖を引いてくる。
「あーあー! わかったわかった! これも縁だ、何処まで出来るか知らんがやれるとこまでやってやるよ!」
「「「やったーーー!!!」」」
こうして我々は突如として発生した緊急クエストを受託する羽目になったのだが……。まったく、単なるピクニックのつもりがどうしてこうなった?
まさか『巻き込まれ体質』なんてスキルが芽生えてたりしねえだろうなあ……。




