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第34話 ドーモ、ゴブリン=スレイヤアデス

 なぜだか異様に熱い視線でマミさんから送り出された我々は、駆け足でさっさと移動し早くも森に到着していた。


 普段であればこのままノンビリと薬草採取と洒落込むところだが、今日は事情が違うのだ。


「ねえね、ナツくん。おかしいね? せっかく討伐に来たのにゴブくんたち出てこないよ」

「そうだね。でもね、おかしいのはミーくんだと思うんだ」

「な、なんでそんなひどいこと言うの!」

「……そんな気合い入れてギンッギンに結界張ってたら魔物が寄ってこれないだろ……」

「あっ」


 今日は普段と違い、結界を解除する必要がある。

 

 ミー君の結界は地面に沿って半球状に展開する。故に全方位からの侵入はもちろんの事、空からの侵入を防ぎ、足元からの侵入すらも防ぐ完全結界なのである。


 が、全球ではなく半球なので、地面や水面はあくまでも表面までにしか効果を及ぼさない。

 なので、水中に潜り込んでいた例のナマズくんは結界に弾かれることがなく……丸太の射程内に入れていたため、気の毒にも食材へとジョブチェンジすることとなってしまった。


 しかしゴブは別に地に潜っているわけじゃあないし、はるか上空に居るわけでもない。なので思いっきり結界の影響を受け、我々と遭遇出来ないでいるわけなのだ。


「というわけでミーくん。結界を解除してくれたまえ」

「う、うん! 無防備になると思ったら何だか緊張するねえ!」


 ミー君は何か気の利いた合図をするでもなく、突然結界を解除したようだ。


 何か一言『解除!』とでも言えよなと思ったのだけれども『あ、今解除されたなー』というのが俺にも感じ取れたので、今日のところは許してやろうと思う。

 

 何かこう、解除されたであろう直後にピリっとした感覚が肌を刺したのだ。そう、あの日……弱ったミー君と二人カゴの中で見たゴブリンの集落、そこで感じたピリピリとした嫌な感覚。


 恐らくはこれが魔物が発する気配というものではなかろうか。

 

 ピリピリとした感覚を肌に受けながらミー君と二人、慎重に森を歩く。

 此処から先はやるかやられるかの世界。嫌でも気が引き締まるってもんだ。


 そして歩くこと10分。


 ガサりと音がしたかと思ったら、気持ちの悪い鳴き声とともにゴブくんが現れた。


「久しぶりだなあ……ゴブくん」

「グギャギャア」

「え? 話が通じてる!? な、ナツくん……お、お友達かい?」

「ちげえよ! たまたま噛み合ったんだよ!」


 棍棒を持ったゴブがそれを構えながらジリジリとこちらに距離を詰める。

 以前までの俺であれば両手を上げて逃げたことだろう。


 だが、今の俺の手には……こいつがある!


 背中に背負った相棒の柄を握り、鞘ごと前にぐるりと下ろしてその勢いのままスラリと刃を抜く。


 ヌーチューブで見て練習をしたかっこいい大太刀の抜き方だ!


 うまくいくとは思わなかったが、意外といけてしまったのだから最高だ。

 初めてだから上手くいくとは思わぬが、今こそ見よ! 土産で貰った木刀仕込みの一撃ィ!


 力任せに大太刀を振ると、ブゥンとやたら良い音で唸りを上げ、ゴブの身体に吸い込まれていく。


「グギャア」


 よけられると思ったが、意外なことに綺麗に当たってしまい……袈裟斬りにされた感じになったゴブが真っ二つになって体液を撒き散らしながら崩れていった。

 

 ああ、こいつぁ……想像以上に……。


「グ……グロイね……ナツくん……」

「ああ……これは想像以上にやべえ……これが……リアルか……!」


 切れ味に感動するとか以前に、人型モンスターのグロシーンを最前で見てしまった我々はゴブが命を引き換えとして放った精神攻撃を食らってしまった。

 

 ……森に虹がふたつ。

 ミー君と俺のとだ。


 おい! カメラ止めろ! しばし休憩だ! 


 ……

 …


「大丈夫? ナツくん。一応ヒールしとくね」

「ああ、ありがとうミーくん。だが、我々もこれから冒険者として活躍していくんだ。こういうのにも慣れないとな」


「そうだね……。リソースを集めるためには魔物との戦いだって時には必要さ。私も頑張って慣れるよ……それにしても凄いね、ナツくん。ゴブリンを一撃だよ」


「ああ、ほんとにな。俺も驚いているよ。全く凄え業物を貰っちまったもんだ。俺の力ではなく、武器の力だってことをわきまえていかないとな」


 本当に凄い武器だよこいつは。鞘の色から勝手に『紅雀』と名付けちゃったこの大太刀は俺には勿体ないレベルで恐ろしい切れ味を持っている。


 辛うじて中学の体育で剣道をやらされたことがある程度の俺だよ? 刀なんてまともに扱えるわけ無いじゃんね。精々無駄に練習した抜刀が出来るってだけだ。


 そんな俺ですら重力に任せて降るだけでバサリといけてしまうこの刀、まさしく名刀……いや、妖刀ではなかろうか。


「さて……熱が冷めない内にそろそろ次の獲物に……と、行きたいところだが……その前にやることがあるんだよなあ……」

「うん……これも慣れないとね……」

 

 討伐証明に耳を持ち込むってネタ考えたのだれなんだろうな? この世界でも例に漏れず討伐証明が耳になっちゃってんじゃん。全く良い迷惑だよ!

 

『じゃあ他に何処を使えってんだよ』って言われても困るんだけど、人型の魔物の耳にスッとナイフを入れるのはなかなかに精神に来る。


「ぐっ……ふう……」

「ナツくん、偉いよ! がんばった!」

「ありがとう……ミー君もよく耐えてくれたな……」

「うん! ナツくんが貰わないようにね、私も必死に耐えたよ! 褒めて!」

「ああ……偉い偉い」

「えへへ……」

 

 ファーストゴブのお耳を頂く際、ほんのりと虹の気配を感じてしまったが、なんとか耐えることが出来た。いやあ、ヴィジュアルだけじゃあ無くて、お手々に伝わる生々しい感覚、最悪ですね! ただみていただけのミー君ですら得意げに耐えたことを誇っているが……まあ、耳を切り取るってそんだけのことなんですわ。

 

 さて……耳を頂いた後は残った亡骸の始末だ。


 素材にならない魔物や、剥ぎ取った後の持ち帰らない部位は穴を掘って埋めるか、燃やすかするのがマナーらしいのだが、ここでミー君が手を上げた。


「最近ね、魔術の調子が結構戻ってきてるから、普通の魔術師程度の事なら出来るよ」


 そういやミー君は妙に器用な魔術を使えるんだったな。

 張り切っているし、穴を掘るのは面倒くさいし疲れるのでこれ幸いとミー君に任せることに。


「じゃ、行くよー。えーい包んで燃えろー」


 気が抜ける掛け声とともにミー君の手からピンポン玉くらいの火の玉が飛んでいく。

 おいおい、そんな火で大丈夫か? なんて思ったのが間違いでした。


 火の玉がゴブに到達した瞬間、それは音も無く薄く広がりゴブを包み込んでいく。

 何が起きているのか理解する間もなく、ゴブだったものが灰に変わってそのまま空にサラサラと登って消えていってしまった。


「ミー君、今何をやったのかな」

「うん? 火と風の魔術を上手いこと使ったんだよ」

「うまいこと」

「焼く時に匂いがしたら嫌でしょう? だから風の膜を作ってね、その中に高温の火を入れてね、ちょっとしたオーブンみたいにしたんだ」

「なるほど……攻撃に使ったら強そうだね?」

「うーん、動いてるものにはちょっと難しいかなあ」


 そんな事言ってるけど、そのうち『やってみたら出来ちゃったんだよね』なんて言い出しそうだな……。

 

ミー君は『匂いがしないように』なんて言っていたけれど、森のように火の扱いに気をつけなければいけないところでもこの方法なら安全に燃やすことが出来るからな。


 取り敢えずミー君の便利技に『焼却炉』の項目を書き加えておくとするか。


場所を選ばない便利な焼却炉。ううむ、ミー君の価値がうなぎのぼりだぜ!

 

 後処理が終わった我々は再び結界を解除し、ゴブ退治の続きに向かった。


「じゃ、解除するよー」

「おう! じゃ、気合い入れていくぞ!」

「おー! 解除ー!」

 

 ミー君が結界を解除し、5分もすると面白いように次々とゴブが飛び出してきた。

 どうやらこの辺りはゴブが多い場所のようだ。


 採取で通ってた頃にゃ、初めて降り立った時と比べて静かになったもんだと思っていたけれど、それはミー君の結界のおかげだったのだと改めて思い知らされるな……っと、囲まれちまう!


「ミー君! 数が多い! どうにか足止め出来ないかい!?」

「任せてナツくん! えーい凍ってー!」


 ジリジリと我々を取り囲もうとしているゴブ達の足元に白い霧がモワモワとまとわり付く。ゴブは一瞬驚いた顔をするが……もう遅い。


 パキパキと乾いた音を立てながらゴブの下半身が凍結し、地面に固定され動くことはもう叶わない。


「やるねミー君! おらあ! ゴブくん覚悟じゃあ!」


 動けないゴブくんたちに丁寧な立ち回りは不要。

 抜いた大太刀をブンブンと振り回し、片っ端から切り捨てていく。


「やったね、ナツくん!」

「ああ! ナイスサポートだぜミー君!」

  

 ミー君の魔術で足止めをし、俺がとどめを刺すという戦法は素晴らしく、サクサクと効率よく……時折二人で虹を作りながらゴブリンを狩ることが出来た。


 そして狩り続けて2時間――


 ミー君からうまそうな匂いでも出ていたのか、あれからワラワラと呆れるほどゴブリンが集まってきたため、気づけば結構な数の討伐証明が溜まっていた。


集めた討伐部位(おみみ)は気持ち悪いのできちんと数えていないが、アホほど狩ったことだけは確かだ。


 そしてそれだけ狩ったのが良かったのか悪かったのか知らないが……。

 

「なんかさ、慣れちゃったな……」

「不思議だよねえ……グロ耐性もそうだけど、魔物をやっつける嫌悪感というものが消え去ってしまったよ……」

「もしかして、そういう耐性スキルが芽生えたのかもしれないな」

「女神の私を持ってしても、現在のステータスがわからないのが歯がゆいよ」


正直に言えばありがたいが、この慣れが魔物に対するものだけであることを切に願うよ。もしかすれば盗賊の討伐なんて依頼を受ける日が来るのかも知れないけれど、同族殺しには流石に慣れたくないからな……。


……


「掃除屋只今戻りました!」

「ただいまなのです!」


 ミー君と二人、意気揚々とマミさんのもとへ帰還する。

 何故か今回も上に連れて行かれそうになってしまったが、今回はゴブリンの討伐証明しか無いと説明をしてなんとか普通の冒険者同様に窓口で処理してもらえることになった。


 まったく、俺達がそういつもいつも面倒事に巻き込まれると思わないで欲しい。


「……それで、お二人はゴブリンの討伐依頼に行ったんでしたね? 採取依頼ではなくて」

「はい、そうですが」

「ではこの採取依頼に使われるような袋3つは一体」

「討伐証明だよ、マミさん。ナツくんと二人頑張ったんだ」

「そ、そうですか……少々お待ち下さい」


 同僚に声をかけ、袋を3つ持って奥に行ったマミさん。

 間もなく、女性職員の『ヒッ』という声が聞こえてきた……ああ、袋の中にな、沢山入ってるもんな、お耳がな……。


 耐性がついた我々でも気持ち悪くて数えたくはなかったからなあ……。


「……確認が終わりました。ゴブリン討伐数148体……よくもまあ、これだけ倒したものです。まさかまた集落を作ってたりしましたか?」

「いえ、そんな事はなかったんですが……何故か次から次へとゴブがやってきて……」

「そうなんです。ナツくんと二人で狩るそばからどんどんどんどん現れて……大変だったよねえ」


 ミー君が疲れた顔で状況を説明する。

 いやほんと、次から次へと現れるとしか言いようがなかったんだよな。


 念の為周囲をチェックしたけど、特に集落があるような感じでもなかったし。

 ほんとあのゴブ達が何処から現れたのか不思議で仕方がない。


「ですか……とは言え、これだけの数を討伐してくださってありがとうございます。1体に付き大銅貨5枚ですので、148体で大銀貨7枚と銀貨4枚の報酬ですね」


「「おほおお!」」


たった1日でざっくり74万円の稼ぎだぜ? やっべえな冒険者。すっげえ儲かるじゃん! そりゃみんながなりたがるわけですわ。


「はー、討伐依頼ってやっぱ儲かるんだねえ。びっくりしたよ、ねーナツくん」

「ああ、ほんとな。カッパーでここまで稼げるとは驚きですよ」

「え? いえ、普通はそこまで稼げるものでは有りませんよ。普通は……」

「そうなの? ゴブリンの方から私たちの方に来てくれたから狩り放題だったんだけど」

「狩り放題……ですか……はあ……」


 確かに今回はゴブリンがアホほど湧いてくれたからな、その御蔭でこの稼ぎなんだろう。

 恐らくは、たまたまゴブリンの群れにぶち当たった結果なんだろうしな。


 でもさ、採取依頼じゃこうは行かないよ。アレはどんなに頑張っても単価が安いからな。

 何より仕事が終わった後に頭痛がしない! 鑑定疲れが無いってホント最高だぜ!

 

◆◇マミ◇◆


「マミさあん……なんてもん見せてくれるんですかあ……」

「言わないでよ……流石の私も少しぎょっとしたんだから……」

 

 ナツくん……ミューラさん……あなた方がこうして力を隠すのを辞めてくれたのは本当に嬉しく思う……ギルド職員として意外にも、個人としても本当に嬉しく思う……。


 けれど……こんなに狩ってくるつもりだったのならば、せめてゴブリンでは無く、フォレストウルフやホーンラットの毛皮の納品にして欲しかった……。


 袋にミッシリと詰め込まれたゴブリンの討伐部位……あれだけの数が詰め込まれた袋を見たのは初めてだった。


 はあ……今夜夢に見なければ良いのだけれども。



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