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第33話 討伐依頼を受託するぞ

 ダルガンさんの店で装備を整えた我々は、意気揚々と冒険者ギルドの入口をくぐった。

 

初めて窓口に行ったときにゃあ、村人装備故に依頼者では無いかと勘違いされちまったが、今の俺の身体には軽銀のプレートがキラリと輝き、背中には大太刀がズシリと斜めにかけられている。


 これなら何処からどう見ても立派な冒険者に見えることだろう。


 ミーくんは見た目こそ変わらず、旅人の服のまま杖を装備しただけに見えるが、いつもの服の内側には軽銀の鎖帷子が装備されていて、防御力が上がった自信からか、彼女もまた力強い眼差しで自身に満ち溢れている。


 そんな我々がギルドに入ってきた瞬間、まだダラダラとギルドに残っていた冒険者達が我々の姿を見てざわりとした。


 それも仕方がないことだろうな。


 我々は『掃除屋』という偶然そうなっちまった妙なパーティ名で活動している。

 それだけで非戦闘員臭がぱねえのに、我々と来たら討伐依頼は受けず、採取依頼ばかり受けていたわけで。


 結果、一部の冒険者や薬師等から『薬草屋』と妙な二つ名で呼ばれる始末だ。


 そんなどう見ても未熟なルーキーでしかない我々がいきなり装備を整えてきたんだぞ? 冒険者達からしたら面白イベントの発生だ。


 ああ、俺にはあいつらが何を話しているか大体想像出来るぞ。


 そう、WEB小説にありがちなテンプレでありがちな……


『おいおい薬草屋が生意気にも武器を背負ってやがるぜ』

『ほっとけよ、直ぐにゴブの餌になるのがオチさ』

『よーし、賭けをしようぜ! 俺はあいつが餌になるのに銀貨2枚だ!』

『おいおい……みんな餌に賭けちまうから勝負にならねえだろ』

『ちげえねえや!』

『『げははははは!』』

 

 こんな具合の陰口を叩かれているに違いない。

 

 だが、俺は怒らないし気にしないぞ。

 我々がクソザコナメクジであり、今だゴブリンを狩ったことの無いルーキーであることは事実。


 街のひ弱な薬師が討伐依頼に行くと聞いたら、俺だって『おいおい餌だわこいつ』と、その身を案じるだろうからな。


 だが、ひ弱な薬草屋稼業も今日で終わりだ。

 

 ミーくんと二人、依頼ボードに向かうと冒険者達が慌てたように道を開ける。


 こいつら、荒っぽくて口が悪いけど根はいい奴らだからな。こうしてダラダラとボード前に溜まっていても、誰かが来ればきちんと横に退けるマナーが良いおっさんばかりなんだよ。


 ボードの端に……あったあった。ゴブリンの討伐依頼が束になって止められている。

 

 こいつはいわゆる「常設依頼」って奴で、何時も貼り出されている依頼なのだけれども、束になっているのには理由がある。

 この世界の冒険者ギルドの仕様として『依頼状を受付に提出し、受託印を貰う事により受託完了となる』という、めんどくせえ仕組みがあるのだ。


 ギルドとは別途依頼者が居るような依頼だと、この受託書が依頼を受けた者である証明となるし、討伐依頼の場合はどの冒険者が何の討伐に出かけているかを把握するのに役立っている――とのことらしい。


 なので常設依頼であっても、1パーティ1枚持って行けるよう、束になって壁に貼られていると言う訳なのだ。


 植物紙が普及していて、印刷技術も何故か普及しているからこそ出来る仕組みなのだろうな。


 なんてどうでも良いことを考えつつ、忘れちゃいけないと依頼書を1枚引きぬいて窓口に持っていく。


 そこで待ち構えていたのは勿論マミさんだ。

 

 このギルドには結構な数の職員がいて、窓口も混雑しないように3つほどあるのだけれども、俺が行くと何故か必ずマミさんが待っているのだ……。

 

「ナツくん……! ミューラさん! この日を我々がどれだけ待ちわびていたことか! 予想以上に立派な装備で……ああ、本当に見違えましたね!」


 ガシッと俺の手を握ったマミさんが目を潤ませて言う。

 なんて大げさな……まさかそれを言いたいがために今日も我々を待ち受けていたのではあるまいな。


「は、はあ。いやあ、ほんとお待たせしちゃって! この通り、装備も整いましたしね! まずは練習がてらコツコツとゴブでも狩りますよ」

「うんうん。正直ゴブにはいい思い出はないけど、克服するために頑張るね!」


「お二人なら無事にお戻りできると思いますが、お気をつけていってきて下さいね」


 依頼書にドンと受託の判子を押し、こちらに返すマミさん。

 その顔は妙に晴れ晴れとしていて……何だか不思議な気分になった。


 ◆◇マミ◇◆

 

 やはり彼は只者ではなかった。

 

 いえ、彼が普通ではないことはこれまでの討伐履歴を見れば明らかだけれども、まさかアレを背負って来るとは……。


 ナツくんがギルドに現れた瞬間、背中に背負ったアレに気づいた冒険者達から驚きの声が上がった。


 それはそうだろう。長年に渡ってあの店で力試しの道具として使われてきたあの大太刀。持ち上げられるだけで強者と讃えられていたアレを背負って涼しい顔で歩いているのだから。


『おいおい、マジかよ? あれって……例の刀だよな?』

『いやあ……流石に似てるだけの別もんだろ?』

『でもよ、最近ガムリ村に作られた妙な石像を見るとマジかもって思えちゃうぞ……』

『ああ、丸太を背負ったナツとミューラさんだったか……』

『丸太ァ? なんで丸太なんか背負ってんだ?』

『なんでも黒樫の丸太を片手で持ってB級の魔物を殴り殺したらしい……』

『……ま、マジか……って、黒樫ィ? て、てこたあ、アレは本当に例の刀かもしれねえ……』

『おい、誰かダルガンとこ行って見てこいよ!』


 ヒソヒソと冒険者達が話す声が聞こえてくる。

 何人かが慌ててギルドを飛び出していったが、話からすればダルガンさんの所に向かったようだ。


 ……あと15分もすれば、きっとギルド内は驚きの声に包まれるだろう。


 ナツくんが背負っているのは間違いなく、彼らが思っている通りの大太刀で間違いない。

 何を思って彼がそれを選んだのかはわからないけれど……アレを装備できるヒュームなんて私はこれまで見たことがない。


 丸太でグレーターウォーターオークを倒したという話を聞いて驚いたけれど、それを考えれば彼らがアレを軽々と背負えるのは……理解できる……いや、理解が追いつかない。


 それでもナツくんが筋肉隆々の大男だったのであれば、まだ理解できるのだが……あの華奢な体の何処にそんな力を隠しているのだろうか。

 

 黒樫の丸太を振り回せる力を持っている……それは私も知っている。けれど、話に聞くのと、実際見るのととでは大違いだ。


 実際にこうして信じられない力を見せつけられると……驚きのあまり感動すら覚えてしまう。


 はあ、なんて凄まじい人なんでしょう……ナツくんは。


 そんなものを背負って依頼ボードに向かって歩いていくものだから、冒険者達が慌てて道を開けている……。


 満を持して装備を手に入れた彼らは一体どんな依頼を持ってくるのだろうか? 

 

 あれだけの装備だ、カッパーで受けられる中でも難度が高いオークの討伐……もしくはグレイブレストウルフの討伐か……いや、違うだろうな。

 何故か進んで力を見せたがらない彼らのことだから……むしろ逆に……等と考えていると、私の予想通りゴブリンの討伐依頼を持ってきた。


 初心者向けの討伐対象であるゴブリン。しかし、弱いからと言ってバカには出来ない魔物だ。

 放置しておけば集落を作り、やがては上位種を発生させて村を襲い人を攫うようになる。


 ……そう言えば、彼らもまた被害者だったな……。


 今思えば何故彼らがゴブリン程度に遅れを取ったのか非常に疑問だ。

 何らかの事情で周りに力を隠す必要があり、抵抗できないまま攫われてしまったのだろうか……?


 被害者として街に担ぎ込まれた二人の素性はわからない。ギルドから派遣した調査員ですら、この街以前の彼らが通った痕跡は辿れないまま。


 これまで彼らを監視していた結果から、彼らが善人であることと、何故か力を隠しているらしい事だけは分かっていた。


 しかし、こうして武器を用意し、討伐依頼を持ってきたということはもうその必要が無くなったということなのだろう。


 その力を持って彼らが何を成そうとしているのかはわからない。けれど、私にはこの世界を良くするための何かをしようとしているのだと感じるのだ。


 ……どうか頑張って下さいね、ナツくん、ミューラさん。

 ギルドとしても、私個人としても……お二人のことは応援していますよ。

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